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No.1542 :観測ロケットS-520-26号機の報道公開 ●添付画像ファイル
投稿日 2011年12月23日(金)20時23分 投稿者 柴田孔明

・2011年12月23日13時から内之浦宇宙空間観測所において観測ロケットS-520-26号機の報道公開がありました。
 打ち上げ予定は2011年12月26日以降となっており、まだ決定されていません。
 打ち上げ時刻は午前5時10分から6時10分までの間となります。

・登壇者
石井 信明 宇宙科学研究所 宇宙航行システム研究系 観測ロケット実験室長
阿部 琢美 宇宙科学研究所 宇宙プラズマ研究系 准教授
(※一部敬称を略させていただきます。また、内容を一部簡略化しています)

石井・機体の報道公開は、本来昨日22日でしたが、午前中の試験で時間がかかった関係で本日まで延期していました。試験は正常に終了し、本日電波テストを行いそれも正常に終了しています。あとは観測条件が満足するのを待ち、打ち上げるのみです。

・配付資料より説明(阿部)
 ・熱圏中性大気とプラズマの結合過程解明(WIND-2キャンペーン)
 (※S-520-23号機に続く第2弾である)
 ・最近の観測ロケットでは微少重力の実験、宇宙テザーの展開実験、超高層大気の研究が行われている。

『なぜ「超高層大気領域の研究」が必要か』(※この資料のみS-310-40と同じ)
・特殊な遷移領域(地球大気と宇宙の境界)
 ・地球大気中で観測データが最も少ない領域。
 (高度250kmより上は衛星が継続的に観測が可能であり、成層圏以下はバルーンによる観測でデータが得られるが、その間は衛星もバルーンも飛べない。観測手段としては観測ロケットに絞られるが、飛翔時間の短さからデータが少ない)
 ・中性大気、電離大気、磁場、電場が共存し、粒子は複雑な運動を行うが理解が不足。
 (特に観測的実証)※オーロラの発生領域。
 ・太陽X線・紫外線の吸収域として重要な役割を果たす。
 ・宇宙ステーションや多くの衛星が飛ぶ飛翔高度で、人類の宇宙進出の最先端。
 ※この高度は以前は未知な部分であったが、宇宙ステーションなどで身近な存在になってきている。人類のフロンティア領域で、ここをもっと知りたい。

・実験の背景(※ここよりS-520-26独自資料)
 ・高度100〜300kmの超高層大気領域には中性大気と電離大気(プラズマ)が共存する。中性大気は電磁気的な力を受けずに運動するのに対し、イオンや電子は磁場により運動方向を制限され、電場により加速を受ける(電子とイオンでは逆方向)。さらに粒子間の衝突があるために各大気粒子の運動はますます複雑になる。
 (※水の詰まったボトルに、浮くものと沈む2種のビーズを入れた例で説明。ビーズが少なくて密度が薄いものはボトルをひっくり返すとすぐ場所が入れ替わるが、ビーズが多くて密度の濃いものは衝突してなかなか入れ替わらない。高度100kmは粒子の衝突が多いが、高い高度では衝突の頻度が少なくなる。その結果、中性大気と電離大気は独立して動こうとする傾向が出る)
 ・中性−電離大気間の衝突や電場を介した運動量の交換は理論的には古くから研究がなされてきたのに対して、観測的な検証は不十分なままである。
 ・中性大気−電離大気間の運動量交換は超高層大気領域の様々な現象を解明する上で重要であるが、キーとなるパラメータが同時かつ直接観測された例はほとんどない。

・実験の目的
 ・本ロケット実験では、熱圏下部においてプラズマ密度とその変動、電場と中性風(大気の運動)の直接観測を実施し、中性大気−電離大気間の運動量輸送の素過程を理解するとともに、熱圏下部に特徴的な現象の生成と発達に与える輸送過程の役割を解明する。

・実験方法
 ・電離大気観測はロケットの上昇時下降時を通じてイオン分析器、インピーダンスプローブ、電場計測器等により行う。
 頂点を通過した後にリチウム蒸気を放出し、その発光領域の時間変化から中性風の速度ベクトルを得る。
 (※4年前のS-520-23号機と同様。そのときは20分程度の発光時間があったが、今回は日の出直前のため背景が明るくなり、発光を観測できる時間が数分と短くなる見込み)
 取得されるデータから、中性大気−電離大気間のエネルギー交換を含む結合過程に関する理解を目指す。

・実験予定日時
 平成23年12月26日以降(未定) 05:10〜06:10(JST)

・打ち上げ条件
 ・本実験で狙う現象は電離圏プラズマの擾乱(密度の粗密)である。地上からの電波観測により、現象の存在を確認する。
 (※この擾乱は殆どいつも起こっている)
 ・リチウムの散乱光を地上からカメラで撮影するため、観測地点において視野方向が晴れている事が条件(地上観測は3点で行う)。
 観測点:内之浦、足摺半島、奄美大島
 (※S-520-23号機の時は5点だった。今回も難易度が高い)
 ・リチウム散乱光観測のため、日の出前かつロケット高度に日照がある事。
 月がカメラの視野方向に無い事。
 (※予定時間には問題ないことを確認済み)

・観測ロケットに搭載される機器、得られる物理量(カッコ内)、主担当機関
 リチウム放出器       (中性大気の風) JAXA、北海道大学、高知工科大
 イオン質量エネルギー分析器 (イオン速度)   カナダ・カルガリー大学
 電場計測器         (電場ベクトル)  富山県立大学
 インピーダンスプローブ   (電子密度)    東北大学
 ラングミューアプローブ   (電子温度・電子密度) JAXA
 ビーコン送信機       (電子密度分布)  京都大学
 磁場計測器          (磁場ベクトル)   東海大学
 太陽センサー        (ロケット姿勢)   東海大学
 
・ロケットの諸元(S-520-26)
 全長8.3メートル
 直径52センチ(520ミリ)
 重量2.2トン
 最高高度285キロメートル
 打ち上げ273秒後に最高高度に到達予定
 (※風や角度でプラスマイナス10〜15キロ程度は変わる)
 リチウムは点火後5秒後くらいに蒸気ガスになって放出する。
 放出時刻は打ち上げ後、1回目406秒、2回目が446秒、3回目が464秒。
 放出高度は同、1回目210キロ、2回目160キロ、3回目130キロ。
 (※最高高度を通過後、降下中に放出)
 固体金属リチウム120グラムを3個搭載。順に発火してゆく。

質疑応答
・読売新聞 打ち上げ時はリチウムは固体で、打ち上げ後に加熱して蒸気にして放出するのか。放出時間は3回とも同じか。
阿部・リチウムの容器にテルミット剤が入っていて、これに点火することで高温になり、リチウムが蒸気化して外に放出される。
石井・放出している時間は3回とも同じ。各10秒位くらいずつ。

・朝日新聞 点火後5秒後くらいに放出が始まり、10秒くらい放出が続くのか。発光の大きさはどれくらいまで広がるか。放出位置は水平距離でどの辺りか。
石井・放出はその通り。
阿部・放出は10秒位だが、リチウムが光っている持続時間はもう少し長い。前回(23号機)は20分くらいだったが、今回は明け方なので数分だろう。
石井・数キロから十数キロまで広がる。ただし大きくなるほど薄くなる。小さいほど濃くて明るい。
阿部・高度が高いと衝突が起きにくいので広がりやすい。低いと衝突が多いので広がりにくい。
石井・内之浦から400〜500kmくらいの距離でリチウムを放出する。着水は600km。時間は約530秒後。

・毎日新聞・赤い花火は3個並んで見えるのか、一旦消えて別々に見えるのか。
阿部・我々が興味があるところで、どのくらい拡散するかによる。大気の密度によるが変動があるため、実際にやってみないと判らない。平均的な中性大気のプロファイルで考えると、1回目と2回目、3回目は殆ど繋がる。ただし隙間が出来る可能性はある。

・4年前の写真は1つだが、連続しているのか、繋がったものか。
阿部・前回(23号機)では、殆どの発光写真は1回目の放出のもの。2回目、3回目の放出は発光が明るくなかった。3回の放出がとれないと、その高度の風の情報が得られないので、今回は全てとれるようにしたい。

・中性大気は地上の大気と同じと思っていいのか。
阿部・そうだが大気密度が違う。

・リチウム放出は中性大気の中でやるのか。電離大気の中ではやらないのか。
阿部・100〜300kmの高度は両方存在する領域である。中性大気は減るが、電離大気は増えるところ。ただし中性大気の方が圧倒的に多い。
石井・リチウムは中性大気を計るもの。電離大気は別の観測機器を積んでいる。
阿部・リチウムはロケットから放出された直後は背景の大気と別の運動をしているが、徐々に馴染んで背景の大気の風と同じように飛ぶようになる。

・リチウムを使う理由は何か。
阿部・リチウムは太陽の光を受けて強く光るため。太陽散乱光で光る物質は他にもあるがリチウムは重量が軽い。それほど高い温度でなくても蒸気化する。取り扱いがマグネシウムなどより簡単である。
石井・高度が上がると空気が薄くなり吹き流しでは動かない。気球・ゾンデも高度40km程度が限界。アルミ箔を撒く、ガソリンなどで白い煙を撒く方法も、高度100km以上では酸素分子が無く難しいため、高度200kmをこえる場所の測定方法が無かった。4年前にリチウムを使う観測装置が開発され、できるようになった。

・発光が見える範囲はどれくらいか。
阿部・前回は大阪辺りでも見えた。今回は3回目の高度が低く、1回目も若干低いがだいたい同じなので、紀伊半島や神戸・大阪付近でも南側が開けた場所で見える可能性がある。

・西日本新聞 今回の観測対象の空間領域はどこか。
阿部・プラズマ観測は最高高度285kmまで行う。中性大気は一回目のリチウム放出高度の210kmより上も拡散によってある程度得られるだろう。ただし高い高度は拡散が速いので光量が減って観測しにくい。280kmまでは難しいだろうが、研究目標達成のためには十分である。

・同 実験機器は8種類だが、実験は大まかに2種類か。
阿部・プラズマを観測するものと中性大気の2つである。

・同 地上の中性大気と電離大気の衝突としてオーロラなどがあるが、他に人類の活動に何か影響があるか。
阿部・電波(電場と磁場変動を伴う)は中性大気と電離大気の衝突が多いか少ないかで影響があるので、一般の社会と結びつけられるだろう。

・同 前回の23号機では十分な情報が得られなかったが、何か改良したか。
阿部・1つは昼間の風を計りたいと思っている。難しく世界的にも数が少ない。今回、日の出前に打ち上げるのは、背景が明るくても風の情報を計測できることを実証したいため。次は昼で実験したい。いきなり昼の実験を行うのはリスクが高いので、まず明け方で確認する。
2つめは、23号機ではイオン質量エネルギー分析器を持たなかったので、イオンの種類が判らなかった。酸素イオン、窒素イオンなど種類ごとに速度情報を得たい。
 (※23号機は熱的イオンエネルギー分析器を搭載)

・不明 中性大気と電離大気の共存でオーロラができるというが、この説明を。
阿部・宇宙空間から高いエネルギーの粒子が入ってくる。これが中性大気とぶつかり、エネルギーを中性大気に渡す。中性大気にとってエネルギーが多すぎるので元に戻ろうとしたとき、エネルギーの放出が光となって見える。条件として、1つめに高いエネルギーの粒子が入ってくること、2つめに中性大気とぶつかる頻度が高いことが必要である。100〜150kmくらいの高度となる。高度がより高いと衝突が起こりにくく、また高度100km以下には粒子が入って来られないのでオーロラは起こらない。
なお、今回のリチウムの発光はオーロラとは理屈が違う。

・NVS・地上観測機器はどのようなものか。
阿部・23号機の時とはカメラのフィルタが違う。昼の観測を考慮し、リチウムの発光(約671ナノメートル)だけを見る特殊なバンドパスフィルタ(前後2ナノメートル位)が必要だった。これを使う事でS/N比の良い画像が得られると思う。

・NVS・明るく光るということでアマチュアの観測があると思うが、こういった報告は必要か。
阿部・観測データは多いほど良い。また、観測点が急に曇るなど、条件によってはデータが得られない可能性もあり、そういったデータも有効となるのでぜひ欲しい。
 (※後述参照)

・不明・リチウムの光は内之浦からはどの程度の大きさで見えるか
・阿部・はっきりは言えないが、ロケットから放出直後は満月より数倍大きい。数分でかなり拡散しているはず。

・アマチュアからは見えたという情報だけでもいいのか。写真や動画が必要になるか。
・阿部・理想としては観測方向の情報が欲しい。欲を言えば星と一緒に写っていれば助かる。動画は概して感度が落ちるので、連続撮影の写真が良い。
 (※質疑応答には出なかったがカメラ搭載のGPSデータも、ある程度有効かもしれない)

・前回4年前の写真は提供してもらえるか。
広報・画像使用の申請をすれば可能です。
 (※前回の写真はISASのHPにもあります http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2007/0902.shtml)

・以上です。


No.1541 :S-520-26の延期
投稿日 2011年12月22日(木)13時43分 投稿者 柴田孔明

内之浦宇宙空間観測所で予定されている観測ロケットS-520-26号機の打ち上げは、12月26日以降に延期されました。
天候判断とのことです。

No.1540 :S-310-40打ち上げ画像3 ●添付画像ファイル
投稿日 2011年12月20日(火)09時09分 投稿者 柴田孔明

打ち上げ写真から多少見えやすいものを選択。


No.1539 :打ち上げの画像 ●添付画像ファイル
投稿日 2011年12月20日(火)05時39分 投稿者 柴田孔明

発射地点であるKSドームを出た直後のS-310-40号機。夜間打ち上げのため、噴射炎の光が強くなっています。速度も速く、あっという間に視界から消えていきました。


No.1538 :S-310-40号機の打ち上げ画像 ●添付画像ファイル
投稿日 2011年12月20日(火)05時26分 投稿者 柴田孔明

S-310-40号機打ち上げの様子。


No.1537 :観測ロケットS-310-40号機実験結果報告 ●添付画像ファイル
投稿日 2011年12月20日(火)05時22分 投稿者 柴田孔明

 2011年12月20日午前1時30分から内之浦宇宙空間観測所において、観測ロケットS-310-40号機実験結果の報告が行われました。打ち上げ日時は2011年12月19日23時48分でした。
(※一部敬称を略させていただきます)

・登壇者 左から
吉田 裕二 宇宙科学研究所 観測ロケット実験室副室長 保安主任
石井 信明 宇宙科学研究所 宇宙航行システム研究系 観測ロケット実験室長
阿部 琢美 宇宙科学研究所 宇宙プラズマ研究系 准教授

配付資料より
・S-310-40号機の実験結果について(速報)
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、夜間中緯度電離圏領域における電波伝搬解析を目的とした観測ロケットS-310-40号機を、平成23年12月19日23時48分00秒(日本標準時)に、内之浦宇宙空間観測所から上下角76度で打ち上げました。
 ロケットの飛翔および搭載された機器の動作は全て正常で、計画通り発射後60秒に開頭が行われ、観測を開始しました。ロケットは、発射61.5秒後にNEIプローブ伸展、62秒後にFBPセンサ伸展、62.5秒後にFLPプローブ伸展、210秒後に最高高度180kmに達し、全ての観測を終え、内之浦南東海上に落下しました。
 中波・長波電波受信機、磁力計、インピーダンスプローブ、高速ラングミューアプローブ、固定バイアスプローブ、地平線センサー等の搭載観測装置は、上昇時下降時を通じて観測を行いました。
 発射から約80秒後に高度103km付近において電子密度の高い領域を観測し、ロケットが予想していた高密度プラズマ領域を通過したことを確認しました。
 光学班は発射後30秒までロケットを追跡しました。
 本日の天候は晴、地上風は北の風3.5m/秒、気温6.7度Cでした。

登壇者から
阿部・こうして実験結果をお伝えできる事を嬉しく思う。S-310-40号機は23時48分に打ち上げられた。打ち上げウインドウは23時から23時50分だったが、電離圏下部の高密度プラズマ層が23時0分には出ていなかったので待っていた。20分から30分が経過し、残り時間が少なくなったが、幸いなことに23時40分の少し前頃から現象が現れ、マイナス5分でホールドしていたカウントダウンを再開し、23時48分に打ち上げた。搭載した6つの測定器は、ロケットの上昇と下降時において全て観測を実行した。ロケットの高度も予測通りで210秒後に最高高度180キロに到達した。
 観測だが、狙っていた高密度プラズマ領域は103キロ付近で電子密度が比較的高いところを確認した。今回の速報値は高密度プラズマ領域の高度のみだが、今後空間的な構造を詳しく解析し現象の発生メカニズムを解明していきたい。

質疑応答
南日本新聞・実験は成功したということか。
阿部・我々が規定していた比較的高い電子密度の領域を無事にロケットが通過したのでほっとしている。(高密度プラズマ領域が)高度103キロ付近というのは意外であった。D領域に発生した高密度プラズマ層が周波数伝搬の異常を引き起こすと推測していたが、高度103キロのE領域だった。昼間はD領域のプラズマが電波の伝搬を妨害しているが、夜間はメカニズムが異なるのだろう。予想した高度よりも高い高度に、高い密度の層があり驚いた。
 E領域は本来電波を反射するものだが、散乱あるいは吸収する方向に働いたのが予想外で、面白い研究ができる。

朝日新聞・これまでE層で高密度プラズマが見つかった例はあるのか。D層とE層の高度は。
阿部・高度100キロ付近のスポラディックE層が有名だが、それは発生メカニズムもある程度判っている。今回のものは恐らくスポラディックE層とは異なるもので、空間スケールがかなり違っている。一番大きな違いは、スポラディックE層は空間スケールが大きくてイオノグラムで見えるのだが、今回のものは地上観測で見えなかった。今回はスポラディックE層よりも空間スケールが小さいものをとらえたと思う。
 高度はD層で60キロ〜90キロ位、E層は90〜140キロ位で、今回のものはE層に入る。これまでE層のものではスポラディックE層を観測しているが、今回のものは空間スケールが小さい、別のタイプの高密度層である。

読売新聞・これまでのものは仮説であったが、今後の解析は。
阿部・これまでのものが間違った固定観念だったかもしれない。昼間の延長線上で考えていた。減衰の原因の可能性はいろいろあるが今回はD層ではなくE層であった。
 ロケット搭載のインピーダンスプローブなどはロケット位置での電子密度を非常に正確に測れる。高密度プラズマ層の厚さも詳しく判る。また、電波を使った解析でより広い空間の密度構造も判る。4方向の電波を受信しているので、方向による密度分布の違いを知る事ができる。またロケット位置以外の電子密度も知る事ができるため、水平方向の広がりも今後の解析で判る。

西日本新聞・ロケットは水平で何キロ付近に飛んだか。飛翔7分のうち有意なデータはどれくらいか。
石井・南東方向220キロ付近。予定より少し遠い。高度183kmの予定が180kmだったため。
阿部・伝え聞いているだけなのでまだ判らない。データを解析すれば判る。テレメータは全て受けている。上りは高度80〜90キロから、下りは高度100キロ程度までデータがとれているはず。

・ロケットの速度はどれくらいか。
・石井・最高で秒速2キロくらい。時速にすると7,000キロくらい。
 
・23時00分では高密度プラズマの現象が出ていなかったのか。
・22時頃から現象は出ていたが、持続時間が短かった。打ち上げまでのカウントダウンである5分間までしっかり減衰が継続しているものを待っていた。

・NVS・今回からアビオニクスが更新されたが、これは今回の実験に必要だったのか。また、動作は正常だったのか。
石井・おかげさまで新型アビオニクスは正常に動作した。速いほど細密なデータがとれる。今まではこれが無かったので、遅いもので我慢していた。


・以上です。


No.1536 :模型の写真 ●添付画像ファイル
投稿日 2011年12月18日(日)21時32分 投稿者 柴田孔明

模型を上から見たところ。電波の方角と角度が理解しやすいようになっている。


No.1535 :説明の様子 ●添付画像ファイル
投稿日 2011年12月18日(日)21時29分 投稿者 柴田孔明

電波の受信状況を模型を使って説明する、阿部琢美准教授。


No.1534 :S−310−40号機の機体公開 ●添付画像ファイル
投稿日 2011年12月18日(日)21時25分 投稿者 柴田孔明

・2011年12月18日13時から内之浦宇宙空間観測所において観測ロケットS-310-40号機の報道公開があり、機体の公開と共に実験の説明が行われました。打ち上げ予定は2011年12月19日23時から23時50分までの間となります。
 今回は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と日本宇宙少年団(YAC)の主催による『宇宙ホンモノ体験「一日宇宙記者」プログラム 内之浦宇宙空間観測所見学ツアー』の参加者(対象:小学5年〜高校3年)が同席していて、質問まで行っていました。

・登壇者
石井 信明 宇宙科学研究所 宇宙航行システム研究系 観測ロケット実験室長
阿部 琢美 宇宙科学研究所 宇宙プラズマ研究系 准教授

配付資料より説明

・夜間中緯度電離圏領域における電波伝搬解析SPIDER(SPoradic layer in the Ionospheric D or E Region)キャンペーン
・最近の観測ロケットでは微少重力の実験、宇宙テザーの展開実験、超高層大気の研究が行われている。

・『なぜ「超高層大気領域の研究」が必要か』
・特殊な遷移領域(地球大気と宇宙の境界)
 ・地球大気中で観測データが最も少ない領域。
 (高度250kmより上は衛星が継続的に観測が可能であり、成層圏以下はバルーンによる観測でデータが得られるが、その間は衛星もバルーンも飛べない。観測手段としては観測ロケットに絞られるが、飛翔時間の短さからデータが少ない)
 ・中性大気、電離大気、磁場、電場が共存し、粒子は複雑な運動を行うが理解が不足。
 (特に観測的実証)
 ・太陽X線・紫外線の吸収域として重要な役割を果たす。
 ・宇宙ステーションや多くの衛星が飛ぶ飛翔高度で、人類の宇宙進出の最先端。

・実験の背景
 ・高度60〜90kmは電離圏D領域と呼ばれ、日中は電子密度が高いが、夜間は電離過程が衰退し消滅すると考えられている。このため、ラジオ等で用いられる中波帯電波は上層のE領域に伝搬した後に反射され遠距離伝搬が可能になる。しかし夜間にD層もしくはE層高度(90〜130km)に突発的に高密度プラズマ領域が発生して電波を吸収あるいは散乱し、遠距離伝搬を妨げる場合のあることが最近報告されている。
 (※中波ラジオは、日中は近くの放送局しか聞こえないが、夜間は遠くの放送局が届く。しかし夜間の遠距離からの電波が弱くなり聞こえなくなる現象が実感としてあった。夜間にD層と似たようなプラズマが発生して電波の伝搬が妨げられているか、あるいはE層に予想外の高密度プラズマが現れ電波の散乱が起こりやすくなった可能性がある)
 ・この突発的な高密度プラズマの発生メカニズムはよくわかっていない。電波伝搬の異常が見られる時、スポラディックE層は発生していない事から、高電子密度領域は大規模スケールではなく限定的であると考えられる。

・実験の目的
 ・本実験の目的は電子密度の空間分布を立体的に測定し、夜間電離圏プラズマ密度構造と電波伝搬の関係について理解を深め、高密度プラズマ領域の発生メカニズムを解明することにある。
 ・これによって、電離圏電子密度に関する理解が進み、電離圏の電波利用に関する信頼性が向上する事が期待される。

・実験方法
 ・本実験では地上局から送信された中波帯電波をロケット搭載機器で受信し電子密度の空間分布を推定するとともに、ロケット位置で電子密度と温度を測定し、高密度領域の発生メカニズムを探る。

・実験予定日時
 平成23年12月19日 23:00〜23:50(JST)
・打ち上げ条件
 本実験は、電離圏中の電波伝搬異常現象の解明を目的とするものであるため、地上から電波受信強度をモニターし、現象が発生していることを確認した後にロケットの打ち上げを行う。
 タイムスケジュール開始時刻頃よりモニターを始め、打ち上げ予定時刻直前に現象が発生していればGO、発生していなければ現象の出現を待って打ち上げの判断を行う。

・観測ロケットに搭載される機器、得られる物理量(カッコ内)、主担当機関
 中波帯・長波帯電波受信機 (電子密度分布) 主担当機関 富山県立大学
 インピーダンスプローブ   (電子密度)   同 東北大学
 ラングミューアプローブ   (電子温度・電子密度) 同 JAXA
 固定バイアスプローブ   (電子密度擾乱)  同 JAXA
 磁場計測器       (磁場3成分)   同 JAXA
 地平線センサー     (ロケット姿勢)   同 JAXA
 (※今回のメイン観測機器としてあげるとすれば中波帯・長波帯電波受信機となる。4つの波長の電波を受信。NHK大阪、NHK熊本、標準電波、南大東島からの400kHz帯の電波を受信。内之浦から見て北、東、南からの情報が得られる)
 
・ロケットの諸元(S-310-40)
 全長7.4メートル(※ノーズコーン部分の長さが各号機で少し違う)
 直径31センチ(310ミリ)
 重量727キログラム
 打ち上げ210秒後に高度183kmに到達する。(※風や角度で10キロ程度は変わる)
 420秒(約7分)で着水予定。
 ※23時打ち上げ予定だが、実験に必要な現象の発生が必要なため、5分前でホールドをかけて条件判断する。条件が発生していれば23時に打ち上げる。条件を満足しない場合待機し、確認できてから5分後に打ち上げる。寒い中で申し訳ないが最大で約50分のホールド待ちがあるかもしれない。決定から5分後の打ち上げのため、もし23時45分頃に条件を満足しない場合は時間切れで延期となる。

質疑応答
西日本新聞・実際の観測時間はどれくらいか。また、ラジオ以外の例での実例は何か。
石井・7分のうち、打ち上げ後1分で100キロ以上に到達、5分で観測、1分で100キロ以下に降下の予定。(※上昇中からデータ取得を行っている)
阿部・発端は中波ラジオ放送だが、現象として見た場合は波長は関係ない。プラズマの密度・プロファイルはよく判っていない。カーナビの測位は電離圏の状態を想定で行っているが、実際には想定からのずれが起こっている。全ての宇宙での現象に影響を与えている。中波ラジオが混信することによる影響は限定的だが、電離圏を利用した技術に影響を与えるため解明が必要。

西日本新聞・GPS等、電波を利用するもの全てに影響があり得るということか。
阿部・ある周波数に影響を与えやすいというものはあるが、程度の差はあれ広く影響がある。

NVS・プラズマ領域(D層)のスポットの大きさは判っていないのか。
阿部・判っていない。推測だが数十分のオーダーで強弱があるならば濃いところと薄いところがあるはず。仮に100m/sで動いているとすると大雑把に60キロぐらいの空間スケールが推定される。

NVS・この現象は地域や緯度に関係するか。
阿部・この現象に関する文献をあたったところ、ゼロではないが殆ど無い。しかし日本(中緯度)でラジオを聞いていた人は経験があるため、中緯度では頻繁に起こっていると思われる。

NVS・発生確率はどの程度か。
阿部・ここ数日(木曜、金曜、土曜)では出ている。昨日は長時間だった。

一日宇宙記者・この実験で解明したものが役立つか。
阿部・具体的にいつとはいうのは難しいが、現象の発生メカニズム(因果関係)が判ると、この頃は聞こえなくなる/大丈夫という予報が出せる。1年から2年くらいで結果を出したい。

朝日新聞・今回遅れた理由。実験の費用。初飛行から何十年も経過した枯れたロケットだが今後は。
石井・遅れたのは次に打ち上げるS−520−26号機です(今夏の予定だった)。S−310−40は予定通り。ただし計画当初では2010年だったので1年遅れでもある。昨年の時点で打ち上げ不可能と判っていたので、今年度としている。
 今回のロケットからアビオニクスが更新され、テレメトリなどのデータ伝送が(4倍程度)速くなっている。3年前から研究開発を始め、2010年の打ち上げ予定だったが、高速通信のデータ処理がトラブルを出して1年遅れている。S−520−26の今夏の延期もこれが原因。
 (※ただしS−520−26の12月22日から24日への打ち上げ日延期は天候が原因)
 今回は更新されたアビオニクスの飛行実験・実証も含まれる。
 10年以上同じ推進薬だが、新しい推進薬(性能、環境に配慮など)も考えている。
 S−310−40は打ち上げ費用を入れずに2億円(ロケット本体と相模原での試験)。S−520−26は3.5億円。

・はやぶさ2の予算が削減されたがこちらはどうか。
石井・ありました。これまで1機ずつ離して打ち上げていたが、1シーズンで2機まとめて効率的に打ち上げている。ただしロケットがまだ高価なのでまだ限定的。
 新しい通信装置も、これまで多かった機器を集約してひとつの機械で行えるものにした。ただしその1つが壊れると致命的なので、1年開発を延ばして確認した。ただしこれらは予算削減がなくても大事な技術である。

・今回の実験内容の分担は、JAXA以外は公募かそれともJAXAで選定したのか。
石井・ひとつの実験の中に多くの大学が入っている。JAXAで公募した際、グループとして1つの提案をしてきた。JAXAは提案から意義や時期などを見て採択した。S−310はひとつだが、S−520は大きいので2つの提案者からの実験が入ることもある。

・打ち上げ後の結果説明は、順調ならばいつ頃になるか。
石井・今回の打ち上げは23〜24時頃だが、データを整理してから速報を作るため、2時間ほど後になると思う。

読売新聞・新しい通信装置にバックアップ(冗長系)はあるのか。
石井・テレメーターのバックアップは無い。もし送信機から電波が出せない場合は全てのデータをとれなくなるが、地上試験で動作を確認している。今後のロケット(S−310、S−520)は、コスト低減のため全てこれになる予定。標準化された機器となるため、研究者への貸し出しも簡単になる。

・送信機で参考にした規格はあるか。
RS422やスペースワイヤ(SpaceWire)など通信のプロトコルは参考にしている。ただしスペースワイヤは衛星の開発者にとっては良いが、観測ロケットのような規模にとっては価格が高く手が届かないので廉価版の規格を作った。

・来年で内之浦50年だが、何か感想は。糸川先生については。
石井・私も50歳ちょっとだが、小学生の頃に体験したことが後々残って大事。小学5年生の頃に日本初の衛星おおすみが上がり、アポロも前年に月に行って、世界も日本も宇宙開発の頂点に達していた。宇宙やロケットの興味が出た。半世紀も一緒にいたため、生き方が重なって感慨深い。しかし50年前の技術は通用しない。夏に打ち上げ予定だったものが直前に延期するほどハードルの高い新しいロケットが実を結ぶ。外観は変わらないが中身の違う新しいロケットの成果が出るため、ロケット屋として期待と希望をもっている。
 私は糸川先生には会っていないので直接の思い出が無いが、糸川先生の弟子にあたる先生は所長までやっているのに意地が悪く口が悪いので、どういった怒られ方をして育ったのか判らないが、そういう世界だったかなと思われる(笑)。

・どういった電波で判断するのか。
石井・熊本NHK第2を内之浦で受信し、判断する。周波数が高いほど情報量が多い訳ではなく、擾乱を起こしやすいものとそうでないものがある。伝搬の擾乱が起こりやすい電波がモニタされることになる。

NVS・プラズマの発生でスポラディックE層などは夏期に多いが、今回のものは今頃なのか。
阿部・年間でどの時期に多いというデータがまだ無いが、データが多いのは11月から12月にかけての冬期。

石井・S−520−26号機は天候判断のため12月22日から12月24日に延期した。

以上です。


No.1533 :打ち上げ風景 ●添付画像ファイル
投稿日 2011年12月12日(月)14時35分 投稿者 柴田孔明

打ち上げ時の天候は晴れでした。
今回のH-IIAロケット20号機の主な取材は以上です。


No.1532 :上昇するH-IIA F20 ●添付画像ファイル
投稿日 2011年12月12日(月)14時31分 投稿者 柴田孔明

上昇する20号機。この成功により確率95%を達成しています。


No.1531 :H-IIA F20 打ち上げ経過記者会見 ●添付画像ファイル
投稿日 2011年12月12日(月)14時25分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット20号機、情報収集衛星レーダー3号機打ち上げ経過記者会見
2011年12月12日12時より
(※内容を一部簡略化させていただきます。また敬称も一部略させていただきました)

登壇者
内閣衛星情報センター所長 椋木 功
文部科学省審議官 加藤 善一
宇宙航空研究開発機構 副理事長 樋口 清司
三菱重工業株式会社 宇宙事業部長 淺田 正一郎

・打ち上げ結果の報告(資料読み上げ)
・淺田 三菱重工業株式会社および宇宙航空研究開発機構は、平成23年12月12日10時21分(日本標準時)に、種子島宇宙センターから情報収集衛星レーダー3号機を搭載したH-IIAロケット20号機(H-IIA・F20)を打ち上げました。ロケットは正常に飛行し、情報収集衛星レーダー3号機を分離した事を確認しました。
 今回のH-IIA・F20打ち上げ実施にご協力頂きました関係各方面に深甚の謝意を表します。
 なお、ロケット打ち上げ時の天候は晴れ、北の風(3.7m/s)、気温14.3度Cでした。

 今回は記念すべき20号機の打ち上げということで皆様にご支援いただき、無事成功したことを感謝致します。

・登壇者の挨拶

・椋木所長 本日、種子島宇宙センターから、H-IIAロケット20号機が打ち上げられ、搭載していた情報収集衛星レーダー3号機を所定の軌道に投入できた。今回の打ち上げ成功により、これまで欠けていたレーダー衛星の運用が実施できるようになり、夜間や曇天等でも撮像が可能となる。来年度には4号機の打ち上げを計画しており、我々としては情報収集衛星の4機態勢の早期確立に向けて今後も着実に取り組んでいきたいと思っている。
 引き続き情報収集衛星の運用を通じて我が国の平和と安全の確保に必要な情報収集機能の強化に取り組んでいく。

・加藤審議官
(※中川文部科学大臣の談話の読み上げ)
 『本日、H-IIAロケット20号機が打ち上げられ、搭載していた情報収集衛星レーダ3号機が所定の軌道に投入されたことを確認しました。今後、衛星の運用が順調に行われ、情報収集における所期の目的が達成されることを期待しています。
 今回H-IIAロケットが14機連続での打ち上げ成功を達成したことは、我が国の基幹ロケットが世界最高水準の信頼性の確立に向けて、確かな歩みを進めていることの証しです。
 今後、我が国の基幹ロケットが、国民生活の向上や国際貢献、人類の夢の実現などに向けた宇宙開発利用を支え、国際市場で活躍していくことを期待して、私としても、それらの実現に向けた環境整備等を図ってまいります』

・樋口副理事長
 ロケットが一人前になるのに95%の実績が必要。6号機の失敗から20号機まで連続して成功させるため、関係企業・機関の方と協力し、やっと20号機まできた。最近成功が続いているのでもういいだろうと言う人もいるが、宇宙はリスクが多く油断ができないリスキーな事業であると考えてずっとやってきた。20号機まで来てほっとしており嬉しく思う。関係者の皆様にお礼を申し上げたい。


・質疑応答
南日本新聞 初号機から10年、20号機で95%を達成した総括、展望、課題など。
淺田・6号機の失敗により、13回連続して成功しないと世界一流レベルにはなれないということで遠い目標に感じていたが、今実現したことで大変嬉しく思う。
 H-IIロケットまでは10機を越えていない。(H-IIAが)10機を越えた時点で、これでやっと運用できるロケットになったと思った。そして20号機ということで、やっと世界に肩を並べる所に来た。
関係省庁の指導と関係企業の努力によって連続成功が成し遂げられた。しかし今日も安心はしておらず心配している。そういった気持ちを忘れないようにしたい。
 今後の展望として、13機の打ち上げに連続して成功したが、かなり人に依存している。今後10年で引退する人がいるため、若い人につないでいかなければならない。信頼度のためなるべく機体は設計変更はしたくないが、人は変わっていく。今後10年間を成功し続けていくためには、国際的な競争力を持つ、新しいロケットの開発を経験させ、技術者を維持していきたい。
樋口・今の技術が山を越えて、きちんとロケットを打ち上げられるようになった。成功し続ける難しさもある。失敗の原因は判るが、成功の因果関係がつかみにくい。これについて極めていく必要がある。技術は陳腐化するので次の世代の輸送技術を提案し了解を得て、開発できるようにしたい。

NHK・情報収集衛星の効果、透明性など、国民に予算を納得させるには。解像度を下げるなど工夫して公開できないのか。また、成功確率95%を達成したが、海外からの受注は来年の韓国の衛星1機だけで他にない。課題と対策は何か。
椋木・情報収集衛星の有効活用では、今年発生した東日本大震災で画像を分析して官邸や関係省庁に情報として提供している。内閣情報調査室では画像だけでなくその他情報を含め総合的に分析した被災状況推定地図を作成し、関係省庁および現地の自治体で広く活用している。
 画像は公開されていないが、我が国の安全保障に関わるためご理解いただきたい。衛星の性能は分解能だけでなく軌道や運用もあるので、解像度を下げるだけでは公開できない。
淺田・外国の衛星打ち上げがとれていない。外国の衛星には2種類あり、観測衛星など政府によるものと、通信などの商用衛星がある。
 三つある打ち上げ制約のうち、打ち上げ期間は文部科学省の努力で解消している。残る問題として、近年の通信衛星はかなり重くなってH-IIAでは市場をカバーできなくなっている。その対策として2段目の能力を上げ、なるべくニーズに応えられるように改良したい。抜本的な解決には世界市場に対応したロケットが必要。観測衛星は国内の政府衛星との相乗りなどで対応していきたい。頭が痛いのは円高で、コストダウンが追いつかない。単独ではなく、衛星の調達から運用までをパッケージとして新興国に提案したい。

読売新聞・国際的な市場に勝てる新しいロケットとは、どのような設計思想になるか。
樋口・検討の範囲としては二つの方向がある。有人も打てるものと、コストが安く簡単に宇宙にアクセスできるものがあるが、できればこれを1つの構想に盛り込んだものを検討したい。まだ具体的に話ができる状況ではない。

朝日新聞・人材育成のための次世代ロケットとのことだが、政府としてはどう考えるか。
加藤・14機連続成功で世界レベルになった。今回の成功を契機に我が国の基幹ロケットが国際市場で活躍すると期待するが、さらなる機能強化として2段目エンジンの改良を計画し、今年度は予算として14億円を計上している。H2A/Bの後継機についての具体的な計画はまだないが、将来のニーズを踏まえながら検討し、技術開発を継続していく事が必要。


・技術関係ブリーフィング
(※実質的な記者会見第二部に相当します)

・登壇者
内閣衛星情報センター 大島調査官
文部科学省 加藤審議官
宇宙航空研究開発機構 川上射場技術開発室長
三菱重工業株式会社 並河グループ長

・質疑応答
NHK・今回はレーダー衛星3号だが、レーダーの1号と2号は数年で故障している。対応は行ったのか。
大島・センターとして原因究明を行い、対策を行っている。

毎日新聞・打ち上げ期間の制約が無くなっているが、海外の実績に対してまだ少ない。また、打ち上げ回数の増減の影響はあるか。
並河・信頼性確保の観点から年間4機が最適と考えるが、打ち上げが減ると技術の伝承や技術維持といった面で懸念がある。
川上・以前は筑波等から出張で応援を受けていたが、最近は種子島のメンバー中心で行っている。打ち上げが減ると維持が大変なので年4機程度が望ましい。

朝日新聞・技術の伝承と人材育成についての懸念は、時間が経過してから現れるものだが、今どうなっているか。情報収集衛星は開発時点の商業衛星の性能が目標だったが、安全保障に関して十分なのか。能力が足り無くはないのか。
並河・技術の伝承、人材育成では危機感がある。打ち上げは毎号成功しなければならないので想定した訓練をしているが、実際に発生した不適合に勝る教育は無い。しかし実際の機体で訓練をするのは困難であり、新規開発による経験が人材育成には必要である。
大島・光学衛星2機とレーダー衛星2機で地球上の特定の地点を1日1回以上撮像する態勢をとって情報収集を行う形になっているが、打ち上げ失敗と衛星のトラブルで達成されていない。我々としては光学衛星3機を活用し情報収集を行っている。当時の商業衛星を開発の指標としているが、宇宙基本法に基づく宇宙基本計画において、情報の質と量の向上を図っていくべきであると謳っている。その中でも商業衛星の性能を凌駕するものを開発していくべきとしており、それに沿って我々も鋭意開発を進めている。

NHK・打ち上げが続いて技術が確立していくが、その先の一般への応用やフィードバックは何かあるか。
並河・極低温の推進薬を取り扱う技術が一般で利用できるようなものなど、技術の活用の場があると考える。

南日本新聞・ロケットの2段目の改良について具体的に。
並河・現在は分離してから軌道まで衛星側で行っている部分を、ロケット側で所定の軌道により近づけた形で投入が行えるものを考えている。

以上です。


No.1530 :H-IIA F20打ち上げ ●添付画像ファイル
投稿日 2011年12月12日(月)10時19分 投稿者 柴田孔明

2011年12月12日午前10時21分、H-IIAロケット20号機が打ち上げられ、衛星の分離まで確認されました。


No.1529 :H2Aロケット20号機の射点移動 ●添付画像ファイル
投稿日 2011年12月11日(日)22時01分 投稿者 柴田孔明

 本日22時からH-IIAロケット20号機の射点移動が行われました。先にプレスブリーフィングで発表された通り、202型の4Sフェアリングという構成となっています。
 ロケットは約20分で射点に到着し、打ち上げに向けた準備が進められることになります。

 なお、1段目と2段目の間に黒い段間部と呼ばれる部分があります。通常ならばここにミッションマークなどが入りますが、今回は何もありません。

 また、H-IIAロケット7号機やH-IIBロケット初号機では段間部が白く塗装されていました。これはロケットが飛行する際、基準より熱くなると予想される場合に行われるとのこと。
 飛行中は大気との摩擦により温度が上がっていく訳ですが、それを防止する訳ではなく、地上での待機中に温度が上昇しないようにするためとのこと。つまり温度上昇の開始点を低くする目的です。
 目標とする軌道によっては大気圏内の飛行が長くなる場合があり、そういった場合に基準となる温度をこえてしまう可能性があるようです。基準は判りませんが、通常ならば200度Cはこえないとのこと。また、より厳しい条件のフェアリングとは違い、特殊な塗料ではないと聞いています。
 H-IIB初号機の場合はデータが無く、基準を安全側に設定したため白く塗っていたが、データがとれたため2号機からは塗装無しになっています。塗装するだけでも手間と重量が増えるためで、通常は素材の色そのままとなります。H-IIAについても既にデータがとれているため、今後は塗装することもあまり無いと思われます。やるとしたら新型になるでしょう。
 なお、ミッションマークなどのイラストは特殊な素材などではないのですが、剥がれ落ちないものを使っているとのこと。


No.1528 :打ち上げ前ブリーフィング
投稿日 2011年12月10日(土)14時25分 投稿者 柴田孔明

2011年12月10日 14時〜 打ち上げ前ブリーフィング

・本日14時からH-IIAロケット20号機打ち上げ前(Yマイナス1)ブリーフィングが行われた。
(※敬称を略させていただきます)

・登壇者
三菱重工業株式会社 MILSETグループ長 並河 達夫
宇宙航空研究開発機構 射場技術開発室長 川上 道生

・概要と準備状況 並河

打ち上げ日   平成23年12月12日
 打ち上げ時間帯 10時21分〜10時35分(JST)
 予備期間    平成23年12月13日〜平成24年1月9日
 H-IIAロケット202型(4S型フェアリング)を使用します。

・作業実績と今後の作業予定
12月7日 Y−3作業(実績) 1/2段推進系・電気系点検作業
12月8日 Y−2作業(実績) 火工品結線、2段ガスジェット推進薬充填
12月9日 Y−1作業(実績) 電波系点検、推進系最終クローズアウト、機構系/アンビリカル離脱系最終準備、射点/貯蔵所系設備準備
12月10日 Y−1作業(実施中) 機体アーミング
12月11日〜12日 Y−0作業(予定) 機体移動、射点設備系最終準備、ターミナルカウントダウン

天候は12日に向けて回復傾向である。


・質疑応答

NHK・準備状況としては「発射整備作業」を行っているのか。
並河・その通りである。(※「発射整備作業」はY−3からY−0までの総称である)

毎日新聞・機体の準備作業はいつ頃行われたのか。打ち上げに向けた今の心境は。
並河・第1段・第2段起立とSRB結合は11月初旬(10日間程度の作業)、機能点検が11月中旬、衛星フェアリング搭載作業が11月から12月にかけて実施している。発射整備作業は12月7日から開始した。
 心境については、天候不良で1日の延期があったが、気象情報では打ち上げ日には晴れが予想され、また青空に打ち上がるのではないかと思っている。この20号機が今年最後の打ち上げであり、打ち上げ成功確率95%以上を達成するための節目である。今年は大規模災害等で暗い雰囲気であったが、日本の技術力の高さを示すことで、日本国民の方々に希望を抱いていただけることが達成できれば良いと思っている。

・95%という数値は、どういった意義か。
並河・輸送系のロケットの世界では、打ち上げ確率95%が一つの目安であり目標である。これを糧に今後も成功を継続し、日本のロケットを使ってもらうことに結びつけられればと思っている。

読売新聞・95%という数値について、例えば3機しか実績が無く全部成功しているロケットの評価とはどう違うか。何回位で実績として認められるか。
並河・それは実績があると認められる回数には達していないと考えられる。実績があるという評価の回数については相手によって変わる。

以上です。