宇宙作家クラブ
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No.603 :DASH分離失敗の原因公表
投稿日 2002年2月16日(土)00時11分 投稿者 松浦晋也

 文部科学省・宇宙科学研究所(ISAS)は15日、再突入実験機DASHの分離失敗の原因を公表しました。DASH内の分離に関する信号を伝える配線2本の接続を、開発と製造を担当したNEC(開発当時:現NEC東芝スペースシステム)が図面で誤記したために正しく結線されていなかったことが原因でした。基本図面では正しい接続になっていましたが、製造図面への転記の際にミスが起きたということです。

ISAS発表文

 報道によると、ピギーバック衛星として可能な限り低コストで簡略な設計を狙ったために当該部分は図面との比較チェックのみが可能で、実際の動作テストが出来ない設計だったそうです。

 一番気になるのは失敗の原因以上に、「なぜNEC(NEC東芝スペースシステム)がこのような初歩的なミスを起こしたか」です。 

その1:NEC(NEC東芝スペースシステム)内部の状況。東芝衛星部門との合併、本社からの分離と続いた機構改革の過程で、技術者のモチベーションが下がるような行いがなかったかどうか。OJTでしか伝わらない現場の知恵が途切れてしまうような配置転換や大量退職などはなかったか。

 アメリカでもマクダネル・ダグラスとボーイングの合併時に、ダグラスのデルタロケットチームから人が抜けて、デルタ3打ち上げ失敗の遠因となったという話があります。大きな組織変更が練達の技術者達にどのような影響を及ぼしたのか。これはNEC東芝スペースシステム経営陣のマネジメント能力に還元される問題です。

その2:ISASとNEC(NEC東芝スペースシステム)の双方に、「これは自分の衛星」という意識が浸透していたかどうか。お互いの「相手の衛星」というもたれ合いによる無責任意識が発生していなかったか。

 これはISASも含んだマネジメントの問題です。元来ISASは「自分の衛星」という意識の高いところですが、それが近年薄れている可能性はなかったかということです。ISASには優秀な人材が集まりますが、アカデミックな研究者の資質と「チームをマネジメントし、衛星をまとめ上げる能力」はまったく別物ですので。

その3:ピギーバック衛星として、どの運用フェーズがクリティカルかを見切ることができていたか。

 DASHはその運用フェーズすべてがクリティカルと言えるほど挑戦的なミッションでした。衛星分離はその中でも比較的軽く見られていた可能性があります。他の危険な関門に注意が集中して、衛星分離にまで意識が回らなかった可能性があるかもしれません。このあたりの注意力の配分は、現場の修羅場でしか身に付かないものです。
 逆に今回の失敗が関係者を鍛えたと考えるべきかも知れません。

 失敗は起きてしまいました。それもかなり単純な失敗でした。責任問題はもちろんあるでしょう。報道によると賠償請求の可能性もあるようです。

 しかしこれで萎縮してしまってはいけないでしょう。この経験をどのように生かして次のミッション――それはDASH2かもしれません――を成功に導くか。

 失敗は次のミッションの成功を持って償われるべきだと思います。

No.601 :DASHの件に関する要望
投稿日 2002年2月7日(木)19時34分 投稿者 林 譲治

|これから先、どんどんピギーバックで小型の衛星を打ち上げるためにも、DASHの失敗を矮小な責任論議に帰着させるべきではありません。

 DASHに関しては私の意見も松浦さんにつけ加えることはほとんどありません。
 何よりもリスクを恐れないと言う点は重要だと思います。この点は強調し過ぎてもし過ぎないくらい。今の成功しか認めないと言う態度は、過去から学ばないと言うことであり、未来を捨てることに他なりません。

 ただ一だけDASHに関して気になる点と言うか要望はの、ISASとNASDAとの連携あるいは意志の疎通は十分であったのか、それも含めて原因究明に当って欲しいということです。DASHが予定通りに作動しなかった技術的な原因は調査委員会の報告を待つとして、その背景として二つの組織が共同で一つのプロジェクトを行う上での不都合はなかったか? 文化の異なる二つの組織の共同作業にも遠因があるとすれば、それについても将来の前進を見据えた対処をお願いしたいと思うわけです。

 日本の宇宙開発についてはSELENEの打ち上げなど、ISASとNASDAの共同作業が必要なプロジェクトは幾つも予定されているわけですから。

No.600 :センター見学その5――H-II7号機の2 ●添付画像ファイル
投稿日 2002年2月7日(木)19時23分 投稿者 松浦晋也

 笹本祐一氏と、反対側から見たH-II。

 7号機は唯一残った実物のH-IIロケットなのであちこちの博物館から展示品として引き合いがあるそうですが、どの博物館もお金が無く、今のところここから動かせないそうです。

 しかしこの貴重な実物をいつまでも種子島宇宙センターに眠らせていてはいけないでしょう。いつか誰もが博物館で、この巨大なロケットの実物を見ることができるようになればよいと思います。


No.599 :センター見学その4――H-IIロケット7号機 ●添付画像ファイル
投稿日 2002年2月7日(木)19時22分 投稿者 松浦晋也

 種子島宇宙センターに眠るH-IIロケットです。手前から奥に向けて、8号機失敗で打ち上げ中止になった7号機の第1段、段間セクションが付いた7号機第2段、開発時にCFT(射点でタンクとエンジンを組み合わせて縦置きでフルフル秒時燃焼を行う試験)に使われた第1段です。ただしエンジンは付いていません。固体ロケットブースターS(RB)は別の固体推進剤を扱う建屋に保管されているそうです。


No.598 :センター見学その3――エンジンテストスタンド ●添付画像ファイル
投稿日 2002年2月7日(木)19時21分 投稿者 松浦晋也

 もう年度内には燃焼試験を行う予定はないということで見学できました。LE-7系エンジンのテストスタンドです。LE-7系エンジンの実際の打ち上げと同じフル秒時燃焼試験を行うことができます。場所はVABのすぐ横。試験時は周囲半径500mが立ち入り禁止になります。つまりエンジン燃焼試験時はVABは立入禁止になります。

 ですから打ち上げ準備作業とエンジン燃焼試験を同時に行うことになると、ウィークデイにVABで打ち上げ準備を行い、土日にエンジン燃焼試験を行うことになります。別の人がそれぞれの作業に従事するような余裕は、日本の宇宙開発にはありません。同じメンバーが文字通り「土曜も日曜もない」状態に追い込まれるのだそうです。


No.597 :センター見学その2――ブロックハウスの脱出路 ●添付画像ファイル
投稿日 2002年2月7日(木)19時20分 投稿者 松浦晋也

 これはブロックハウスの待避用通路。ブロックハウスが危険にさらせれた時にはこの通路を使って敷地外に待避します。


No.596 :センター見学その2――ブロックハウスの非常脱出通路
投稿日 2002年2月7日(木)19時18分 投稿者 松浦晋也

 これはブロックハウスの待避用通路。ブロックハウスが危険にさらせれた時にはこの通路を使って敷地外に待避します。

No.595 :発射台画像です ●添付画像ファイル
投稿日 2002年2月7日(木)19時18分 投稿者 松浦晋也

 射点の画像です。


No.594 :2/7種子島宇宙センター施設見学――射点と移動発射台
投稿日 2002年2月7日(木)19時15分 投稿者 松浦晋也

 SAC種子島取材班は、まだ種子島で粘っています。というのは打ち上げ後の作業が一段落し射点施設が見学できるようになるのを待っていたのです。
 本日は種子島宇宙センターの施設を見学しました。以下写真で紹介します。写真撮影はすべてあさりよしとお氏です。

 最初の写真は、H-IIA2号機を打ち上げた移動発射台。現在まだ射点に置かれています。このまま外で補修を行い、約一ヶ月後に機体組立棟(VAB)に戻す予定です。

 この移動発射台は3号発射台。液体ロケットブースターを装着したH-IIAの打ち上げに対応しています。標準型を打ち上げる1号発射台、計画凍結になってしまったJ-Iロケット用の2号発射台と比べてサイズが大きく、台の底面にLRBの噴射を抜く穴があります。

 前回1号機を打ち上げた時より、焼け焦げた面積が小さくなっています。前回の教訓として、背面に噴射炎の圧力が抜けるよう穴を開けて、発射台への吹き返しを減らした結果だそうです。それでもあちこちがかなり傷んでるとのこと。

No.593 :DASH失敗、ピギーバック打ち上げの将来のためにすべきこと
投稿日 2002年2月6日(水)13時50分 投稿者 松浦晋也

 DASHの復旧は失敗し、宇宙科学研究所から発表がありました。

http://www.isas.ac.jp/dtc/dash/dashhappyo1.html
http://www.isas.ac.jp/dtc/dash/dashhappyo2.html

 2番目のリリースに「ロケット側からの信号によって実験機搭載計算機上に設定されるはずの分離許可の条件が成立しなかった」
 とありますが、今後は、なぜ分離許可条件が成立しなかったかを中心に原因究明が進むと思います。

 ここでは違う視点からDASH分離失敗を捉えてみたいと思います。

 それは「通常の衛星」とDASHのような「ピギーバック衛星」の違い。なによりも、「成功・失敗における責任の取り方の違い」です。この失敗を契機として、ピギーバック打ち上げにおける責任分担について共通の認識を作るべきだと思うのです。

 松浦による結論を先に書きます。

・今後DASHのようなピギーバック打ち上げでは、ロケット爆発のような明らかにロケットに責任がある場合を除いて、ロケット側に失敗の責任を負わせない合意が必要である。

・DASHについて可能な限り早期に代替機の開発に入り、宇宙開発事業団側は最大限の努力を持って代替機の打ち上げ手段を提供すべきである

 その理由は「ピギーバック打ち上げという打ち上げ方式を誰でも使えて技術的挑戦が容易な打ち上げ手段として定着させるため」です。

 今回、多くのマスコミが「2衛星のうち1機の分離失敗」と伝えましたが、実のところH-IIA2号機には3機のペイロードが搭載されていました。主ペイロードは、MDS-1と性能確認ペイロード「VEP-3」であって、DASHはピギーバック・ペイロードだったのです。

 ピギーバック打ち上げというのは、主ペイロードの重量がロケットの能力に比べて軽く、打ち上げ能力やフェアリング内部の容積に余裕がある場合に、小型の衛星などをフェアリングの隅に乗せて打ち上げる方式のことです。つまり、そのままでは無駄になるはずだった打ち上げ能力の余剰を使って小さなペイロードを打ち上げるわけです。
 メインの打ち上げでロケット打ち上げコストを出すことになるので、ピギーバック打ち上げは非常に低コスト、ないしは無料で衛星を打ち上げることができます。ただし「隅に乗せて貰う」のですからロケット側に完璧を要求することはできません。与えられた条件の中で、逆に衛星を製作する必要があります。

 ここで「打ち上げ費用が非常に安い、またはただ」ということに注目してください。軌道上に上がった衛星はたとえ故障しても修理ができません。ですから極めて安全よりの保守的な設計をします。しかしピギーバックペイロードは、打ち上げコストが安く、本体も小さいので、ある程度の失敗や故障は折り込み済みとして、技術的に挑戦的な機構を採用したり、より失敗する確率の高いミッションを実施することが可能になります。

 DASHは、まさにそのようなミッションでした。詳細は資料を読むと分かりますが、たかだか100kgにも満たない衛星で、惑星間軌道から地表への帰還をシミュレートするために、実に巧妙な工夫があちこちに組み込まれた、非常に挑戦的な衛星だったのです。

 それでは、なぜピギーバックペイロードがロケットに責任を求めてはいけないのか――それは基本的にロケットや主ペイロードにとってピギーバック・ペイロードは「邪魔者」だからです。

 主ペイロードにすれば、ピギーバックペイロードは危険度を増す可能性がある厄介者にすぎません。打ち上げ時にロケットからはずれてフェアリング内を転げ回ったら主ペイロードは破壊されてしまいます。分離時に主ペイロードにピギーバックペイロードがぶつかっても同様です。あるいは、余分なガスを吹き出して主ペイロードを汚染したら、さらには破裂事故など起こして破片が主ペイロードに刺さったら――考え過ぎとも言える想定ですが、とにかく主ペイロードは高価な大型衛星なのです。いかなる危険をも排除したいところでしょう。一番いいのはピギーバック・ペイロードを乗せないことということになってしまいます。

 ロケットの側の受ける被害は、例えば今回のマスコミ報道を見れば明確でしょう。H-IIAロケット2号機は、これまでのテレメトリーデータを見る限り完璧な飛行をしました。しかし、ピギーバック・ペイロードのDASHが分離できなかっただけで「H-IIA失敗」と書かれたり言われたりしました。
 これは風評被害です。今後の商業打ち上げの成否に言及したマスコミもありましたが、H-IIAの商業化にマイナスイメージを張り付けたのはマスコミの「H-IIA失敗」というミスリードでしょう。で、そのミスリードを引き起こしたのがDASHだとしたら、つまらない風評被害をかぶらないためにはピギーバック・ペイロードなど乗せるべきでない――ということになってしまいます。例えロケット側の分離信号発行に問題があったとしても「DASHを積まなければ余計な信号を出す回線を組み込まずにすんだのだから成功の確率が上がった」ということになってしまいます。

 安全第一とするなら、どんどん考え方が後ろ向きになってしまうのです。

 しかし私は、今後日本はどんどんピギーバック・ペイロードを使って挑戦的な技術課題を次々に実証していくべきだと考えています。衛星やロケットの技術は、現在停滞してしまっています。それらがあまりに高価であるために失敗を極端なまでに防ぐ保守的な設計を採用し、新しい技術課題への挑戦が難しくなってしまっているからです。
 ピギーバック・ペイロードならば打ち上げは低コストになりますし、衛星規模が小さいので開発コストも相対的に小さいです。そのような衛星でどんどん新しいことをしていくべきと思うのです。

 本来的にピギーバックペイロードは、隙間に乗せて貰う文字通りの「居候」なのです。しかし居候にはその立場の自由さを使って家主にはできないことをできる可能性があります。

 私はピギーバックの精神は「基本は自己責任、けれどもミッション内容は自分の思いのままで思い切り未来を指向できる」ということではないかと思います。

 一般的な言葉で言えば「ケガも弁当も自分持ち、でもなにをやってもいい」ということになるでしょうか。

 今後の日本におけるピギーバック打ち上げを定着させ、硬直化した宇宙技術を革新していくために、ここで「ピギーバックの失敗は基本的に衛星側の自己責任」ということを共通認識として定着させるべきではないかと考えます。

 そこにはもちろん、安全性を確保しつつも可能な限り多様なミッションのピギーバック・ペイロードの打ち上げを引き受ける、ロケット側のふところのふかさが不可欠であることは言うまでもありません。ロケット側がピギーバック・ペイロードに無理難題を突きつけての意地悪をするようでは話になりません。

 これから先、どんどんピギーバックで小型の衛星を打ち上げるためにも、DASHの失敗を矮小な責任論議に帰着させるべきではありません。

 胸を張りましょう。次のDASH2を打ち上げ、さらにはピギーバックで次々にチャレンジングな衛星を打ち上げるために。

松浦

No.592 :第二回種子島ゴールデンラズベリー賞
投稿日 2002年2月5日(火)15時30分 投稿者 SAC種子島取材班

 昨年のH-IIA1号機の際に、「どうなったら成功といえるのでしょうか」と質問を繰り返した通称「成功君」に与えられた、第一回種子島ゴールデンラズベリー賞。

 今回もSAC種子島取材班から、もっともアレでナニな質問をしたマスコミを表彰いたします。

 それでは第二回種子島ゴールデンラズベリー賞の発表です。

 ダントツでNHK取材班に進呈いたします。
 表彰対象の一言「リレーって何ですか」

 通称「成功君」に加えてさらに強力なメンバーも加入した同取材班は記者会見においてもおちゃめでナイスな質問を連発、その一部始終はネット上でも中継され、ついには巨大匿名掲示板「2ちゃんねる」でスレッドが立つほどの人気を勝ち得ました。

 特に上記発言は、さすが教育チャンネルを抱える同放送局にふさわしい教養あふれる名言として末代まで語り伝えられるでしょう。

 よって同取材班を栄光ある種子島ゴールデンラズベリー賞にふさわしいと判断し、ここに表彰いたします。

 なお、賞品はGoogleの「リレー」検索結果を持ってかえさせていただきます。

No.591 :DASHの分離シーケンス、SACの考察
投稿日 2002年2月5日(火)15時29分 投稿者 松浦晋也



 DASHは、結局分離しないまま軌道に入っていることが判明、リカバリーも失敗したと報道されています。

 昨夜以来、SACメンバーの間でDASH分離機構についていくばくかのディスカッションがありました。以下要約してお伝えします。

 DASHについてのデータは以下の所にあります。

 http://www.isas.ac.jp/dtc/dash/dashmission.html
 http://yyy.tksc.nasda.go.jp/Home/Press/Press-p/200111/dash1_011114_j.pdf

 DASH分離時のシーケンスは以下の通りです。

 0秒:分離5分前、DASH側コンピュータを起動し、モーメンタム・ホイールの駆動を始める。
 300秒:「SEP ENA」コマンド。今回問題になった、ロケット側からDASHへ送られるセパレーション・イネーブル・コマンド。
 302秒:ホイール駆動電源オフ、安全スイッチオン
 304秒:アンビリカル・コネクタ分離(コネクタ・プーラー作動)
 306秒:衛星分離(マルマンバンド・プーラー作動)
 356秒:スピンモーター点火

 モーメンタム・ホイールというのは、衛星内部でホイールを高速回転させて、
慣性モーメントによるジャイロ効果で姿勢を安定させる仕組みです。

 このシーケンスから考えられるのは、ホイール駆動の反作用を質量が大きな2段ロケットに吸収させようとしていたのではないかということです。通常ホイール駆動の反作用はガスジェットを噴射してうち消すのですが、小さな衛星であるDASHではガスジェットを装備しない方法を考えた末にこのようにしたのではないかと思えます。

 その場合、ホイールが規定の回転数まで上がっていないと分離できません。ロケット側が分離コマンドを発行するとなると、ホイール回転が十分に上がっていることを衛星からロケットに伝達しなければならず、機構が複雑になります。

 そこで衛星自体がホイールの回転数を確認した上で自ら分離コマンドを発行する仕組みにしたのではないか、ということが想像できます。この場合は分離に対してロケットが責任を負わず、衛星が責任を持つことになります。

 機構の簡素化とリスクを秤に掛けて積極的にリスクをとった設計といえるのではないでしょうか。

 リスクはすくないに越したことはありません。しかしDASHのように小さく、安い衛星は、このようなリスクを取った設計をして、むしろ新たな技術手法を開発していくべきではないか、思えます。

 そう考えるとDASHの設計は、決して非難されるべきものではなく、リスクを取って簡素化を目指したのが、たまたま不幸な結果を来してしまった――と考えられます。

 リスクはあくまで自己責任で積極的にとるべきでしょう。成果も自分のものなら危険も自分のものということで。

 以上、SACメンバーによる分析でした。

 ちなみに記者から質問が出なかったDASHの開発コストですが、4億円だったと聞いています。

No.590 :リレーとはなにか
投稿日 2002年2月4日(月)16時58分 投稿者 野尻抱介

 今回H2A打ち上げ取材にあたった報道陣を悩ませた「リレー」とは何か。
 下記ページは図解が多くてわかりやすいであろう。

リレーの原理

No.589 :早急に決めつけないで――とはいえDASHの設計は?
投稿日 2002年2月4日(月)16時44分 投稿者 松浦晋也

 プレスセンターでは今回の打ち上げか成功か失敗かといういつもの議論をプレスがしています。ロケットは成功、ただしほんの少しのところで画竜点睛を欠いた、というのが現状での松浦の判断です。
 ロケットの側にトラブルは見あたりません。早急な成功・失敗の決めつけは控えるべきでしょう。マスコミが速く決めつけたい気持ちは分かりますけれども。

 まだDASHが失敗と決まったわけではありませんが、VEP3の加速度センサーに分離時の衝撃が観測されていないことから考えると分離に失敗した可能性は高いと考えます。

 実際宇宙は怖いです。ほんのちょっとしたことでそれまで大変な時間を掛けて準備してきたミッションがダメになってしまうのですから。

 まずは今晩のDASHからの電波確認を待ちたいと思います。今晩には結果がわかるのですから早急な決めつけをせず、待ちましょう。

 ただし、DASHの衛星分離インタフェースはかなりイレギュラーなものであることは確かです。衛星分離は基本的にロケット側の責任で行うのが普通です。今回の場合だと、1)ロケット側のコンピュータが分離コマンドを出す、2)それが衛星を固定しているバンドに伝わって火工品に点火、3)バンドがはずれて衛星分離――という仕組みです。

 それに対してDASHの分離は、1)ロケット側が衛星側に「分離をしても構わない」というコマンドを送る、2)それを受けた衛星側が分離コマンドを発行、3)それが衛星を固定しているバンドに伝わって火工品に点火、4)バンドがはずれて衛星分離――という手順です。手順が増える分複雑になり、、結線数も増えますから検査手順も増えるし、当然故障確率も上がります。
 ピギーバックペイロードとして、なるべく2段に影響を与えない設計にしたかったのかも知れませんが、にしても衛星を搭載する以上、どこかが分離コマンドを発行しなければいけないわけで、なぜこのような迂遠なシステムを採用したのか気になるところです。

 私としてはDASH以外の、ロケットがコマンドを発行したシーケンスは全て成功しているのでDASH側に問題があった可能性は高いと思います。

 ともあれ現状ではまだ調査段階で、今後の推移を待たなくてははっきりしたことは言えません。

 一つ確実なのは、現時点で「ロケット打ち上げ失敗」と書くマスコミがあるとしたら、そこはマスコミにあるまじきウソつきであるということです。


 ところで「リレーって何」はあんまりだと思う。リレーを理解できない記者は種子島にきちゃいけないと思うのですが…

No.588 :技術内容に限った会見
投稿日 2002年2月4日(月)16時18分 投稿者 松浦晋也

 理事長など退場の後、丹尾スポークスマンが出て技術的記者会見に入りました。

要点:
・DASHの分離機構は、1)ロケット側コンピュータから、DASHの姿勢安定用ジャイロの起動コマンドと分離をしても構わないというコマンドが出る、2)それを受けてDASH側が分離機構を働かせて分離する――という仕組みになっている。
・ロケット側からDASHへの信号ラインは、1)コンピュータが搭載されている第二段内部、2)フェアリング内の配線、3)DASH内部の配線――という3つの部分からなり、結合されている。
・ロケット側から分離可能コマンドを発行したということを示すテレメトリーデータが送られてきている。

 軌道暫定データは、500km×3万5691km、軌道傾斜角28.5度、MDS-1の分離はノミナルよりも9秒遅れた。

問い:DASHの分離機構を知りたい
答え:(ISAS森田助教授)マルマンバンドとプーラーという機構は観測ロケットでよく使われており実績がある。

問い:夕方のサンチャゴ局の結果いかんでどう運用が変わるのか。
答え:分離していたらミッションを実行する。分離していない状況で電波が受かるとミッション実行は不可能である。電波が受からなかったとすれば軌道の予報精度が悪いかそもそも電波が出ていないかであり、調査を行わなければならない。

問い:シーケンスをもっと詳しく教えて欲しい。
答え:ロケット側からDASHにコマンドが出て、それを受けるとDASHが火工品を点火するという仕組みになっている。

問い:長ノズル化とターボポンプの改良はどのようにLE-7Aに反映していくのか。
答え:長ノズル化は2002年度から開発試験に入る。ダーボポンプについては検討中。ともにいつから打ち上げ機に適用できるかは未定である。

問い:DASHの分離が確認できない理由は、ロケットがコマンドを送ったがDASHがコマンドを受けなかったのか、それともロケット内の伝送経路が切れていたの2つの可能性があると考えていいのか。
答え:(森田)そうだ。しかし後者については整備時の検査記録が残っているので、記録を分析すれば判明すると思う。

問い:検査はどのタイミングで行ったのか。
答え:衛星結合作業時に検査は行われている。極低温試験の後である。

問い:サンチャゴ可視のデータでどうやってフェアリングが分離しているか否かを判断できるのか。
答え:受かった電波の強弱で姿勢がタンブリング(みそすり運動)しているかどうかが分かる。タンブリングしているとしたら、余分な質量が付いているということであり、分離できていないとわかる。

 分離イネーブル信号で、電気的なシーケンサーが起動して指定時刻にサンチャゴに向かって電波を放射する。しかし同時に分離と共に動作するランヤードスイッチがあり、これが動作しないと再突入モーター動作などは行われないことになっている。

問い:失敗したらまたやりたいか。
答え:(森田)やりたい。特に熱防護材の設計が正しいかどうかは確認したい。

問い:今回かなりの人数が種子島で働いたが、3号機以降、低コスト化を目指した作業手順に移行するのだろうか。
答え:(丹尾)その方向で進めていきたいと考えている。具体的な検討項目としては、極低温点検で1段の注排気弁に逆圧をかけてしまったという問題が出ており、これをまた検討するつもりである。また、1号機ではLE-7Aの圧力センサーが打ち上げ後百数十秒で凍結した。これは今回の2号機でも改善が間に合わなかった4号機以降になると思われる。このように直していく部分は多々ある。

問い:MDS-1はロケットの責任で分離、DASHは衛星側の責任で分離ということだろうが、ロケット側の責任で分離すべきだったのではないだろうか。
答え:このような分離手順は他にも例があり合理的な物だと考える。
問い:そのような海外の例をもってよしとするのは問題だろうか。

問い:分離ができないとミッション不能になるのだろうか。
答え:(森田)不能になる。姿勢を正しい方向に向けて正しい噴射を行わなくてはならない。350kgt近いフェアリングとVEP3が付いたままでは適正な噴射が不可能になる。

問い;最後に点数はどの程度か。
答え:(渡辺)1号機よりは手応えがあった。

以上です。