宇宙作家クラブ
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No.1334 :打ち上げ隊の人数
投稿日 2009年9月9日(水)19時06分 投稿者 松浦晋也

打ち上げ隊の人数の詳細が出ました。

総数570名
JAXAが90名、JAXA関連メーカーが160名、三菱重工業が250名、同社関連メーカーが70名。 ただし、総務や渉外、広報は、通常業務の範囲内としてカウントしていない。



参考としてH-IIA15号機の場合。
JAXAが55名、JAXA関連メーカーが150名、三菱重工業が210名、同社関連メーカーが70名。

No.1333 :HTVの将来構想 ●添付画像ファイル
投稿日 2009年9月9日(水)18時59分 投稿者 松浦晋也

 今日の記者会見のJAXA資料に掲載されていた、HTVの将来構想です。今後どうするかはかなりの興味を集めていました。虎野プロマネによると、非与圧部に再突入カプセルを装着して人を乗せる構想などを、筑波宇宙センターの若手が検討しているとのこと。


No.1332 :ミッションマーク ●添付画像ファイル
投稿日 2009年9月9日(水)18時47分 投稿者 松浦晋也

 今回の打ち上げのミッションマークです。撮影;柴田孔明


No.1331 :H-IIB模型 ●添付画像ファイル
投稿日 2009年9月9日(水)18時45分 投稿者 松浦晋也

 記者会見場においてあったH-IIB模型です。撮影:柴田孔明


No.1330 :HTV与圧部い搭載した物資リスト ●添付画像ファイル
投稿日 2009年9月9日(水)18時41分 投稿者 松浦晋也

 HTVの搭載物資リストです。船外部には実験装置2基、NASAのHERP(海洋と大気の観測センサー)と、JAXAのSMILES(大気中の微粒子の3次元分布を計測するセンサー)を搭載します。


No.1329 :打ち上げシーケンス ●添付画像ファイル
投稿日 2009年9月9日(水)18時35分 投稿者 松浦晋也

 打ち上げシーケンスです。


No.1328 :打ち上げ当日のカウントダウン作業のスケジュール ●添付画像ファイル
投稿日 2009年9月9日(水)18時34分 投稿者 松浦晋也

 打ち上げ当日のカウントダウン作業、スケジュールです。


No.1327 :ロケット系作業実績 ●添付画像ファイル
投稿日 2009年9月9日(水)18時33分 投稿者 松浦晋也

 H-IIBロケット、打ち上げ準備作業の作業実績です。


No.1326 :H-IIB試験機1号機のここまでのスケジュール ●添付画像ファイル
投稿日 2009年9月9日(水)18時30分 投稿者 松浦晋也

 今回、資料がまとまって出てきたので、デジカメ撮影の画像をどんどん貼っていきます。その方が早いので。


No.1325 :Y-1ブリーフィング ●添付画像ファイル
投稿日 2009年9月9日(水)18時18分 投稿者 松浦晋也

 これより、H-IIB試験機1号機、HTV-1号機打ち上げの実況を開始します。

 9日午後3時半からの記者会見(Y-1ブリーフィング)の様子です。

出席者は、虎野吉彦HTVプロジェクト・マネージャー、中村富久H-IIBプロジェクト・マネージャー、西田隆JAXA企画管理主任。司会は大木田JAXA広報。

 写真はHTVの現状を解説する虎野プロマネ。

 中村プロマネより説明。

 今年2月19日から射場作業を開始。4/2、4/22にCFT、7/11に発射リハーサル(GTV)をそれぞれ実施、8/12にフェアリング分離放擲試験を実施して、すべての開発作業を終了。8/17に開発完了審査を実施。

 打ち上げは午前2時01分46秒。

 現時点まで準備作業は順調。

 最新の国際宇宙ステーションの軌道要素を使った計算結果に基づき、HTVの分離は打ち上げ後15分6秒になった。配付資料と少々異なるので注意のこと。


 虎野プロマネより、HTVの説明。

HTVの意義。
ISSへの貨物運搬義務の履行。
国家基幹技術の一つである宇宙輸送システムである、軌道間輸送技術の確立。
有人システムに要求される信頼性と安全性の技術を取得。


HTVの能力
 物資6t、船内物資4.5tと船外1.5t。ただし今回の技術実証機は、軌道上で技術実証を行うので、余分のバッテリーと推進剤を搭載している。その結果船内物資3.6tと船外物資0.9tと搭載物資を減らしている。

 運用形態。H-IIBで打ち上げ。分離後GPS信号と米TDRS経由の通信を使用してISSとランデブー、近づくとISSとの通信を確立して接近、ISSの地球側10mの位置に相対静止。ロボットアームで捕まえてISSとドッキング。


西田主任から気象情報。
 台風が去り西高東低の気圧配置となっている。南北に前線ができやすい状況だ。10日夜から11日早朝まで雨が降りやすい。打ち上げ時間帯に急激な天気の変化がある可能性が出ており、注目している。本日夕方にもう一度天候判断を実施する。


以下質疑応答

鹿児島テレビ 両プロマネに今の心境と心意気を。

中村:緊張している。H-IIBはこれまで開発してきた技術を取り入れた機体。これまでの技術開発が正しかったということを、H-IIBの成功により実証したい。

虎野:HTVは、JAXAとしては新しい技術を使って開発している機体。難しい技術だが、いやというほど地上試験を実施してきた。だから自信があるといえばある。しかし本番は何が起きるか分からないものだ。2000本近い様々な状況を想定したシナリオを用意して、十分な訓練を実施した。

西日本新聞;HTVは、今後どのようにして有人宇宙飛行船につながっていくのか。

虎野:HTVはISSに接近ランデブーするために、NASAの基準を満たしている。ランデブー系は三重、それ以外は二重の冗長系を組んでいる。しかし人間を生かしておくシステムは積んでいない。それらを開発していかなければ本当の有人宇宙船にはならない。

共同通信:具体的にどのような気象データが出ると、延期ということになるのか。

西田:気圧の谷ができるのかできないのか、というところが、ウチの予報士が悩んでいるところ。気圧の谷ができると、局地的な雨が降る。雨の降り方に注目している。試験機ということもあってなるべく雨にさらしたくないと考えている。延期の判断を下した時点で、推進剤を充填しているかどうかで延期の長さは変わってくる。

日刊工業新聞:推進剤の充填でどの程度の延期期間は変わるのか。

中村:推進剤充填前ならロケットは1日か2日、推進剤充填が始まっていると中2日の延期となる。

虎野:HTVは延期の場合はバッテリーの補充電が必要となる。あまり日付がずれるとプログレスやソユーズのドッキングなどが入ってくるので、国際的な日程調整が必要になることもある。

時事通信:打ち上げ隊の人数は。また第1段の大型化で変わったことはないか、

西田:総数570名、H-IIA15号機は485人。JAXA打ち上げ隊は130人、うち種子島には90人が入っている。関連メーカーは190名。三菱重工は250名。三菱関連メーカーが70名。

中村:推進剤充填にかかる時間はH-IIAと同じぐらい。第1段の容量が1.7倍になっているが、推進剤充填にかかる時間は長くなってはいない。打ち上げ時の風速制限は若干H-IIBと異なるが、それ以外はの条件はH-IIAと同じ。

時事通信:海外パートナーからの見学者はあるか。

虎野:NASAの局長やプロマネ、ESAのプロマネなどが来島する予定。ISSの6人体制に伴い物資消費量が増えているので、HTVによる輸送への注目度は上がっている。

産経新聞:アメリカや韓国でフェアリングによる失敗が起きているが、H-IIBのフェアリングは何か開発が難しいことはなかったか。

中村:フェアリングは打ち上げ時にかかる荷重に耐え、なおかつきちんと開かなくてはならないかなり難しい部位である。H-IIAのフェアリングよりも長さが3m長くなった関係で、かかる荷重が1.5倍になった。そのため力の流れ方の解析技術が不足していて、実際に試験をしたら一部が壊れるということも起きた。最後に飛行時荷重の1.25倍の荷重をかけて試験を実施した。分離機構はH-II以来使ってきたものなので、十分信頼性は高いと思う。

東京新聞:NASAの専門家委員会がISSの運用延長を勧告したが、これによりHTVの重要性は増すのか。また打ち上げ機数は増えるのか。

虎野:それは私が判断すべきことではない。国際間の調整による、物資輸送の分担如何でで決まることだろう。

BS日テレ:成功することによる今後の宇宙開発にもっとも大きなインパクトはなにか。

虎野:逆に失敗すると、ISS維持の物資輸送の一角が崩れるので、今後の予定通りのISSの運用のためには成功は必須となる。

中村:国内外で大変期待されているので、我々はそれを十分認識して打ち上げ作業を進めている。H-IIBは日本のロケット技術の集大成なので是非成功させて日本のロケット技術の優秀性を示したい。

NHK;天候の件について。雨の予想が打ち上げ条件の15mm以下でも延期にする可能性はあるのか。

西田:雨の降り方による。短時間にだあっと降る場合もありうるので、総合的な判断を行う。

西日本新聞:1日ずれると打ち上げ時間はどれだけ変わるのか。

西田:1日ずれると24分ほど打ち上げ時刻が早まる。


読売新聞:HTVのドッキングと離脱の日時は?

虎野:現状では9月18日の午前4時50分にロボットアームに使い捕捉、午前7時50分にISSと結合。離脱は、ハッチクローズが11月1日、翌日に離脱。時刻はまだ決まっていない。

以上です。



No.1324 :最悪の選択
投稿日 2009年3月13日(金)12時57分 投稿者 笹本祐一

 では、なぜ日本人が独自の技術を使って月に行かなければならないのか。
 実は、今回の提言でもっとも欠けているのがこれに関する説明である。
 時期尚早の一言で片付けてきた有人宇宙飛行がなぜ今になって突然提案されたのか。それも、有人宇宙飛行の提案だけではなく、月探査とセットなのはなぜか。
 この場合の目標は、日本人の有人飛行の実現なのか。
 単に日本人宇宙飛行士の実現というならば、すでに秋山飛行士がソユーズで世界最初の宇宙ジャーナリストとして飛んでおり、スペースシャトルに何人もの日本人宇宙飛行士が乗っている現在、意味はない。
 日本独自の、というからには、国産ロケットで、国産宇宙船で有人飛行を達成する必要がある。
 その先、月面を目指すというならば、戦略本部ははっきりとその意義を説明しなければならない。
 月は、すでに中国が目標であることを公言しており、アメリカも火星行きが月への復帰とトーンダウンして次のレースのゴールであることを明確にしている。同じ土俵に乗って戦うならば、勝てる規模の予算を注ぎ込まなければ勝てないし、負けがわかっている計画ならば予算を組む必要すらない。
 月面探査に科学的意義を見いだすのであれば、有人月探査を行うことによって得られる科学的知見が無人探査のそれをはるかに上回るであろうことを説明しなければならない。
 ASIMOによる月面探査は、毛利衛飛行士によって宇宙開発戦略調査会によって説明され、松本零士をはじめとする委員に好評だったという。しかし、もし人型ロボットによる探査によって得られる知見が有人探査と同様のものなら、その後の有人探査は必要ないことになる。

 日本はこれまで、国威発揚のための有人宇宙開発を行ってこなかった。これは、政治的に日本には有人宇宙開発が必要とされなかったということでもある。
 アメリカが月を目指したのは、冷戦下でソ連との対決という政治的事情があった。
 政治的事情ではじめられたアポロ計画は成功と同時に政治的目標が達成されたため、残りの計画全体に縮小がかけられた。20号まで計画されていたアポロは17号で打ちきりとなり、NASAには激しいリストラの嵐が吹き荒れた。
 多民族国家である中国は、国内外への国家威信のために有人宇宙を宇宙開発の中心に据え、確実に進めている。
 インドの有人宇宙も、国家威信のためという側面が大きい。
 日本は、国家威信のための宇宙開発を行ってこなかった。結果的に宇宙探査において国際的な評価を得る事は多々あり、世界で四番目の衛星打ち上げ国となっても、それは国策で進められたものではない。それは、研究者が厳しい予算獲得競争を勝ち抜き、自らの研究を主眼において「世界で一番以外は評価されない」という条件の下に仕事をして得た結果である。
 国家威信という御旗を今まで必要としてこなかった、のみならず宇宙開発予算に於いては三機関合同以後着々と減少の一途を辿ってきた日本の宇宙機関が、なぜ、今ここに来て有人月探査などという夢のような構想をぶち上げたのか。
 それは、成功すればどのようなメリットがあり、投下された予算に対してどれだけの効果が見込めるものなのか?
 今や予算面に於いても大国となりつつあるインド、中国に伍して日本が独自に行って勝ち目のあるものなのか?
 それとも、宇宙開発の最前線が月面探査に移ることになって、有人探査することによって無人探査よりも大きな結果が期待出来るものなのか?
 月探査だけならば、無人で充分ではないのか。なぜ有人でなければいけないのか。

 もし、この路線を推し進めるのであれば、宇宙機関は国民に対して多大なる説明責任を負うことになる。
 その結果、もし納得出来る説明が聞けるのであれば、笹本は喜んで今回の英断を支持しよう。
 これが、日本人が自らの手で宇宙に乗り出していく第一歩ならば、力一杯応援しよう。
 しかし、有人月宇宙という大計画を選ぶことによる得失の説明が十分に行なわれないのであれば。
 そして、そのために必要な予算の確保をどこから行うのかという納得出来る説明が行なわれないのであれば。

 笹本は日本独自の有人月探査を支持出来ないし、それを進めることにより日本の宇宙探査に於ける世界的な評価を受けている部分まで切り捨てるという路線が既定のものとなるならば反対派の急先鋒にならざるを得ない。
 なぜなら、実現の可能性すら薄い計画に今成功しつつある計画、進められている計画を捨ててまで突っ込んでいくのは、日本の宇宙開発、宇宙探査にとって亡国の計画としか思えないからである。
 日本は、かつて実績あるMVロケットの運用を政治的判断で捨てたという前歴がある。
 今回の有人月探査の提案が、それを上回る日本の宇宙開発の失策とならない保証はどこにもない。
 だからこそ、宇宙機関は有人月探査を進める場合のロードマップ、予算、得失を国民に対してはっきりと説明する必要がある。なにを意図して有人月探査を提案したのか、正直に説明する義務がある。

 なぜ、有人月探査なのか。
 少なくとも、今の笹本には納得出来る理由も理解出来る説明も、そしてそのための莫大な予算と人員をどこから持ってくるのかも思い付かない。
 日本が有人宇宙を開始する。それは素晴らしい提案である。
 しかし、そのために今までに実績を上げてきた宇宙探査を予算獲得の言い訳に潰す可能性がある。この辺りになると言語道断なのだが、実は、日本の宇宙開発が取りうる最悪の選択はもっと他にある。
 日本の宇宙開発が有人月探査に舵取りされた上に、日本になにも残らなくなるような選択がある。

 なんだと思う?

 それは、有人宇宙船の開発から月探査まで全面的にアメリカに依存し、日本は予算だけを供出するという選択である。
 JAXAの有人宇宙がアメリカ一辺倒なのはご存知の通り。日本人宇宙飛行士がソユーズの訓練を受けたのも、JAXAが独自に判断したのではなく、予定されるスペースシャトルの引退に伴ってISSへの往復がソユーズロケットしかなくなるから、というアメリカの意向を受けたものでしかない。
 日本の有人宇宙は、アメリカのスペースシャトルに相乗りという形で進められてきた。公式には、これによって日本は有人宇宙の経験を積んできた、ということになっている。
 では、日本が獲得した有人宇宙技術には具体的にどのようなものがあり、今までの宇宙飛行士達はどんな技術を獲得し、日本に持ち帰ったのか、他にどんな技術の習得が必要なのか。
 実は、科学探査ならばあって当然のこうした定量的な評価は、少なくとも笹本が知る限りJAXAではまったく行われていない。そこにあるのは、国際協力の美名のもとにスペースシャトルに便乗、国際宇宙ステーションに貸間を建て増しして自分の成果であるかのように宣伝しているJAXAの広報ページだけである。
 そして、新規の有人宇宙の提案は、全て「予算がない」という言い訳で潰されてきた。
 日本が有人宇宙をやる気があるのであれば、今までのスペースシャトルと国際宇宙ステーションの建設協力により、どれくらいの経験が得られたのか、評価の必要がある。
 その結果、得られている技術、得られていない技術を判別し、得られていない技術はアメリカから供与が可能なものなのか、自主開発が可能なものなのか、そしてなによりそれが日本に必要なものなのか、判断しなければならない。
 秋山飛行士のソユーズによる初飛行からもう20年。毛利衛の初飛行からでも17年、すでに6人の日本人宇宙飛行士がスペースシャトルで宇宙に飛び、若田飛行士の国際宇宙ステーション長期滞在も目の前に迫っている。
 これだけ長い年月をかけ、多人数の宇宙飛行士が飛んでいるならば、日本の有人宇宙技術はもう充分な経験を積んでいると見るべきだろう。もしまだ未熟だというのであれば、それはアメリカへの協力の仕方が間違っているとしか思えない。
 しかし、今回提案された有人月探査が、アメリカの月探査計画への盲目的な協力を意図して提案されたものだとしたら?
 ただでさえスペースシャトル、ISSに多大な金額を献上している日本の宇宙開発予算が、この先もアメリカに吸われ、しかもその成果の大部分は日本に還元されず、日本の宇宙開発の技術にもならないという最悪の展開が予想出来る。
 さらに穿った見方をすれば、有人月探査の提案はスペースシャトルの運行停止に伴って日本からの高額な予算協力が見込めなくなるアメリカが、次なる予算献上の名目のために強要してきたものにも見える。
 だとすれば、ほんの一言だけ付け加えられた「独自の」という言葉こそ、JAXA側の抵抗なのかも知れない。

 もう一度まとめよう。
 日本が有人月探査を行う、と決定した場合、最悪の選択は、アメリカの有人月探査に盲目的に付き従い、月面探査有人宇宙船に日本人の席を買うために日本の宇宙開発予算をアメリカに献上することである。
 だとすれば、日本の宇宙機関は巨額の予算と共にアメリカの有人月探査にどこまで協力すべきか、あるいは協力せずに独自の宇宙開発に乗り出すべきなのか。その場合、日本の有人宇宙開発はどうすべきなのか、本気で検討しなければならない。
 現時点で、日本の有人宇宙計画はスペースシャトル及び国際宇宙ステーションしか存在しない。このままアメリカに付き従うなら、自動的に月探査に付き合わされると同時にそのための巨額な予算の負担を求めることも容易に予想出来る。
 引き換えに、日本の宇宙探査が生贄に捧げられるとしたら、これは到底承伏出来るものではない。

 別の途として、アメリカの有人月探査に予算面ではなく技術面で協力する、という道がある。
 予算は出さない。代わりに、提供出来る技術、開発出来る技術を協力する。
 そのアメリカに対する貢献度は、予算を言われるままに献上する場合よりもはるかに下がる。おそらく、アメリカの月探査宇宙船に日本人の席は貰えないかも知れない。
 しかし、日本で技術を開発し、それをアメリカに提供するならば、日本の宇宙開発は「日本人宇宙飛行士がアメリカの宇宙船で月面に到達しました」などというなんの役にも立たない実績よりはるかに大きな果実を手にすることが出来る。
 宇宙開発予算をアメリカではなく日本国内に廻すことも出来るから、国内企業に予算を付けることにもなる。その結果得られる技術は、いずれ日本が宇宙に乗り出していくのに役に立つだろう。

 今回の提案に於いて、戦略会議は「莫大な予算が必要とされる」「国際的な協力の検討が必要」ときわめてあいまいな形でしか将来の有人宇宙に関する記述をしていない。

 本当のところはどうなんだ?
 今回の突然とも思える有人月探査の提案は、アメリカの尻馬に乗り続けるための足場造りでしかないんじゃないのか?
 それとも他に何か考えてるのか?
 宇宙開発戦略調査会がいやしくも「戦略」という言葉を冠しているのなら、では日本の宇宙開発が乏しい予算と限られた人員をどのような目標に投入すべきか、戦略的な話を聞かせて貰おうじゃないか。

No.1323 :月への遠い道
投稿日 2009年3月13日(金)12時51分 投稿者 笹本祐一

 日本は月探査を目標とした有人探査を提案した。
 では、これから先どんな展開、開発が予想されるか。
 これから日本の宇宙開発が取るべき道、取りうる可能性について考察してみよう。
 前提条件として、日本単独で有人月探査を行う。国際技術協力については、自前の技術がない場合には便利なお財布にしか使われないことはスペースシャトル、国際宇宙ステーション関連で日本の関係者には身に染みているだろうから、全ての技術は自前で賄うこととする。

 現在の日本には、独自の有人宇宙技術はない。
 現状で使えるロケットはH2A、H2Bのみ。これで、低軌道に最大20トン弱の構造物は投入出来る。
 しかし、有人宇宙船の技術はない。
 HTVは宇宙ステーションにドッキングすれば与圧して人がはいる。また、JEMも軌道上で与圧されて活動しているので、構造体を作る技術はあると判断出来る。
 もちろん、有人宇宙船は構造体だけでは出来ない。生命維持のためには酸素を供給し、二酸化炭素を回収する技術が必要である。基礎技術は自衛隊や深海探査用の潜水艦で確立されているので、その宇宙方面への転用はそう難しくないはずである。
 軌道に上げた宇宙船は、再突入させて回収しなければならない。
 日本に於いて、再突入回収の技術は少ないながらも実績がある。まだ有人での回収はないし、HOPEで耐熱タイルの開発にも失敗してるが、昔ながらの溶融剤を分厚く塗り込めてその蒸発により再突入時の熱衝撃を緩和するという技術は完成されているのでそれほど難しいものではない。もちろん数度の実証実験は必要だろうが、新規開発は必要ではない。
 有人宇宙船の開発に於いて一番大事なのは、飛行の全行程に於ける安全で確実な脱出手段を確保することである。
 打ち上げから軌道投入までのもっともクリティカルな段階に於いて、多重の脱出手段を確保することは有人飛行実現の初期段階に於いてもっとも重要な開発になるだろう。
 カウントゼロから軌道投入までの全ての段階で安全に有人カプセルを脱出させ、地球に帰還させるためには、現状のH2Aロケットの飛行径路の多少の変更も必要になる。
 現在のH2Aの飛行径路は衛星の軌道投入に最適化されている。しかし、それをそのまま有人飛行に当てはめると、飛行の途中の段階で緊急脱出した場合に想定される脱出経路で宇宙船にかかるGが8Gを越え、乗員に多大な負担がかかってしまう。
 対策のためにはH2Aの飛行径路を有人向けに脱出は確実に出来るけれども飛行効率は多少悪化するものに変更しなければならない。そして、飛行の全領域で確実に作動する信頼性の高い脱出ロケットさえ開発出来れば、H2Aでの有人カプセルの打ち上げは夢物語ではない。

 つまり、今の日本に於いて低軌道地球周回のための有人カプセルの開発及び運用はそれほどハードルの高いものではない。困難な新規開発が予想されるものもないし、莫大な予算も必要とはされない。
 莫大な予算を必要とされないというこの一点が、組織としてのJAXAにとっても協同開発するメーカーにとってもうまみのない計画であることが予測されるが、それは本稿の本筋ではないので指摘するに留めておく。

 では、HTVをベースとするか、あるいはかつて検討した有人宇宙船ふじくらいの3人乗りのベーゴマ型カプセルを開発するか。順当に考えれば、最初は三人乗り小型カプセルで有人宇宙飛行技術の実証を進め、並行してHTVベースの大型船、あるいは長期滞在のための拡張モジュールを開発するのが常道だろう。すでにいくつかの国で実績があるとはいえ、有人宇宙技術は日本にとって未知の新天地である。ひとつひとつ足元を固めて登って行くに勝る途はない。
 日本が、安心して運用出来る有人宇宙船を開発するのに必要な年月はおそらく5年程度。困難を予想される新規開発がなく、また現在持っている宇宙技術から転用出来るものがいっぱいあるから、ここまでは平坦な道と予測される。並行して、軌道上にある宇宙船から24時間通信体制を確保するために高軌道に通信衛星をカバーのために上げるか、はたまた世界各国にお願いして地上、あるいは洋上にも通信ステーションを確保するか、インフラの建設も開始しなければならない。

 有人宇宙船、及びその乗員を日本が確保したとして、それだけでは月には行けない。
 なにせ月は遠い。平均で38万キロ彼方、そこに至るのに必要な推進剤は、ざっくり考えて低軌道に投入する場合の2倍となる。
 H2Aロケットの場合、低軌道に投入可能なペイロードは約10トン。有人打ち上げのための飛行最適化及び脱出ロケットの追加により、これは減ることはあっても増えることはない。
 そして、月飛行と条件が似ている静止軌道投入の場合、H2Aロケットの静止軌道への遷移軌道投入可能重量は4・5トン。
 増加型のH2Bロケットでも、低軌道への投入重量は19トン。遷移軌道で8トン。
 つまり、有人カプセルを月軌道に乗せて地球に返すというアポロ8号同様のミッションでも、推進剤まで含めた有人カプセルの全重量を8トン以下にしなければならない。
 最低でも一週間、非常時の余裕を見込めば二週間は乗員の軌道上滞在を必要とする有人宇宙船を、全てのシステムに月にまで届く推進剤まで入れて8トンで作らなければならないというのは、実はかなりシビアである。
 参考までに、アポロは脱出システムが3・6トン、司令船6トン、機械船25トンで推進剤込みの重量は合わせて35トン近い。脱出システムは第一段燃焼終了と共に切り離せるし、司令船、機械船ともに現代の技術で作ればかなりの軽量化が期待出来るが、推進剤の化学効率は変更出来ない以上、それにも限界がある。
 現実的な解としては、有人カプセル本体と別に地球周回軌道脱出のための推進剤、あるいはブースターを本体と別に打上げるという技術が必要になる。
 現在の種子島では、ロケット一基の打上げに必要なタイムスケジュールは最短一ヶ月といわれている。軌道上での貯蔵に耐える極低温でない燃料を使うブースターを最初に打上げ、一ヶ月後に有人カプセルを打上げ、軌道上でドッキングすれば有人カプセルを月周回軌道まで押し上げる事が出来るだろう。
 そのためには、宇宙空間で長期保存に耐え、複数回の点火に使えるブースターを別に開発しなければならない。燃料タンクと高効率のロケットエンジンを装備したそれは、無人であることを除けば間違いなく宇宙船である。そして、有人宇宙船とブースターを軌道上でランデブー、ドッキングさせ、確実に作動する技術も開発しなければならない。
 さーて技術水準が上がってきたぞ。
 まともに考えれば、軌道上で常温保持が可能でしかも動作も保証されて実績がある推進剤、ヒドラジン系を使うというのが通常の選択肢である。しかし、ヒドラジン系推進剤には猛毒というデメリットがあり、種子島からそんな猛毒のブースタータンクを打ち上げられるのに周囲の同意が得られるか、という政治的な問題が出てくる。
 では、液酸液水系の無毒な推進剤を使うのならどうか。これなら、H2Aロケットで上段をもうひとつ上げる、みたいな設計思想で開発も可能であり、エンジンのLE5も作動実績がある。
 しかしその場合、日照側はプラス200度、日陰はマイナス100度になる宇宙空間で、極低温燃料を長期に渡って保存しなければならない。液体酸素、液体水素ともに地上でタンクに注入すると入れる端から沸騰して蒸発していくので、H2Aでもスペースシャトルでも打上げ寸前まで液体燃料の注入を続けるくらいのものである。
 また、水素燃料は分子が小さいので、どれだけ念入りにパッキングしても隙間から洩れていく。
 現在では、極低温燃料を軌道上で安定して貯蔵する技術はない。この技術レベルは高い。
 解決のためには、種子島から打上げるロケットのタイムスケジュールを詰めるか、軌道上に上げるペイロードの重量を一気に上げるしかない。
 たとえば、ほんの数時間のタイムラグで二基のロケットを上げられるのであれば、液酸液水系のブースターを使って地球周回軌道上から月軌道に有人カプセルを上げることが出来る。
 種子島の設備は現状でも二基同時のロケットの準備が可能なVABがあり、また射点もふたつある。
 同時に射点に二つのロケットを並べるのは、射点間の距離が短いから現実的ではないが、一基目を打上げてから24時間後に2基目を打上げ、というのであれば不可能なスケジュールではない。
 その場合、種子島宇宙基地に二基分以上の液体燃料を貯蔵する設備を作るなどの増強は必要だが、ペイロードが倍の新規ロケットの開発は不要である。
 ここまでやって、やっと月軌道周回飛行が可能になる。
 しかし、ここまでやっても月軌道に送り込めるのは月着陸設備を持たない有人カプセルだけである。
 地球周回低軌道に宇宙船と、そこからもう一段分の推進剤を搭載した月軌道に宇宙船を届かせるためのブースターを送り込まなくては月面探査は実現出来ない。
 サターンV型がかくも巨大になったのは、軌道上にもう一段分の燃料もろとも着陸船、司令船を一度に送り込もうとしたからである。それが証拠に、月面探査という目標がなければ、サターンVはスカイラブという巨大な宇宙ステーションをわずか二段で地球低軌道に投入することが出来る。
 さて、前項で考察した日本独自の月宇宙船には着陸船はない。
 着陸船は、完全な新規開発が必要になる。
 この着陸船に要求される性能は、月面への安全な着陸と、月面から再び月周回軌道に飛び上がるだけの推進剤とエンジンを併せ持つエンジンの搭載である。
 もしこれを単段で済まそうと思うと、着陸船は減速、着陸、離陸のためのエンジンと推進剤をひとつの機体の中に内包しなければならない。
 先例として、アポロ月着陸船がどのような構造だったか見てみよう。
 月着陸船の中で、月周回軌道に復帰するのは上昇段と呼ばれる上部の部分だけである。
 減速、着陸に必要な逆噴射エンジンと推進剤タンク、着陸脚はすべて下降段と呼ばれる下の部分に取り付けられ、月面周回軌道に復帰する時には発射台として使用され、月面に置いて行かれる。すなわち、月着陸船は極限の重量軽減のために二段化されたロケットであると言える。
 一段目の下降段は、月面周回軌道からの減速、着陸に使われる。
 月面から再び周回軌道に復帰するため、上昇段は下降段を切り離して単体で上昇する。下降段を切り離していくから、再び軌道に復帰するのに着陸時ほど大きなエンジンは必要ない。
 現代の技術で、月面に着陸し、再び軌道に復帰する宇宙船にどんな構成が最適なのか、もちろん研究開発の余地は大きいだろう。同じエンジンを使うのであれば、着陸脚及び着陸用推進剤タンクは月面で切り離していく、ただしエンジンは減速、着陸と離陸、軌道復帰に同じものを使うという選択肢もあり得る。
 1969年にアポロ着陸船が成功しているものを現代の技術で作り直すのだから、その開発は平易ではないだろうが困難でもないだろう。きわめて厳しい重量制限とコンセプトさえ見失わなければ、その開発は不可能ではない。
 しかし、月着陸船を月に着陸させるためには、あたりまえの事ながら月着陸船を月周回軌道に持っていく、という手間が必要になる。
 月着陸船の重量をどの程度に見積るかによっても数字は違ってくるが、アポロを例に取れば司令船、機械船の合計が約30トンに対し、着陸船は約16トン。この差は、司令船は三人が往復7日間合わせて21人日暮さなければならないのに対して、着陸船は長くても二人が二日合わせて4人日で済むという生命維持システムのキャパシティによるところも大きい。
 では、H2Bの静止トランスファー軌道に8トンという制限の中に着陸船を収めることは可能だろうか。
 可能ならば、月着陸船は一度の打ち上げで月周回軌道に投入出来る。
 不可能ならば、月着陸船は有人カプセル同様に軌道上でブースターとドッキング、月軌道に向かうという有人カプセル同様の手間を踏まなければならない。ただし、こちらは完全に無人化出来ることが期待出来るから、先に月着陸船を地球周回軌道に投入、あとからブースターを打上げて、ドッキング、月に向かい、月周回軌道に安定させたのを確認してから有人宇宙船を打上げるという手順を踏むことが可能になる。

 もし、これらの打ち上げを一度で済ませようとしたら、静止トランスファー軌道に約30トンの投入を可能とする大型ロケットの開発が必要になる。低軌道換算で約70トン。失敗に終わったソ連月ロケット、N1ブースターと同じような性能か。
 低軌道でH2Aロケットの7倍、H2Bと比べても4倍近いペイロードのロケットの打ち上げ重量はいくらくらいになるか。
 そのまま巨大化すれば、約2000トン。
 あくまでも机上の計算でしかないが、低軌道に70トンを投入出来る大型ブースターなら一度の打ち上げで全システムを月周回軌道に投入出来る。それが出来ない場合、最低三回、ひょっとしたら四回のロケットの打ち上げが必要になる。
 一度で済まそうと思ったら、構成はともかく推定重量2000トン、ペイロード70トンの大型ロケットの開発が必要になる。そして、種子島の現状の射点ではさすがにそんな大型ロケットの打ち上げは爆発物取り扱い法の関係上、安全距離が獲れないので不可能である。となれば、それだけの大きなロケットを運用するVABごと新規の建設が必要になる。
 種子島で現状の吉信岬のさらに先を埋め立てて新たな射点を作るというのも解のひとつになるだろう。
 その場合でも、新型ロケットのためには新たなVABの建設が必要になるし、埋め立てて空港ひとつ作るくらいの予算が必要になる。
 さあて、有人月探査二兆円じゃ足りなくなってきたぞー。

 他に必要な要素技術として、宇宙服の開発及び宇宙遊泳、月面歩行の技術習得も必要である。
 しかし、これも新規開発が必要な技術ではない。技術習得のためのハードルは高いが、すべて海外で実現可能なことが実証され、なによりも40年前の技術でアポロが達成している技術である。確固たる意思とゴールさえ明確なら、それは開発可能だろう。

No.1322 :日本独自の有人月探査計画に見えた月の裏側
投稿日 2009年3月7日(土)02時09分 投稿者 笹本祐一

 宇宙開発戦略調査会という会合が、これからの日本の国家としての宇宙戦略を決定するために首相官邸で開かれている。
 これは、2009年5月に宇宙開発基本法の策定などへの提言を行う有識者による専門会議で、日本経団連会長御手洗富士夫、宇宙飛行士毛利衛、まんが家松本零士もメンバーである。
http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/080912/acd0809121218007-n1.htm

 3月6日に行なわれた第5回会合において、これから日本が目指すべき宇宙開発の方針として、有人による月探査、その前段階としての二足歩行ロボットによる月探査が毛利衛氏によって提案された。これは委員によって好評のうちに受け入れられ、報道もされたので御存知の方も多いと思う。
 今、笹本の手許にこの時に使われた資料の一部がある。
 今まで、独自の有人宇宙飛行に対して背を向け続けてきた日本が、文科省主導のこの会議においてなぜ突然有人探査と言いだしたのか。
 2003年初頭に笹本が聞いた「なぜ日本独自の有人宇宙飛行をやらないのか」という質問に対し、宇宙開発委員会のお歴々はこう答えた。
「もし有人宇宙飛行やって誰か死んだらいい訳が出来ない」
 それがなぜ今になって、莫大な予算を必要とするはずの独自の有人飛行、のみならずその先の月探査などという野心的な提案が行なわれたのか。
 この席上で配られ、近日中にはネット上で公開もされるはずの資料3、「戦端的な宇宙開発の推進について」を注意深く読み解いていくと、そこには日本の宇宙開発に於ける宇宙科学と政治の奇妙な混在に気付く。

 宇宙科学については我が国が独自に探求し、成果を上げてきたという意義を認め、さらなる研究の必要を説いている。
 しかしながら、有人宇宙については、「将来に亘って有人宇宙活動を自在に行う能力を、現在のISSでの活動を基盤として更に高めていくことは、宇宙先進国としての我が国の地位を確固たるものとするために極めて重要である」
 との文言がある。これは、スペースシャトル、国際宇宙ステーションにのみ頼ってNASAを追従する形で有人宇宙を続けてきた日本の宇宙開発に於ける政治的立場の確認であり、日本の有人宇宙に関する成果も意義の確認もそこにはない。
 では、日本の宇宙開発の戦略のためになぜ政治的な思考が必要になるのか。
 宇宙開発には莫大な予算が必要となる。
 笹本は、日本独自の有人宇宙開発に関わった際、もし当時のNASDAが有人宇宙飛行に乗り出すとしたらいくらくらいの予算を要求するか考えたことがある。
 H-IIロケットは、2000億の予算で開発された。最終的に2700億の巨費がかけられたが、これは世界的には「クレイジー」といわれるほどの低予算である。
 その次のビッグプロジェクトであるHOPEは、中止されたとはいえ5000億の開発予算を見込まれていた。
 だとすれば、宇宙開発の究極目標といえる有人宇宙飛行のためにNASDAが要求する予算はおそらく一兆。逆に言えば、それだけの予算が獲れなければ、NASDAにとって巨大プロジェクトとしての有人宇宙計画の意味はない。
 一兆円の予算があれば、組織もメーカーもしばらくは潤沢な予算のもとに安心して計画を進めることが出来る。
 しかしながら、現在の技術を持ってすれば有人宇宙システムの開発にはそれほどの巨費は必要ない。半世紀近くも前の技術で成し遂げられた有人飛行は、今ならばはるかに安上がりに行うことが出来る。
 つまり、当時のNASDAにとって有人宇宙飛行はネームバリューの割に予算が獲れない、しかも失敗すれば日本の宇宙開発すら止められかねない火中の栗だったのである。
 今回提案された有人月探査のための予算規模は、二兆円という数字を漏れ聞いている。年間2000億円を切れるような日本の宇宙開発予算から見れば夢のような巨費であり、それは宇宙基本法によって宇宙開発の主導権を首相官邸に持って行かれそうな文科省にとってはたとえようもなく魅力的な題目だろう。
 月探査、しかも有人。アポロを子供のころに体験している世代なら、それは再現すべき夢であり、実現すべきミッションである。
 しかし、宇宙開発が国家事業として予算の枠に縛られている限り、払われる金額は有限である。巨額の予算を持ってくるなら、どこか別の計画を止めなければならない。
 資料3、先端的な宇宙開発利用の推進についてというPDFを注意深く読んでいくと、1.2 太陽系探査の中に以下のような文言があることに気付く。


○ 特に大規模な探査プロジェクトに関する今後の計画立案にあたっては、研究者からのボトムアップによる科学目的を保持しつつ、トップダウンによる国家戦略としての政策的な観点とのすり合わせも踏まえ、決定する必要がある。


 関係者によれば、これは日本が今世界のトップを走り、今も成果を上げつつある地球外小惑星探査計画を、まず有人月探査の生贄に捧げるための第一歩だそうである。
 リソースの集中的運用でも、予算の効果的投入でも、美名はなんでもよろしい。
 これは、有人月探査の実現のためにはやぶさ2以降の計画をすべて中止するということであり、じっさい現在も地球に帰還するためのはやぶさを運用しているスタッフにもそのような話が回っているらしい。
 わかりやすく言い換えれば、有人月探査というトップダウンのために、研究者のボトムアップを捨てる必要がある、という宣言である。
 そして、おそらく話はそこに留まらない。莫大な予算を必要とする有人月探査があるのに、日本の宇宙村の中でわずかな人数しか占めない宇宙科学関係の計画がこれから先も今のように続けられる保証はない。次の言い訳が必要となれば、即座に「政治的判断」による切り捨てが行なわれるようになるかもしれない。先例があれば、それは簡単である。

 有人月探査は、「日本独自」と冠詞を付けようが付けまいが現時点でさえアメリカ、中国が進めつつある計画である。ここにいまさら日本が潤沢でもない予算を付けて参加したところで月レースで実績のあるアメリカ、すでに有人宇宙飛行を実現している中国に対して単独でいい勝負が出来るとは思えない。それは、月面有人探査計画においてかつてソ連が犯したような科学的判断を必要とする宇宙開発に政治的判断を持ち込むという典型的な失敗の第一歩である。
 今、日本は小惑星探査に於いて世界トップレベルの技術と実績を上げている。また、他の宇宙科学、天文学に於いても恵まれていない環境で費用対効果の高い成果を上げてきた。
 日本独自の有人月探査は、宇宙開発のための資源集中と称して、ペンシルロケット以来MVロケットまで積み上げられてきた全ての成果をまるごと葬る毒性を秘めた、きわめて刺激の強い新提案である。
 宇宙科学は、世界で一番であることがなによりも重要視される。二番手以降の成果は、そこでは意味を持たない。
 しかし、政治は一番であることを重要視しない。そこで重要なのは、潤沢な予算を取り、多人数に充分な報酬を出して組織を維持することであり、宇宙開発の成果も有人宇宙の意義も単なる言い訳として扱われる。

 日本の宇宙開発が目指すべき方向はどこなのか。
 それを決定する権利は、我々日本国民にある。
 同時に、どこを目指すべきか、それは日本人として考えなければならない義務でもある。

 あなたは、日本の宇宙開発になにを求めますか?
 それは、自分で納めた税金の納得がいく使い途ですか?
 それは、日本でなければ出来ないことですか?

No.1321 :「H-2Bコア機体報道公開」動画公開
投稿日 2009年2月14日(土)03時58分 投稿者 野尻抱介

 H-2Bコア機体報道公開のスチル写真と動画をまとめてニコニコ動画にUPしました。
 ニコニコ動画のアカウントをお持ちの方はニコニコ動画直行、そうでない方ははてな経由でご覧ください。

No.1320 :当日配布の資料について ●添付画像ファイル
投稿日 2009年2月13日(金)04時30分 投稿者 今村勇輔

H-IIBコア機体公開に際して配布された資料を、スキャンしてアップロードしました。
また、個人的なレポートもアップしています→http://d.hatena.ne.jp/Imamura/20090212/H2B
よろしければあわせてご覧ください。

http://www.pluto.dti.ne.jp/imasa/image/H2B/