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No.2505 :イプシロンロケット6号機打上げ失敗原因調査状況(2023年2月3日分)
投稿日 2023年2月8日(水)20時58分 投稿者 柴田孔明

 2023年2月3日に開催された宇宙開発利用部会 調査・安全小委員会(第45回) のうち、イプシロンロケット6号機打上げの部分と、その後に行われたフォローアップブリーフィングです。
(※前回と重複する部分などを省略いたします。またリモート開催のため、回線状況等により一部聞き取れない部分があり、そこは省略させていただきました)

・原因究明状況(配付資料より抜粋)

 ・配管圧力のパイロ弁点火信号送出後の1分解能(0.011MPa)上昇は実事象と判断された。
 ・この圧力が推薬弁1動作中に下流配管圧力(フライトデータ)が保持された理由は、パイロ弁下流に数ccのヒドラジンが存在していたためと考えられる。気体のみの場合や水分が存在している場合では圧力は保持されない。
 ・ 「パイロ弁の開動作不良」の故障シナリオ「PCA作動後にラムが仕切り板を完全に打ち抜けず、仕切り板に微小な隙間が発生してブースター燃焼ガスまたは推進薬がわずかにパイロ弁下流に入り込んだ」に関しては、以下に示す追加検証に基づく理由およびパイロ弁の製造・検査データが良好であることを確認したことにより、発生可能性はないと判断した。
・ダイアフラムが液ポートに近接した状態でパイロ弁開動作したときのダイアフラム閉塞可能性を確認するための試験(閉塞確認試験)を実施した結果、閉塞するケースが確認された。

 ・今後の進め方
  ・追加検証および製造・検査データの確認結果により「パイロ弁の開動作不良」は要因でないことを確認した。
  ・「ダイアフラムによる閉塞」に関し、追加検証結果により、+Y軸側パイロ弁下流配管圧力(フライトデータ)の挙動に対して以下が再現されることを確認した。
   1.ダイアフラムが液ポートに近接した場合、パイロ弁開動作時にダイアフラムがタンク液ポートに引き込まれ、下流配管圧力が1分解能上昇して閉塞する。
   2.下流配管にヒドラジンが数cc流入した状態でスラスタ部の推薬弁を開動作すると下流配管圧力が真空圧まで降下せず一定圧力を保持する。
  ・上記により、要因および故障シナリオとして「ダイアフラムによる閉塞」に絞り込んだ。

  ・詳細要因である「ダイアフラムが正常」ケースと「ダイアフラムが異常」ケースに対して、原因の特定と故障シナリオの検討のために追加検証等を実施し、以下を確認する。
   ・「ダイアフラムが正常」ケースで、推進薬充填後のダイアフラムの変性や飛行中の加速度等によりダイアフラムが液ポートに近接する可能性があるか
   ・「ダイアフラムが異常」ケースで、脱落、シール部からの漏洩、破断が発生する可能性があるか

  ・要因として絞り込まれたダイアフラムについては、詳細要因の特定結果に基づき、後継ロケット等への対策を反映し、さらに背後要因(間接的原因)の分析を行い、同様の事象が発生しないよう対策を講じる。

・以下はフォローアップブリーフィングの質疑応答です。
・質疑応答
産経新聞・今日の会合で報告されたことは、失敗の原因がひとつに絞り込まれたということか。
佐藤・12月に報告して以降、各種の試験検証を進めてまいりました。その結果として2つ残っていたうちパイロ弁は消すことができた。ダイヤフラムに絞り込まれたが、まだそれが何故起きたかというところはもう少し詳細な特定を進めていくところが残っていますが、2つのものがひとつに絞られたという形で報告をさせていただきました。

産経新聞・どの部分が原因かは絞りこんだが、何故それが起きたかはというところまだこれからか。
佐藤・ダイヤフラムが出口ポートに近づく状態であれば起きるであろうという、その辺も試験で再現ができたという事です。ダイヤフラムが液ポートに近づくことが何で起きたかは、並行して試験等を続けていいますので、次回に向けて究明を続けたいと考えております。

産経新聞・原因究明は何故起きたかが解明されて完了しなるのか。
佐藤・その状態に持っていきたいと思っています。

NHK・H3のパイロ弁をH2Aで実績のあるものに交換したが、パイロ弁に異常が無かったので変える必用は無かったのではないか。H3打ち上げへの影響はあるか。
佐藤・H3のパイロ弁をH2Aの実績品に交換して打ち上げの最終準備を待っている状況です。あの判断をした時点においてはまだパイロ弁が潰しきれていなかったことで、我々の判断としてはH3の打ち上げスケジュールを逃さないため交換という処置をとったというところでございます。今回の結論はH3の打ち上げに一切影響しないと考えています。

NHK・部品を元に戻す考えも無いのか。
佐藤・はい。試験機1号機をどうするかの議論で交換をさせていただきました。2号機以降は今後検討しますという状態でして、今回パイロ弁が潰れたということで2号機以降をどうしていくかはまだこれからになりますが検討をしていきたいと思います。

共同通信・ダイヤフラムが正常だった場合と異常だった場合の2つに分けているが、正常だったが変性を起こしたというのは、これは設置や製品に異常は無いがその他の原因で歪んだ、ダイヤフラムに異常というのは、設置時点で何か壊れていたということになるのか。
佐藤・液ポートにダイヤフラムが近づいていれば起きるだろうというのが我々が考えているシナリオになります。それがダイヤフラムの部分が正常だった場合か異常だった場合かを追い込んでいる状況でございます。正常な場合、過去のタンク試験等の中でダイヤフラムに多少伸びている状況が起きていて、リブがボートの上にあれば詰まらないが、それがずれる原因になっているかもしれない、そういったことがありえるのではないかと考えているのがひとつ。異常の方は漏洩に繋がるような事があって、9L入れていたが2Lくらいにまで液側が減っているとより近づきやすくなるということが考えられますので、そういったところがどうなのかを今後の試験で追い込んでいく。両方をテーブルに並べて追い込みをかけているという状況です。

フリーランス大塚・下流配管圧力の挙動について、ヒドラジンがあったときに完全に真空にならないメカニズムは、液体があると揮発しているから圧力が維持されるというイメージで良いか。
佐藤・ヒドラジンのスラスタというのは推薬弁の下に触媒がございまして、ヒドラジンと触媒の反応が起きることでガスが発生して推力を得るのが元々のものです。今回非常に微量ですけどもヒドラジンが下流配管に入り込んだことで触媒と反応を起こしてガスが少し出るイメージを持っていただければと思いますが、それによって少し圧が保持されたのではないかと考えています。

フリーランス大塚・ダイヤフラムの検証で、ケース1と2のタンクは実機サイズではないのか。
佐藤・サイズは同じですが、ケース1は切り出したダイヤフラムで、これを設置するために縦置きにしたものです。ケース2は実機と同じ配置の横置きにして、実際のダイヤフラムを入れて試験をしたという違いになっています。

フリーランス大塚・ケース2は実際の状態に近いのは判るが、ケース1をあえてやったのはどういう狙いだったのか。
佐藤・リブは連続的に通っている1本と、放射状になっているものがダイヤフラムの液側に突起があるようなイメージで設置されています。この天頂を通っているリブがきっちり真ん中にあって作動が行われていると基本的には閉塞しない形の造りになっています。これを理想的にリブが真ん中にあるものでやってみたのがケース1aでして、少し形が変わったものを想定してずれるとどうなるかと再現実験したのがケース1bと1cで、テストピースでやったところ少しリブが中心からずれると閉塞するケースがあったのが判ったものです。

フリーランス大塚・ケース1はリブの影響を見るためにやったということか。
佐藤・そうです。まずそこを理想的に配置した状態でどうかというのを確認するのがケース1になります。

フリーランス大塚・ケース2bとケース2cがリブ有りで水が3Lと同じ条件なのに、片方は閉塞してもう片方が閉塞しなかったが、他に条件の違いはあったのか。
佐藤・2aと2bが同じダイヤフラム、2cと2dが別のダイヤフラムで、2種類のダイヤフラムで試験をしています。あと4Lと3L、3Lと2Lで水の充填量を少し変えて、これくらいの組み合わせをやってみたという形です。

フリーランス大塚・2bと2cは種類が違うのか。
佐藤・ダイヤフラムの違うものを試してみたということです。

時事通信・ダイヤフラムの開発供試体による追加検証だが、「3.ヒドラジン未浸漬の差圧等を印可したダイアフラムは全て部分的に塑性変形している」とあるが、実機の条件ではそれくらいの圧がかかるようなことがあり得るのか、それとも試験のためにわざと実機ではあまり無いような圧をかけたものか、どちらなのか。
佐藤・実機の製造の中で組み立てた後に気密の試験をします。そういう意味で加圧をする行為というのは製造工程そのものになります。今回QTタンクは圧力が高いところもあるが、それを切って確認したところ、そういう変形が起きているところが確認された。

時事通信・実機のダイヤフラムが塑性変形している可能性は高いということか。
佐藤・そこが今回判りましたということになります。

時事通信・塑性変形している可能性はあると考えて良いか。
佐藤・はい

時事通信・ヒドラジンに触れていると素材的に変形しやすくなる方向のものか。
佐藤・その辺りはヒドラジン浸漬試験で継続しています。ヒドラジンというのは微量ですけどもダイヤフラムを通り抜けることがあります。そういう意味で多少柔らかくなるようなイメージになって、変形はしやすくなるかなということで、試験でいろいろ確認していたいと思っています。

時事通信・リブというのは盛り上がりみたいになっているもので、平面ではなく凸凹になっているので液ポートに近づいたとしてもその部分で閉塞させないためにあると考えて良いか。
佐藤・まさしくその設計でつけていたものです。

宇宙作家クラブ松浦・今回でだいぶ見えてきたという印象を受けたが、事故調査の場合その向こう側がある。そういう意思決定をした人間の側に問題が無かったか。この場合ですと、スラスタの設計の中に何らかの事故を誘発する要因があったはずで、それを設計段階でどうして見抜けなかったか。アメリカの事故調査の場合、組織の問題が指摘される。そこまでやるつもりはあるか。
佐藤・非常に難しい点だが、我々としても原因を最後に追い込んだときに、それが設計で見過ごされていたのは何故かといった点については深掘りをしていくところは考えたいと思います。それによって後継ロケットで2度とこういうことが起きないようにしていくことが大事で、そういった対応は考えていきたいと思っています。

宇宙作家クラブ松浦・大体の場合、複数のミスか複数のトラブルが重なったときに事故が起きる。今回私なりに見ていくと、まずタンクの流用があり、そのタンクが大きかったので入れるヒドラジンが少なかった。もう一つ気になるのは、タンクの中にゴム膜が入っている構造は、地上ではアキュームレータと言う物を使うが、その使用基準では基本的に縦で使えとある。今回配管の都合で横にしたが、これは加速度の大きい固体ロケットであり、ここに至るまでに危ない方に近づいていく要因が素人の目で見て少なくとも3つあった。これは設計の段階で予見できたのかできなかったのか、あるいは予見できなくても防ぐような人間側の体制を組むべきだったというのがあると思うが、現状でどう考えているか。
佐藤・深くその議論ができているかというと、まだその前の段階かと思っています。加速度の高い固体ロケットで使うということで、最後の潰し込みの中で加速度がかかったことによるダイヤフラムのリブがずれることなどを確認していく予定です。今いろいろおっしゃられたような事がそれぞれの要因となっていると思いますので、それを出した上で、どうやってそれが拾えていたかという点についてはいろいろ考察していく必要があるのかなと思っています。

読売新聞・ダイヤフラムが要因ということで、他のロケットに波及する可能性はあるか。
佐藤・H−IIAとH3の基幹ロケットについて、前回までご報告させていただいた通り、同種の問題は発生し得ない形になっていると確認しております。

読売新聞・イプシロンSは現状どういう設計になっていて、今後の変更の可能性はどうなっているか
佐藤・イプシロンSは打ち上げまで多少時間があるので、この原因究明の結果を受けて必用であれば見直しをしていこうと元々考えておりまして、今回いろいろ絞られてきたことをベースに、次回以降にお話しすることになると思いますけども、どういう設計変更をしていくかというところを考えていこうと思っています。

読売新聞・ダイヤフラムの役割を判りやすく説明願います。
佐藤・非常に簡単に言えば、ガス側とヒドラジンを隔離する膜になります。容量が減っていけば動いていかなければなりませんので、それに追従するようにゴム製になっている。単純に言えば隔膜だということです。

共同通信・FTAの「ダイヤフラムが異常」に脱落とか漏洩とか破断があるが、それぞれどういう違いがあるのか。
佐藤・脱落は、挟み込む形でゴム製のダイヤフラムを取り付けますが、ここに何かの引っ張り力がかかって抜けてしまうのが脱落というイメージになります。ダイアフラムシール部からの漏洩ですけども、シールをする設計になっているが何かしら寸法がずれているとか温度の影響といったことでシールの隙間が出来て、その隙間を通って推薬が気体側に流れてしまうといったイメージのものを漏洩と言っています。破断は何か力がかかってダイヤフラムに穴が空いたといったことになりますと、液側から気体側へヒドラジンが移ってしまいます。そのような異常ケースをいろいろな考えを持って試験をして追い込んでいきたいと思っています。

共同通信・漏洩という言葉はダイヤフラムがドロドロになって流れたということではなくて、ダイヤフラムに隙間ができることで中の燃料が漏洩したという理解で良いか。
佐藤・はい。あくまでもタンクの中で液側から気体側へのリークのパスが出来てしまうということを言っていまして、シールが溶けてしまう事ではない。

NHK・ダイヤフラムが他のロケット使われているのか。H3とかイプシロンSで使うのか使わないのかという点と、諸条件をクリアしたから大丈夫というなら、パイロ弁は判らないが弾いたという理屈でいくならダイヤフラムも判っていないけど弾くとか、原因が判っていないのにダイヤフラムが異常となるなら今後使ってはいけないのではないかと思うが。
佐藤・前々回にH3とH−IIAでの評価を示させていただきました。非公開部分で細かい部分もお話させていただいたが、イプシロンで非常に大変なことが出れば別ですが、設計の中でかなりコントロールされた形で対応が出来ているという事で、そちらの方は問題無いとしております。シールの設計とかそこら辺が違う物を使っておりますので、その設計の違いを含めて基本的に問題無いとしております。イプシロンSは基本的に同じ物を使用していこうと進めてきたところですので、こちらについては今回の原因究明を受けてどうしていくかを今後検討していくことになると思います。

NHK・H3では使わないのか。
佐藤・H−IIAとH3は基本同じ評価です。今回のものとは違う設計のタンクを使っているところです。

以上です。

No.2504 :先進光学衛星「だいち3号」(ALOS3)の記者説明会
投稿日 2023年2月8日(水)20時55分 投稿者 柴田孔明

 H3ロケット試験機初号機で打ち上げられる予定の先進光学衛星「だいち3号」(ALOS3)の記者説明会が2023年2月1日午後にオンラインで行われました。この衛星に相乗りとなっている「衛星搭載型2波長赤外線センサ」の説明も併せて行われています。
(※一部敬称を省略させていただきます。また回線等の関係で一部聞き取れない部分があり、省略させていただきました)

(配付資料と説明より抜粋)
・先進光学衛星「だいち3号」概要
 ・説明者:宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門 先進光学衛星プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 匂坂 雅一

 ・「だいち3号」は、「防災・災害対策など安全・安心な社会への貢献」、「地理空間情報の整備・更新」などを目的としています。初代「だいち」の広い観測幅(直下70km)は維持しつつ、地上分解能を3倍以上(直下2.5m→0.8m)向上させているのが最大の特徴で、センサ性能の実現にあたってはこれまでに日本が培ってきた大型光学系や高性能検出器の製造技術が最大限活用されています。

 ・ミッション機器の仕様
  ・パンクロマチック(白黒)
   観測波長帯:0.52〜0.76μm
   地上分解能:0.8m(衛星直下)
  ・マルチスぺクトル(カラー)
   観測波長帯:
   バンド10.40〜0.45μm(コースタル)(新規)
   バンド20.45〜0.50μm(青)
   バンド30.52〜0.60μm(緑)
   バンド40.61〜0.69μm(赤)
   バンド50.69〜0.74μm(レッドエッジ)(新規)
   バンド60.76〜0.89μm(近赤外)
   地上分解能:3.2m(衛星直下)
  (※新規は初代より増えた分。2号機はレーダ衛星のため搭載機器が違う)
 ・観測幅:衛星直下で70km
 ・運用軌道:太陽同期準回帰軌道高度669km
 ・降交点通過地方太陽時:10時30分
 ・回帰日数:35日
 ・観測時間:1周回あたり10分。
 ・質量:約3トン
 ・設計寿命:7年

 ※コースタルは水中の透過率が良い。磯焼けの観測などを想定。
 ※レッドエッジは植物の健康状態により反射が異なる。松枯れの被害観測などを想定。
 ※光学系の鏡について、初代は3枚だが3号では4枚となる。
 ※地上との直接通信の他、光データ中継衛星を利用可能。
 ※次の「だいち4号」はレーダ衛星となる。

 ※政府の防災に関わる機関からの要望で、災害時に建物が倒れているとか車が通れるかを見るためには1m以下の分解能が必用。水害の場合は30〜50km、地震の場合は40〜70kmの観測幅が必用。

・「衛星搭載型2波長赤外線センサ」ミッション概要(※相乗りミッション)
 説明者: 防衛装備庁 技術戦略部 技術戦略課長 藤井 圭介

 ・2波長赤外線センサ(QDIP)を、低軌道で周回する先進光学衛星に実験的に相乗り搭載し、宇宙空間で実証する。
 ・データ収集を行い、弾道ミサイルの発射探知や情報収集・警戒監視機能への適用可能性について検討する。
 (※QDIP:Quantum Dot Infrared Photodetector (量子ドット型赤外線検知素子))

 ・遠赤外域と中赤外域を1つのセンサで検出可能。
 ・2つの赤外線波長域の特性の違いを利用した高い識別能力が期待される。
 ・宇宙用として実績のある赤外線波長域のMCT光学センサを比較・評価用として併せて搭載する。
 (※MCT:Mercury Cadmium Telluride (水銀カドミウムテルル合金))

・質疑応答
時事通信・方向変更観測モードは、1周回でどれくらいの幅をどれくらいの解像度で撮れるか。
匂坂・普通は軌道上に沿って幅を定義していて、70kmは光学性能の限界でこれを変えることはできない。これを横の方向に振ることによって軌道方向に対する幅を変えることができる。この場合奥行きが70kmくらいになる。計画している能力が発揮されると千キロくらい撮れることになる。分解能は距離によって変わり、直下はほぼ1mを達成するが、両端は分解能が2mから3mくらいの間まで劣化することがあります。

時事通信・幅千キロというのはどのタイミングなのか。
匂坂・中心点から500kmずつ撮れる。奥行きは70kmくらいになる。

時事通信・発災後24時間以内の観測というのは、太陽同期軌道なので1日1回通るが、最悪通り過ぎた後に発災しても24時間以内に幅千キロの観測できるということか。
匂坂・ご理解の通りです。ただ軌道が真ん中ではなく東側を通ると違う場合もある。

毎日新聞・今後のセンサの活用方法の中に弾道ミサイルの探知があったが、具体的にどう探知するのか。上空に居なければ意味が無いと思うが偶然性に頼るのか、今後別の衛星に乗せれば常に見られるようになるのか。また何故だいち3号に相乗りすることになったのか。
藤井・弾道ミサイル探知については、今回の衛星搭載型センサはあくまで研究用でございます。今まで我々が地上で実証していたセンサが宇宙でもちゃんと使えるようになるかが、相乗りさせていただく事業の意義となります。たまたま見える範囲に弾道ミサイルがあれば見つけることは可能ですが、違うところであれば見つけることはできない。どう運用するかではなく、使えるかどうかに事業のポイントがある。経緯については、JAXAと技術的な協定を以前から締結しておりまして、今回衛星を立ち上げられるということで、我々も将来宇宙で装備品を研究開発を進めていく上で実証していく必用がありますので、丁度良いタイミングということで相乗りさせていただいたという経緯でございます。

毎日新聞・まず赤外線センサが使えるかの確認で、ミサイル探知に必用なものとはまた別ということか。
藤井:自衛隊の運用にこの衛星がそのまま寄与する訳ではなくて、技術的に使えるかどうかの実証をするものです。

JSTサイエンスポータル・開発費はいくらか。打ち上げ費用や初期運用費用を区別したいので、含むか含まないかも教えていただきたい。
匂坂・JAXA分で、ロケットと運用費を入れずに開発費という形で約280億になります。
藤井・防衛装備庁ですが今回搭載させていただくセンサを作る経費としては約48億円です。ただその後に試験がありますので、その試験にかかる費用はこれから積算されていきます。

JSTサイエンスポータル・打ち上げ費用はいくらか。
匂坂・試験機1号機のため私の方からは答えられないところになります。

しんぶん赤旗・2波長赤外線センサの運用について、「だいち3号」の運用とセンサの運用にそれぞれ制約が発生することはあるか。
匂坂・相乗りの条件として、ミッションは防災が最大になりますので、ここに対して一切制約が無いことを条件にしています。

しんぶん赤旗・「だいち3号」の軌道上の中で2波長赤外線センサの実証に取り組まれるという理解で良いか。
匂坂・はい。「だいち3号」の運用の範囲内においてセンサの技術的な実験をしていくということです。

フリーランス秋山・観測波長にコースタルとレッドエッジが加わったが、資料の例からすると水産分野がコースタル、林業などにレッドエッジが関わるということか。また資料の例にMaxar Technologiesのサンプル画像があるが、この辺りは商用衛星で求められているような活用例に合わせていった結果が今回の観測波長の追加になったのか、それともランドサットのような公共的な衛星に合わせていったものか。どんな分野からどんな要望が出て来たのか。
匂坂・観測波長帯はレッドエッジは植生という形ですので、松枯れとかナラ枯れとか、田んぼでどんな形で増えているというような種別も使っていっていただけるのではないかと考えています。コースタルは水の中の透過率が非常に良いので、水産の現場で使っていただけるのではないかと考えています。Maxar Technologiesは水産研究所さんのところで、まだ「だいち3号」のデータがございませんので、似たような波長でどういったことができるかを研究されている中でここを使われたと理解しています。

フリーランス秋山・サンプルというのは承知しているが、どんなコミュニティから要望があってこういう波長帯の追加に繋がったのか。
匂坂・難しいところがあって、皆さん欲しいという話と、一方で使ってみないと判らないという話が沢山あります。我々も波長を増やすときにどこが良いかをいろいろ悩んだところで、やはり「だいち」が陸域と申し上げたが、日本は陸域と同時に海洋の部分も非常に多いので、海が活用できるのではないかというところでコースタルを選んでいるところでございます。植物に関しても植林が多く、またどういう植生が使えるかということがちょうどこれが立ち上がった頃にありましたので、いろんなところでヒアリングをした結果としてここを選んだという形になります。

東京とびもの学会・システムブロック図を見るとリアクションホイールが7つと多いが、これの使い方はどうなっているのか。
匂坂・この衛星はそういうところに特徴を持っていまして、方向変更観測をやるためには非常にトルクが必用になります。そのため今日本でトルクを最大に出せるリアクションホイールを使っても7台ないと動かせないという状況で7つ乗っている状況です。

北海道新聞・光学とレーダの併用による活用について、防災・災害の対応について効果と期待を教えて欲しい。次の4号機が打ち上げられると、より高機能高能力になると思うが、3号機と4号機の併用による活用で、防災・災害対応について、どのような期待をしているのか。
匂坂・レーダは一般の方には非常に判りにくい。結果としてどうなるかというところで(資料の例で)、水は反射率が変わるので判るが、それがどんなところかが判らないということで、判読性の良い光学を使って見せている。もう一つ大事なところがレーダは夜間でも撮れることと、雨天でも大丈夫というところがあり、日本の災害を考えましたところでは、最近は豪雨の話が沢山出ているが、その時に残念ながら光学では活躍の幅が狭いのでレーダを活用する。ただレーダは見た結果しかわからないので、例えば土砂崩れで前からどう変わったかを判りやすくするためには、光学で日々撮りためて、それと比較して判りやすくする効果がございます。また飛んでいる時間帯が違いまして、今回は10時半ですが、レーダは別の時間を飛びますので、それで観測機会が増えてくる。今2号も現役ですが、4号が加わればさらにその機会が増える。

共同通信・2波長センサについて、相乗り搭載という言葉だが、「だいち3号」本体に搭載されているセンサではあるが「だいち3号」とは別物という意味合いなのか。またH3の遅れについて防衛装備庁として安全保障での影響は感じているか。
藤井・相乗りにつきましては、JAXAさんが衛星を打ち上げられるというところで、空いているスペースについて我々の方で実験をするためにセンサを搭載させていただくという事でございます。打ち上げが遅れたことですが、当初はもう少し早い段階で打ち上げられるという風なことではありましたが、その後打ち上げが遅れたということで、我々が宇宙で実証しようとしていた試験内容で重複するものを(不明)するとか、あるいはもともと宇宙でやろうと思っていた事を地上でやっても差し支えが無いものもありますので、そこを地上でやって試験期間を短縮してやってきたということです。大きな視点から申し上げますと、もともと自衛隊の運用にこれがそのまま資するものではなく、あくまで実験・研究でございますので、今回の打ち上げの遅れは影響がないということであります。

NewsPicks・新型の基幹ロケットH3に搭載されるということで、初めて乗る人工衛星とセンサというところで、その辺りの所感と期待をお伺いしたい。
匂坂・初号機というところでございますが、他の号機に比べると試験が十二分にされているというところがありますので、特に普通と違っているとは思っていませんが、手順等が新しくなるところは慎重にやらなければならないと聞いています。それ以外は普通の衛星だと思っていますし、JAXAの衛星で初号機はちゃんと飛行しておりますので、私としては特に心配はしておりません。
藤井・今回、宇宙用のセンサを実証するのは我々は初めてでございまして、そういった意味で若干遅延があったが、実際に宇宙の環境でセンサにどのような影響があるのか、ちゃんとデータがとれるのかといったところが実証されていくことを非常に期待している。頑張っていこうという風に思っています。

NewsPicks・手続きの違いとは具体的に何か。
匂坂・大きな流れは全く変わらないが、ロケットが違うとそれぞれ乗せ方が違うとかそういうところがある。作業のところが違っているというだけの話でございます。H−IIAとH−IIBで違うのと同じような事であります。

日経アジア・赤外線センサの衛星からの運用は、これまでやっていなかったのか。また赤外線センサの実証は低軌道だけで行われるのか、将来的に静止軌道でやることも検討しているのか。各国はどう運用しているのか。
藤井・宇宙からの赤外線は我々としては初めてです。静止軌道でやるかについては、今回は高度670km程度から撮影することになる。質問は早期警戒衛星といったものを今後考えているのかという事だと思うが、今回の研究の後のプロジェクトについては、今回の成果をしっかり見極めて、その技術的な検証をちゃんと評価した上で判断していきたいと考えています。

毎日新聞・だいち3号の高度が670km程度だが、現在衛星コンステレーションの技術がここ5年くらいで確立して、スターリンクだけで3400機以上が打ち上がっているが、そういった中で観測への影響は想定しているか。
匂坂・既に上がっている衛星の数が増えてくると衝突確率を気にしなければいけないという事に対して、宇宙状況の監視をしているところから、もしも異常接近等がある場合は事前に連絡をいただけることになっています。数が増えるとその頻度が増えるかなと思っておりますし、そういった場合は回避行動をとりますので、今の段階では大丈夫と思っています。また下を通って邪魔するのは、衛星の速度が7km/sくらい大体出ていますので殆ど影響が無いと今の時点では考えています。

テレビ神奈川・方向変更観測モードが追加されることによって、どんな災害現場をより見つけやすくなるのか。より具体的な例をお願いします。
匂坂・光学センサのモードが変わる訳ではないので、見える物は変わらないことはご理解いただきたいと思います。その上で、普通はこの衛星に限らず光学衛星は軌道進行方向に沿って絵を撮っていくというのが通常の撮り方になります。資料に5つの観測モードがありますが、方向変更観測モード以外は軌道に沿って撮っています。方向変更観測モードにしますと斜めの方向に撮れます。日本の地形が東日本は南北に繋がっているのでいいが、西日本はどちらかというと東西に行っている状況において、こちらのエリアをいろいろ観測しやすくなるという所が具体的な話になってくると思います。

テレビ神奈川・これまで西日本エリアで撮影が難しかった例はあるか。
匂坂・JAXAが光学衛星を初代「だいち」から今までずっと無くて、一時期「つばめ」がいたが殆ど撮っていないので、JAXAとしてはデータが無いのが正直なところです。

テレビ神奈川・今後西日本で災害が発生した場合に活用が期待されるということか。
匂坂・西日本というか東南海から四国にかけてという形がいちばん大きいと思っています。

NHK・解像度80センチは他の大型商業衛星と比べてどうなのか。もっと解像度を上げることができるが災害監視で適切という意味で抑えたのか、それとも限界なのか。
匂坂・防災ユーザーさんの方から、建物の倒壊状況とか通行状況を見るには1m以下の分解能が必用という話をいただきました。我々はまず分解能1m以下というところを考えました。なぜかというと70kmという広い観測幅をとって分解能を上げた場合、データを下ろすことまで考えると非常に難しい。広域と高分解能を両立させるという意味で頑張って80センチになっているところでございます。商用衛星は限られたところを細かく見るので、そういう機能に振れば分解能を上げることは可能だと思います。現実に30センチくらいのものもありますが、一方でヨーロッパの衛星で広域に振っているものは70〜80センチでございますので、バランスをとった結果とご理解いただければと思います。

NHK・これは大型で高解像度で見るものだと思うが、一方で小型衛星のコンステレーションで見ているものがある。それは解像度は高くないと思うが、高頻度で災害のあとすぐ見られる。それぞれのメリットとデメリットを説明してほしい。
匂坂・時間分解能を上げるということで、小型で数が非常に多いのがあって、毎日見れますという衛星もある。分解能が若干落ちるものがあると思いますので、ある地点を時間分解能を上げて見るのは災害の場合は大事だと思いますので、そういう使い方があると思っています。一方でそういう衛星が小型になりますと位置決定精度がどれくらいできるかという所があって、いろいろ大変だと聞いております。今回のこの衛星は地図にも使っていただけるようにそこらも配慮して作っておりますので、もしも日本で一緒にやっていただける所があれば、我々のデータをリファレンスにしていただいてそこら辺の能力を上げていくような考え方もできるのではないかと思っています。ただこれは相手様がいらっしゃってからの話ですし、我々のものがそういう風にできると証明してからでございますので、あくまで私の夢物語と思って聞いていただければと思います。

NHK・計画は無いがコンステレーション的なことはやりたいという思いはあるということか。
匂坂・ひとつの解としてあると思っています。

JSTサイエンスポータル・今回のセンサを実証したあとで、次の実証かあるいは防衛上役に立てるために衛星に搭載配備することは、今のところ未定なのか。
藤井・おっしゃる通りです。どういったデータが今回の研究でとれるか判らないので、とれたデータの具合を見て、どういうことが出来るかを考えていく必用がありますので、そういった観点から今の段階では申し上げることはできないです。

JSTサイエンスポータル・次の実証も特にまだ無いということか。
藤井・おっしゃる通りです。

JSTサイエンスポータル・今回のセンサは実証目的で自衛隊の運用に資するものではないとのことだが、日本周辺では弾道ミサイルの発射が繰り返されていて、実証の中でたまたま熱を探知した場合にたまたま資することになる可能性もあると思うが、その辺りの認識はいかがでしょうか。
藤井・自衛隊の運用は公にはしていないが、おっしゃる通りの可能性はあると思います。たまたまとれたものをどうするかは自衛隊の運用に係るのでお答えはできないところです。

宇宙作家クラブ・今回のセンサはALOS3の運用に制約を与えない前提で相乗りされたとのことだが、逆に観測に支障が無ければ赤外線センサの試験のために姿勢変更等の特別な運用を行う予定はあるか。
藤井・2波長センサは地上で十分に確認した上で最後に宇宙実証が必用という事で今回JAXAさんの衛星に相乗りをさせていただいた。もしこういった機会が無ければ地上で宇宙環境を模擬した環境でシミュレーションをやるのか、あるいは別の手立てでやるのかということについては現時点ではお答え出来ないことになっています。

宇宙作家クラブ・目的に適した特別な観測対象などを用意しているのか。
藤井・今回の実験のために観測するものは特に用意していない。

宇宙作家クラブ・ALOS−3の観測幅は70kmだが、2波長赤外線センサの観測幅はもっと広いのか。
藤井・センサの具体的な性能はお答え出来ないことになっています。

時事通信・光学センサは初代より高性能化しているが、小型軽量化はどうなっているか。
匂坂・望遠鏡でございますので解像度を上げるためには、どうしても焦点距離が長くなってしまいます。初代「だいち」に比べて焦点距離が3倍くらいになっているので、スペックを見ると大きくなっている。光学的制約もあってどうしようもない所であります。そのため大きくなってもできるだけ軽くなる工夫はしているところでございますが、単純に数字だけを見ると大きくなっています。

時事通信・鏡を4枚にすることで折り返しの距離を長くして焦点距離を稼いだのか。
匂坂・それもひとつ入れているところです。もしこの折り返しが無ければもっと長くなります。

時事通信・大型ミラーの80%の質量を除去というのは、初代「だいち」のものと比較してのことか。またこれは素材の軽さで実現したのか。
匂坂・80%というのは、このミラーが中抜きをしていない場合の重量に対して80%まで軽くしているということでございます。80%を抜いて20%の軽さになっているという意味でございます。

時事通信・光衛星間通信を使う事でダウンリンクにとれる時間が長くなると思うが、衛星単体でのダウンリンクの時間に対し、光データ中継衛星を使うとどれくらいダウンリンクの時間がとれるようになるか。
匂坂・1周回と限定させていただくと、地上局から見えている時間は理想的な場合で10分間くらいです。直接だと約10分伝送できる。光データ中継衛星だと1周回の3分の1くらいの時間が見えるので、40分前後見える形になります。通る軌道によって変わりますが、理想ですとそれくらい見える形になります。伝送量としては4倍くらい行けると考えています。

時事通信・10分間の直接のダウンリンクだけだと運用に制約が生じるレベルなのか、10分でも十分いけるが40分の方がずっと良いということなのか。
匂坂・地上局は1局で10分しかとれないが、地上局を沢山確保できれば大丈夫になってまいります。例えば北極や南極付近にある局ですと、ほぼ毎周回見られるというメリットがあるので、高緯度局は手配する形にして、かつ日本でやると2回とれる。そうすると20分くらいデータがとれる。仮に南極にもあると30分とれるという形になっていきます。それに対して光データ中継衛星ですと理想だと40分とれる。地上しかなければ地上局を増やすという手を取らざるを得ない。

ネコビデオNVS・試験用に模擬的に何かを打ち上げて観測するようなものを予定しているか。
藤井・予定していない。あくまでも、あるものを見る。

NVS・サイズ的なものを教えて下さい。
藤井・1.5m×80センチ、重さがだいたい190キロです。

フリーランス秋山・光データ中継衛星中継衛星は軌道上で2年数ヶ月待っている状況だと思うが、光データ中継の実証時期はいつ頃を予定しているのか。
匂坂・LUCAS(Laser Utilizing Communication System)についてはベーキングをしなければならないので打ち上げた直後はできないが、チェックアウト期間中に動作するかどうかの確認はしようと思っています。3ヶ月以内に1回くらいはちゃんと通信できるかというようなことをやりたいと思っています。

共同通信・データをどう活用するかという点で、初代と2号でやっていて、能力を向上した3号で引き続きやっていくという理解で良いか。
匂坂・2号はレーダなので用途が異なっています。初代は運用が終わっていますので引き継ぎは難しいが、地図に関しては継続していきたいと思っています。

共同通信・地図に関しては初代でやっているが、林業とか水産は3号で新しく取り組むという理解で良いか。
匂坂・そうです。ここのところは今回追加したバンドで特に対応しやすくなっていると思っていますので、そういう形で今後の利用に繋げていきたいと考えています。

JSTサイエンスポータル・光学衛星の初代「だいち」が、東日本大震災の被災地を撮影するという災害対応に貢献して、そこには間に合ったが1〜2ヶ月後に運用を終了して、そこから光学衛星による観測が途絶えていた。そこから12年で久々の光学衛星ということで、時間がかかったことへの思いや、「だいち3号」にこめる自身の気持ちなどをお願いします。
匂坂・私としてはデータをちゃんと出せるかどうかが大事と思っているので、今はできるだけ平常心でいたいと思っていますので、初画像が出てからその辺りを述べさせていただきたいと思います。できるだけ早く打ち上げてもらって絵をちゃんと出せるようにするように全身全霊で頑張っていきたいというところです。

以上です。

No.2503 :H-IIAロケット46号機の打ち上げ結果について ●添付画像ファイル
投稿日 2023年1月27日(金)13時24分 投稿者 柴田孔明

 H−IIAロケット46号機は2023年1月26日10時50分21秒(JST)に種子島宇宙センターから打ち上げられ、ペイロードの情報収集衛星レーダ7号機を正常に分離し、所定の軌道に投入しました。
 情報収集衛星レーダ7号機は、同5号機の後継機であり、分解能とアジリティが向上し、データ中継衛星を使った運用ができる点などが強化されています。データ中継衛星の利用については、光学衛星では既に運用されていますが、レーダ衛星ではこれが初めてとなります。

 なお、本来の打ち上げ予定時刻は同日10時49分20秒(JST)でしたが、飛行禁止区域にヘリコプターが入ったとのことで、安全の確認に時間を要したため6分前頃に打ち上げ時刻を変更したとのことです。これは自動カウントダウンシーケンスの前となり、もし自動カウントダウンシーケンスが始まっていると変更できなかったとのことです。またこのヘリコプターについては、これから詳細を確認するとのことです。

 今回の打ち上げ日が悪天候により1月25日から1月26日に変更された関係で、2月12日に予定されていたH3ロケット試験機1号機の打ち上げが2月13に変更されました。打ち上げ準備作業の関係とのことです。

 (※今回は事情により要約したものとなります)


No.2502 :H-IIA F46打ち上げ ●添付画像ファイル
投稿日 2023年1月26日(木)10時42分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット46号機は2023年1月26日10時50分21秒(JST)に種子島宇宙センターから打ち上げられました。


No.2501 :第3回判断もGo
投稿日 2023年1月26日(木)08時53分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット46号機の第3回Go/NoGo判断会議の結果はGo。最終(X-60分)作業開始可と判断されました。

(※上記の投稿時間はサーバー内時間のため、実際の投稿時間と異なります。現状では+1時間すると実際の投稿時間になります)

No.2500 :第2回判断もGo
投稿日 2023年1月26日(木)03時01分 投稿者 柴田孔明

2023年01月26日0時40分頃に連絡があり、H-IIAロケット46号機の第2回Go/NoGo判断会議の結果はGoです。ターミナルカウントダウン作業開始可となりました。

No.2499 :第1回判断はGO
投稿日 2023年1月25日(水)17時58分 投稿者 柴田孔明

16時50分頃に連絡があり、H-IIAロケット46号機の第1回Go/NoGo判断会議の結果はGoです。

No.2498 :H-IIA F46 打ち上げ時刻について
投稿日 2023年1月24日(火)13時27分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット46号機の打ち上げ日時の詳細が決定しました。
2023年1月26日10時49分20秒(JST)です。
(2023年1月24日14時頃の発表より)

(※上記の投稿時間はサーバー内時間のため、1時間ほどずれがあります)

No.2497 :H-IIAロケット46号機打ち上げ前プレスブリーフィング
投稿日 2023年1月23日(月)18時38分 投稿者 柴田孔明

 2023年1月23日午後よりH−IIAロケット46号機/情報収集衛星レーダ7号機の打ち上げ前プレスブリーフィングがリモートで開催されました。今回は事情により要約したものとなります。

・打ち上げ日時については、当初予定されていた2023年1月25日は天候悪化が予想されるため、2023年1月26日に延期となりました。
 打ち上げ時間帯は、10時49分20秒〜10時50分21秒(JST)です。

・今回のH−IIAロケットは202型で、フェアリングは4S型を使用しています。
・天候に関しては、25日午後から回復して26日の打ち上げ予定時間帯は問題無いと予想されていますが、この日も天気は下り坂ということで適時判断を行うとのことです。

・質疑応答では、打ち上げ日が変更されても今期は打ち上げ時間帯は変更が無いことと、延期の要因で最も大きいものは機体移動時の強風といった回答がありました。また、打ち上げ時の降雪は慎重な判断を要するとのことです。

No.2496 :H-IIAロケット46号機の打ち上げ日について
投稿日 2023年1月23日(月)15時03分 投稿者 柴田孔明

2023年1月25日に予定されていたH-IIAロケット46号機の打ち上げは、天候悪化が予想されるため2023年1月26日10時49分20秒〜10時50分21秒(JST)に変更となりました。
※2023年1月23日14時発表
(※上の投稿時間はサーバー内時間のため、実際の投稿時間と異なる場合があります)

No.2495 :超小型探査機OMOTENASHIについて(2022年12月20日)
投稿日 2023年1月10日(火)20時57分 投稿者 柴田孔明

 2022年12月20日にリモートで行われた記者説明会です。H3ロケットの開発状況と超小型探査機OMOTENASHIについて行われましたが、これは超小型探査機OMOTENASHI分です。
(※一部敬称を省略させていただきます。また回線の関係で一部聞き取れない部分があり、省略させていただきました)

・超小型探査機OMOTENASHIについて

・登壇者
 宇宙科学研究所 宇宙科学プログラムディレクタ/宇宙飛翔工学研究系 教授 OMOTENASHI 運用異常対策チーム長 佐藤 英一

 宇宙科学研究所 SLS搭載超小型探査機プロジェクトチーム長/宇宙機応用工学研究系 教授 橋本 樹明

(※以下はJAXA配布資料から抜粋)
・探査機の概要
 ・開発の経緯
  ・2015年8月にNASA より、SLS初号機(後に Artemis Iと命名)の相乗りとして、各宇宙機関にキューブサットのミッション提案をするように要請があった。
  ・JAXAから複数案をNASAへ提案。2016年4月にNASAによってOMOTENASHIとEQUULEUSが選定された。
  ・NASA選定を受けて、2016年9月にJAXA 宇宙科学研究所の部門内プロジェクトとして「SLS搭載超小型探査機プロジェクト」が発足 。OMOTENASHI 探査機は人材育成を兼ねて JAXA若手技術者を中心に、EQUULEUS探査機はJAXA若手技術者と東京大学が連携して開発することとした。
  ・選定当時は2018年秋の打上げ目標であり、 2018年初頭には探査機の引き渡しが必要であった。
  ・その後、SLSロケットの開発遅れから引き渡し日程は延期され、最終的には2019年末までに探査機を完成させて 安全審査資料をNASAへ提出、2021年7月に両探査機をNASAへ引き渡し、SLSロケットに搭載された。打上げは数回延期され、2022年11月 16日に打上げとなった。

  *Artemis Iには13機の超小型探査機が搭載決定されていたが、3機は引き渡しまでに開発が間に合わず、最終的には10機が打ち上げられた。
  *SLS初号機のORION宇宙船は無人であるが、有人機を想定した安全要求が課せられた。

 ・OMOTENASHIのミッション目的。
  1.将来の有人探査と相補的となるキューブサットクラスの超小型の着陸技術を開発し、大学、産業界等の探査への参加の敷居を下げる 。
  2.地球磁気圏外での放射線強度を測定 し、有人探査のための情報とする

 ・超小型 (キューブサットサイズ、11×24×37cm) 、低コスト(従来衛星の数十分の1)、短期間(選定当時では1年半 )による開発が必要とされた。 大きさや重量が限られるキューブサットのやり方を踏襲し、以下の開発方針 とした。
  1.大きさ、質量が限られるため、 NASA の安全要求がある部分以外は、 搭載機器は単系とし冗長系は持たない。
  2.必要なマージンを確保しつつも、リソースやコストを抑えるため、 要求仕様は最低限のものとする。
  3.要求仕様にあう機器が存在しない、あるいは機器開発自体が研究テーマである場合を除いて、できるだけ 既製品の調達 を行う。
  4.宇宙搭載実績が無い、宇宙用に設計されていない 民生機器・部品 であっても、地上試験等によって問題無いことが確認できれば使用する。
  5.宇宙研インハウス開発とし、チャレンジングなミッションの開発を現場で経験する機会を通し、 若手技術者の人材育成機会 として活用する。

 ・打上げ結果及び発生事象概要
  ・2022年11月16日15:47:44にNASAケネディ宇宙センターより打上げられた。その後、同日19:27頃にEQUULEUS、19:30頃にOMOTENASHIがSLSロケットから分離された。
  ・OMOTENASHIは、19:52頃の受信可能時間になってもテレメトリがロックしなかった。NASA DSN局からは「電波強度が弱く、探査機が高速回転しているため、受信しづらい」との連絡あり。
  ・探査機の送信機をハイパワーモードにしたところ、テレメトリがロックした。テレメトリを確認すると、太陽電池(探査機の+Y面)が太陽とほぼ反対側を向く姿勢になっており、探査機がY軸回りに毎秒約80度で回転していた。この回転速度は、姿勢制御装置の制御可能範囲を超えていたため、太陽捕捉制御が途中で止まっていた。
  ・太陽捕捉制御を行うため、探査機の回転速度を許容値以下まで落とす運用を行ったが、バッテリー枯渇に間に合わず、その後、探査機電源はオフになったと思われる。以降、探査機との通信が出来ていない。
  ・なお、同時に打ち上げられたEQUULEUSは正常に動作しており、予定通りの軌道制御に成功し、現在、月〜地球系のラグランジュ点(EML2) に向けて航行している。

  *NASAから公式な分離時刻は公表されていないため、EQUULEUSのテレメトリデータ等からJAXA にて推定した時刻。
  *正常に初期姿勢制御シーケンスが進んだ場合、太陽捕捉完了までに最大10分、その後探査機は12分周期で回転するように設定しており、6分受信可能/6分受信不可能の状態を繰り返すため、地上で電波が受信可能になるのは最長 22分後と予想していた。
  *探査機分離時は日本から可視で無いため、 NASA Deep Space Network (DSN) 局に追跡依頼していた。

・異常発生の要因分析

 ・「約5分間で0度/秒から80度/秒まで回転が加速」をトップ事象にした FTAを実施。
 →ガスジェットスラスタの異常:ガスジェットスラスタの異常による力が発生したとすれば、今回の現象を説明可能。

 ・「ガスジェットスラスタの異常」について、詳細FTAを展開。
 →スラスタバルブからの液体推進薬リーク:スラスタバルブが閉止しなかったことにより、長期保存中にプレナムに溜まった液体推進薬がリークしたと考えれば全ての事象が説明可能。
 (※プレナム部に液体ではなくガスのみが溜まっていてそれが漏れた場合は80度/秒には達しない)

 ・スラスタバルブからの液体推進薬リークの背景要因
  ・バルブの特性上内部バルブからのリークにより液体推進薬がプレナム(ガス貯め)に移動することが有り得ることを把握したが、ミッション遂行上、許容可能なレベルと判断した。
   推進薬充填(2019年9月)から打上げまでの約3年間に、内部バルブの微小リークによって液体推進薬がプレナム部に存在した状態 になっていた。
   プレナム内の液体の存在は圧力モニタにより確認していたとともに、プレナム部に液体が存在しても正常に実行可能なレートダンプ制御のアルゴリズムを実装した。初期フェーズ後の軌道制御は、プレナム部の液体を地上からのコマンドにより排出してから開始することで正常に実行可能と判断 した上、NASAへ引き渡した。

 ・故障シナリオ推定
 1.ロケットからの探査機分離時に、姿勢制御装置(リアクションホイール)では吸収できない大きさの分離外乱が発生[推定・正常]
 2.自動レートダンプ制御アルゴリズムによりガスジェットスラスタ噴射 (3年ぶりのスラスタバルブ動作) [確認・正常]
 3.機体角運動量が低減 [推定・正常]
 4.レートダンプ制御が終了、ガスジェットスラスタの電源OFF[確認・正常]
 5.電源がOFF状態では閉止するはずのガスジェットスラスタのスラスタバルブのいずれかが何らかの理由で十分に閉止しなかった[推定・ 異常]
 6.プレナム部に溜まっていた液体推進薬がスラスタバルブからリーク[推定・ 異常]
 7.液体推進薬がノズルから放出され、機体の回転を加速 [推定・ 異常]
 8.約5分かけて機体が約80度/秒の回転に陥った [確認・ 異常]
 9.太陽捕捉制御が行えず太陽電池に太陽光が当たらない姿勢で回転を続けた [確認・ 異常]

 ・スラスタバルブが閉止しなかった要因の推定
 (※このスラスタはスラスタシステムとして調達したもので、基本的にはブラックボックスであり、ユーザー側では中に手を触れることができない)
  ・ガスジェットスラスタ電源OFF時にスラスタバルブが閉止しないという事象は、地上試験・推進薬充填時には発生していない。
  ・スラスタバルブが閉止しない事象が軌道上で初めて発生した原因の候補として、推進薬充填から探査機分離までの3年以上に及ぶ待機期間におけるバルブシール特性の劣化や、コンタミネーション(微小な異物)の影響が挙げられる。
  ・入手可能なデータからはこれ以上の原因究明は困難であるが、スラスタバルブが閉止しない事象が再び発生する可能性を考慮し、復帰運用時の対策案検討を実施する。

・今後の対応
 ・本件を通したレッスンズラーンド
  ・異常事象の原因と考えられているガスジェット推進装置については、調達後にJAXA単独にて推力測定試験等を実施し、健全性を確認していた。しかし新規開発・新規採用の機器については、機器の特性・取り扱いなどについて最もよく理解している製造メーカとの十分なコミュニケーションが必要。
  ・超小型の機器を ブラックボックスで使用することには一定のリスクを有する。リスクを十分に認識した上で、対面での打ち合わせ機会を定期的に設けるなど、製造メーカと十分な調整が行えるような調達とすることが重要。
  ・超小型探査用の機器はまだ黎明期にあり、システム設計の根幹となるキー機器については、超小型機の自在性確保のため、入手性の向上を検討することが重要。
  ・特に相乗り宇宙機は、ロケット側の都合により、今回のような想定以上の長期間に渡り待機・保管を要することが起こり得る。その際、各機器への影響について、十分な評価を行う必要。

 ・水平展開
  ・当該ガスジェット推進装置は超小型衛星(キューブサット規格)の機器であり、これを使用しているJAXAプロジェクトはない。今後の計画へ向けても注意ができるよう、JAXA内でレッスンズラーンドとして共有する。
 ・本事象に関する知見については、超小型探査機コミュニティ内でも共有・対話を行い、今後の研究開発に役立てる。

・今後の運用予定
  ・月フライバイまでに探査機電源が復旧しなかったため、月着陸実験は断念した。異常事象発生時の姿勢が保持されているとすれば、太陽電池に太陽光が当たり始めるのは2023年1月中旬以降。最も太陽角が小さくなるのが4月中旬と計算されている。探査機電源が起動する発生電力確保がいつになるかは、現在、解析中。
  ・探査機電源が起動するであろう時期から運用を再開する。現状、軌道推定誤差が大きいので、運用再開時にはアンテナ方向を変えて探索する運用が必要と考えている。
  ・運用再開後は下記のような観測、実験を実施したいと考えている。
   ・地球磁気圏外の放射線計測の継続
   ・固体ロケットモータ点火実験
   ・薄膜太陽電池の発生電力確認
   ・姿勢制御装置の詳細機能・性能確認
   ・UHFアマチュア無線通信実験(比較的近距離で実施できる場合)
  ・ガスジェットスラスタの推力もれについては、慎重に地上からのマニュアル運用を行うことにより、対処可能であると考えている。
  ・なお、運用異常の原因究明活動は現状得られた情報では一定の結論を得たと考えているが、復旧運用後に新たな情報を得られた場合、それらを踏まえ、必要があれば追加の原因究明活動を行うことも想定している。

 ・まとめ
  ・今回はOMOTENASHIについて運用異常が発生し、皆様のご期待に応えることができず大変残念に思っております。
  ・未だ復旧及び一部実験の実施ができる可能性が残っているため、当面は復旧へ向けた準備にしっかり取り組む所存です。
  ・昨今、衛星計画が大規模化・長期化し、頻度の低下による人材・産業技術基盤の脆弱化が課題となっています。キューブサット等の超小型宇宙機は大きさや重量が限られ、リスクは伴うものの、低コスト・高頻度で挑戦的なミッションを行える可能性があり、日本の宇宙開発にとって引き続き重要と考えております。
  ・宇宙研にとってもキューブサットを用いた超小型探査機への取り組みは始まったばかりです。今回の運用異常をレッスンズラーンドとし、超小型探査機の強みを失わず、より確実な開発が実現できるよう、今後一層気を引き締め、努めて参りたいと存じます。

・質疑応答
時事通信・FTAで浮上してきたガスジェットスラスタだが、メーカーや使用実績などをわかる範囲で教えて欲しい。
佐藤・メーカーはアメリカのバルブメーカーのVACCO社になります。使用実績は購入時に超小型の探査機で採用されているという情報を得て採用したものになっております。

時事通信・バルブは何個あるのか。
佐藤・2セットで、全部で8つあります。

時事通信・プレナムも2つあるのか。
佐藤・2セットあります。

時事通信・ノズルひとつから漏れていると考えるのが自然なのか。
佐藤・バルブは並進(?)用と回転用で2つずつあります。回転用のバルブが2個ありますが、そのうち1つか2つ共かは今は特定出来ませんが不具合を起こしたと考えています。

時事通信・問い合わせに対して答えてくれる可能性はどれくらいあるか。また類似した事案はあるか。推進剤が液体の状態で漏れることにより、何かの成分が析出するなどで閉まらなくなるなどはあるか。
佐藤・開発段階もそうですが、不具合を生じてからも当該のベンダーとはよく情報交換をして、状況とデータもお伝えするし、話もしているところです。ただ情報源はこれ以上無いので、なかなか難しいと思います。析出ということに関しては、これは推進薬がフロンなのでそういうことはたぶん無いじゃないかと言えると思います。

時事通信・漏れによって閉まらなくなるのはどういうことがあり得るのか。
佐藤・そこは全くわからないとしかまず申し上げられないが、閉まらないので吹き出したというところで、吹き出したからより閉まらないかはまだわかりません。

NHK・液体がバルブから吹き出ることで、姿勢を変えることができなくなるほどの力が発生するのは、どれくらいの量の液体フロンが出たら今回のような現象が起きるのか。
橋本・そういう状態で試験をしたことがありませんので判らないところですが、基本的に推力というか反力ですが、質量×速度で利いてきますので、同じ速度で噴射するとガスで噴射するよりは液体で噴射した方が反力が非常に大きくなります。計算してみますと、ガスの状態で噴射したとすると、プレナムの部分に満タンにガスが入ったとしていて、その分が全部抜けてたとしても秒速80度という加速はしないだろうとなっています。液体であれば十分このくらいは加速するという計算になっています。実際にどれだけ液が入っていたのかわかりません。推力が何倍になるかというのも判ってはいないところですが、他の基礎的な実験のデータからすると、4倍とか5倍とか、最大10倍くらいは推力が出る可能性があると言われています。

NHK・それなら液体ではなくガスがノミナルなのは何故か。消費量の問題か。
橋本・効率が悪くなります。ガスで出せば推進剤の消費が少なくて力を出せます。液体だと力は強いが、そのぶん沢山の質量を出すということですので、効率は10分の1以下に物凄く下がります。みんな液で出てしまうと計画していた軌道制御はできないということになります。ですので通常はガスで使わなければならないが、液体の状態であってもそれをうまく排出すれば、このプレナムに入っている量は全体に比べると非常に小さな量ですので、そこの分の損失は全体のミッションには影響しないと我々は考えておりました。

読売新聞・ガスと液体は同じ速度で噴射するとのことだが、スラスタの電源が入っていないのに閉まっていないから漏れたとすると、漏れただけでそれだけ強い推進力になるのか。電源が入っていて液体を吹き出したら強い反力になるのは想像できるが、リークという状態でもそれだけの推力になるのか。
佐藤・この推進系の特徴は、タンクに液体と気体が圧力で平衡した状態でたまっていて、自分の蒸気圧で自分で吹き出す設計になっています。ですから穴があれば自動的に吹き出して推進力を出すということになります。

読売新聞・アメリカ製とのことだが、以前の説明会の資料でVACCO社のものと記載があり、そこに無毒のガスを使用している等いろいろ書いてあるが、他の相乗りキューブサットの数機が採用しているという表記がある。今回の相乗りキューブサットにいくつか失敗事例があるが、これを採用したキューブサットで同じような事象が起きているかは確認されているか。
佐藤・同じようなバルブが採用されていることは公表されているが、それがどのように動作してうまくミッションがいったかいかないかは、正式には公表されておりませんので、申し訳ないですがそこは我々からお答えする立場にないということでご理解いただきたいと思います。

読売新聞・無毒のガスを使用しているのが特徴だと思うが、これは有人用の宇宙船に相乗りする場合に無毒のものは大事になると思うが、無毒のガスを使用しているものはVACCO社以外にも選択肢があるか、それともこの会社特有の技術なのか。
橋本・キューブサットは学生が開発することもあって、安全上のこともあって、無毒というのがほぼ前提のような形になっています。いろんな推進剤がありますが、それぞれ特徴があって、効率がいいものとか、推力が強いものとか、そのかわりサイズが大きくなってしまうとか、いろいろあります。今回のOMOTENASHIの要求は特にサイズで、ギリギリの状態で機器を詰め込んでおりますので、あのサイズに合うもので、かつこちらの要求性能を満たすものは、少なくとも選定時点ではこれ以外は無かったというところです。

読売新聞・コンタミの可能性があるとのことだが、気液平衡状態の中で3年の間に混入するのは、素材の剥がれ落ちとかをイメージされているのか、それが弁の所に挟まるような形で閉まらなくなったというイメージか。
佐藤・(資料の図より)燃料をプレナムの上の充填口からタンクに注入することになっています。そこにもフィルタはつけて作業して手順を確認してやっていた訳だが、そこで何らかの異物が入った可能性は否定できないということで、コンタミかもしれないと申し上げました。

読売新聞・コンタミは弁にはさまるというイメージか。
佐藤・ここではそのようなイメージを持っています。

共同通信・プレナムへの微小な漏れは想定していたとのことだが、3年間あったということで、漏れてたまっていた量が予想より多かった可能性はあるのか。
橋本・何をもって予想というかだが、プロジェクト側としては最悪値ということで、プレナムのタンクいっぱいに漏れるのが最悪値です。いっぱいに漏れても適切に排出運用すれば以降のミッションに影響しないと考えておりました。

共同通信・打ち上げの延期が繰り返されたことでプレナムにたまった量が問題なのではなく、バルブの不具合という整理の仕方で良いか。
橋本・根本原因はバルブの不具合だろうと想定しております。

共同通信・アメリカのメーカーとのことだが、ガスジェットスラスタのバルブだけを担当しているのか、スラスタ全体を担当しているのか。
橋本・推進装置そのものです。ですので、内部について我々はわからない。箱として購入している。箱の中がどうなっているかはわからないが、ブロック図として大体こういう構成になっているとは聞いていますが、詳細については箱の中なので外から見えませんのでわからない。

共同通信・ガスジェットエンジンをまるごとということか。
橋本・はい、その通りです。

共同通信・このメーカーはJAXAやISASで実績はあるか。
橋本・JAXAの他の部分は、私は必ずしも把握していないので何ともわからない。この装置自体はキューブサットをやったのが今回のOMOTENASHIとEQUULEUSが初めてですので、それは初めてだと思います。ただこのメーカー自体はいろんな製品を出していますので、私は把握していないところです。
佐藤・宇宙用のバルブメーカーはかなり数が限られています。その中の有力なメーカーのひとつです。

共同通信・本件を通したレッスンズラーンドに「新規開発・新規採用の機器については、機器の特性・取り扱いなどについて最もよく理解している製造メーカとの十分なコミュニケーションが必要」とあるのは、これを使うのは初めてだったがあまりコミュニケーションができていなかったという整理の仕方で良いか。
佐藤・ここで新規と申し上げたのは、このスラスタシステムを調達したのが我々にとって新しかったという意味です。我々としては初めてこのシステムを使ったということです。基本的にはこのシステムで購入していますので、中に関しては基本的には細かい開示を受けるような条件は無い契約になります。ですからここで申し上げているのは、それはしょうがないが、その上でできるだけ情報を出してもらえるような交渉をやったら良かったのだろうなということです。

共同通信・資料の推定原因で、2019年に推進薬を入れて3年と長い期間が経ったということで、想定をしていなかった長い待機期間が今回の不具合に影響した可能性が考えられるという整理の仕方で良いか。
佐藤・(推定の資料は)プレナムにガスだけでなく液体がたまっていた、それがかなり多かったかもしれない、その理由は何だろうかということを分析したことになっております。

共同通信・資料に「3年以上に及ぶ待機期間」とあるが、3年間も推進薬を詰めて待機したのは想定外だったという理解の仕方で良いか。
佐藤・こちらはスラスタバルブの方でございます。不具合を起こしたバルブはその待機中に何かあったのかもしれないという一般的な理由の一つを書いているところです。もともとは非常に短期の開発と打ち上げという計画ですので、それに対して3年間も待機させられるのは最初の計画には無かったことです。

フリーランス大塚・プレナム内に液体があった場合、気液が混じった状態で噴射するので推力が大きくなるとのことだが、最初のレートダンプは正常に終了していて推力は想定内との記述もあったので、それとの整合性がよく判らなかった。これは最初は気体だけうまく抜けていたが、回転が収まってから液体が片側に寄っていって、そこから一緒に出るようになって加速が始まったのか、あるいは気液が混じった状態でもうまく制御できるように工夫していたのでレートダンプは正常に出来て、そこから閉じなくなったことを原因として加速したのどちらか。
橋本・どちらかというと後者です。といいますのは、プレナムに液が入る可能性はあると考えておりましたので、レートダンプのロジックは推力が10倍大きくなっても成り立つように、非常に抑えめにやるロジックになっておりました。ですのでレートダンプが正常に終了したのは、推力が大きかったかもしれないし、ノミナル通りだったかは今となってはわからないというところです。

フリーランス大塚・テレメトリで、累積の噴射時間がA1とA3のスラスタが6秒くらいでいちばん長いので、これからすると分離時の外乱はX軸の回転がいちばん大きかったと考えれば良いか。
橋本・その通りです。我々もこの噴射秒時から考えて、ロケットからの外乱自体はX軸が多かったのではないか。ただし実際どれくらいの推力が出たかわからないので何とも言えないが、推力がノミナルだったとすれば、分離時の外乱は毎秒10度以内と言われていたので、その範囲かなとなります。分離時の外乱はこれから見ると恐らくX軸まわりだったと思うが、見えたときにはY軸まわりに凄く速いレートで回っていたというのが現状です。

フリーランス大塚・X軸まわりの回転を抑えて、それが漏れて止まらなくなって逆のX軸まわりに行ったならすっきりするが、X軸まわりの回転を抑えてからY軸に回ったのは謎だと思うが、スラスタが一つか二つが漏れているという話だったが、二つなら綺麗に回転すると思うが、一つでも綺麗にY軸まわりの回転になることはあり得るのか。
橋本・そのことを当初我々も、二つが均等に漏れないかぎり綺麗に回らないのではないかということで、そんな偶然の故障があるかということを気にしていた。実は液体の推進薬が入っていますので、専門的に言うとニューテーションダンプの効果というものがありまして、Y軸以外の軸まわりにある程度の回転があっても、時間が経つと全部Y軸まわりに戻って来るということがありますので、見えない時間帯、テレメトリが無い時間帯だったので詳しくは判らないですけれども、恐らくそういうことがあれば1個のスラスタが漏れているだけでこういう現象は説明できると考えています。

フリーランス大塚・最初の数分でニューテーションダンプは起きるのか。
橋本・エネルギーが減衰するとニューテーションが収まっていくが、スラスタの中身が判らないので、その係数もわからない。

フリーランス大塚・2019年9月に充填してから2021年7月に引き渡すまで2年くらいあったが、その間に再充填や漏れているものを抜くことをしなかったのはNASA側の審査の事情なのか、技術的な理由があるのか、それとも問題が無いから何もしなかったのか。
橋本・ひとつはNASAの安全審査の要求がありました。2019年の12月までに振動試験など全ての環境試験を終えて、その安全審査データを出さなければならない。それ以降に手を加えてしまうと安全審査のやり直しになり、当時の搭載に間に合わないので、その場合は載せないと言われていました。ということもあり2019年12月までに完全に試験を終えてFixしなければならないので、逆算していくと9月の時期に推進剤を入れるのがラストチャンスに近かったので、そこから手を加えることができなかった。一方で何か問題があればNASAと交渉することもあったが、我々としてはプレナムに漏れていても液を捨てる運用を慎重に行えば可能だと考えておりましたので、そのままとしたというところです。

毎日新聞・調査結果の受け止めをお聞きしたい。当初の月着陸を断念して、いくつか想定される原因があったと思うが、それと合致していたのか。またNASAの受信強度データを見て感じたことは何か。
橋本・原因に関しては、これだけ大きな回転を生じさせるものはガスジェット推進装置以外には無いだろうと考えていましたので、プロジェクト側が考えていたこととほぼ同じかなと思っています。ただ我々としてはスラスタバルブからガスなり液なりが出るということは、地上試験のことから考えるとちょっと考えづらいかなと思っていましたので、独立した先入観の無い専門家によってFTAでこういう風に絞り込またというのは、我々の推測とも一致していたので納得しているところです。テレメトリデータは当初無かったので、何が起こっているか、ガスジェット推進装置が怪しいかなというのはあったが、何のデータも無かった。このデータをいただけたおかげで、しかも綺麗に振幅が見えて、回転数が上がっていくのが見えていますので、これでかなり核心に近づけたので、このデータは非常に貴重だったと思います。

ライター林・スラスタバルブが閉止しなかった要因の推定のところで、「3年以上に及ぶ待機期間におけるバルブシール特性の劣化」ということについて、当初は非常に短期間で打ち上げられることを想定していたということだが、このバルブシールが何年くらいで劣化する可能性があるというような情報はメーカー側から提供されていたか。
佐藤・不具合後にメーカーに確認はしたが、メーカー側の見解としては、これの耐用年数はもっと長いものであると、メーカーから出て来ております。

ライター林・3年程度では劣化しないということか。
佐藤・メーカー側の第一報としてはそう主張しているところです。

ライター林・一般的にこういったバルブシールは3年くらいで劣化する可能性も考えられるのか。
佐藤・そのシールの環境に大きく依存しますので、寿命の評価は非常に難しいところがあります。もっと高温しにて加速試験をしてみれば短い時間で劣化するようなことも言われていますが、この条件でどうだったかというのはまだよく判りません。

ライター林・可能性のひとつとしてここに書かれているのか。
作動・バルブが不具合を起こしたとすれば、まずこういうことを考えるかなというところを書かせていただきました。

ライター林・コンタミネーションの方は3年間に及んだというよりは、充填の過程でそういうものが混入した可能性があるということで、待機時間の長さには関係無いということか。
佐藤・はい、そう思っています。

ライター林・今後の実験について放射線の計測はぜひ実施したいとのことだが、他に4種類の実験があるが、これは条件によって実施されるかが異なってくるのか。例えばアマチュア無線通信は世界の方が参加できると思うが、比較的近距離というのはどれくらいを指すのか。
橋本・アマチュア無線の距離については、どこまでならできるかを計算しているところです。軌道としては地球からどんどん遠ざかっていまして、もともとアマチュア無線は月までの通信ということで、月までしか想定していませんでしたので、現在でも月との距離の3〜4倍も行ってしまっていると思います。これはいつ復旧するかに依存して、最も早く2月とか3月に復旧すれば、ある程度大きなアンテナならば受けられるかなと思っている。4月、5月、6月くらいになるとまず届かないだろうと言われています。いつ復旧できるかの時期に依存しております。

ライター林・他の実験はどうか。
橋本・個体ロケットモーターの点火実験に関して言うと、基本的にできると考えているが、点火してもそれをどうやって確認するかが必要になってきて、もともとはアマチュア無線の電波が継続して出ていて、月面に着陸するということをもって固体ロケットモーターが点火して速度が変わるところを見る予定だったが、アマチュア無線が届かないとなると確認できるか微妙なところなので、ここはどういう手段でこれを確認するかを検討中です。ですが、恐らく出来るとは思っています。

ライター林・アマチュア無線が届く範囲なら点火したことが確認できるのか。
橋本・もちろん出来ますし、アマチュア無線が届かないところでも点火だけであれば、点火の瞬間に恐らく外側のOrbiting Moduleが破壊されるだろうと思うので、そこで電波が来なくなれば点火したことが判りますし、もし生き残った場合は点火の衝撃で周波数が多少揺らぐので、その辺りを見れば点火を確認できると思います。ただどういう条件で確認するかは、今まで計画で考えていたことと違うことをしないといけないので検討しているところです。

ライター林・OMOTENASHIの狙いとして若手研究者の参加というのがあったが、原因究明も含めて運用とか、若手研究者の方がどういう学びがあったとか、何かコメントは出ているか。
橋本・コメントなとばなく、淡々と次の復旧運用に向けてそれぞれの専門分野で検討しているところです。私から見ると、こういうあまりあってはほしくないことですけども、数少ないこういう状況に遭遇したということで非常に勉強になっているところはあろうかという風に思います。一方で成功体験ができなかった、計画通りのことを実施してその通り出来たという体験ができなかったというところは非常に残念に思っています。人材育成というのは非常に難しくて、どういうことを勉強するのが育成かというところが、それ次第かなと思っています。
佐藤・対策チームの方においても、メインの検討チームとは別に並行対策チームを若手で結成して、独自の分析をしてもらいました。それを後で突き合わせて議論をした。そういう意味で、本当に実地の訓練に非常に有効になったことも申し添えたいと思っています。OMOTENASHIのプロジェクトチームですけども、運用に関してもOMOTENASHIのチームだけではなくて、JAXA全体で若手で運用を実際にやってみたいという希望を募って運用チームを作って運用をしております。本当にインハウスで運用していましたので、OMOTENASHIのチーム以外の若手も参加して実地の経験を積むことができました。

共同通信・今回、電源OFFだったがスラスタバルブから漏れたとのことだが、受信データの解析ですと自動で電源がONになってレートダンプが作動してかなり加速したと理解したが、これは電源がONになってから漏れが増えて加速が増したと捉えていいのか、それとも電源がONになったときは回転が落ちていてデータとして捉えられたのが4〜5分後だったのか。
橋本・資料(12ページ)に書かれている電源ONというのは、探査機本体の電源ONという意味です。探査機の電源がONになってから、搭載計算機がONになったり姿勢制御装置がONになったり、自動的にいろんなシーケンスがなっていくが、ガスジェット推進装置自体は必用な時だけONする、使わないときはOFFするという設定になっていますので、自動レートダンプ制御が作動したらONになる。十分回転が小さくなって必要が無くなればOFFにする設定になっています。どこでOFFにしたかがテレメトリデータが無いので判らないところで、図でもどこでOFFになったか判らない。それから加速自体もどこからスタートしたか、最初の大きな山(電波強度の変動)が、レートダンプの最後のところで姿勢が変わったのでこういう山になったのか、ここからガスが漏れ始めて回転が始まる最初のところなのかが、これだけでは判断がつかない。ということでガスジェット装置がOFFになったにもかかわらず推力が出続けていたのは後ろの方を見れば明らかですが、ONの時から出始めていたのか、OFFになってから出始めたのかは、これからは判らないところです。

共同通信・バルブの開け閉めは、完全に開いている状態か完全に閉まっている状態だけなのか。それとも中間状態はあるのか。
橋本・中身を我々は知らされていないので確実なところは判らない。仕様上は開くか閉じるかのどちらかの状態となっていますし、そういう前提で我々は使い方を考えていました。

共同通信・イメージとしては閉のときはシール部分で塞いで、開のときはシール部分が動いて流れるのか。
佐藤・バルブは一般的にON/OFFバルブだと考えております。シール部はいろんな形状があると思うが、当たって流路が塞ぎ、動作するときはそれが下がるなどして流路が開くという動作だろうと、バルブは大体そういう風になっております。

共同通信・普段はシール部分で塞いでいて、ONになったらシール部分が動くなりして流路が開くのか。
佐藤・はい。バルブ不具合とよく言われるのは、シールで閉めたと思ったところにコンタミが噛み込んでシールができなかったというのはよくある不具合のひとつになります。

共同通信・タンクに入った液体が内部バルブで温められてガスとしてプレナムにたまって、ガスの状態でノズルから吹き出すという理解で良いか。
橋本・それで間違いないです。

以上です。

No.2494 :H3ロケットの開発状況に関する説明会(2022年12月20日)
投稿日 2022年12月31日(土)21時12分 投稿者 柴田孔明

 2022年12月20日にリモートで行われた記者説明会です。H3ロケットの開発状況と超小型探査機OMOTENASHIについて行われましたが、これはH3ロケット分です。
(※一部敬称を省略させていただきます。また回線の関係で一部聞き取れない部分があり、省略させていただきました。なおこの説明会の段階ではH3の打ち上げ日は発表されていませんでした)

・H3ロケット開発状況について
・登壇者
 宇宙輸送技術部門 H3プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 岡田 匡史

・H3ロケット試験機1号機の開発状況(※配付資料より抜粋)

 ・LE-9エンジン認定燃焼試験(QT)
  ・QTの試験目的
   ・タイプ1エンジンを確性対象として、エンジン組立及び主要部品がフライト用に使用しうる機能・性能を有すること、並びに製造・検査設備および製造工程が適切であることを保証。
    ※タイプ1エンジン:LE-9エンジンは2段階開発であり、このうちタイプ1エンジンは試験機1号機に向け、早期に認定を完了(実績のある機械加工噴射器等を適用)
  ・試験方針
   ・早期のTF1打上げに向け、QTを前/後半に分割し、その間にTF1用エンジン2台の領収燃焼試験(AT)を実施。
   ・比較的手戻りが発生しやすい作動範囲確認はQT前半に行い、後半では寿命実証を行う計画とし、QT後半での手戻りのリスク(再ATのリスク)を抑制。
    ・一部スロットリング燃焼を計画し、TF2用エンジンのバックアップとしての機能を確認。
    (※1号機ではスロットリング燃焼はしないが、2号機用のエンジンを1号機のバックアップとして用意しており、いざという時に2号機用のエンジンを1号機に使う。かつ2号機にも使い回せる。2号機ではスロットリングが必用なのでタイプ1エンジンでもスロットリングの機能を持っている必用がある)

 ・1段実機型タンクステージ燃焼試験
  ・データ取得の結果:計画していた以下の主要検証項目につき、必要なデータを取得。
  ・準備の機能:結果良好
   ・VABから射点への移動、電気ケーブルや配管の接続。
   ・推進薬などの充填。
   ・風解析と飛行プログラムへの反映。
  ・カウントダウンの機能:結果良好
   ・エンジン(LE-9 )着火
    :着火時間11月7日16時30分、燃焼時間25秒(計画値:25秒)
  ・飛行中の機能:結果良好
   ・エンジン燃焼、推進系機能、推力方向制御機能。
   ・射点(エンジン燃焼状態)でのロケットと追尾局との通信。
   ・エンジン燃焼中の振動・音響の確認。
  ・試験データを詳細に評価した結果、所期の目標を達成したと判断し、CFTを完了。
  ・現在、CFTで抽出した改善事項等について順次反映中。

 ・CFTで抽出した主な改善事項例
  ・大小様々な改善・反映事項を抽出。主なものは以下のとおり。
  (1)1段液体酸素加圧配管接手部の漏洩(試験後)
   ・液体酸素/液体水素充填時のタンク熱収縮により加圧配管が変形し、これに伴い接手部に発生した荷重によりシールが変形。試験後の常温復帰時、配管の変形が戻った際に接手に隙間が生じ、変形したシールの隙間から漏洩したものと推定。
   ・接手を設計変更した一部の配管を交換するとともに、ボルト締め付け等の手順を変更。
  (2)1段液体酸素タンク上部ドーム部リリーフバルブにおける振動環境条件規定の超過
   ・加圧・排気時のガス流動によりタンクドームが振動し、軽量のリリーフバルブが設計上の環境条件規定を超過したものと推定。
   ・リリーフバルブの環境条件を再評価し、CFTの結果を踏まえ、フライト時に想定される環境条件下でのバルブ単体の振動試験を実施して耐性を確認。
  (3)2段機器搭載部等における振動環境条件規定の超過
   ・燃焼試験時の煙道出口からの音響により2段機器搭載部等が加振され、環境条件規定を超過したものと推定。
   ・環境条件規定を見直すこととし、耐性を評価。詳細評価が必要とされた慣性センサについては、追加の認定試験による検証を実施。

 ・イプシロンロケット6号機失敗の水平展開
  ・イプシロンロケット6号機の原因究明を進めており、原因箇所の特定と要因の絞り込みが進んでいる。
  ・可能性が残るとされた要因のうち、第2段ガスジェット装置のパイロ弁について、H3ロケット用とイプシロンロケット用は、製品としては異なるものの製造元と作動原理が同じであるため、懸念を排除できない可能性。
  ・これを踏まえ、製造元・作動原理が異なり十分な実績のあるH-IIAロケットのパイロ弁に交換する方針として、設計変更に着手し、最終的な試験として確実性を期すために開発用供試体を用いた音響試験により機械的環境への耐性も確認し、設計変更を完了した。これらの内容は、宇宙開発利用部会調査・安全小委員会にて確認をいただいた(11月11日、12月16日)。
  ・並行して、試験機1号機用のパイロ弁の交換を完了。今後工場で推進薬を充填して、射場にて取り付けを行う予定。
  ・以上により、打上げ日設定に課題はない状況。

・試験機1号機打上げに向けた今後の予定
 ・試験機1号機に向けた開発状況(まとめ)
  ・CFTで抽出した改善事項等を試験機1号機(機体、設備)に反映しつつあるところ。
  ・反映の見通しは立っており、試験機1号機に向けた開発は概ね完了した状況。
  ・このため、引き続き必要な検証を入念に行った上で、打上げ準備作業に移行する予定。

 ・当面の主な予定。
  ・機体仕様を、CFT形態から打上げ形態に変更(SRB-3の取り付け等)
  ・推進系、電気系等の機能点検

 ・打上げ時期については、上述の開発状況を踏まえるとともに、関係機関等と調整次第、設定する予定。

・質疑応答
NHK・初号機の開発は概ね完了したとのことだが、今年度中の打ち上げに向けて問題が無いことを確認したと受け止めた。延期を乗り越えていよいよ打ち上げ時期の設定という段階に至ったところで、今の気持ちを伺いたい。
岡田・長かったですかね。CFTそのものが一発で仕上げる覚悟で臨んだ訳ですが、そこには何も課題が出ないとは考えていなかった。出て来た課題に対してどのような改善をしていくか、そこに少し時間をいただきました。ようやく対応策が具体的に見えてきて、それがなんとかなる範囲ということで、準備が整ったという気持ちです。ですので、いよいよここから打ち上げ準備の作業に入っていく予定ですので、今まで以上にゴールを目指すためのチームとして、JAXAとメーカーさんと力を合わせて頑張っていきたいと思います。

フリーランス井上・H3の試験機2号機以降のスケジュールで何か決まっているものはあるか。
岡田・決まっていることはまだ無いです。これについては1号機をしっかり打ち上げる時期を見定めて、そのあと順次ミッションの方々とか政府と調整を図っていきながら徐々に決めていくものだと考えています。

フリーランス井上・打ち上げがうまくいった場合、どのくらいの間隔で次の打ち上げがあると期待していいか。
岡田・H3の狙うところという意味ですと、よく私が話をしている中で打ち上げから打ち上げへの間隔は1ヶ月以内としているが、前にどんなロケットがあって次にどんなロケットか、個別に事情が違うところがあるので具体的には申し上げづらいが、設備の切り替えも含めてできるだけ短時間でいきたいのがH3のそもそもの考え方です。

共同通信・打ち上げ形態への作業は、実際に打ち上げる状態にして、打ち上げのリハーサルをこれから始めるというイメージで良いか。
岡田・少し説明させていただきます。今は試験用の形態になっていました。それを打ち上げ用の形態に持っていきます。形が出来ますと、まだそこには人工衛星が載っていないが、徐々に確認出来るところから機能の確認をしていきます。実際にフェアリングの中に入った人工衛星をロケットに搭載して最終的な確認をして、カウントダウンをして打ち上げる。それらについて何かリハーサルをするかという質問でしたらそれはノーで、次は本番です。

共同通信・通信系統を確認するのは違うのか。
岡田・それはこれまでの試験を通じて基本的に一通りのことは確認できました。あとは打ち上げの全体の流れの中で、決められた打ち上げに対して最終チェックという意味での確認しながら進めていくことはします。

共同通信・今まで行えなかった試験など、今回の打ち上げ形態で初めて行うことがあるか。
岡田・今日に至るまでに極低温点検というものを1度やりまして、そしてCFTを行いました。そこで大半のものについてはシステム的な確認が出来ています。最後に打ち上げる前に全体の機能点検を行った上で、打ち上げを行います。打ち上げになると、ある意味ぶっつけ本番的なものが待ち受けていて、それが故に試験機ということもあるが、我々がここに至るまでに、できる限りのことを、部分部分でも試験をして積み上げてきているので、あとは全体を組み上げて全体として確かめるのが試験機の打ち上げです。

共同通信・実際の部品を使って打ち上げる状態にして全体の様子を確かめるというイメージか。
岡田・打ち上げの準備そのものを行う事の中で点検も行うイメージです。打ち上げの機体そのものを使って最後の点検をしながら準備を進めていくというイメージです。

時事通信・CFTで抽出された改善事項例の対処で、継手部の漏洩に関しては、交換したあと実機に相当するもので変形が無いか確認はされているのか。
岡田・部分的なシミュレーションなどいろいろなことをやっている。現物で次に燃料を入れるのは打ち上げのときで、行けると踏んでいます。解析などを通して問題無い。物によっては要素試験を行うものもあるが、全体では無い。

時事通信・改善事項例の振動環境条件規定の超過に関して、「1段液体酸素タンク上部ドーム部リリーフバルブにおける振動環境条件規定の超過」については「環境条件を再評価」で、「2段機器搭載部等における振動環境条件規定の超過」については「環境条件規定を見直す」と対処の違いがあるが、いずれも物自体に手を加えるというよりは環境条件を緩めても問題無いということを確認したということで、両方とも同じか、それとも若干違うのか。
岡田・基本そうご理解ください。細かいところでは少し手を入れているところもあるが、それよりも環境条件を見直すことがいちばん大きいです。それで実際に持つかを確認することが一番大きい話です。言葉が若干揺らいでいる感じはあるかもしれないが、イメージとしては現物に手を入れることなく、それが持つか持たないかは確認の上で打ち上げに臨むということです。

時事通信・打ち上げ間隔の話が出たが、CFTなのでSRBは無いが、射点で吹かした後の射点のメンテナンスで何か無かったのか。
岡田・殆ど問題になるような話は無かったと思います。もちろん打ち上がっていないので全然条件は違う。CFTというのが今回しかないような燃焼のさせ方。地上で25秒も燃えるのはロケットの仕事ではない条件で、むしろそこは気にしていたが、その割にはダメージが少なかったです。

時事通信・注文さえ入れば、ハードウェア的にはすぐ打てるということか。
岡田・ダメージというのがこの試験ならではのものがありえた。なのでそこも含めて試験の秒時は必用かつ十分ということで、なるべく短い時間でも検証が可能なものを皆で議論して25秒というものをセットしたことも今回の結果に繋がることかなと思っています。

南日本新聞・今後の打ち上げ時期について、年度内の打ち上げとして変わらないとのことだが、具体的に何月頃に打ち上げる目処となっているのか。
岡田・CFTの結果がここまでまとめられたので、そこの結果を踏まえて、これから関係機関の皆さんと協議をして調整の上で決めていきたいと思いますので、現時点ではまだ何月とは申し上げづらいところです。

南日本新聞・打ち上げ時期を決めるのはいつ頃が目処か。
岡田・できるだけ早くです。気持ちとしては出来るだけ早く調整して準備作業をしっかり進めていきたいと思っています。

共同通信・試験結果で見つかった3つの課題は解決したのか、それともこれからか。
岡田・ほぼ解決したと思っています。目処が立っているという意味はそういうことですが、まだ作業として残っている部分も中にはあるが、それは今こうやってお話できる範囲の話だと考えています。

共同通信・打ち上げ準備作業に移行するというのは、今日時点で既に移行しているのか、それとも年内や年明けに始まるのか。
岡田・どこから先を準備作業と言うかによる。固体ロケットブースターの装着作業の準備などは進めようと思っていますので、広い意味では正に準備作業に入ろうとしているということです。

共同通信・今日の時点で準備作業が始まっているのか。
岡田・繰り返しになるが、検証を入念に行った上で準備作業に移行というのが節目になると思う。いろいろな細かい作業でスタートしているところはあるが、まずはCFTの形態から打ち上げ形態に変えていくとか、そういったことから始めて行きたいと思います。

共同通信・大きい作業はこれから始めるということか。
岡田・そうです。フェアリングはもう取り外しました。

共同通信・パイロ弁がH3とイプシロンで共通だったのは何か利点があったのだと思うが、H−IIAのものにすることでコストが上がるなどメリットが失われていないか。
岡田・そこは試験機1号機はそういう対応をとるということで考えました。今後どうするかはイプシロンの原因究明の結果を見据えながら今後どうしていくかはいろいろなオプションがあると思っています。その中で調達性がどうであるかとか、コストがどうであるかとか、そこを評価していきたいと思っています。やはりH3ロケットというのはネジ1本1本のコストまで管理してコストを下げていくという考えでおりますので、おっしゃられた点は凄く重要かなと思っています。

共同通信・1号機に関してはとりあえずH−IIAと同じものを使うということか。
岡田・そうです。

毎日新聞・イプシロンとH3のパイロ弁はH−IIAのものの改良版なのか。
岡田・いえ、全く違うものだと考えて下さい。

毎日新聞・H−IIAのパイロ弁を使う事で何か影響は出るのか。
岡田・パイロ弁の役割は上流と下流を絶対に遮断する機能ですが、流量によって大体の仕様が決まってくる。1回開いてしまうと後の機能はそんなに多くない。幸い互換性がそこそこあったので、そのまま流用できた。それによって大きな機能的な違いが出てくるかというと、さほどではないと思っています。これが複雑な動きをする部品とかコンポーネントですとここまで合致するものがあるかなというのはあったかもしれませんが、機能としてはそんなに持っていないバルブだったので選択できました。

読売新聞・概ね完成と捉えているが、CFTの結果を反映する見通しが立ったというのは、どれくらいまでに反映の作業が終わりそうなど時期的な見通しが立ったと見るのとは違うのか。
岡田・(反映は)3つの話だけではない。もうちょっと広い話をすると、見通しが立っていても、全部が手前のところで確認する必要がある、あるいは時期に無いものもある。改善する内容によって確かめる時期が違う。たださすがにこれはこうすればもう間違いなく改善できることを全てにおいて確認の上、それをどの時期にやるかということになりますので、いつまでにどうしてもそれを終えないといけないというものだけではないということです。ただ基本的には、多くのものは年内には終えることができると思っています。

読売新聞・多くのものは年内ということか。
岡田・はい。

読売新聞・CFTの結果を新聞的に書くのであれば、打ち上げの時期に影響するような大きな問題は無かったという表現で良いか。
岡田・我々が目標にしている2022年度の打ち上げということに対して、CFTが手前にある高い高い山だった訳だが、それを越えられたと思っています。2022年度の打ち上げには支障のない状態で乗り越えられたと思っています。

読売新聞・イプシロンのときに冗長複合航法システム(RINS)を検証するという話があって、それをH3にも搭載するとのことだが、初号機は関係無いのか。
岡田・重要な機器ですので、例えば飛行実証として脇に積んでおいて飛ばして機能だけを確かめるといったことをいろいろやることはある。RINS(リンス)もその中のひとつ。1号機に搭載して実証を行うということをしていますが、それ自体が主人公になって機能する段階ではないです。

読売新聞・主人公になるのは何号機と決まっていないのか。
岡田・そこは完成次第と考えています。

フリーランス井上・今年はSpaceXのFalcon9の年間打ち上げ回数が記録的数字になっていて、ロケット分野のプレイヤーの明暗が分かれてきている状況にあると個人的に思っているが、そういった状況を踏まえて打ち上げに向けての意気込み。
岡田・その状況によって気持ちが少し変わるところがあるが、我々H3プロジェクトに携わっている者は、とにかくまずこのロケットを考えた通りのロケットとして完成させたいという思いです。もちろん世界中の宇宙輸送の市場といったものが大きく変わろうとしている中なので、そういう市場を見据えながらですが、まずはH3完成させる。そして激変するマーケットに対して柔らかくH3の強みをもって対応していくようにこれからしていきたいと思っています。目の前の打ち上げをまず頑張らないとそこには辿り着けないので、そこを頑張りたいと思います。

朝日新聞・CFTで出た改善事項について、大きく3つあり、他にもあるとのことだが、この3つに関しては想定内の課題なのか。例えば他のロケットの試験でもよく見られる事例なのか、それともH3ならではの構造で出て来た改善点なのか。
岡田・なかなか難しい。1(1段液体酸素加圧配管接手部の漏洩(試験後))に関しては、想定内というよりは、改善事項としては防げていたかもしれない話ではあった。ただH3というのはシステムごとに配管の使い方が違うので、初めての試みではあったので、そういう意味ではこのシステムを組み合わせて初めてわかったという印象ではあります。2と3(1段液体酸素タンク上部ドーム部リリーフバルブにおける振動環境条件規定の超過と、2段機器搭載部等における振動環境条件規定の超過)はロケットエンジンを燃焼させて振動を測ることそのものなので、ここは個人的な意見だが意外と少なかったという感覚を持っています。外さなかったという感覚を持っています。その中で外れたものを今少し手を入れている。

NHK・岡田さんが種子島に居るのは、現在進行形でCFTで出た課題への対応策だったり、CFT形態から打ち上げ形態への変更だったり、他の機能点検などを直接確認したり、そういった心構えでいらっしゃるということか。
岡田・その通りです。試験が終わって機体の仕様を変えていくのが打ち上げに向けた第一歩のつもりで、しっかり臨みたいという気持ちでここに来ています。

・岡田プロマネから一言
 皆さんここまでH3ロケットの開発を見守っていただいてありがとうございました。概ね1号機に向けた開発が完了したと思っていますので、これから打ち上げの準備フェーズに入っていく酢所存です。多くの関係者が力を合わせて臨む最後の場面なので、頑張りたいと思いますので引き続き皆さんに見守っていただきたいと思います。よろしくお願いします。

※このあとH3初号機の打ち上げは2023年2月12日10時37分55秒〜10時44分15秒(JST)と発表されました。(2022年12月23日発表)

No.2493 :イプシロンロケット6号機打上げ失敗原因調査状況(12月16日分)
投稿日 2022年12月24日(土)23時17分 投稿者 柴田孔明

 2022年12月16日に開催された文部科学省 調査・安全小委員会・イプシロン6号機打上げに関する第5回会合と、その後に行われたフォローアップブリーフィングです。
(※前回と重複する部分など一部を省略いたします。またリモート開催のため、回線状況等により一部聞き取れない部分があり、そこは省略させていただきました)

・イプシロン6号機の原因究明について(※資料より抜粋)
 ・製造・検査データ等を用いて絞り込みを実施した結果、以下を確認した。
  ・「パイロ弁の開動作不良」のイニシエータ、PCA作動不良は要因でない
  ・「推進薬供給配管の閉塞」のパイロ弁内の推進薬配管の閉塞は要因でない
 ・「パイロ弁バルブ本体の作動不良」もしくは「ダイアフラムによる閉塞」に絞り込んだ。
 ・フライトデータの+Y軸側下流配管圧力の1分解能分上昇は実事象と判断した。

 ・上記を基に2つの故障シナリオを推定した。
  1.パイロ弁の開動作不良:
   ・PCA作動後にラムが仕切り板を完全に打ち抜けず、仕切り板に微小な隙間が発生してブースター燃焼ガスまたは推進薬がわずかにパイロ弁下流に入り込んだ。
  2.推進薬供給配管の閉塞:
   ・ダイアフラムが液ポートに近接し、パイロ弁開動作時にダイアフラムが液ポートに引き込まれて閉塞した。閉塞までの間に推進薬がわずかにパイロ弁下流に入り込んだ。
   (※この場合はパイロ弁は開いて、タンク側から数ccから十cc程度だけが流れたことになる。大量に流れると、下流配管圧力センサの値がもっと大きくなり、この事象を説明できなくなる)

・今後の予定
 ・故障シナリオの発生可能性を見極めるための解析・試験を実施し、原因を特定し、後継ロケット等への対策を反映する。
 ・打上げ失敗の背後要因(間接的原因)の分析を行い、同様の事象が発生しないよう対策を講じる。

・H3ロケットへの水平展開について
 ・前回の調査安全小委員会にて、H-IIAロケットのパイロ弁と交換する方針を報告した。
 ・前回報告時に「一部技術評価を継続および最終的な試験(機械的環境への耐性)による確認を行う予定」としていた。
 ・残る技術評価としてフライト中の熱環境に関する評価を行い11月16日に設計確認会で確認した。また、最終的な試験として、タンクモジュールEM(Engineering Model)を使った音響試験により、交換したパイロ弁を含む設計変更による機械的環境への耐性を確認した。これらの総合評価により、設計変更によるRCSサブシステム、及びロケットシステム全体への影響がないことを確認した。
 ・H3試験機1号機用タンクモジュールFM(Flight Model)のH-IIAロケットパイロ弁への交換作業を完了した。
 ・今後、以下の作業を進める。
  1.タンクモジュールの推進薬充填(工場)
  2.タンクモジュールの機体への組付け(射場)

・以下はフォローアップブリーフィングです。
・質疑応答
時事通信・もしパイロ弁が原因とすると製造段階の問題となって、一方でダイヤフラムの方だとするともともとの設計がおかしくて、今までの飛行でもそういう事が起こりうる設計になっていたということになり、広がってしまうのではないかという印象を受けたが、その辺りの認識はどう考えているか。
・パイロ弁は製品そのものの問題となると考えています。今回は火薬の部分は潰せたので、あとはバルブ本体についてもう少し詰めを行いたいと思っています。ダイヤフラムの方も我々としては、全ての可能性ということで色々調査を進めています。非公開部分で製造の中で特記事項があるもの、これがどういう影響を及ぼすかをご報告致しまして、それが原因になる可能性があるという話をさせていただきました。設計そのものに至るものがゼロかというと、まだそこまでは完全に絞りきっていません。完全に広がってしまったとは今は考えておりません。

時事通信・1解像度分の圧力が上がった状態だが、これは微小な推進薬の漏れがそのまま継続している状態を指すのか、それとも上がったあと止まった事を指しているのか。
・区間Bで1分解能上がったあと区間Cで下がっていきます。これは我々としては下流にある推薬弁が開くタイミングと合っていますので、外が真空になっていますから、一度上がった圧が抜けていくと思っています。今回の推定としては、パイロ弁が開いたかクラックでガスが入り込んだかで一瞬上がるが、ダイヤフラムの方ですと上流側で、例えばポートをダイヤフラムが完全に塞いでいるとすると一切流れ込んでこない状況になりますので、その状態から下流がちょこちょこと抜けていったという風に考えています。パイロ弁の方もクラックみたいなものがあったとして、ガスが一瞬流れ込んだ。クラックが流れ込んだ後に閉まったというモードを考えていまして、漏れが継続するようなものではなくて、一旦ぎゅっと入ったものが、その容量の中で区間Cで外に出て行くということを考えています。

時事通信・今の段階では区間BとCの圧力の挙動はどちらでもあり得るということか。
・そうです。

共同通信・2つのシナリオで、どちらの方が起こりやすいというのはあるか。
・我々としてはまだそこに優劣をつけずに検討しています。委員会でもどちらもあり得るとご理解をいただいています。我々としては今後もフラットに調査を続けたいと考えています。

フリーランス大塚・パイロ弁の仕切り版の構造はどうなっているか。ラムが上から押し出して、下の空間に板を押し出すのか。
・そうです。作動が正常に行われれば、仕切り板が下の空洞に入る形になります。

フリーランス大塚・仕切り版はある程度強度があって破れないようなものか。
・そうです。通常は完全に遮断することを目的としたものなので、しっかりとしたものになっています。

フリーランス大塚・配管下流の圧力が上がったのは、パイロ弁から数ccが出て来たので配管内の空気が縮まって1ビット分上がったのか、燃料の揮発成分のようなもので上がったのか。
・パイロ弁が開くまでは液がその前まで満たされている状態で、パイロ弁が開いて上が何らかの理由で閉まって、下流側に引かれて液がパイロ弁の下側に少し入ることにより、下側の配管の圧力が上がったのを検知できたと考えています。

フリーランス大塚・圧力センサのところまでは燃料は届いていないのか。
・届いていないかは見えないのでわかりませんが、少なくとも何ccが入ってきていると、今回の1分解能が上がることと整合すると考えています。

フリーランス大塚・ヒドラジンの揮発成分が流れてきたというよりは、気体が圧縮された分の圧力上昇と考えるといいのか。
・はい、そうです。

フリーランス大塚・図の区間A(打ち上げから60秒くらい)で2ビット分下がっているが、この状態だとパイロ弁も推薬弁も閉まっているが、空気が推薬弁の方から抜けたのか。
・補足説明をすると、下の推薬弁のうち2つが低圧では漏れが出ると検査でわかっていました。真空中ですので漏れる要素だと思っています。あとはフライト中の振動がかかったりすることも含めて圧力が落ちたのではないかと考えています。

フリーランス大塚・2つで漏れがあるのは異常ではないのか。
・基本的に高圧がかかった形で使われるもので、低圧側で若干漏れが出るもので、規格内なのでそれを使ったということです。

フリーランス大塚・燃料が来てそれが止められれば良いということか。
・はい、高圧のそれが止められれば良いということです。

フリーランス大塚・区間C(パイロ弁の開動作の後から推薬弁の1と3が開くまで)で圧力が維持されている件を調べているとのことだが、この時点では外は真空で下がらないのは不思議ということで調べているということか。(※その間に推薬弁1は複数回開いている)
・そうです。噴射パターンが162秒辺りと257秒辺りが少し幅が広いと思います。その手前はパルス的なもので、こういったこともあるのではないかと考えていますが、ここはまだ調査中となっています。

フリーランス大塚・最初は(弁が)開いている時間が長いのか。
・開いている時間が長いという特色はあります。

フリーランス大塚・2発目のパルスで下がっていないのは不思議な感じがする。
・そうですね。

フリーランス大塚・それを調べているということか。
・はい。

NHK・2つのシナリオについて、今後具体的にどのような検証をしていくのか。
・パイロ弁とダイヤフラムの両方とも解析を行いつつ、試験検証をしようと思っています。実機に近い物を作って、例えばダイヤフラムですと、液ポートに近接するようなモードにおいて、下(パイロ弁)を開けたときに一瞬で閉まるようなモードがあるかとか、そういったような試験検証をこれから行って、なんとか次回には報告したいなと考えています。

NHK・実機に近いものを作るとなると、時間と手間がかかると思うが、スケジュール的に次回までに間に合うのか。
・なんとか間に合わせようとしています。今回1ヶ月空いたが、この途中ぐらいまでに試験の計画等を定めて供試体の準備にとりかかっておりますので、年末から年明けにかけて試験を行っていく形で進める予定になっています。

NHK・二つのシナリオは、いずれも可能性の確率は言及できないとのことだが、パイロ弁の故障だったとして10cc程度が漏れて止まるということは起こりうるのか。
・そういうモードを想定したときに、解析的にはありえるのではないかということで、シナリオの一つとして残しています。

NHK・この辺りの実験は、それに近いような、仕切り弁がちょっとしか開かない時にどれくらい流れるかを試験するということか。
・そういったイメージの試験をする予定にしています。

NHK・ダイヤフラムはイプシロンSについても同じ物を使う予定なのか。
・基本的には同じような物ですが、今回の事を受けて設計変更等をこれから考えて進めようとしています

NHK・燃料タンクにあまり燃料を入れていないことでダイヤフラムが液ポートに近接する可能性があるということは、今後イプシロンSではダイヤフラムを変えるのか、それとも燃料の量を調整するのか
・まだ具体的なところには入れていないが、今回の事象は確実に潰せる方向で設計変更を進めると思っています。

NHK・今後の検証次第だと思うが、ダイヤフラムを交換する場合はパーツを交換する程度で済むものか、それともシステム変更などが諸々付随してくるのか。
・この時点では具体的には言えないが、ダイヤフラムだけを取り替えるというイメージではなくて、それをどうタンクに取り付けて、どうシール性を上げて、そういった意味でタンクシステムとして設計をしていくことになりますので、ダイヤフラムの部分だけ変えるイメージではないです。

NHK・今後の予定で後継ロケット等に対策を反映するとあるが、これはイプシロンSを指すのか。
・基本的にイプシロンSの事を考えています。H3の1号機はとりあえずパイロ弁を交換したが、2号機以降は未定と説明しました。この辺は絞り込みに応じて、H3の2号機以降をどうするか考えていくことになると思っています。

NHK・H3での振動試験は想定より低く良かったとのことだが、全体としては年度内の打ち上げに向けて順調に対応は進んでいるという理解で良いか。
・今回のRCSの問題については、開発側としても環境耐性を確認して交換作業を完了しておりますので、年度内の打ち上げに間に合うように進めてございます。

NHK・状況としては引き続き変わらずということか。
・はい。

NHK・図で圧力が最後に真空になるのは、推薬弁が開いて外と繋がるのでゼロになるということか。
・作動の時間は既に真空に近い上空にロケットが上がっていて、外が真空に近い状態になっている。仕切っている推薬弁を開けると真空側に圧が抜けていく。

南日本新聞・今後の予定で、故障シナリオを推定して試験をするとのことだが、一連の原因究明の中で実際に試験を行うのは今回が初めてか。
・いくつかやっています。前回、透明タンクの写真を出したと思うが、1G下でダイヤフラムがどんな状態になっているかを見たりする試験など、こういったこともやっています。

南日本新聞・打ち上げ失敗の背後要因(間接的原因)とは具体的にどういったものを想定して分析するのか。
・まだ何が背後要因か絞れていない。これは原因究明でここが問題だとなった所で見極める。例えば製造に関連する問題だという話が出れば製造の品質管理がどうとか、開発に立ち戻るならそれもとか、そういった原因に応じた背後要因というのをこれから分析していく形になっていくと思っています。

読売新聞・パイロ弁の開動作不良の件で、製造不良がまだ調査中となっているが、これは同一ロットの試験(LAT)とかはこちらではやっていないのか。どういうデータがあるとこれを潰せるのか。
・LATとかの話はやっています。シナリオにも少し関係しますが、仕切り弁の辺りに隙間ができたというシナリオを考えていますが、これが仕切り版の寸法等によって起こるかどうかといったことがひとつ考えられます。その辺の製造上の確認といったものを今詰めているところです。

読売新聞・二つの原因から絞りきれれば良いが、ある程度進めたところで、これ以上絞ることが難しいとなった場合は両睨みで検討をとっていく可能性はあるか。
・それも最後はあり得ると思っています。

読売新聞・専門家の方からはそろそろ切り替えたらといった指摘はないのか。
・それはございません。今進めているものを中身を含めてよく理解し、最後まで進めてほしいと話をいただいています。この先どこまで追い込めるかにかかっていまして、万が一両方ともある部分が潰せないとなれば、その二つを完全にクリアするような対策を考えていくような進め方になると考えています。

NHK・H3では可能性が排除できないので先に進んだが、イプシロンについては可能性を潰していく方向に向かっていて、可能性を二つに絞れたのでそれを対策すれば先に進めるのではと思うが、打ち上げのスケジュールなどからまだ原因究明をしていくということなのか。
・イプシロンSの方は、基本スタンスとしてはもう少し時間があるので、この究明を進めた上で考えていくことにしています。並行してどういう事ができるか考え始めようと思っています。H3は今年度を目標にということで、ある程度舵を切ったところがございますので、イプシロンSとはそこの対応が若干時間差があると捉えていただければと思います。

NHK・今回の2つのシナリオについては、二つとも同時に起こる事はあり得るのか。
・ダイヤフラムの閉塞はパイロ弁が開かないと説明が出来ないので、基本的にはどちらかになります。

NHK・二つの要因に絞られたが、シナリオとしてパイロ弁であればこのシナリオ、配管であればこのシナリオとなって、それ以外のシナリオは排除されたのか。
・我々としてはそういう所まで追い込んできたという風に考えています。

以上です。

No.2492 :超小型探査機OMOTENASHIの運用状況についての記者説明会
投稿日 2022年11月28日(月)08時35分 投稿者 柴田孔明

 2022年11月22日午後より超小型探査機OMOTENASHIの運用状況についての記者説明会がリモートで開催されました。
 同探査機は、2022年11月21日22時05分から翌11月22日02時00分(JST)までに行ったNASAのDSNゴールドストーン局での運用で探査機との通信が確立できず、月着陸マヌーバ(DV2)運用の実施ができないと判断されています。 
(※一部敬称を省略させていただきます。また回線の関係で一部聞き取れない部分があり、省略させていただきました)

・登壇者
 JAXA 宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 教授 橋本 樹明
 JAXA 宇宙科学研究所 宇宙科学プログラムディレクタ/宇宙飛翔工学研究系 教授 佐藤 英一

・超小型探査機OMOTENASHI の現状について。(橋本)(※配付資料より)
 ・この度は非常に多くの方からあたたかい応援のお言葉をいただいていた訳ですけども、残念ながら昨日から今朝にかけての月面への着陸運用はできませんでした。そこまでの経緯及び現状についてご報告させていただきます。

 ・第2可視(NASA DSN(ゴールドストーン局))以降の状況(前日)。
  ・予定していたDSN局および国内局の運用時間中、探査機からの信号が受信できるか監視してきた。月フライバイまではロケットから分離した軌道とそれほど大きくずれていないと想定され、EQUULEUS探査機の軌道等を参照しながら、ここで間違いないという方向にアンテナのビームを向けて受信をしていきました。軌道精度上はそちらを向いているはずだが、国内局については臼田局(64m・ビーム幅が狭い)の予定を、EQUULEUS探査機が使う予定だったビーム幅が広い内之浦局34mアンテナと交代することとした。念のため、アンテナ指向方向を変えて探索する運用も実施したが、電波の受信はできなかった。
  ・探査機が(再)起動、消費電力増、オフを繰り返すことを避けるため、運用時間中は低消費電力となるコマンドを連続送信し続けたが、状況に変化は無かった。
  ・近月点(月に対する軌道高度が最も低い点)を通過時に固体ロケットを点火して減速すると、月の引力で月面に落下させることが可能であることが分かった。軌道計算の結果、近月点通過は11/22(火)0時54分頃と計算された。
  ・着陸時刻が近月点のワンポイントで計算できるため、近月点通過直前に電波が回復する場合を想定して、短時間で3軸姿勢制御確立、着陸準備運用、着陸シーケンスのアップロードなどを行う手順を用意し、それを短時間で送信すればいけるという準備をしました。またコマンドが間違っていないか、探査機シミュレータを用いた手順の確認を前日までに行った。

 ・月着陸ラストチャンス運用の状況(当日) 
  11/21(月)22時05分からのNASA DSN(ゴールドストーン局)
  ・打上げ前の着陸予定時刻(11/21(月)23時55分)より若干遅くなるため、NASA DSN局へ11/22(火)2時00分まで運用時間の延長をお願いした。
  ・11/22(火)0時54分頃の近月点通過時になっても探査機からの電波は回復しなかったが、運用延長した2時00分までをラストチャンスとして、着陸を実施するべくコマンド手順等を準備して待機したが状況は変わらなかった。
  ・従前から着陸時の固体ロケットモータ点火時の観測を依頼していたハワイの「すばる望遠鏡」にも可能性は高くないと伝えた上で待機いただいていた。
  ・Surface Probe(着陸部)の電波はアマチュア無線帯を使用するため、海外のアマチュア無線家にも待機いただいていた。
  ・運用終了時刻の2時00分になっても探査機からの電波は回復しなかったため、月着陸運用は終了した。

  ・11/22(火)14時00分までも内之浦局で運用を行ったが、探査機からの電波は確認されていない。
  ・これらの状況から、第1可視時に観測された姿勢が大きく変わっておらず、依然、太陽電池が太陽反対方向を向いた状態で回転していると推定している。

 ・これまでに得られた実績
  ・技術的な知見
   ・今回はオライオン宇宙船の打ち上げに相乗りであり、NASAの安全要求を満たすため、ロケット搭載状態で探査機がオンとならないように3直列の分離スイッチが入っていたが、全て正常に動作し、ロケットから分離後探査機電源はオンとなった。内心冷や冷やしていた。
   ・新規開発の超小型通信機は、短時間だがコマンド受信・テレメトリ送信ともに正常に行われていた。
  ・ミッション成果
   ・ミッションの一つである超小型放射線モニタは、短時間だが正常にデータを計測していた。データの妥当性については評価中。
  ・人材育成の観点
   ・JAXAの若手でインハウスで探査機を開発し、実際に探査機運用するまでを経験する人材育成の目的もあった。残念ながら当初予定していた運用はできなかったが、貴重な経験になったと考えている。

 ・今後の運用見通しと意義
  ・今後の運用見通し
   ・本探査機は月をフライバイし、太陽公転軌道に入った。
   ・第1可視時の姿勢の推定から、2023年3月ぐらいから太陽電池に光があたる可能性があり、2023年7月に最も太陽方向を向くと推定しています。ただし第一可視の限られたデータからの推定しているので、推定精度を見直し中です。2023年3月以降、バッテリへの充電が十分になると探査機が自動的に起動すると考えている。
   ・他方、探査機の各機器は一度正常に動作したことは確認済みではあるが、月着陸の1週間で終わることを想定したものであり、半年以上に渡っての運用は保証されておらず、リスクになっている。
   ・通信という観点では月までの距離での設計であり、遠くなるとだんだんと厳しくなってくる。2023年の夏までは通信が届く距離に入っている見通し。電力が復旧することが期待される時期と一致していることから、現状ではそのころまでに復旧を行い、各種実験を行いたいと考えている

  ・ミッション意義
   1.地球磁気圏外の放射線計測
    ・地球磁気圏外の放射線観測データは少ない。そこでの放射線レベルがわかるとことは科学的に意義がある。また軌道位置による放射線レベルの違いなども測定する予定。
    ・最初の数十分の取得はできているが、あまりにも短いので、もう少し長期の観測をしたい。
   2.超小型探査機の技術実証
    ・超小型固体ロケットモータ点火実験(レーザ着火方式)をはじめ、今後の超小型探査機の発展に向け、次のような深宇宙航行中に実証したい項目がある。
    ・検討中
     ・薄膜太陽電池の発生電力確認。
     ・姿勢制御装置の詳細機能・性能確認。
     ・探査機時刻と地上時刻の精密時刻同期機能確認。
     ・UHFアマチュア無線通信実験。(比較的近距離で実施できる場合)

・OMOTENASHI運用異常対策チームの設置について(佐藤)(※配付資料より)
 ・今回の事象をふまえ、本日11月22日、宇宙科学研究所内に「OMOTENASHI運用異常対策チーム」を設置し、以下のとおり活動を開始した。
 ・目的:
  ・運用異常の原因究明、運用継続に向けた計画及び今後の対応の検討。
  ・国内外の関係機関との調整等の対外対応。
  ・その他前各号に付帯する業務。
  (今後の超小型衛星開発に資するLessons Learnedの取りまとめ)
 ・体制:
  チーム長:佐藤英一・宇宙科学プログラムディレクタ
  チーム員:研究総主幹、研究基盤・技術統括、科学推進部長、宇宙科学プログラム室長、S&MA総括、広報普及主幹、国際調整主幹
  事務局:科学推進部、宇宙科学プログラム室

   ・原因究明班
    班長:橋本樹明プロジェクトチーム長
    事務局:プロジェクトチーム
   ・対外対応班
    班長:科学推進部長
    事務局:科学推進部
  ・本日12時半に第1回の会合を開き、今後の計画の話をしたことと、OMOTENASHIの経緯・現状と今後の方針の議論をした。これ以降できるだけ速やかに原因究明等の活動を行っていきたいと考えています。

・質疑応答
NHK・超小型で月面着陸を目指す挑戦的なものだが、結果的にこのような事態になり、率直にどのように思われているか。
橋本・今回、皆様からのご期待も高かったところ、月面着陸ができなくて大変申し訳なく思っているところです。同時に自分自身もこの数年間、これを実現するためにいろんな事をやってきたので、非常に残念でならないというところです。ただ元から着陸ミッションの成功確率自体は60%程度と説明していましたように、着陸自体はかなり挑戦なので、そこまでのプロセスと技術をぜひ実証したいと考えていたところなので、これから探査機が復帰すればできる実験も若干ありますので、それを今後はできるように頑張っていきたいというところです。

NHK・太陽電池パネルが光を受けられない向きでバッテリが充電できなかったことについても、その原因を究明するという位置付けと理解して良いか。
佐藤・非常に情報量が少ないが、いちばんの根本原因だと思います。その事象が何故起きたのかというところを、FTAを使ってきちんと漏れの無いように考えて可能性を潰していきたいと考えています。

時事通信・原因究明に向けての情報が集まっていない中だとは思うが、今回Artemisに相乗りした10機の小型衛星のうち、今のところ生き残っているのが4機とNASAから発表があったが、ロケット側の方で懸念される事案はあるか。また今後の運用は電池と通信の兼ね合いを考えると2023年の夏頃のある一定の期間に限られてくると思うが、今の時点でこういう実験ができるのではないかというものはあるか。また固体燃料ロケットの点火は行うのか。
橋本・ロケットとの関係だが、他の探査機の事情は把握していないので、問題があるか無いかは判らないところです。今回のOMOTENASHIに関して言いますと、直接的にロケットと関係するところが原因であるという事実は何も発見されていないので、直接的には関係無いのかなと思っています。ただ有人の宇宙船と一緒に乗るということで、超小型衛星にしては普通では無いような安全設計が要求されました。安全側、つまり探査機が動作しない側、誤動作しないということを第一目標に作らざるを得なかったので、なかなか動作する側にリソースを割けなかったのは、どの探査機もあったと思います。ただ今回に限らず、超小型探査機というのは冗長系というか余裕をもったシステムはとてもこのサイズではできないので、どの探査機もリスクは高かったのかなと思っています。軌道上の実験は、いちばん大きなところはやはり固体ロケットの点火であることは確かで、それはぜひやりたいと思っているが、そのためには関係各所と調整が必用と思っていて、これは軌道上デブリになってしまう可能性があり、地球から十分遠いところで、地球には戻ってこないという条件で実験しないといけないと思っていますので、その辺は慎重にいろいろ調整をしたいと思います。他にもいろいろなソフトウェアの機能を盛り込んで作りましたので、その辺もできれば実験したいと思っています。その他プロジェクトチームメンバーとも相談しながら、かなり遠距離になってしまうので、遠距離でもできる実験は何かと考えていきたいと思っています。

時事通信・これまで得られた実績で人材育成があったが、これを具体的にお願いします。
橋本・JAXAの大きな衛星になりますと、信頼性が第一ということもありますので、物作りのところはメーカーさんにお願いしていることが多いと思います。今回は作るところからJAXAの若手の技術者が作っていった。また開発する人と運用する人が別ではなく、開発した本人が実際の探査機の運用に携わるということで、探査機の全体を通した勉強と言っていいか判らないが、そういう経験ができたということは、非常に大きな成果ではないかと思っています。

時事通信・こういう機会がないと経験できない場面ということか。
橋本・そうです。こういうインハウスで開発する機会でないとできない経験だったと思っています。

共同通信・月面着陸ができなかったとおっしゃっているが、月面着陸については失敗したという認識で良いか。またOMOTENASHIの制作費を詳しく。
橋本・着陸は成功か失敗かというと、それ以前の段階で実験が出来なかったというところが非常に辛いところです。これはあくまで実験ですので、成功するか失敗するかは判らない、60%だという話をずっとし続けていたが、その実験自体ができないという事態は、これは大変残念な状況になってしまったと認識しています。費用に関してですが、普通の衛星と違いましてインハウスで主に開発していますので、どこまでがこちらの開発費で、どこまでがJAXA共通の人件費か人材育成の費用と考えるか、あるいは基礎的な研究で考えるかという所の切り分けが非常に難しいところはあります。JAXAの公式にはOMOTENASHIプロジェクト相当の予算としては現状では8億円くらいとなっています。昨今のSLSロケット打ち上げで若干費用が増えたとか、コロナウイルス対策で出張旅費が増えたとか、そういったところも加算していくとそういう計算になっております。

共同通信・細かいが、成功か失敗か、そこに至ることが出来なかったとなると言葉として失敗になると思うが、そういった認識ではないということか。
橋本・いや失敗で、失敗以上の失敗じゃないかと個人的には思っています。

ニッポン放送・最後の望みをかけた昨夜から午前2時かけての運用管制の様子はどういう状況であったか。成功確率60%という話があった。また実験自体ができない状況だったとのことだが、つまり成功しない40%の中に入っていたという解釈か、あるいはそれとは別の次元の想定外の出来事だったという解釈か。
橋本・基本的にやっていたことは毎日と同じで、もし立ち上がった場合に電力モードをなるべく下げた状態で、立ち上がった状態をキープできるようにするコマンドをひたすら打ち続けるということをずっとやっておりました。ただし今回違ったのは、もしそれで立ち上がった場合には、そこから先には急ぎ着陸するための準備をするための手順を用意しておいて、前半のループがうまくいったらすぐ次に行けるようにスタンバイしていたというところです。やっていた事自体はひたすら定型的なコマンドを打ち続けて、ずっと待っている状態というところで、特に大きな作業があった訳では無いが、時間ぎりぎりまで探査機から電波が来るのを待っていたというところです。
 (成功と失敗の)解釈は難しいが、それとは違う次元かなと。JAXAのサクセスクライテリアで言いますと成功確率が100%近く無くて60%ということですので、着陸成功自体はエクストラサクセスと定義していまして、できたら加点という定義だったが、そこに至るまで、着陸の実験をするそのシーケンスまで行くというところはフルサクセスで、ミッションとしてぜひ達成するという目標でしたので、今回そこが達成できなかったということですので、成功の60%か失敗の40%かというものとは違う次元でその段階に行けなかったということになります。

ニッポン放送・断念した時の運用管制の雰囲気はどうだったか。
橋本・個人によって違うかもしれないですが、第一可視でスピン軸が反対方向を向いているという事実からすると、かなり厳しいという認識を持っている人が多かったので、凄く落胆という程ではなかったかもしれないが、我々としてはこういう状態になったこと自体が想定外ですので、この間に何かしらの想定外の外乱がまた働いて太陽電池が向いてくれないかなという期待は持っていたとは思います。ですので、この瞬間にガクッと落胆したというよりは、やっぱり駄目だったかという感じだったかなと思います。

NewsPicks・ロケットからの分離の後に太陽電池パネルが太陽と逆の方を向いてしまって、さらに機体が高速で回転しているのが原因だと思うが、一方でEQUULEUSの方は同じ6Uサイズの衛星でありながら順調に運用出来ているというところで、この違いがどこにあるのか。あと冗長性がなかなか確保できないという中で、もしこういう装置が付加されていたら復旧できたというものはあるか。
橋本・EQUULEUSとの違いは、原因究明がまだですので、そこが直接的に影響しているかどうかは判らないが、EQUULEUSとは搭載機器が似ていて、JAXA内ではひとつのプロジェクトなので情報交換もしながらやっています。一番大きな違いは、分離時の外乱が秒間10度くらいあるだろうということはインターフェイスとして言われていましたので、EQUULEUSの方の選択はそれよりもちょっと余裕を持たせたリアクションホイールを搭載した姿勢制御ユニットを使っています。ですのでいちばん初期に暫くガスジェットを使わないで、ガスジェットは地上からの運用で健全性が確認されてから初めて使うという運用を考えていました。一方でOMOTENASHIの方は、それだけ大きなリアクションホイールを載せますとサイズを食ってしまって固体ロケットが載らないということがあり、その装置は載せることができませんでした。ですので本当はOMOTENASHIとしても余裕のあるリアクションホイールを持っていればガスジェットを使わずに初期の姿勢制御ができましたので、そちらが原因かどうか判りませんが、やはりガスジェットというのは十分にチェックしてから運用したいというところもありますので、そういったところが違いだったかもしれないと考えています。EQUULEUSの方はガスジェットの運転はそのあとゆっくりとヘルスチェックをしてから運転を開始しているというところです。ちなみにOMOTENASHIの方もガスジェットに問題があったと言っている訳ではなくて、第一可視で見た状態では特に問題無く健全だったが、いちばん初期にガスジェットを使った制御をまずやるというロジックが入っていますので、その辺の空白の時間にまだ不安があり原因が判っていないというところで、不安要因を少しでも減らすという意味では、もうちょっと大きなリアクションホイールが載せられれば良かったが、サイズには入らなかったというところです。

NewsPicks・もしEQUULEUSと同じくらいのリアクションホイールが載っていたら、今回のような速さの回転であっても姿勢制御ができたということか。
橋本・いえ、今回のような回転になってしまったら、かなり大きなリアクションホイールでないと駄目なので無理だと思います。ただ大きなリアクションホイールを持っていれば、ロケットから分離したときの秒間10度くらいの外乱を吸収できる能力があれば、初期にはガスジェットは一切使わないという選択肢はあって、こんなに速いスピンレートはガスジェットを使わないとたぶん落とせないし、発生することも無かったのではないかなという風に考えていますので、全部リアクションホイールだけで初期の姿勢制御を行うという方が安全だったかなという気はしています。

NewsPicks・何が起こったかわからない時間帯に、もしかしたらガスジェットが原因で回転の速度が速まってしまった考えられるということか。
橋本・はい。その時間帯に動作する予定でしたので、可能性のひとつとして残る。全く動作させる予定が無ければ可能性として無いが、OMOTENASHIの場合には動作させることになっていましたので、可能性として残っているというところです

NewsPicks・外乱とは機体の姿勢の乱れというか、何と表現したら良いか。
橋本・機体の乱れというのはある意味結果であって、何かが起こったから運動が乱れるので、何らかの力が働いたことを外乱と呼んでいる。今回も何らかの外乱がなければこんなに速く回転することは無いが、その外乱が何かというのは現状調査中というところです。

月刊星ナビ・太陽電池パネルが探査機の+Y面に貼られていて、今はそれとは逆の方向に太陽があってスピンしているが、反対の−Y面にも太陽電池パネルを貼ることは構想には無かったのか。
橋本・当初は上下以外の周囲全てに貼ろうとしていた。しかしNASAからのインターフェイスでサイズが完全に決まっている。中に載せなければならない固体ロケットのサイズも決まっている。それから通信機も横に入っている。姿勢制御ユニットも、小さいリアクションホイールであってもこのサイズは決まっている。ということで、もう1ミリも隙間が無くて、どうにも貼ることはできませんでした。ですのであったら良かったというのはその通りですが、このサイズでは設計できなかったというところです。もっと大きなサイズの探査機なら出来たというところです。

月刊星ナビ・ミリメートル単位のところで余裕がなく両面に貼ることができなかったということか。
橋本・そういう状況でした。

毎日新聞・太陽捕捉ができなかったことについて、SLSの打ち上げが数年単位で遅れたことによる探査機への影響はどう見ているか。
橋本・それも原因が判らないことにはなんとも言及はできないが、場合によっては、例えば打ち上げが遅れて保管期間が長かったためにどこかが劣化したのは、可能性のひとつはあると思います。通常、人工衛星はロケットに載せて少なくとも数ヶ月以内には打ち上げるのは、私が経験してきた探査機では普通だったが、今回はNASAに引き渡したのが2021年7月ですので、1年半くらいずっとロケットに載ったまま全く手を触れていないというところで、もしかしたら原因にもよりますが関係しているかもしれないと思っています。

毎日新聞・16日にマドリード局でデータを受信して以降、ガスジェットによって回転を止めようとしたということだと思うが、ガスジェットを使って傾きを変えて太陽の方向に太陽電池を向けようという試みをしたのか。それともそれは不可能なのか。
橋本・最後はそれをやりました。ガスジェットを使って回転を止める方が有利なのか、回転したままで方向を変えるのが有利なのかは難しい選択だったが、両方試したがどちらも時間が足りなかったというところです。

読売新聞・有人宇宙船のオライオンと相乗りだった関係で、いろいろな装置が作動しない側に振る必要があったとのことだが、今回のOMOTENASHIのトラブルと関係しそうな要因はあるか。
橋本・まだ原因究明が出来ていないので何とも言えないが、思い当たる範囲内においては、今回のケースは直接的には関係していないのかなと思います。遠因というか間接的には、先ほどの太陽電池が入らないというのも、安全性を重視しなければならないので個々の部分が大きくなって結局しわ寄せが来て太陽電池が1ミリも入らなくなったとか、そういうのは連鎖的にあるかもしれないが、直接的にこのルールがあったからこういうことになったというのは無いと今のところ思っています。

読売新聞・最初に何故高速に回転してしまったのかに関して、ガスジェットが関係するかもとの話だったが、最初のレートダンプ機構が働くという時は、これは10度/秒くらいの回転を止めようとして働くという事なので、その働いた後に何かしら問題があって回転が速まってしまって、かつ何かのトラブルがあってさらにその状態で太陽捕捉制御モードに入ってしまったという2段階のトラブルが考えられるということか。
橋本・現象としてはその通りで、2段階のトラブルになっているが、こういう不具合の例で言うと、複数のいろんな要因が同時に起こることは通常は考えにくい。何かひとつの要因で両方の事象が説明ができることがないとおかしいと思っていて、そこが今判らないところです。これが起こって、これが起こって、これが起こったらこうなりますよねというのは、いろいろそういうケースは考えられるが、一箇所の故障というか問題で全部が説明できるケースは何かというのを今考えようとしています。

読売新聞・3月以降に充電が再開してもういちど探査機のデータが見られるようになった際に、その辺りの検証が出来るようになるのか。可能性ですが他の衛星がぶつかるといったことも含めて判るようになるのか。
橋本・そこまで待たずに、いろんなデータを総合して、これが原因ではないかという風に絞り込みたいとは思っているのですが、探査機にはデータを記録する機能があります。そのメモリは不揮発メモリになっているので、いちど電源をオフにしてももう一度オンになって、そこのデータが読み出せれば、ロケットから分離してから何が起こったかがかなり克明に判ると思います。ですのでそのデータがあれば、答え合わせというか判るが、それを待たずにもうちょっと今あるデータをいろいろ考えながら原因究明をしたいと考えています。

共同通信・SLSロケット側の影響が考えにくいのはEQUULEUSが正常に飛行しているからそう推察できるということか。
橋本・EQUULEUSは正常だったがOMOTENASHIの分離がおかしかったとか、他のキューブサットはどうなのかというのは個別かと思うので、必ずしもそういうことではなくて、最初の第一可視で見えてきたいろんなデータを総合すると、恐らくロケットからの分離は当初言われていた10度/秒くらいだったのではないか、丁度そんな感じだったのではないだろうかというところで、そうするといろんなデータは説明がつくということになります。ただし大きな外乱自体が説明がつかないが、ロケットから分離した状態は10度/秒くらいだと、いろんな制御のパラメータが記録として残っていたので、それから考えると納得はしますので、今のところ否定はしていないがロケットの影響があったという根拠は何も無いというのが今の状況です。

共同通信・大きな回転があったのでガスジェットで制御しようとしたと思うが、ガスジェットを使うことでさらに電池減ってしまって動かなくなるという悪循環みたいなものがあったのか。
橋本・はい、それは宿命でしょうがないのですが、ガスジェットを使う時に通常の衛星はあまり電気を食わなくてリアクションホイールの方が電気を食うということが多いが、超小型になりますとバルブを駆動するだけでも非常に電気を食うとか、燃料を噴射するためにヒーターで温めるための電力も食うということがあって、非常に食うということになってしまっているので、そこは最初の可視で非常に厳しい選択だったが、ガスジェットを吹けばどんどんバッテリが減っていくのでバッテリの寿命が短くなってしまう。でもそのまま何もしなければ、時間切れでやはりバッテリは無くなってしまうということで、どっちを優先するかということで、我々としてはガスジェットで姿勢を立て直す方を優先したが、結果的に間違ってはいなかったと思っているが、何もしないよりは早めにバッテリが無くなってしまったというところです。

共同通信・サクセスクライテリアの話があったが、ミニマムサクセスの設定は何か。
橋本・OMOTENASHIの場合はミニマムサクセスは設定していませんでした。超小型ということもあってあまり細かく設定してもしょうがないのではないかということで、とにかくフルサクセスは着陸実験をすること、あるいは放射線モニタの観測をすることの二つだけでした。着陸の成功自体がエクストラサクセスという定義にしています。

フリーランス大塚・第一可視の時の対応について、最初発見されたとき80度/秒という速い回転だったが、これはガスジェットを何分くらい噴射すると止められるのか。
橋本・どういう制御モードでやるかによるが、既にあるレートダンプモードで80度/秒を消すためには30分から40分くらいの、そんな感じの時間オーダーになってしまいます。

フリーランス大塚・結構長いですね。
橋本・ガスジェットの推力がかなり大きかった場合でも制御系が発散しないように、制御ロジックとしてはちょびちょび吹くというロジックにしてしまったために非常に時間がかかってしまって、後から考えれば自動制御ロジックではなくマニュアルでこのスラスタを何秒間吹けと指定した方が早かったと思うが、さすがに何も試験していないモードをマニュアルで何秒間吹くというのは怖かったというのもあって、実は最後の最後はそれで吹いたが、たらればになってしまうが、ぱっと見た瞬間にそれに踏み切ってマニュアルで何分間と吹けばたぶん10分から20分で抑えられたかもしれないので、そうすれば間に合ったかもしれないが、そういう判断はその場ではできなかった。

フリーランス大塚・バッテリの問題もあったと思うが、最初に通信ができたときのバッテリの残量はどれくらいあったか。
橋本・今記録していないが、電源の担当者からは、最初見た時にかなり減っていて危ないですと言われた状態で、見えるまでの間にかなり消費していたというところです。

フリーランス大塚・最初から20分噴射しても間に合わなかったかもしれないということか。
橋本・はい。そこは本当にギリギリだった。

フリーランス大塚・そのあと電源がオフになった後に、再起動を繰り返すのを防ぐために送信機とガスジェット装置をオフにするコマンドを打ち続けていたが、今思えばという感じになるが、電圧が低ければ電源をオフにするというロジックを最初から組み込んでいれば良かったと思うが、それは何かできなかった理由はあるのか。
橋本・そこまで想定していなかったと言えばそれまでと思うが、軌道上でバッテリがオフになることは普通はあまり想定していなくて、最初にロケットに搭載している状態は太陽電池は発電していないのでバッテリだけで動かなければならない。それは何分以内には必ず太陽指向ができるというのはシミュレーションや試験をして確認しているので、それにプラスアルファのマージンを設けてバッテリの容量を計算していたということで、バッテリが足りなくてギリギリで起動するけど消費電力が大きくなってやはり落ちてしまうような状態は設計上は想定していなかった。

フリーランス大塚・今後の知見として活かせるというところか。
橋本・そうですが、超小型衛星の設計思想になるが、こういうことが起こったらこうすると考えていくと、それが裏目に出ることもあって、限りなくこの装置を追加しましょうとか、こういうロジックを追加しましょうとかで試験の工数も増えるとかで、結局は普通の衛星と同じになってしまってコストも大きさも大きくなってしまうので、どこで思い切るのかというのが非常に難しいと今回感じました。

フリーランス大塚・17日以降に通信が復帰しなかったとのことだが、DSN Nowでたまにダウンリンクが入っているように見える瞬間があった。これはテレメトリは受信できなかったが電波自体が見つかったことがあったのか、それとも電波自体が無かったのか。
橋本・DSN NowはNASAのアウトリーチ的に皆さんに関心を持ってもらうためのサイトなので必ずしも正確では無くて、キャリブレーションのための設定をしていると、いかにも受信したように見えたりすることがあったり、あるいは違う探査機の名前が入ったりすることはよくあり、我々も見ていて全然違う探査機になっていることがちょくちょくあります。受信は全くできていませんでした。

朝日新聞・2023年の夏までは通信が届く距離ということで、具体的に地球からどれくらいの距離か。
橋本・今は様が無いので正確ではないが、確か4千万キロくらいだったと思います。それくらいまでなら通信は届くと聞いています。

朝日新聞・今回は想定外とのことだが、一方でもともとは太陽電池パネルを長方形の4面に貼る予定だったが、小型にしなければいけないということで1面にせざるを得ないということから、そこが太陽に向かないとどうにもならないというリスクも承知の上だったかと想像したが、その中で想定外とおっしゃったのはどういったことなのか。
橋本・これも人によって考え方が違うが、私が思うには、超小型の衛星や探査機の場合には、こういうことが起こったらこうしましょうというバックアップを考えていくことは難しい。ですので、どの機器も壊れない、どの機能も故障しないということを、地上で十分に試験してやっていくしかないという風に感じています。ですので、そこが壊れたらこうなるということは想定しているが、そこはもう壊れないと十分に試験をして組んでいますので、そのうちのどこかが想定外の、故障したのか動作したのか判らないが想定外ことがあったと考えていて、太陽電池が反対を向いてこのように高速回転したらこうなるというのは十分想定はしているが、決してそういう状態にはならないようにと設計していたところがなってしまったところが想定外ということになります。

朝日新聞・開発段階でもいろいろ試験していた中でこういったリスクを回避できるようになっていたが、実際やってみたらこういった結果になって想定外という言葉を使ったということか。
橋本・言葉は凄く難しいが、こういう事が起こったらこうなるという事は想定していたが、そういう事とは起こらないと思って設計していたので、そういう事が起こったのが想定外だということです。だからリスクという意味では、ここの機能は間違うかもしれないと思えばそこはリスクという事になります。

読売新聞・原因究明と対外対応で分かれて検討されていく中で、情報をどういう形で公開されていくのか。
佐藤・まだ原因がわかっていない状態ですので、どれくらいで出来るかはきちんとは申し上げられないが、できるだけ早く活動を進めていきたい。手に持っている情報で判るところまで原因究明をして、いちどそこで皆様に報告したいと思っています。そんなに長い時間をかけるものではないと考えています。

読売新聞・いったん暫定的に今持っている情報から推定されることをまとめた段階で次は情報が公開されるということか。
佐藤・はい。
JAXA広報・必用なタイミングを見てプレスブリーフィングを実施することを考えています。

NewsPicks・最後に通信ができたのは何時のどこの局だったか。
橋本・手元に時間までは記録が無いが、第一可視のマドリード局です。マドリード局の途中で途切れてしまったというところです。

NewsPicks・日にちで言うと16日か。
橋本・日本時間で16日の夕方だったと思います。

NewsPicks・その辺りが最後の通信だったのか。
橋本・可視情報のデータから、マドリード局は日本時間で22時27分まででしたので、そのちょっと前だったと思います。20時40分から始まって1時間くらいしか持たなかった気がするので、22時とかその辺でした。正確にはわからないが20時から22時くらいの間のどこかだと思います。

NewsPicks・それを最後に通信不能になってしまったということか。
橋本・はい。

NewsPicks・前の説明会で、できればDV1もやりたいという話をしていたが、今日のリリースを見るとDV2の実施が出来なかったとしか書いていないので、DV1は早々にあきらめてやらないことにしたのか。
橋本・そうではなく、予定ではDV1は17日の夜にやる予定だったが、これはいろいろな起動決定等の精度を保つためにはこの辺で最初に制御を始めて、軌道を決定してもう一回精密に合わせるTCMをやろうとしていたが、その辺を全部すれば最後のTCMをやるのは19日、そのあとの軌道決定の時間まで省いてしまえば20日くらいでもまだ間に合うという事でしたので、この辺まではもし回復すればDV1をやろうと思っていました。金曜日くらいにDV1を含めるのは無理でDV2の一発しか答えはないと判断しました。

NewsPicks・近月点は月からの高度はどれくらいか。
橋本・数字を持っていないが1600キロくらいだったと思う。結構高い高度だったと思います。

時事通信・ガスジェットの制御は基本的にジャイロで機体の回転速度を見て止めるのか。
橋本・はい、その通りです。ジャイロで見て回転数が高いならその制御が起動して、回転数が収まったらそこで停止するという制御則です。

時事通信・最初の可視のとき、ガスジェットが動いたというテレメトリが降りてきていると思うが、積算時間とか、吹きすぎというデータはあったか。
橋本・積算時間はちゃんと降りていて、それから計算すると10度/秒くらいの回転を止めたということになっています。ですのでロケットのインターフェイスで分離外乱が最大10度/秒くらいと言われていたのとぴったり整合するので、類推に過ぎないが、そこに特に矛盾は無くて、分離したのでその外乱を抑えるためにガスジェットを吹いて丁度10度/秒の外乱を抑えたように見えます。そこで制御は止まっているが、何故か80度/秒で回転していた。そこは大きな矛盾なので、そこに何があったのかというところが謎で、そこを解明しようとしています。

時事通信・回転の原因がガスジェットかもしれないとおっしゃっているのは、ガスジェットの動作履歴に不審な点があるというよりは、これだけの回転を与えられる物が、何かがぶつかったかはともかく、ガスジェットくらいしかないという消去法的な考えということか。
橋本・その通りです。何かがぶつかった可能性もあり得て、分離した外乱はガスジェットで抑えたが、そのあと何かがぶっかったことも当然あるが、何がいちばん可能性があり得るかというのを先入観を持たずにこれから調査をしていかなければならないと思っています。

時事通信・OMOTENASHIの運用は少なくとも夏ぐらいまでは続くのか。
橋本・どこまでを運用と言うかだが、軌道決定が最初の可視でも出来ていない状況ですので、今月スイングバイをしてしまうと、今日までは十分な精度で追えるが、明日以降は急速に精度が悪くなってしまうので追跡は無理と思っているのと、太陽光の方角から電源も入っていないと思われるので、暫く運用は中止しようと思っています。

時事通信・それではなくプロジェクトは終了せず続くのか。
橋本・そうです。物理的に名コンタクトが難しいので、この間は不具合の解明とか今までのデータの整理とか、あるいは今後の復旧運用に向けた準備等をプロジェクトチームとしてはやっていきたいと考えています。いつ再開するかは、今の姿勢を正確に求めないといつ太陽光が当たり始めるか判らないので、大体3月頃だと思っているがその精度を高めようとしています。太陽と反対方向を大体向いているが、45度か50度くらい傾いていて、どっち側に傾いているかで、太陽が1日1度回っていく中で、近い方だと早目に来るが、反対方向だと180度を乗り越えてその角度にならないといけないので、もう1〜2ヶ月余計にかかる。どっち方向かを今なんとかいろんなセンサの情報から求めようとしています。もしかしたら2月くらいかもしれないが、いずれにしても12月と1月は無いと思っています。

読売新聞・ガスジェットのレートダンプを止めるときも、ジャイロで回転を見て止まったと判断したら制御を止める機構なのか。
橋本・完全に止まったというよりは、リアクションホイールという装置の方で制御可能な量に入ったらガスジェットの制御を止めるようにしていました。というのはガスジェットは難しいというのが今までの経験でもありますので、できる限りリアクションホイールで私としては制御したかった。もしロケットからの分離外乱が小さければガスジェットは一切使わずにリアクションホイールだけで制御しようというロジックになっていました。ですが残念ながら外乱はインターフェイスの値内なのでしょうがないが、それだけの外乱がありましたのでガスジェットが動いた。データを見る限りはガスジェットの制御は無事終わってリアクションホイールの制御に移っているように見えるが、非常に高速で回転していたので、そこが謎という状況です。

読売新聞・ジャイロで見て回転しているから吹いて止めようというそこだけの制御なのか、止めたあとのことも確認して制御をやめるのか。例えば吹き方が違って回転が生まれた後に制御が止まった可能性もあるのか。
橋本・何をやっているかというとXYZと3つ軸があるので、正確には角運動量であって回転数ではないが、回転数を見ながら、ある量よりも速い回転をしている軸があればその軸を落とす。その軸を落としたことによって他の軸がもし加速したら今度はそちらの軸を落とす。全部の軸の回転数がある範囲内に入ったら制御を止めるというロジックになっています。ですので一度止まってしまうと、さらに何か別の要因で回転数が増えても二度と起動しないロジックになっているので、それで良かったのか悪かったのかはいろいろ考え方があるが、現状としてはそういうロジックになっているので、一度収まった状態になった後でもう一回外乱が来てしまうとこのロジックでは対応できないという事になっています。

読売新聞・可能性としては収まったあとに何か外乱があったのだろうということか。
橋本・ロジックが正しくて設計通りだったとすれば、それしか要因は考えられないが、原因の中にはこれで良いと思っていたロジックに欠陥があったかもしれないし、ジャイロを見て制御しているので、ジャイロが誤動作したらどういった事が起こるかなど考えられることは沢山ありますので、そこをちゃんと網羅して、どれがデータと矛盾して、どれが矛盾しないかを識別していかないといけないと思っています。

以上です。

No.2491 :超小型探査機OMOTENASHIの状況
投稿日 2022年11月22日(火)01時27分 投稿者 柴田孔明

超小型探査機OMOTENASHIについてJAXAから発表がありました。

「11月16日(水)にSLSロケットから分離されたOMOTENASHI探査機について、11月21日(月)22:05から11月22日(火)2:00(ともに日本時間)まで行った地上局運用(DSNゴールドストーン局)において、探査機との通信が確立できず、月着陸マヌーバ(DV2)運用の実施ができないと判断いたしました。
目的の一つである月面着陸を果たすことはできませんが、探査機航行中に実施可能なもう一つのミッションである地球磁気圏外での放射線環境測定のほか、月面着陸以外の技術実証を目指し、引き続き復旧作業を実施してまいります。」

(※上記の投稿時間はサーバー内時間のため、1時間ほどずれることがあります)