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宇宙作家クラブのメンバーによる取材活動の様子をリアルタイムでお届けします。
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No.1324 :最悪の選択
投稿日 2009年3月13日(金)12時57分 投稿者 笹本祐一

 では、なぜ日本人が独自の技術を使って月に行かなければならないのか。
 実は、今回の提言でもっとも欠けているのがこれに関する説明である。
 時期尚早の一言で片付けてきた有人宇宙飛行がなぜ今になって突然提案されたのか。それも、有人宇宙飛行の提案だけではなく、月探査とセットなのはなぜか。
 この場合の目標は、日本人の有人飛行の実現なのか。
 単に日本人宇宙飛行士の実現というならば、すでに秋山飛行士がソユーズで世界最初の宇宙ジャーナリストとして飛んでおり、スペースシャトルに何人もの日本人宇宙飛行士が乗っている現在、意味はない。
 日本独自の、というからには、国産ロケットで、国産宇宙船で有人飛行を達成する必要がある。
 その先、月面を目指すというならば、戦略本部ははっきりとその意義を説明しなければならない。
 月は、すでに中国が目標であることを公言しており、アメリカも火星行きが月への復帰とトーンダウンして次のレースのゴールであることを明確にしている。同じ土俵に乗って戦うならば、勝てる規模の予算を注ぎ込まなければ勝てないし、負けがわかっている計画ならば予算を組む必要すらない。
 月面探査に科学的意義を見いだすのであれば、有人月探査を行うことによって得られる科学的知見が無人探査のそれをはるかに上回るであろうことを説明しなければならない。
 ASIMOによる月面探査は、毛利衛飛行士によって宇宙開発戦略調査会によって説明され、松本零士をはじめとする委員に好評だったという。しかし、もし人型ロボットによる探査によって得られる知見が有人探査と同様のものなら、その後の有人探査は必要ないことになる。

 日本はこれまで、国威発揚のための有人宇宙開発を行ってこなかった。これは、政治的に日本には有人宇宙開発が必要とされなかったということでもある。
 アメリカが月を目指したのは、冷戦下でソ連との対決という政治的事情があった。
 政治的事情ではじめられたアポロ計画は成功と同時に政治的目標が達成されたため、残りの計画全体に縮小がかけられた。20号まで計画されていたアポロは17号で打ちきりとなり、NASAには激しいリストラの嵐が吹き荒れた。
 多民族国家である中国は、国内外への国家威信のために有人宇宙を宇宙開発の中心に据え、確実に進めている。
 インドの有人宇宙も、国家威信のためという側面が大きい。
 日本は、国家威信のための宇宙開発を行ってこなかった。結果的に宇宙探査において国際的な評価を得る事は多々あり、世界で四番目の衛星打ち上げ国となっても、それは国策で進められたものではない。それは、研究者が厳しい予算獲得競争を勝ち抜き、自らの研究を主眼において「世界で一番以外は評価されない」という条件の下に仕事をして得た結果である。
 国家威信という御旗を今まで必要としてこなかった、のみならず宇宙開発予算に於いては三機関合同以後着々と減少の一途を辿ってきた日本の宇宙機関が、なぜ、今ここに来て有人月探査などという夢のような構想をぶち上げたのか。
 それは、成功すればどのようなメリットがあり、投下された予算に対してどれだけの効果が見込めるものなのか?
 今や予算面に於いても大国となりつつあるインド、中国に伍して日本が独自に行って勝ち目のあるものなのか?
 それとも、宇宙開発の最前線が月面探査に移ることになって、有人探査することによって無人探査よりも大きな結果が期待出来るものなのか?
 月探査だけならば、無人で充分ではないのか。なぜ有人でなければいけないのか。

 もし、この路線を推し進めるのであれば、宇宙機関は国民に対して多大なる説明責任を負うことになる。
 その結果、もし納得出来る説明が聞けるのであれば、笹本は喜んで今回の英断を支持しよう。
 これが、日本人が自らの手で宇宙に乗り出していく第一歩ならば、力一杯応援しよう。
 しかし、有人月宇宙という大計画を選ぶことによる得失の説明が十分に行なわれないのであれば。
 そして、そのために必要な予算の確保をどこから行うのかという納得出来る説明が行なわれないのであれば。

 笹本は日本独自の有人月探査を支持出来ないし、それを進めることにより日本の宇宙探査に於ける世界的な評価を受けている部分まで切り捨てるという路線が既定のものとなるならば反対派の急先鋒にならざるを得ない。
 なぜなら、実現の可能性すら薄い計画に今成功しつつある計画、進められている計画を捨ててまで突っ込んでいくのは、日本の宇宙開発、宇宙探査にとって亡国の計画としか思えないからである。
 日本は、かつて実績あるMVロケットの運用を政治的判断で捨てたという前歴がある。
 今回の有人月探査の提案が、それを上回る日本の宇宙開発の失策とならない保証はどこにもない。
 だからこそ、宇宙機関は有人月探査を進める場合のロードマップ、予算、得失を国民に対してはっきりと説明する必要がある。なにを意図して有人月探査を提案したのか、正直に説明する義務がある。

 なぜ、有人月探査なのか。
 少なくとも、今の笹本には納得出来る理由も理解出来る説明も、そしてそのための莫大な予算と人員をどこから持ってくるのかも思い付かない。
 日本が有人宇宙を開始する。それは素晴らしい提案である。
 しかし、そのために今までに実績を上げてきた宇宙探査を予算獲得の言い訳に潰す可能性がある。この辺りになると言語道断なのだが、実は、日本の宇宙開発が取りうる最悪の選択はもっと他にある。
 日本の宇宙開発が有人月探査に舵取りされた上に、日本になにも残らなくなるような選択がある。

 なんだと思う?

 それは、有人宇宙船の開発から月探査まで全面的にアメリカに依存し、日本は予算だけを供出するという選択である。
 JAXAの有人宇宙がアメリカ一辺倒なのはご存知の通り。日本人宇宙飛行士がソユーズの訓練を受けたのも、JAXAが独自に判断したのではなく、予定されるスペースシャトルの引退に伴ってISSへの往復がソユーズロケットしかなくなるから、というアメリカの意向を受けたものでしかない。
 日本の有人宇宙は、アメリカのスペースシャトルに相乗りという形で進められてきた。公式には、これによって日本は有人宇宙の経験を積んできた、ということになっている。
 では、日本が獲得した有人宇宙技術には具体的にどのようなものがあり、今までの宇宙飛行士達はどんな技術を獲得し、日本に持ち帰ったのか、他にどんな技術の習得が必要なのか。
 実は、科学探査ならばあって当然のこうした定量的な評価は、少なくとも笹本が知る限りJAXAではまったく行われていない。そこにあるのは、国際協力の美名のもとにスペースシャトルに便乗、国際宇宙ステーションに貸間を建て増しして自分の成果であるかのように宣伝しているJAXAの広報ページだけである。
 そして、新規の有人宇宙の提案は、全て「予算がない」という言い訳で潰されてきた。
 日本が有人宇宙をやる気があるのであれば、今までのスペースシャトルと国際宇宙ステーションの建設協力により、どれくらいの経験が得られたのか、評価の必要がある。
 その結果、得られている技術、得られていない技術を判別し、得られていない技術はアメリカから供与が可能なものなのか、自主開発が可能なものなのか、そしてなによりそれが日本に必要なものなのか、判断しなければならない。
 秋山飛行士のソユーズによる初飛行からもう20年。毛利衛の初飛行からでも17年、すでに6人の日本人宇宙飛行士がスペースシャトルで宇宙に飛び、若田飛行士の国際宇宙ステーション長期滞在も目の前に迫っている。
 これだけ長い年月をかけ、多人数の宇宙飛行士が飛んでいるならば、日本の有人宇宙技術はもう充分な経験を積んでいると見るべきだろう。もしまだ未熟だというのであれば、それはアメリカへの協力の仕方が間違っているとしか思えない。
 しかし、今回提案された有人月探査が、アメリカの月探査計画への盲目的な協力を意図して提案されたものだとしたら?
 ただでさえスペースシャトル、ISSに多大な金額を献上している日本の宇宙開発予算が、この先もアメリカに吸われ、しかもその成果の大部分は日本に還元されず、日本の宇宙開発の技術にもならないという最悪の展開が予想出来る。
 さらに穿った見方をすれば、有人月探査の提案はスペースシャトルの運行停止に伴って日本からの高額な予算協力が見込めなくなるアメリカが、次なる予算献上の名目のために強要してきたものにも見える。
 だとすれば、ほんの一言だけ付け加えられた「独自の」という言葉こそ、JAXA側の抵抗なのかも知れない。

 もう一度まとめよう。
 日本が有人月探査を行う、と決定した場合、最悪の選択は、アメリカの有人月探査に盲目的に付き従い、月面探査有人宇宙船に日本人の席を買うために日本の宇宙開発予算をアメリカに献上することである。
 だとすれば、日本の宇宙機関は巨額の予算と共にアメリカの有人月探査にどこまで協力すべきか、あるいは協力せずに独自の宇宙開発に乗り出すべきなのか。その場合、日本の有人宇宙開発はどうすべきなのか、本気で検討しなければならない。
 現時点で、日本の有人宇宙計画はスペースシャトル及び国際宇宙ステーションしか存在しない。このままアメリカに付き従うなら、自動的に月探査に付き合わされると同時にそのための巨額な予算の負担を求めることも容易に予想出来る。
 引き換えに、日本の宇宙探査が生贄に捧げられるとしたら、これは到底承伏出来るものではない。

 別の途として、アメリカの有人月探査に予算面ではなく技術面で協力する、という道がある。
 予算は出さない。代わりに、提供出来る技術、開発出来る技術を協力する。
 そのアメリカに対する貢献度は、予算を言われるままに献上する場合よりもはるかに下がる。おそらく、アメリカの月探査宇宙船に日本人の席は貰えないかも知れない。
 しかし、日本で技術を開発し、それをアメリカに提供するならば、日本の宇宙開発は「日本人宇宙飛行士がアメリカの宇宙船で月面に到達しました」などというなんの役にも立たない実績よりはるかに大きな果実を手にすることが出来る。
 宇宙開発予算をアメリカではなく日本国内に廻すことも出来るから、国内企業に予算を付けることにもなる。その結果得られる技術は、いずれ日本が宇宙に乗り出していくのに役に立つだろう。

 今回の提案に於いて、戦略会議は「莫大な予算が必要とされる」「国際的な協力の検討が必要」ときわめてあいまいな形でしか将来の有人宇宙に関する記述をしていない。

 本当のところはどうなんだ?
 今回の突然とも思える有人月探査の提案は、アメリカの尻馬に乗り続けるための足場造りでしかないんじゃないのか?
 それとも他に何か考えてるのか?
 宇宙開発戦略調査会がいやしくも「戦略」という言葉を冠しているのなら、では日本の宇宙開発が乏しい予算と限られた人員をどのような目標に投入すべきか、戦略的な話を聞かせて貰おうじゃないか。

No.1323 :月への遠い道
投稿日 2009年3月13日(金)12時51分 投稿者 笹本祐一

 日本は月探査を目標とした有人探査を提案した。
 では、これから先どんな展開、開発が予想されるか。
 これから日本の宇宙開発が取るべき道、取りうる可能性について考察してみよう。
 前提条件として、日本単独で有人月探査を行う。国際技術協力については、自前の技術がない場合には便利なお財布にしか使われないことはスペースシャトル、国際宇宙ステーション関連で日本の関係者には身に染みているだろうから、全ての技術は自前で賄うこととする。

 現在の日本には、独自の有人宇宙技術はない。
 現状で使えるロケットはH2A、H2Bのみ。これで、低軌道に最大20トン弱の構造物は投入出来る。
 しかし、有人宇宙船の技術はない。
 HTVは宇宙ステーションにドッキングすれば与圧して人がはいる。また、JEMも軌道上で与圧されて活動しているので、構造体を作る技術はあると判断出来る。
 もちろん、有人宇宙船は構造体だけでは出来ない。生命維持のためには酸素を供給し、二酸化炭素を回収する技術が必要である。基礎技術は自衛隊や深海探査用の潜水艦で確立されているので、その宇宙方面への転用はそう難しくないはずである。
 軌道に上げた宇宙船は、再突入させて回収しなければならない。
 日本に於いて、再突入回収の技術は少ないながらも実績がある。まだ有人での回収はないし、HOPEで耐熱タイルの開発にも失敗してるが、昔ながらの溶融剤を分厚く塗り込めてその蒸発により再突入時の熱衝撃を緩和するという技術は完成されているのでそれほど難しいものではない。もちろん数度の実証実験は必要だろうが、新規開発は必要ではない。
 有人宇宙船の開発に於いて一番大事なのは、飛行の全行程に於ける安全で確実な脱出手段を確保することである。
 打ち上げから軌道投入までのもっともクリティカルな段階に於いて、多重の脱出手段を確保することは有人飛行実現の初期段階に於いてもっとも重要な開発になるだろう。
 カウントゼロから軌道投入までの全ての段階で安全に有人カプセルを脱出させ、地球に帰還させるためには、現状のH2Aロケットの飛行径路の多少の変更も必要になる。
 現在のH2Aの飛行径路は衛星の軌道投入に最適化されている。しかし、それをそのまま有人飛行に当てはめると、飛行の途中の段階で緊急脱出した場合に想定される脱出経路で宇宙船にかかるGが8Gを越え、乗員に多大な負担がかかってしまう。
 対策のためにはH2Aの飛行径路を有人向けに脱出は確実に出来るけれども飛行効率は多少悪化するものに変更しなければならない。そして、飛行の全領域で確実に作動する信頼性の高い脱出ロケットさえ開発出来れば、H2Aでの有人カプセルの打ち上げは夢物語ではない。

 つまり、今の日本に於いて低軌道地球周回のための有人カプセルの開発及び運用はそれほどハードルの高いものではない。困難な新規開発が予想されるものもないし、莫大な予算も必要とはされない。
 莫大な予算を必要とされないというこの一点が、組織としてのJAXAにとっても協同開発するメーカーにとってもうまみのない計画であることが予測されるが、それは本稿の本筋ではないので指摘するに留めておく。

 では、HTVをベースとするか、あるいはかつて検討した有人宇宙船ふじくらいの3人乗りのベーゴマ型カプセルを開発するか。順当に考えれば、最初は三人乗り小型カプセルで有人宇宙飛行技術の実証を進め、並行してHTVベースの大型船、あるいは長期滞在のための拡張モジュールを開発するのが常道だろう。すでにいくつかの国で実績があるとはいえ、有人宇宙技術は日本にとって未知の新天地である。ひとつひとつ足元を固めて登って行くに勝る途はない。
 日本が、安心して運用出来る有人宇宙船を開発するのに必要な年月はおそらく5年程度。困難を予想される新規開発がなく、また現在持っている宇宙技術から転用出来るものがいっぱいあるから、ここまでは平坦な道と予測される。並行して、軌道上にある宇宙船から24時間通信体制を確保するために高軌道に通信衛星をカバーのために上げるか、はたまた世界各国にお願いして地上、あるいは洋上にも通信ステーションを確保するか、インフラの建設も開始しなければならない。

 有人宇宙船、及びその乗員を日本が確保したとして、それだけでは月には行けない。
 なにせ月は遠い。平均で38万キロ彼方、そこに至るのに必要な推進剤は、ざっくり考えて低軌道に投入する場合の2倍となる。
 H2Aロケットの場合、低軌道に投入可能なペイロードは約10トン。有人打ち上げのための飛行最適化及び脱出ロケットの追加により、これは減ることはあっても増えることはない。
 そして、月飛行と条件が似ている静止軌道投入の場合、H2Aロケットの静止軌道への遷移軌道投入可能重量は4・5トン。
 増加型のH2Bロケットでも、低軌道への投入重量は19トン。遷移軌道で8トン。
 つまり、有人カプセルを月軌道に乗せて地球に返すというアポロ8号同様のミッションでも、推進剤まで含めた有人カプセルの全重量を8トン以下にしなければならない。
 最低でも一週間、非常時の余裕を見込めば二週間は乗員の軌道上滞在を必要とする有人宇宙船を、全てのシステムに月にまで届く推進剤まで入れて8トンで作らなければならないというのは、実はかなりシビアである。
 参考までに、アポロは脱出システムが3・6トン、司令船6トン、機械船25トンで推進剤込みの重量は合わせて35トン近い。脱出システムは第一段燃焼終了と共に切り離せるし、司令船、機械船ともに現代の技術で作ればかなりの軽量化が期待出来るが、推進剤の化学効率は変更出来ない以上、それにも限界がある。
 現実的な解としては、有人カプセル本体と別に地球周回軌道脱出のための推進剤、あるいはブースターを本体と別に打上げるという技術が必要になる。
 現在の種子島では、ロケット一基の打上げに必要なタイムスケジュールは最短一ヶ月といわれている。軌道上での貯蔵に耐える極低温でない燃料を使うブースターを最初に打上げ、一ヶ月後に有人カプセルを打上げ、軌道上でドッキングすれば有人カプセルを月周回軌道まで押し上げる事が出来るだろう。
 そのためには、宇宙空間で長期保存に耐え、複数回の点火に使えるブースターを別に開発しなければならない。燃料タンクと高効率のロケットエンジンを装備したそれは、無人であることを除けば間違いなく宇宙船である。そして、有人宇宙船とブースターを軌道上でランデブー、ドッキングさせ、確実に作動する技術も開発しなければならない。
 さーて技術水準が上がってきたぞ。
 まともに考えれば、軌道上で常温保持が可能でしかも動作も保証されて実績がある推進剤、ヒドラジン系を使うというのが通常の選択肢である。しかし、ヒドラジン系推進剤には猛毒というデメリットがあり、種子島からそんな猛毒のブースタータンクを打ち上げられるのに周囲の同意が得られるか、という政治的な問題が出てくる。
 では、液酸液水系の無毒な推進剤を使うのならどうか。これなら、H2Aロケットで上段をもうひとつ上げる、みたいな設計思想で開発も可能であり、エンジンのLE5も作動実績がある。
 しかしその場合、日照側はプラス200度、日陰はマイナス100度になる宇宙空間で、極低温燃料を長期に渡って保存しなければならない。液体酸素、液体水素ともに地上でタンクに注入すると入れる端から沸騰して蒸発していくので、H2Aでもスペースシャトルでも打上げ寸前まで液体燃料の注入を続けるくらいのものである。
 また、水素燃料は分子が小さいので、どれだけ念入りにパッキングしても隙間から洩れていく。
 現在では、極低温燃料を軌道上で安定して貯蔵する技術はない。この技術レベルは高い。
 解決のためには、種子島から打上げるロケットのタイムスケジュールを詰めるか、軌道上に上げるペイロードの重量を一気に上げるしかない。
 たとえば、ほんの数時間のタイムラグで二基のロケットを上げられるのであれば、液酸液水系のブースターを使って地球周回軌道上から月軌道に有人カプセルを上げることが出来る。
 種子島の設備は現状でも二基同時のロケットの準備が可能なVABがあり、また射点もふたつある。
 同時に射点に二つのロケットを並べるのは、射点間の距離が短いから現実的ではないが、一基目を打上げてから24時間後に2基目を打上げ、というのであれば不可能なスケジュールではない。
 その場合、種子島宇宙基地に二基分以上の液体燃料を貯蔵する設備を作るなどの増強は必要だが、ペイロードが倍の新規ロケットの開発は不要である。
 ここまでやって、やっと月軌道周回飛行が可能になる。
 しかし、ここまでやっても月軌道に送り込めるのは月着陸設備を持たない有人カプセルだけである。
 地球周回低軌道に宇宙船と、そこからもう一段分の推進剤を搭載した月軌道に宇宙船を届かせるためのブースターを送り込まなくては月面探査は実現出来ない。
 サターンV型がかくも巨大になったのは、軌道上にもう一段分の燃料もろとも着陸船、司令船を一度に送り込もうとしたからである。それが証拠に、月面探査という目標がなければ、サターンVはスカイラブという巨大な宇宙ステーションをわずか二段で地球低軌道に投入することが出来る。
 さて、前項で考察した日本独自の月宇宙船には着陸船はない。
 着陸船は、完全な新規開発が必要になる。
 この着陸船に要求される性能は、月面への安全な着陸と、月面から再び月周回軌道に飛び上がるだけの推進剤とエンジンを併せ持つエンジンの搭載である。
 もしこれを単段で済まそうと思うと、着陸船は減速、着陸、離陸のためのエンジンと推進剤をひとつの機体の中に内包しなければならない。
 先例として、アポロ月着陸船がどのような構造だったか見てみよう。
 月着陸船の中で、月周回軌道に復帰するのは上昇段と呼ばれる上部の部分だけである。
 減速、着陸に必要な逆噴射エンジンと推進剤タンク、着陸脚はすべて下降段と呼ばれる下の部分に取り付けられ、月面周回軌道に復帰する時には発射台として使用され、月面に置いて行かれる。すなわち、月着陸船は極限の重量軽減のために二段化されたロケットであると言える。
 一段目の下降段は、月面周回軌道からの減速、着陸に使われる。
 月面から再び周回軌道に復帰するため、上昇段は下降段を切り離して単体で上昇する。下降段を切り離していくから、再び軌道に復帰するのに着陸時ほど大きなエンジンは必要ない。
 現代の技術で、月面に着陸し、再び軌道に復帰する宇宙船にどんな構成が最適なのか、もちろん研究開発の余地は大きいだろう。同じエンジンを使うのであれば、着陸脚及び着陸用推進剤タンクは月面で切り離していく、ただしエンジンは減速、着陸と離陸、軌道復帰に同じものを使うという選択肢もあり得る。
 1969年にアポロ着陸船が成功しているものを現代の技術で作り直すのだから、その開発は平易ではないだろうが困難でもないだろう。きわめて厳しい重量制限とコンセプトさえ見失わなければ、その開発は不可能ではない。
 しかし、月着陸船を月に着陸させるためには、あたりまえの事ながら月着陸船を月周回軌道に持っていく、という手間が必要になる。
 月着陸船の重量をどの程度に見積るかによっても数字は違ってくるが、アポロを例に取れば司令船、機械船の合計が約30トンに対し、着陸船は約16トン。この差は、司令船は三人が往復7日間合わせて21人日暮さなければならないのに対して、着陸船は長くても二人が二日合わせて4人日で済むという生命維持システムのキャパシティによるところも大きい。
 では、H2Bの静止トランスファー軌道に8トンという制限の中に着陸船を収めることは可能だろうか。
 可能ならば、月着陸船は一度の打ち上げで月周回軌道に投入出来る。
 不可能ならば、月着陸船は有人カプセル同様に軌道上でブースターとドッキング、月軌道に向かうという有人カプセル同様の手間を踏まなければならない。ただし、こちらは完全に無人化出来ることが期待出来るから、先に月着陸船を地球周回軌道に投入、あとからブースターを打上げて、ドッキング、月に向かい、月周回軌道に安定させたのを確認してから有人宇宙船を打上げるという手順を踏むことが可能になる。

 もし、これらの打ち上げを一度で済ませようとしたら、静止トランスファー軌道に約30トンの投入を可能とする大型ロケットの開発が必要になる。低軌道換算で約70トン。失敗に終わったソ連月ロケット、N1ブースターと同じような性能か。
 低軌道でH2Aロケットの7倍、H2Bと比べても4倍近いペイロードのロケットの打ち上げ重量はいくらくらいになるか。
 そのまま巨大化すれば、約2000トン。
 あくまでも机上の計算でしかないが、低軌道に70トンを投入出来る大型ブースターなら一度の打ち上げで全システムを月周回軌道に投入出来る。それが出来ない場合、最低三回、ひょっとしたら四回のロケットの打ち上げが必要になる。
 一度で済まそうと思ったら、構成はともかく推定重量2000トン、ペイロード70トンの大型ロケットの開発が必要になる。そして、種子島の現状の射点ではさすがにそんな大型ロケットの打ち上げは爆発物取り扱い法の関係上、安全距離が獲れないので不可能である。となれば、それだけの大きなロケットを運用するVABごと新規の建設が必要になる。
 種子島で現状の吉信岬のさらに先を埋め立てて新たな射点を作るというのも解のひとつになるだろう。
 その場合でも、新型ロケットのためには新たなVABの建設が必要になるし、埋め立てて空港ひとつ作るくらいの予算が必要になる。
 さあて、有人月探査二兆円じゃ足りなくなってきたぞー。

 他に必要な要素技術として、宇宙服の開発及び宇宙遊泳、月面歩行の技術習得も必要である。
 しかし、これも新規開発が必要な技術ではない。技術習得のためのハードルは高いが、すべて海外で実現可能なことが実証され、なによりも40年前の技術でアポロが達成している技術である。確固たる意思とゴールさえ明確なら、それは開発可能だろう。

No.1322 :日本独自の有人月探査計画に見えた月の裏側
投稿日 2009年3月7日(土)02時09分 投稿者 笹本祐一

 宇宙開発戦略調査会という会合が、これからの日本の国家としての宇宙戦略を決定するために首相官邸で開かれている。
 これは、2009年5月に宇宙開発基本法の策定などへの提言を行う有識者による専門会議で、日本経団連会長御手洗富士夫、宇宙飛行士毛利衛、まんが家松本零士もメンバーである。
http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/080912/acd0809121218007-n1.htm

 3月6日に行なわれた第5回会合において、これから日本が目指すべき宇宙開発の方針として、有人による月探査、その前段階としての二足歩行ロボットによる月探査が毛利衛氏によって提案された。これは委員によって好評のうちに受け入れられ、報道もされたので御存知の方も多いと思う。
 今、笹本の手許にこの時に使われた資料の一部がある。
 今まで、独自の有人宇宙飛行に対して背を向け続けてきた日本が、文科省主導のこの会議においてなぜ突然有人探査と言いだしたのか。
 2003年初頭に笹本が聞いた「なぜ日本独自の有人宇宙飛行をやらないのか」という質問に対し、宇宙開発委員会のお歴々はこう答えた。
「もし有人宇宙飛行やって誰か死んだらいい訳が出来ない」
 それがなぜ今になって、莫大な予算を必要とするはずの独自の有人飛行、のみならずその先の月探査などという野心的な提案が行なわれたのか。
 この席上で配られ、近日中にはネット上で公開もされるはずの資料3、「戦端的な宇宙開発の推進について」を注意深く読み解いていくと、そこには日本の宇宙開発に於ける宇宙科学と政治の奇妙な混在に気付く。

 宇宙科学については我が国が独自に探求し、成果を上げてきたという意義を認め、さらなる研究の必要を説いている。
 しかしながら、有人宇宙については、「将来に亘って有人宇宙活動を自在に行う能力を、現在のISSでの活動を基盤として更に高めていくことは、宇宙先進国としての我が国の地位を確固たるものとするために極めて重要である」
 との文言がある。これは、スペースシャトル、国際宇宙ステーションにのみ頼ってNASAを追従する形で有人宇宙を続けてきた日本の宇宙開発に於ける政治的立場の確認であり、日本の有人宇宙に関する成果も意義の確認もそこにはない。
 では、日本の宇宙開発の戦略のためになぜ政治的な思考が必要になるのか。
 宇宙開発には莫大な予算が必要となる。
 笹本は、日本独自の有人宇宙開発に関わった際、もし当時のNASDAが有人宇宙飛行に乗り出すとしたらいくらくらいの予算を要求するか考えたことがある。
 H-IIロケットは、2000億の予算で開発された。最終的に2700億の巨費がかけられたが、これは世界的には「クレイジー」といわれるほどの低予算である。
 その次のビッグプロジェクトであるHOPEは、中止されたとはいえ5000億の開発予算を見込まれていた。
 だとすれば、宇宙開発の究極目標といえる有人宇宙飛行のためにNASDAが要求する予算はおそらく一兆。逆に言えば、それだけの予算が獲れなければ、NASDAにとって巨大プロジェクトとしての有人宇宙計画の意味はない。
 一兆円の予算があれば、組織もメーカーもしばらくは潤沢な予算のもとに安心して計画を進めることが出来る。
 しかしながら、現在の技術を持ってすれば有人宇宙システムの開発にはそれほどの巨費は必要ない。半世紀近くも前の技術で成し遂げられた有人飛行は、今ならばはるかに安上がりに行うことが出来る。
 つまり、当時のNASDAにとって有人宇宙飛行はネームバリューの割に予算が獲れない、しかも失敗すれば日本の宇宙開発すら止められかねない火中の栗だったのである。
 今回提案された有人月探査のための予算規模は、二兆円という数字を漏れ聞いている。年間2000億円を切れるような日本の宇宙開発予算から見れば夢のような巨費であり、それは宇宙基本法によって宇宙開発の主導権を首相官邸に持って行かれそうな文科省にとってはたとえようもなく魅力的な題目だろう。
 月探査、しかも有人。アポロを子供のころに体験している世代なら、それは再現すべき夢であり、実現すべきミッションである。
 しかし、宇宙開発が国家事業として予算の枠に縛られている限り、払われる金額は有限である。巨額の予算を持ってくるなら、どこか別の計画を止めなければならない。
 資料3、先端的な宇宙開発利用の推進についてというPDFを注意深く読んでいくと、1.2 太陽系探査の中に以下のような文言があることに気付く。


○ 特に大規模な探査プロジェクトに関する今後の計画立案にあたっては、研究者からのボトムアップによる科学目的を保持しつつ、トップダウンによる国家戦略としての政策的な観点とのすり合わせも踏まえ、決定する必要がある。


 関係者によれば、これは日本が今世界のトップを走り、今も成果を上げつつある地球外小惑星探査計画を、まず有人月探査の生贄に捧げるための第一歩だそうである。
 リソースの集中的運用でも、予算の効果的投入でも、美名はなんでもよろしい。
 これは、有人月探査の実現のためにはやぶさ2以降の計画をすべて中止するということであり、じっさい現在も地球に帰還するためのはやぶさを運用しているスタッフにもそのような話が回っているらしい。
 わかりやすく言い換えれば、有人月探査というトップダウンのために、研究者のボトムアップを捨てる必要がある、という宣言である。
 そして、おそらく話はそこに留まらない。莫大な予算を必要とする有人月探査があるのに、日本の宇宙村の中でわずかな人数しか占めない宇宙科学関係の計画がこれから先も今のように続けられる保証はない。次の言い訳が必要となれば、即座に「政治的判断」による切り捨てが行なわれるようになるかもしれない。先例があれば、それは簡単である。

 有人月探査は、「日本独自」と冠詞を付けようが付けまいが現時点でさえアメリカ、中国が進めつつある計画である。ここにいまさら日本が潤沢でもない予算を付けて参加したところで月レースで実績のあるアメリカ、すでに有人宇宙飛行を実現している中国に対して単独でいい勝負が出来るとは思えない。それは、月面有人探査計画においてかつてソ連が犯したような科学的判断を必要とする宇宙開発に政治的判断を持ち込むという典型的な失敗の第一歩である。
 今、日本は小惑星探査に於いて世界トップレベルの技術と実績を上げている。また、他の宇宙科学、天文学に於いても恵まれていない環境で費用対効果の高い成果を上げてきた。
 日本独自の有人月探査は、宇宙開発のための資源集中と称して、ペンシルロケット以来MVロケットまで積み上げられてきた全ての成果をまるごと葬る毒性を秘めた、きわめて刺激の強い新提案である。
 宇宙科学は、世界で一番であることがなによりも重要視される。二番手以降の成果は、そこでは意味を持たない。
 しかし、政治は一番であることを重要視しない。そこで重要なのは、潤沢な予算を取り、多人数に充分な報酬を出して組織を維持することであり、宇宙開発の成果も有人宇宙の意義も単なる言い訳として扱われる。

 日本の宇宙開発が目指すべき方向はどこなのか。
 それを決定する権利は、我々日本国民にある。
 同時に、どこを目指すべきか、それは日本人として考えなければならない義務でもある。

 あなたは、日本の宇宙開発になにを求めますか?
 それは、自分で納めた税金の納得がいく使い途ですか?
 それは、日本でなければ出来ないことですか?

No.1321 :「H-2Bコア機体報道公開」動画公開
投稿日 2009年2月14日(土)03時58分 投稿者 野尻抱介

 H-2Bコア機体報道公開のスチル写真と動画をまとめてニコニコ動画にUPしました。
 ニコニコ動画のアカウントをお持ちの方はニコニコ動画直行、そうでない方ははてな経由でご覧ください。

No.1320 :当日配布の資料について ●添付画像ファイル
投稿日 2009年2月13日(金)04時30分 投稿者 今村勇輔

H-IIBコア機体公開に際して配布された資料を、スキャンしてアップロードしました。
また、個人的なレポートもアップしています→http://d.hatena.ne.jp/Imamura/20090212/H2B
よろしければあわせてご覧ください。

http://www.pluto.dti.ne.jp/imasa/image/H2B/

No.1316 :2段目 ●添付画像ファイル
投稿日 2009年2月13日(金)00時41分 投稿者 野尻抱介

 2段目はH-2Aのそれとほとんど変わらない。

No.1315 :1段目の上部 ●添付画像ファイル
投稿日 2009年2月13日(金)00時40分 投稿者 野尻抱介

 1段目の上端はテーパーしてH-2Aと同じ直径になり、2段目に結合する。タンク部分は断熱材が塗布されて白っぽく見える。

No.1314 :クラスター化されたLE-7A ●添付画像ファイル
投稿日 2009年2月13日(金)00時36分 投稿者 野尻抱介

 保護カバーに覆われているのが残念だが、双発化にともなう配管が垣間見える。ノズルはロングノズルが使われている。

No.1313 :二人のプロジェクトマネージャー ●添付画像ファイル
投稿日 2009年2月13日(金)00時32分 投稿者 野尻抱介

 JAXA H-2Bプロジェクトマネージャー中村富久氏(右)と三菱重工 H-2Bロケット プロジェクトマネージャー後藤智彦氏

No.1312 :H-2B(H-IIB)コア機体報道公開 ●添付画像ファイル
投稿日 2009年2月13日(金)00時22分 投稿者 野尻抱介

 2009年2月12日、愛知県の三菱重工飛島(とびしま)工場にてH-2Bのコア機体が報道公開された。宇宙作家クラブからは鹿野司、今村勇輔、小川一水、野尻抱介が出席した。
 飛島工場は名古屋港の一角にある。すぐ外に貨物船を接舷できるから、ロケットや航空機の海上輸送に適した立地である。報道陣は名古屋駅から送迎バスで現地入りした。

 H-2BはJAXAと三菱重工の共同開発で、H-2Aロケットをベースにした新しい国産最大のロケットである。コア機体とは1段目と2段目をあわせた部分のこと。これに固体燃料ブースター(SRB-A)と衛星フェアリングを取り付けると打ち上げ時の姿になる。

 H-2Bの第2段はH-2Aとほとんど同じで、若干強度を上げている程度。大きく変わったのは第1段である。
 最大の特徴は1段目エンジンがLE-7Aを二基束ねた、国産初のクラスター・ロケットになったこと。すでに三回の燃焼テストを成功させている。(写真参照) この報道公開ではすでに保護カバーが取り付けられ、LE-7Aエンジンの威容は拝めなかった。
 機体全長はH-2Aとほぼ同じ56mだが、1段目の直径が4mから5.2mに膨らみ、搭載燃料は1.7倍になった。旅客機を拡張するときは胴体直径をそのまま、全長をストレッチするのが普通だが、H-2Bでは逆の選択をしたことになる。理由は機体強度の保持において有利なこととと、ロケット組立棟や射点設備の変更を最小にすることだという。
 H-2Bは「H-2Aの増強型」として扱われることが多いが、直径が変わり体積が2倍近くになったのだから、新型ロケットとみなしてもいいだろう。H-2Aと比較すると「H-3」と呼んでもおかしくない貫禄がある。
 構造系の新技術としてはタンクドームの国産化と、摩擦攪拌接合方式(FSW)が導入された。タンクドームは円筒形の燃料タンクの上下にあるドーム状のパーツで、アルミ合金を一体のまま成型している。摩擦攪拌接合とは溶接に置き換わるもので、タンクスキンを素材の展性・延性によって結合する。FSWの利点は接合作業が機械化できることにあるという。

 H-2Bの開発費はJAXAの負担が187億円、三菱の設備投資が75億円、合計262億円。三菱の設備投資は今後の数機ぶんに分散して回収する見込み。
 H-2Aの開発費は1500〜1600億円である。海外の同規模のロケットに較べてもH-2Bの開発費は一桁安い。SAC取材班内でも「バカみたいに安い」が一致した感想であった。H-2Aで確立した技術がなければこの費用では実現しなかった、とプロマネは述べている。
 開発費と別勘定の、H-2B 1号機単体の価格は147億円。1号機は試験機であるため様々なオプションがつき、通常より高価になっている。2号機以降の価格は現時点では確定できないとのこと。

 H-2B開発の目的は大きく二つある。
(1) 国際宇宙ステーション補給機(HTV)を運ぶこと。これには高度300km×200kmの略円軌道に16.5トンを投入する能力が必要である。
(2) H-2Aロケットと併用して多様な打ち上げ能力を保有し、国際競争力をつけること。H-2Bは静止トランスファー軌道に約8トンを投入する能力がある。これにより、2〜4トンの静止衛星を2機同時に打ち上げることができる。
 国際宇宙ステーションについては計画が大幅に遅延・縮小し、お荷物扱いする向きも多い。また、衛星については小型化の傾向もあることから、H-2Bが今後どれだけ活用されるかは予断を許さない。
 いっぽう、HTVの輸送ミッションは国産技術で初めて、既存の宇宙施設にランデヴー&ドッキングする機会である。その輸送量や液体燃料ロケットのクラスター化とあいまって、日本の宇宙技術における大きな一歩を印すことになるだろう。H-2Bは宇宙輸送において、世界の檜舞台に立てる能力がある。我々はもはや他国の大型ロケットを指をくわえて見ている必要はないのである。

 H-2B 1号機はこの報道公開の後まもなく種子島に運ばれる。種子島では第1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)、地上総合試験(GTV)が行われる。作業が計画どおりに進めば、本年夏、HTV技術実証機を搭載しての打ち上げとなる。

No.1311 :記者会見第三部の最後に ●添付画像ファイル
投稿日 2009年1月23日(金)17時12分 投稿者 松浦晋也

 自分らの衛星を囲んで。

No.1310 :記者会見第三部 ●添付画像ファイル
投稿日 2009年1月23日(金)17時10分 投稿者 松浦晋也

記者会見第三部

出席者
吉田和哉 東北大学教授
今村博昭 東大阪宇宙開発共同組合理事長
山本勝令 株式会社ソラン宇宙システム事業部長
石川智浩 都立産業技術高専 准教授
佐藤友紀 東京大学中須賀研究室 研究員

音声参加
能見公博 香川大学 准教授

画像参加
橋本英一 JAXA宇宙実証センター長(筑波宇宙センター)

 向かって右側に
江藤隆夫 JAXA産学官連携参事

 写真はスプライト観測衛星を「雷神」と命名したことを発表する吉田教授。


橋本:SDS-1は分離を確認。衛星状態が良好であることも確認できた。

吉田:我々のスプライト観測衛星は、地球一周後、東北大学で電波をキャッチ。分離を確認した。テレメトリのデータから衛星の状況は正常であることを確認。相乗り機会を提供してくれたJAXA、三菱重工業に感謝する。
 愛称を雷神(RISING)と命名した。スプライトの宇宙からの観測は世界初、また地上落雷に伴うガンマ線発生を検出することも狙っている。この衛星は東北大学の理学研究科と工学研究科が協力して開発した。データが取れれば理工の協力による成果となる。

今村:2002年以来、NEDOの委託事業として衛星を開発してきた。増田宇宙通信所で電波を受信し、衛星軌道投入を確認、衛星名を「まいど1号」と命名した。関係各位、全国から応援してくれた人々に感謝します。当初は日本から“不況”という言葉を吹き飛ばすべく開始した計画だが、未曾有の大不況の中の打ち上げとなった。この打ち上げが不況を吹き飛ばすきっかけとなることを狙う。

山本:まず、今回、ミッションの一環として障害を持つ子供達が宇宙が丘で打ち上げを見学したことを報告したい。衛星のほうは、まだテレメトリーの確認はできていないが、今後一生懸命衛星を追いかけてミッションを達成したい。たくさん人々の力を借りて衛星を作り、上げることができた。小型衛星は簡単ではなく、ハードルは高い。くじけそうなこともあったが、子ども達の笑顔と共にNever Give Upの気持ちでここまでくることができた。

石川:今日自分がここにいるのは、学生達の代弁者である。衛星の名前KKS-1、航空高専サテライト1号。今度航空高専という名前はなくなるので、その名前を残したかった。
 愛称は公募で「きせき(輝汐)」と決まった。
 15歳から22歳の楽聖が作り上げた衛星である。普通に中間テストや期末テストがある環境の中で、土日と長期休暇をすべて注ぎ込んでできあがった衛星である。また、荒川区・足立区の中小企業、商工会議所などの応援があって航空高専衛星となった。メインのミッションはマイクロスラスターという固体火薬にレーザーで着火するスラスターを宇宙空間で試す。
 現状では通信がまだ取れていない。通信確立後は、地球の写真撮影、姿勢制御実験、最後はマイクロスラスターの試験を行う。

能見:衛星の愛称は「くうかい」。衛星は北海道工業大学で電波を受信し、分離を確認した。衛星は親機と子機の構成で、宇宙でひもを伸ばす実験を行う。子機は姿勢制御機能を持ち、写真撮影も行う。親機、子機ともに電波を受信できている。
 打ち上げは300人が入る教室で小中学生が集まって映像と共に盛り上がった。

佐藤:最初のパスでは電波の受信はできなかった。これは当初予測通りであって、今夜、仰角が高いパスがあるので、その時に受信を狙う。我々の衛星は超小型の地球観測衛星で、光学系を進展する。
 愛称は、衛星電波受信後に公表したい。Yes we can.です。

質疑応答

NHK;おひとりずつ、打ち上げの瞬間に立ち会った感想と、これまでのとびきりの苦労を一つづつお願いしたい。

吉田:光と轟音とで“雷のように登っていった”と感じた。開発には一言で言えない苦労もあった。時間との戦いだった。2007年5月に採択され、そこからフライトモデルの開発に入ったので実質1年で作っている。「間に合うか間に合わないか」で、ぎりぎりのところで間に合わせることができた。
 我々はSバンドの2.4mパラボラアンテナを大学構内において受信に使っているが、これが完成したのは2日前だった。すべてぎりぎりで間に合った。

今村:モニター経由と実際とはこんなにも違うのかと思った。自分の作ったスピンアップホイールが最初に仕事をするのだが、「しっかり働いてくれ」と思った。衛星を作るほうは無我夢中で苦労はなかったが、組合の運営で色々あった。それでもここまでこれて感無量だ。

山本:音と光が印象的だった。特に音は「振動試験をしたけれど大丈夫かな」というほどに感じた。限りある資金の中でやらねばならないというところが苦労だった。また、打ち上げ時の安全のハードルが高かったが、いい経験をした。

石川:感動の一言。光に遅れて音が来るので「本物だ」と思った。参加した12名の学生達も見に来ていたが、彼らも非常に喜んだ。自分にとって衛星の成功と学生らの喜ぶ顔を見ることができてダブルの喜びだった。
 苦労は、まず資金面。最初は海外での打ち上げを考えて、寄付を集めていた。次に苦労したのが学生らの旅費。あちこちに試験を行うための旅費が必要だが親御さんに迷惑はかけられない。最終的にOBから寄付でまかなうことができた。

佐藤:PRISMは非常に長い時間をかけて作ってきた。私は最後の2年間を担当した。打ち上げを味わったことは大変幸運だと思う。今晩も研究室では受信努力が続く。私たちの作ってきた衛星のすばらしさをアピールしたい。

能見:教室にみんなで集まってカウントダウしながら打ち上げを放送で見ていた。個人的には私は「おりひめ・ひこぼし」に参加して、打ち上げを種子島で見ている。おりひめ・ひこぼしも親子衛星でくうかいと似ている。おりひめ・ひこぼしに負けない成果を出したい。
 苦労は、打ち上げを見た瞬間吹き飛んだ。今は思い出せないです。

江藤:私はロケットの開発がメインで、逆に打ち上げを見ることはなかった。打ち上げの時はブロックハウスやRCCの中、とか。音です、やはり印象に残っているのは。

毎日新聞:今村理事長へ。今回の成功は大阪の町工場に何をもたらしたと思うか。今後も衛星開発は続けるのか。

今村:まだはっきりとはしない。今後は、今組合が縮小傾向で今後をどうするか相談中。方向性は出ていない。

不明:電波がとれていない衛星の皆さんに。自前設備以外での受信報告は来ていないのか。

山本:うちの「ソラン」は日本に3つの地上局を転回して、そこで受信する体制を持っている。

石川:KKS-1は「あるいは」という受信報告は来ているが確認が出来ていない段階だ。

佐藤:協力局から「あるいは」の報告は来ている。

毎日新聞:これらの未受信衛星の次の受信のチャンスは。

山本:すべて「いぶき」と同様の軌道に入っているので昼と夜に受信チャンスがある。今晩のチャンスに受信するつもり。

南日本新聞:まとめてどこかで受信報告を出すことは考えていないか。

JAXA広報:考えさせてください。

読売新聞:石川先生へ、12名の学生さんはすべて高専生でしょうか。

石川:高専は15歳5年間。その後研究科で2年。最初は15歳で半田付け経験なし、プログラミング経験なしだったものが、長足の進歩を遂げた。なによりも考え方が、「自分たちが主体となって人工衛星を作るんだ」とい意識となり、自主的に問題と取り組み話し合うようになった。このことが私にとっての大きな感動だ。

読売新聞:今村さんに。受信の報を聞いた時の感想。計画に参加した事の感想をお願いしたい。

今村:運用はJAXAの施設を借りた。スピンアップは正常動作しており、衛星は毎分2回で回っている。私の「うまくうごいてくれよ」という願いは叶った。自分の場合は不況のどうのこうのよりも、新しい技術に挑戦したいという思いでやってきた。若い大学を卒業したばかりの若い人たちと仕事が出来たことがうれしい。これまでの経験の幾分かを伝えることができたと思うので。

以上です。

No.1309 :「いぶき」命名者代表者の表彰 ●添付画像ファイル
投稿日 2009年1月23日(金)17時08分 投稿者 松浦晋也

 記者会見第二部の最後に、公募した「いぶき」という名前の命名者代表の表彰がありました。

No.1308 :記者会見第二部 ●添付画像ファイル
投稿日 2009年1月23日(金)17時06分 投稿者 松浦晋也

記者会見
第二部です。

 写真は「私はヒマでした」と語る前村打ち上げ執行責任者

出席者

園田昭眞 打ち上げ安全管理責任者
前村孝志 三菱重工業 打ち上げ執行責任者
浜崎敬 JAXA「いぶき」プロジェクト・マネージャー 衛星管制主任
横田達也 国立環境研究所 GOSATプロジェクト・リーダー
橋本徹 環境省地球環境局主査

園田:打ち上げ執行は三菱が完璧に行った。私の仕事は前村さんがYes we canというところをNoというもの。Noと言わずにすんで本当に良かった。

前村:今日、ロケットの不適合はゼロで、私はヒマでありました。天候も問題なく、非常に良い打ち上げだった。

浜崎:打ち上げ後の経過。13;15からオーストラリアのパース局でテレメトリをとり、電池パネルを開いたことを確認。最初に太陽電池パネルを太陽に向けてゆっくり回転する太陽指向モードに入った事に入った。その後サンチャゴ局で太陽電池出力が正常であることを確認した。その後の運用でもすべて正常。24時間後までには三軸の姿勢を確立する。
 その後3ヶ月のチェックアウトを行い、ついで環境研と共同でセンサーの伽理ぶれーションを行う。世界に温暖化のデータを提供できるようにがんばっていきたい。

横田:今日の打ち上げはハードルがいくつかあるうちの第一歩。それを超えることができて関係各位に感謝している。

橋本:今後の「いぶき」のデータ積極活用を進めていきたい。


質疑応答

南日本新聞:11ヶ月ぶりというブランクがあったが、にも関わらずうまくいった理由はどこにあるか。

前村:最大の懸念は作業者の習熟度だった。並行して開発中のH-IIBの開発現場に作業者を出したり、12月に種子島でリハーサルを行うなどの手を打っていた。

南日本新聞:ではロケットは完成したと言っていいのか。

前村:完成度は上がっていると考えているが、世界では20機以上打っても事故は起きている。気をひきしめていきたい。

南日本新聞:昨日のほうが打ち上げには向いていたようだが、今後は打ち上げオペレーションも習熟する必要があるのではないか。

前村:昨日もデータを取っていたが、雲の状態がぎりぎりで、昨日打っていたらかなりスリリングなことになったろう。今日は見ていた方には気の毒だったが、全く打ち上げには心配ない状況だった。天候判断は正しかったと考えている。

産経新聞:商業打ち上げについて一言。

前村:我々は成功し続けなくてはならない。でなければ、世界で認めてくれない。長年ロケットをやっていると、成功の雰囲気というのは分かるようになる。今回についてはかなり以前から「成功する」と感じていた。

産経新聞:また、管制室でずいぶん喜んでおられたが、何か思い入れでもあったのか。

前村:韓国衛星受注後で失敗できないということと、大宮社長の就任後初で失敗ができない。衛星数も多くて期待も大きい。yes we didという気持ちが出たのだろう。

NHK:量産効果以外のコストダウン策はあるのか。
前村:ロケットの競争力では信頼性が重要。我々のコストダウンは「信頼性を低下させることはしない」というのが前提だ。

不明;コストダウンについて、いずれ工夫も尽きるはずだが、どこまでコストダウンできるのだろうか。

前村:後は液体酸素の使用量を減らす工夫をするなどが考えている。

No.1307 :記者会見第一部 ●添付画像ファイル
投稿日 2009年1月23日(金)17時03分 投稿者 松浦晋也

午後2時半からの成功記者会見です。

第一部

 出席者
大宮英明 三菱重工業社長
立川敬二 JAXA理事長
野田聖子 宇宙開発担当大臣
田中正朗 文部科学省大臣官房審議官
青江茂 宇宙開発委員会委員
寺田達志 環境省地球環境局長

 横に
横田真 宇宙開発戦略本部参事官
中川健朗 文部科学省宇宙開発利用課長
河内山治朗 JAXA理事
太田進 国立環境研究所理事
前村孝志 三菱重工業打ち上げ執行責任者

野田
 今回打ち上げを初めて見た。
 日本はこれからの国家戦略の一つとして宇宙開発を伸ばすことを決意している。5月には宇宙基本計画を出す。いぶきには国家戦略を担う衛星の一つとして、温室効果ガスのデータを取得することを期待している。今順次7機の衛星が分離しているが、東大阪の衛星あり、世界でもっとも若い人たちが作った高専の衛星あり、障害のある子ども達を勇気付き得る衛星ありと様々だ。宇宙開発は失敗すると大きくメディアに報道される傾向があるが、成功した時にも一面に出しもらって閉塞感をうち破るようにしてもらえればと思う

大宮:種子島には何度か来たことがあるが打ち上げは初めて。昨日はすごい雨で機体が引き出せるかどうか心配だったが、最近の天気予報は衛星観測も含めすごいもので、打ち上げには支障は出なかった。軌道投入も高精度でできたと聞いている。
 これまでに打ち上げ成功は15機中14機、9機連続成功となった。商業打ち上げの営業にはずみがつくと思っている。関係各所に感謝している。来年度も心を引き締めて連続打ち上げ成功を続けていきたい。

立川:久しぶりに打ち上げに立ち会うことができてうれしい。民間移管で私の肩の荷物は大宮さんにいったわけだ。現在JAXAは安全管理を行っているが、これがうまくいったということは爆破指令を出さないで済んだということだ。また、小型衛星公募を実施できたことを大変うれしく思っている。相乗り衛星は毎年1機分づつ行いたいと思っているので、この機会を大学などが上手につかって日本の宇宙産業を盛り上げていってもらいたい。

田中:文部科学大臣談話(略)。

青江:打ち上げ成功率93.4%、前回までが92.8%四捨五入すれば93で変わらないが、それこそが積み重ねであるということを強く感じた。

寺田:なによりも「いぶき」が無事軌道に乗ったことに感謝したい。地球温暖化問題は非常に科学がベースになっており、データに基づかねばなります。誤りなき環境政策につなげていきたい。

質疑応答
南日本新聞:商業打ち上げ契約直後の打ち上げの感想を。そして今後のビジネスの課題を知りたい。

大宮:まだH-IIAは海外衛星打ち上げの実績はないが、今回の高精度軌道投入でだいぶん弾みがついたのではないかと思う。それでも衛星メーカーでの知名度はまだまだだ。
 附言すると数年前に比べると大きなトラブルなしに上がるようになっており、これは成熟度を示すものだと思う。
 今、円高という問題もあるが、ライバルに対して対抗できる価格で出していきたい。引き合いは多数来ている。

産経新聞:種子島の打ち上げの制限や飛行場の滑走路が短いという問題についてはどう対抗するしていくのか。

立川:まず打ち上げ実績をたくさん作って「既存の打ち上げ期間では足りない」ということにしようとして色々やってきた。
 滑走路については、大型機が着陸できるが転回できないという問題がある。とはいえ、大型衛星は船で運び込むことも可能なので、やりかたは色々あると考えている。

東京新聞:小型衛星の将来をどう考えるか。国際協力や将来ビジネスにするかなど。
立川:将来、衛星の内容によっては有料にしてもいいかとは思う。
大宮:相乗りがうまく成立するようなロケットサイドの工夫をしたい。カスタマーからすると衛星打ち上げ価格が下がるということなので進めていきたい。

中日新聞:国際競争力をどう考えるか
大宮:今の円高では非常にきびしい。コストダウンが必要だが、信頼性を損なってはならない。あるていどまとまった機数が定常的に打ち上げられると計画的な生産ができるのでコストダウンとなる。今後ともがんばっていきたい。

No.1305 :衛星分離
投稿日 2009年1月23日(金)13時14分 投稿者 笹本祐一

いぶき分離成功。
これでロケット側の仕事は成功。

No.1304 :無事に飛行中です ●添付画像ファイル
投稿日 2009年1月23日(金)13時14分 投稿者 松浦晋也

いぶきが無事分離されました。

No.1303 :無事打ち上げられました ●添付画像ファイル
投稿日 2009年1月23日(金)13時11分 投稿者 松浦晋也

 予定時刻に打ち上げられました。

No.1301 :第二段燃焼停止
投稿日 2009年1月23日(金)13時11分 投稿者 笹本祐一

第二段ロケット燃焼停止、間もなく衛星分離。

No.1300 :無事に飛行中です
投稿日 2009年1月23日(金)13時11分 投稿者 松浦晋也

いぶきが無事分離されました。