宇宙作家クラブ
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No.2441 :S−520−32号機の頭胴部 ●添付画像ファイル
投稿日 2022年7月9日(土)21時34分 投稿者 柴田孔明

この中に観測機器があります。


No.2440 :公開されたS−520−32号機 ●添付画像ファイル
投稿日 2022年7月9日(土)21時33分 投稿者 柴田孔明

公開された機体


No.2439 :観測機器の配置 ●添付画像ファイル
投稿日 2022年7月9日(土)21時31分 投稿者 柴田孔明

観測機器の配置図(S−520−32号機)


No.2438 :観測ロケットS−520−32号機の概要説明 ●添付画像ファイル
投稿日 2022年7月9日(土)21時30分 投稿者 柴田孔明

 2022年7月8日に内之浦宇宙空間観測所で行われた観測ロケットS−520−32号機の報道公開と概要説明です。

・登壇者
JAXA宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 准教授 阿部 琢美
奈良工業高等専門学校 電気工学科 准教授 芦原 佑樹
JAXA宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 准教授 観測ロケット実験グループ グループ長 羽生 宏人

・概要説明 観測ロケットS−520−32号機の実験について

 ・実験題目:「電離層擾乱発生時の電子密度鉛直・水平構造観測」
 ・概要:電離圏下部(高度80〜300km)に擾乱(プラズマ密度の変化。濃淡)が発生している時に、観測ロケットにより電子密度の鉛直・水平方向の構造を観測する。
 ・実験予定日時:2022年7月10日23:00(〜24:00まで)
 ・予備期間:同年7月11〜17日、8月8〜17日、9月6〜17日の同時刻

 ・実験の目的:本実験では観測ロケットにより電子密度擾乱発生時の電子の鉛直・水平方向の分布を観測することで空間構造を明らかにし、発生メカニズムの解明に迫る。

 ・実験の背景(1):電離圏中の電子密度の擾乱(様々なスケールの電子密度変化)はスマートホンやカーナビでの測位精度を悪化させる他、電波の宇宙利用に影響を与える現象として知られている。GNSS衛星電波を使用したこれまでの観測では衛星−地上間の電子数の積分量が推定されてきたのに対し、本実験はロケット高度の上側と下側の密度分布の違いを明らかにすることに特徴がある。
 測位の精度悪化の要因は複数あるが、いま最も大きいと考えられているのか電離圏遅延と呼ばれるもの。電波が電離圏を通過する際に濃淡があると電波が早く届いたり遅く届いたりする。僅かな差なので衛星放送では問題にならないが、測位では僅かな時間の差が数メートルから数十メートルの誤差に関わってくる。対策として電離圏予報みたいなものがあれば有効と考えられている。
 (※GNSS:Global Navigation Satellite system:全地球航法衛星システム。米国GPSがよく知られており、ロシア、EU、中国等がそれぞれ独自のシステムを構築している)

 ・実験の背景(2):
  ・MS−TID(中規模伝搬性電離圏擾乱)とは、電離圏F領域に発生する数百km波状構造が、日本の上空では夏期夜間には南西方向に、冬期昼間には南南東方向に伝搬する現象。
  ・MS−TIDの生成は、夏期夜間は従来大気重力波による中性大気の摂動が原因とされてきたが、中緯度では電場が重要な役割を果たすと考えられてきている。
  ・計算機シミュレーションからはスポラディックE層の不均一に起因する電場が磁力線沿いにF領域に投影され、MS−TIDが急激に成長することが最近の研究によりわかってきた。
  ・MS−TIDの生成機構解明にはE領域およびF領域で電子密度の鉛直・水平構造を同時に観測することが重要。

 ・実験のその他の目的:
  ・新たな計測手法の検証
   ・ロケットGNSS−TECトモグラフィ法の実証。
   ・新方式の月・地平線センサの検証。(※ロケットの絶対姿勢を確認)
  ・機器内製化と打ち上げオペレーションを通した実践的な宇宙人材教育。
   ・観測ロケット実験が持つ「実践的な宇宙人材育成の場」としての役割をより強力に推進。観測ロケットは振動など厳しい環境なので、その中でどうやって観測の機能を成立させるかを考えるのは、非常に勉強になる。
   ・内製化により技術蓄積を行うとともに、測定機器のコストダウンにつなげることで、次の実験機会に向けてステップアップしたい。

  ・実験方法:以下の1と2により電離圏E・F領域のプラズマ密度の立体構造を明らかにし、3と4でメカニズム解明に重要な電場とロケット姿勢データを取得する。
   1.GNSS、DBB:電波を使って伝搬経路上の電子数を推定、ロケットの移動を利用して広い空間の電子密度の推定。
   2.NEI:プローブによりロケット軌道上の電子密度分布を観測。
   3.EFD:ロケット位置で電場を観測し、密度擾乱発生に係る役割を解明。
   4.VAS、MAS:カメラにより月や地球を撮影し、ロケットの姿勢を決定。

  ・Sub−PI
   1.電離真空計による大気圧計測実験。クリスタルイオンゲージを用いてロケット飛翔中に大気圧力を測定し、熱圏下部での中性大気密度を推定する。
   2.SMT/USOによる軌道同定実験。ミニチュア・テレメータ送信機(SMT)に高安定信号発生器(USO)を接続し、飛翔中に生じるRFのドップラーシフト量から飛翔経路を高精度に推定する。

 ・参加研究機関
  奈良高専、京都大学、東北大学、富山県立大学、東海大学、神戸大学(Sub-PI)
 ・搭載機器 (搭載機器:略称:観測項目:担当機関)
  全電子数観測器:GNSS:電子密度(トモグラフィ):奈良高専
  2周波ビーコン送信機:DBB:電子密度(トモグラフィ):京都大学
  電場計測器:EFD:電場観測:富山県立大学
  インピーダンスプローブ:NEI:電子密度(その場観測):東北大学
  画像姿勢計測器:VAS−V/I、MAS:ロケット姿勢:東海大学

 ※地上局は鹿児島県内に設置。

 ・打上げ条件
  ・ロケットの保安や飛行に影響を与えない天候であること。
  ・ロケットの飛翔方向に電子密度擾乱(変化)が発生していること。
  ・満月に近い月(月齢10.8〜18.8)がロケットから観測できること。


・質疑応答
鹿児島テレビ・最高到達高度はどれくらいか。またどの高度で実験を行うのか。上りだけか。
阿部・風などの条件によって変わるが260〜270kmくらいの高度を予定しています。観測は、大気がプラズマという状態になっているのは高度70キロくらいから。そのため高度80キロから260キロまでの空間を観測する。観測は上りと下りで行う。

鹿児島テレビ・擾乱は夏場はほぼ毎日あるのか。
芦原・7〜8割の確率で発生しています。来ない日がずっと続くこともある。太陽の11年周期で統計をとると7〜8割になる。

鹿児島テレビ・資料には測定器が5つあるが、サブをいれて6つの機器となるか。
阿部・サブを入れて8つ。主目的の測定機器は6つです。

南日本新聞・擾乱の観測は今回が初では無いが、JAXAはいつから擾乱の発生メカニズムの解析を行っているか。今回は従来の観測と何が違うか。
阿部・大変重要なポイントです。電子密度擾乱の実験はこれまでも多数行ってきました。理由は電離圏のプラズマ密度が一定なら簡単で、仮定することができて測位に狂いは生じない。ところが実際の超高層大気領域は密度の変化がある。なぜ変化するか、最大どれくらい変化するか、GPS測位にどれくらい影響するかを知りたい。理解できれば社会的にも役に立つ。そういったモチベーションから沢山の実験を行ってきた。いろんなアプローチの仕方がある。たとえばS−520−27号機ではメカニズムの本質に迫るものでパラメータをたくさん測りたい。電子密度や電場だけでなく中性大気の運動、電子温度などいろんなパラメータを総合的に観測してメカニズムそのものにアプローチするものだった。今回はメカニズムの解明も目的だが、立体構造を明らかにしたい。鉛直構造、水平構造を観測する。ひとつの研究によれば、F領の電子密度擾乱はE領域に種がある。それならばE領域とF領域を分離して電子密度を測ることが重要。それを実現するのが今回の実験。

南日本新聞・E領域とF領域の違いを調べるのは今回が初めてか。
阿部・初めてではない。これまでもロケット軌道に沿って「その場観測」でE領域もF領域も通過して密度を観測している。今回の特徴は電波を使うこと。それにより広い空間の電子密度を推定することができる。その場観測はロケットの位置の密度しかわからないが、電波を使った手法でより広い空間の情報が得られる。

NHK・天候については今のところ23日の打ち上げに支障は無いのか。
羽生・そうです。

NHK・擾乱が発生しない可能性もあるのか。
芦原・確率は7割から8割だが、ばらつきがある。

NHK・23時スタンバイして24時まで待って、無かったら次の機会となるか。
阿部・1時間待って現象が発生していないとそうなる。

NHK・GNSSの衛星はGPSと言い換えて良いか。
芦原・やや正確さに欠けるが、皆さんに馴染みのある言葉として大丈夫だと思います。

以上です。


No.2437 :H3ロケット開発状況に関する記者説明会
投稿日 2022年2月4日(金)22時26分 投稿者 柴田孔明

 2021年1月21日午後よりH3ロケット開発状況に関する記者説明会がオンラインで行われました。
(※一部敬称を省略させていただきます。また通信状態等により聞き取れなかった部分等は省略しています)

・登壇者
JAXA宇宙輸送技術部門 H3プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 岡田 匡史

・はじめに(岡田)
 ・本日のプレスリリースでH3ロケット試験機1号機の2021年度の打ち上げを見合わせることとすると発表させていただきました。H3ロケットの開発を担当する者として想定していた計画通りに打ち上げが実施できない、またそのロケットに乗っていただくミッションに大きな影響を与えてしまったことは非常に重く受け止めております。また打ち上げを見守ってくださった多くの皆様がいらっしゃいますが、その方々にも期待に応えることが出来ず非常に残念に思っておりますし、自分自身も非常に悔しいです。メディアの皆様には、この半年ほど進捗がなかなか見えづらい中で我々の開発を静かに見守っていただいたことを本当に感謝しております。

・H3ロケット第1段エンジン(LE−9)の開発状況について(岡田・配付資料より抜粋)

 ・LE−9エンジンについては、認定燃焼試験にて、2つの事象(燃焼室内壁の開口および液体水素ターボポンプ(FTP)タービンの疲労)が発生した(2020年5月)。
 ※認定燃焼試験(QT):実際の打上げに用いるエンジンと同等設計・プロセスで製造した試験用エンジンによる機能・性能の確認および寿命実証を目的とした燃焼試験

 ・これらの事象への対応を確実に行うため、開発計画を見直した。これにより、試験機1号機(TF1)の打上げ時期は2021年度、TF2は2022年度となる見込みとした(2020年9月)。

 ・以降、翼振動計測試験および技術データ取得試験(エンジン燃焼試験)等を段階的に実施しつつ、現象の究明と対応策の具体化を進めてきた。
 ※ターボポンプを実作動させ、動翼に発生する歪を直接計測する試験

 ・認定燃焼試験への移行には、対応策を反映したエンジン(ターボポンプ単体を含む)での試験検証を行うこととしている。現在、ターボポンプの設計確定に向け試験を進めているところ。

・燃焼室内壁の開口について
 ・状況:冷却溝に至る開口を確認。溝方向に最大幅0.5mm×長さ10mm程度、500本の溝の中で計14か所。
 ・原因:実体の詳細調査および解析等による原因究明を実施。燃焼室内壁を高温作動条件で試験した際、燃焼室内壁が設計値以上に高温化。高温化の要因は、「定常時の局所的な熱の流入」または「起動・停止過渡時の一時的な冷却不足」と推定。
 ・対応策:冷却の強化、起動・停止パターンの見直し等により、燃焼室内壁温度を低減。エンジン燃焼試験により技術データを追加取得し、対応策の効果を検証予定。

 ・技術データ取得燃焼試験の状況
  ・2020年11月より燃焼試験を実施し(計9回、1154秒)、様々な燃焼状態における燃焼室内壁面直近の温度データを取得し、各試験後に燃焼室内面の性状変化を観察(認定燃焼試験での事象が実際に発現)。

 ・原因の絞り込み
  ・試験データの評価とシミュレーション等により、「定常燃焼中に壁面に繰り返し高温の温度サイクルが負荷されることにより一定方向の塑性変形が累積し、最終的に開口」に至ったと推定。
 ・対応策
  ・壁面の変形が有意に進行しない壁温の上限(約1100K)以下で作動させる対応策を確立した(試験機1号機で使用する機械加工噴射器は十分な余裕)。
  ・試験機2号機以降で使用する3D造型噴射器については、実証データを増すとともに最終設計での機能・性能を検証するため、技術データ取得燃焼試験を追加実施する予定。

・FTPタービンの疲労について
 ・状況:FTPの第2段動翼(タービンの一部)76枚中2枚に疲労破面を確認。
 ・原因:実体の詳細調査、解析、翼振動計測試験等による原因究明を実施。当初有意な影響があると評価したモード以外の共振により、疲労が蓄積・進行したためと推定。
  ※ターボポンプを実作動させ、動翼に発生する歪を直接計測する試験
 ・対応策:全ての構造固有値を運転領域から除外したタービンに設計変更(念のため、OTPについても極力同様の方針とし設計変更)。翼振動試験を実施し、対応策の効果を検証予定。
  ※構造体がもつ固有の共振周波数。形状、材質などで決まる。

 ・翼振動計測試験の状況
  ・ターボポンプの翼振動計測手法を新たに導入の上試験を実施し、翼の振動応答レベルを直接計測(単体試験に加えエンジン燃焼状態でも計測)
  ・原因となった共振モードの特定および対応策を検証

 ・対応策の検証状況
  ・液体水素ターボポンプ(FTP)
   ・全翼の設計変更等により翼列由来の共振を回避し、翼振動計測試験にて改善効果を確認。
  >>翼振動計測試験において、第1段タービンディスク部にフラッタの発生を認めたため、複数の対応策を具体化中。

 ・液体酸素ターボポンプ(OTP)
  ・FTPからの水平展開として、全翼の設計変更等により翼列由来の共振を極力回避し、翼振動計測試験にて改善効果を確認。
 >>翼振動計測試験により、対応すべき振動応答(課題として顕在化していない、タービン入口部の流れの不均一性等に起因すると推定)を新たに把握し、複数の対応策を具体化中

・開発計画の見直し
 ・2020年5月のLE-9エンジン認定燃焼試験にて認められた2つの事象のうち、燃焼室内壁の開口については対応策を確立した。一方、FTPタービンの疲労を受けたターボポンプについては、一定の目途を得たものの確実な打上げを行うための対応が必要な状況。
 ・対応を具体化次第、これまでの方針(以下に示す)どおり試験機1号機の打上げに臨む。
 翼振動試験および技術データ取得試験等により段階的かつ着実にリスク低減を実施。
 そのうえで認定試験により開発仕様を実証し、TF1を打上げる計画。
 ・このため、試験機1号機の2021年度の打上げを見合わせることとしたい。
 ・なお、これまで総合システム試験などを極力前倒し、全体のリスクを低減しつつ開発が進捗しており、当面LE-9エンジンの開発に集中する。

・質疑応答
時事通信・新たに確認された事項の水素と酸素のフラッタについて、酸素は入口の流れの不均一ということで、送り込む酸素が不均一とある程度の原因が特定できていると思うが、水素のディスク部のフラッタについては対応策を考えていると説明があったが、これは推定できる現象はあるのか。
岡田・まず酸素の方ですが、入口の不均一はタービンの入口です。ですから水素ガスの不均一な流れが割と大きな原因ではないかと思っています。
 (※液体酸素ターボポンプは水素ガスで駆動される)
 補足しますと1枚の動翼部分が1周回りますと、不均一な流れに1周回に1回巡り会う。そういったものが繰り返しかかるのが酸素のターボポンプの話です。
 それから水素の方ですけども、フラッタに関してはタービンの設計において気をつけないといけないものの1つです。現象としてははっきりとしております。ですからこのフラッタに対してどのように抑制をしていくかということ自体が今見極めているということで、皆目見当が付いていないというよりも、むしろ対応策がどういうのがいちばん良いかを探しているところです。

時事通信・これは新たな設計変更が必用なレベルか、それとも運転モードを調整することで対応可能かの見通しはどうか。
岡田・まだ慎重に検討しているところ。いろいろな手立てはあると思っています。今はまだ具体化しているところなので、その具体的な内容については申し上げられる状況ではありません。いくつかの手を講じて、いちばん適切なものを選んでいきたいと思っております。その対応の幅によって時間を見極めていく必用があると思っています。

共同通信・山川理事長が会見で延期を表明した際に、新たな確認すべき事象についてどう対応していくか検討中で、現段階で課題解決の時期は明言できないとおっしゃっていたが、今回なぜ期限を設けない延期という形になったのか。どれくらい深刻で、どれくらいの見通しが立っているのか。
岡田・深刻といいますか、このエンジンの完成ついて言えば、全体からすると本当にあと一歩のところと思っています。この一歩は慎重かつ確実に仕留めないといけないと思っておりまして、そのためにはエンジンの開発計画そのもの、この先どういう道を進むかということは、ベストの答えを選びたい。そのためにいろいろな策に対してどれがいちばん良いのかを比較検討しながら具体化しているところです。ですので全く皆目見当が付かないという状況ではないと考えています。

共同通信・これがうまくいった場合、打ち上げまで最低限これくらいかかるといった目処はあるか。
岡田・お手本となるようなスケジュールはあるが、プロジェクトというのはそれでそのまま進むというものでは必ずしもない。ですからいかに知恵を絞って、急がないといけないときには確実に進みつつもある程度リスクを見極めながらそこを短縮していく。かなり伸び縮みがあると思っていただいた方がいいと思います。ですので大体どれくらいというのはなかなか申し上げづらい状態というのは、そういう事も含めていろんな工夫をしていきたいと思っているところです。

KKB・タービンの疲労という表現だが、打ち上げができないレベルなのか。
岡田・今事象として残っている分では、なかなか見極めが難しいところだと思います。疲労というのは針金を繰り返して曲げると折れるものに近い。それが高速で起きるものです。どのぐらい疲労がたまると打ち上げができないかは推測になってくる。条件の置き方など、そういったことでだいぶ評価が変わってくる部分がある。明らかに絶対に駄目かという質問に置き換えると、そこは必ずしもそうではないのではないかと思います。

KKB・確実な打ち上げのために延期したという理解で良いか。
岡田・そうです。我々としてはエンジンの信頼性を極めて高く仕上げる責任があると思っています。そういう基準に照らし合わせたときに、酸素のターボポンプに関しては改良すべきであろうと思っています。もちろん今後対応策を検討する中で、いろいろな知恵を絞っていきたいと思っています。

KKB・課題解決に向けた目処が立てられないとのことだが、打ち上げの目処が立った場合、早ければいつ頃という見込みはあるか。
岡田・それはもう少し時間をいただきたい。現象を捉えて対応策を複数検討している中ですので、選び方によって少し幅があるかと思っています。なるべく早く、いろいろなミッションへの影響を抑える形で仕上げていきたい。これは誰もが思っていることですので、それをみんなで目指したいと思っています。

KKB・岡田さんはH3の開発を登山にたとえて、最近では山の9合目との話だったが、今は9合目で足踏みをしているのか、それとも少し下ってしまったくらいなのか。
岡田・山登りのたとえがだんだん難しくなってきているが、9合目だと思います。そこからの上り坂が急峻で、ロッククライミングをしながら、けれども登り切れるような状態にあるのではないかと思います。

KKB・今のお話では登頂できる目処は見えている状況ということか。
岡田・遠くに山頂は見えているが、登り方をどう選ぶかがポイントではないかと思っています。

フリーランス鳥嶋・LE−9のターボポンプは、過去のLE−7Aなどのターボポンプと比べて開発が特に難しいのか。運転や環境の条件が厳しいところがあるのか。あるとすればどういったところか。
岡田・ロケットエンジンというのはどれ1つでも甘く見ると本当に大きなしっぺ返しがある。一概に比較はできないが、特徴的なことはやはりエンジンサイクルによりまして、燃焼室が非常に大型であって、それを製造して、比較的高い温度で使っていくことは難しいところではないかと思っています。またタービンにつきましても、大きな出力を出すタービンでありながら超音速で流して、なるべくロケットの性能を落とさないで実現することがシステム的に難しいかなと考えています。

東京とびもの学会・壁面の開口現象の対策について、進行しないように温度条件を保てるような対応策を確立したとある。この動作をした場合、エンジンのパラメータ的に性能はどうなるか。本来の性能より上がる・下がるなどスペックに対する影響はどうか。
岡田・スペックに対する影響は無いです。ですが、無いようにするために苦労をして作動点を探るなど、三菱さんと我々とで一緒に考えて実現しようとしています。

東京とびもの学会・つまり最終的な作動点は探っている最中ということか。
岡田・そういう意味で言うと大雑把には成立していると見ています。1号機はまず間違いなく大丈夫です。2号機についてはデータをもう少し蓄えて信頼性を高めていきたいと思っています。成立性はあると思います。

東京とびもの学会・1号機は試験が完了し、2号機以降は別途試験が必要になるのか。
岡田・技術データをとるという意味では1号機は完了しています。2号機以降の3D造形についてもデータはとれていますので、それに加えてもう少し信頼度を高めていきたいという思いです。

東京とびもの学会・信頼度を高めるというのは、機械加工から3D造形と変わってくることで、機械的な強度や穿孔しないための条件が変わってくる可能性が大きいので、それを見極めていきたいということか。
岡田・燃焼室の中の特性が違うのは確かですので、その違いを踏まえて、その違いがある中でも2号機以降もエンジンの性能がきちんと出るようなデータを引き続き取っていきたいという意味です。

東京とびもの学会・違いとはどういう部分になってくるか。
岡田・機械加工と3D造形の噴射器は同じように出来ている訳では無い。それから壁の中を流れる冷却材の温度も若干違ってくる。エンジンシステム的に違う部分があるので、違う部分に関して1号機は十分な余裕がある。2号機も同じように高い信頼性で認定試験に入れるようにしたいと思っています。

東京とびもの学会・1号機と2号で噴射器の製造方法を変えた理由は何か。試験が二度手間になるのではないか。
岡田・3D造形の噴射器については、コストで重要な要素になっています。具体的には噴射器には機械加工の場合は500くらいの部品からなっている。判りやすく言うと3D造形ですと500個の部品が1つになる。一気にそこを作り上げられるというメリットがあります。それにより製造コストが大きく下がりますし、製造する時間も大幅に短く出来ます。そういったことでH3ロケットの使命であります「信頼性を高く・コストを安く」で国際競争力をという所にミートしたパーツになっていると思っています。

東京とびもの学会・1号機であえて機械加工を使うのは、従来型の方が慣れていて信頼性が高いという印象で良いか。
岡田・ステップ・バイ・ステップでここは行くということと、3D造型の噴射器は当初チャレンジと考えておりましたので、今は形になってきているが、やはりステップ・バイ・ステップで仕上げていくべきだという風に判断しました。

東京とびもの学会・1号機を仕上げるのが第一で、それが上がって2号機用のLE−9も検討できるということか。
岡田・時間軸的には3D造型の噴射器も出来ていますので、1号機が上がってからというよりは並行して仕上げていけると思っています。

読売新聞・ターボポンプですが、現時点で水素と酸素でどちらが深刻か。
岡田・明らかな差は無いと思います。両方確実に仕上げるために取り組んでいるのは確か。圧倒的な差はないと思います。

読売新聞・水素の方のフラッタが認められた時はひびなどが確認されたのか。
岡田・疲労破面が見られました。ただし前回と違って土台のところです。ただしそういったものが出た・出ないというよりは、現象としてフラッタが起きることが本質だと思っています。

読売新聞・それが昨年6月か。
岡田・そうです。

読売新聞・ひびが出たことは深刻ではなく、今後の作業が変わってくることではないのか。
岡田・ひびが出るよりも、それを生じさせるフラッタが出たこと自体が取り組まなければならない課題になる。

読売新聞・12月にターボポンプの単体での試験をやっているが、今後残された試験は具体的にどのようなものか。
岡田・どういった対応策が一番効率的かつ効果があるか、具体的に考えながら、選びながらというところにあります。チャートで言うと設計をしているところ。それから製造をして、そのあと翼振動の試験をして、それが終わると認定試験に入っていくという流れで、これは従前と変わらないです。

読売新聞・幅があるとのことだが、いつからいつまでか。
岡田・まだはっきりしていない。結局、製造期間の読みも大きく影響してきますので、例えば少し形を変えたとき、新しい製造になったとき、どれくらい試作品に時間がかかるかの読みをしなければなりませんし、もう少し時間をいただいて、なるべく早くはっきりさせて、計画として固めた上であらためてご報告したいと思っています。

読売新聞・エンジンの効率化が求められる中で、推進力は大きなものが求められ、かなりハードルが高いとの指摘がある。開発担当者から見ての感想は。
岡田・自分のことになるが、私は30年前にLE−7というエンジンの担当だった。その時と比較しますと、明らかに高い信頼性で作り込みながら開発が出来ているという大きな違いがあると思っています。ですから確かにエキスパンダーブリードの大型というものは世界に類が無いが、こういったものに対して新しい開発の手法であるとか、いろいろな技術を用いてなんとか取り組んでいきたいと思っています。どのエンジンでも手強いです。

共同通信・2020年9月では1年程度の延期となっていたが、今回は幅を言えないのはどういった点が違うのか。
岡田・まだいろいろな策を検討している最中で、皆様に説明するタイミングもあるかもしれない。少し時間をいただいて、対応策を具体化して、なるべく早く設計から試験の段階に移行して、その辺りで見極めをつけて、なるべく早く皆様に時期的なものもお話できるようにしたいと思っています。

共同通信・プランがいくつかあり、どれが最適か探して対応しなければならないので時期を言うのが難しいということか。
岡田・そこはかなり大きな要素だと思います。どういう策があるか具体化する中で、同時に製造の見極めなどもやりながらですので、そこのまだ途中にあるということです。従来は例えばタービンの設計に関して形を変えるという大きな方針が決まったような想定をしながら話をしていたが、今回それもどういう風にしていこうというところ、それからなるべくいろいろなミッションに影響を及ぼさないようにしたいという思いもありますので、全体の計画という意味で言うともう少しそこを納得のいくまで議論した上で皆様にお話したいと思っています。

共同通信・初号機で打ち上げ予定の「だいち3号」はH3の完成までずれるのか、それともH2Aで打ち上げるのか。
岡田・そこは一方的な話ではないと思っています。ミッション、あるいはミッションの中でデータを使っておられる方とか、いろいろな方がいらっしゃいますので、丁寧にお話をしながらどのようにしていくかを調整させていただく、まさにその最中にあると思っています。詳細に丁寧にご説明しながら進んでいきたいと思います。

共同通信・つまり「だいち3号」は初号機で打ち上げる予定で動いているということか。
岡田・はい、我々としてはそうしていただきたいという思いで丁寧に対応させていただこうと思っています。

JSTサイエンスポータル・待っているペイロードがある訳で、ALOS−3(だいち3号)は岡田さんとしては引き続きH3で打ち上げたいという意向だが、JAXA的にはまだ未定なのか。
岡田・まだそういう段階ではないと思っています。まずはこれからしっかりと今の状況をご説明して、どのようにしていくのが一番良いかというのをお話し合いをする状況にあるのかなと思っています。

JSTサイエンスポータル・ALOS−3の打ち上げについては未定という表現か。
岡田・引き続きH3で打ち上げさせていただくことについて調整を進めているところ。凄く重要な事業がミッションとしてはあると私も承知しているので、そう軽々にロケットのサイドから何かお話できる状況ではない。そこは我々が誠意を尽くして今の状況を説明しつつ、いろいろな調整をさせていただくものだと思っています。

JSTサイエンスポータル・先月に宇宙基本計画の工程表が改訂されたばかりで、基幹ロケットの優先的利用という表もあったが、例えば来年度のALOS−4とか、HTV−Xの初号機があるが、この辺も同様に検討を進めるのか。
岡田・そうですね、まず打ち上げ時期につきましては、まだはっきりしていない状況ですが、まず1号機についてなるべく早くはっきりと目標を定める状況にしたいと思っています。それと併せて2号機以降につきましても会話をしていく必要がある。そういったこと全体をすり合わせができたところで計画はこうだと言えるようになるのではないかと思っています。

JSTサイエンスポータル・開発初期に、2段で実績のあるエキスパンダーブリードエンジンを1段に適用するのは非常に大変なハードルだとうかがっておりましたが、現在起こっている事象は大きな括りで言えば、エキスパンダーブリードエンジンをパワフルさが要求される1段に適用することの難しさの中に入っていると言って良いか、それともあくまでターボポンプの中の話か。
岡田・難しいが、一概にはエキスパンダーブリードだからターボポンプでこういう現象が起きているというものでは無いと思っています。ただパワーがLE−7に比べて1.3倍くらいの出力ですし、上段のLE−5Bに比べると10倍くらいの出力が出るエンジンを開発している訳ですので、やはりパワーの大きさに簡単に抗うことはできない部分もあって、そこをうまくバランスさせながら設計を進め開発を終えたいなと思っています。

宇宙作家クラブ松浦・このエンジンでいちばん怖かったのは、やってみたらシステムとして成立しなかったということだったが、そういう状況ではないということか。
岡田・そういう状況ではないと思います。

宇宙作家クラブ松浦・つまり改良で切り抜けられる状態ということか。
岡田・1秒間に700回転する高速回転体の最後の仕上げのところで、微妙な条件でフラッタが出たり出なかったり、水素の方で言えばそういうことだと思います。ですからそこはある種の崖っぷちが見えたと思いますので、その崖の手前で落ちないように、どう設計をやりきるかだと思っています。

宇宙作家クラブ松浦・LE−9ではターボポンプが鬼門になると随分前から言われていて、先行研究をやっていたと記憶している。かなり長期間の先行研究をやってたにもかかわらず延期になったことについての感想をお聞きできればと思います。
岡田・先行研究というのは物凄く大事だとやはり実感してます。先行研究では主に水素のターボポンプと燃焼器をやらせていただいている。それがなかったら、まだまだ大変なことが残っていたかもしれないと思っています。先行研究というのは、必ずしも全く同じ物を作って試験や研究をする訳ではないので、やはり先行研究では例えばある程度重く作ってもいいだろうといったことを全部省いて飛ばせるエンジンにして今開発を終えようとしている中で、やはりこういったところは研究とは違う部分で出てるというのは仕方ないというか、それはそれであるのではないか。ですけども先行研究の意義は非常に大きいと思います。

宇宙作家クラブ松浦・先行研究があったからここまで来られたということか。
岡田・はい、そう思っています。

宇宙作家クラブ松浦・燃焼室内の開口について、スペックに影響が出ないように壁面温度を下げたとあるが、温度変化というのは定常運転の中で温度が波状に変化するのか。
岡田・その通りです。ぴたっと同じ温度で燃焼しているのではなく、若干の周波数をもって温度が振動している。

宇宙作家クラブ松浦・壁面の温度を下げたということは、壁面に流すフィルム冷却の水素を増やしたという理解で良いか。
岡田・それも一部ありますが、それだけではなくて冷却の溝を流れる流量をコントロールするであるとか、結果的に壁の温度がどう出るか。そこのバランスが難しくて、やはり上限の際まで攻めると性能は高くなると思う。ですから無闇に温度を下げる訳にもいかないと思っています。そこのバランスの良いところというのを、シミュレーションとか実験・試験を通して探ってきているという状況です。

宇宙作家クラブ松浦・初号機の打ち上げ能力からするとALOS−3の重量ならかなり余裕がある状況で打ち上げられるが、その後は少しずつ改良が必要になるということか。
岡田・改良というか、そういう前提で開発計画を立てている。タイプ1とタイプ2と我々は言っているが、初号機は機械加工の噴射器で、そういう設定をして十分な打ち上げ能力を確保できている。2号機以降に関しては、やはりこのロケットのコストパフォーマンスを高めるためにも、エンジンのパフォーマンスをなるべく引き出すべく調整しているところです。

宇宙作家クラブ松浦・安心できるのは固体ブースターの無い30型が上がってからか。
岡田・日本の液体ロケットとしては、少なくともJAXAとしては大型ロケットでは今まで経験の無い領域でありますので、そこは心してかからないといけないなと思っています。

NHK・FTP(液体水素ターボポンプ)のディスクで認められたフラッタは、設計変更に伴って現れたのか。
岡田・その通りです。

NHK・OTP(液体酸素ターボポンプ)の対応すべき振動応答については、設計変更に伴うものではなくて以前から生じていた可能性があるものか。
岡田・そうですね、翼振動試験という試験ができたからこそ判ったものです。これまでトータルすると5000〜6000秒運転しても結果として何か起きているものではないが、振動応答が出ているので、これをなんとかしたいというものです。

NHK・この応答が直ちに初号機の打ち上げ失敗に繋がるとみているのか、それとも今後H3を長く運用していく中で、いずれかのタイミングでこの振動応答が原因で失敗に繋がる可能性があると捉えられるものか。
岡田・データとして出ているのは事実。その応答を評価すると、仮にそこで運転を継続した場合には、共振が続くという風な類のものです。フライト中にそこにぴたっと運転条件が行くかというと、そういう訳でもない。もしそのデータを信じれば、確率のような世界に近い。6000秒も燃焼させていて、たまにはそこを通過していると思うが、現象として出ていないことから、100%うまくいかない状態になるかというと必ずしもそうではない。

NHK・現象としては疲労破面が現れるかもしれないという、広く失敗の芽を摘むような選択をしたということか。
岡田・このデータを信じればというところに立ちますが、その先は、もしそれが残った状態ではいくらこれまで実績があったと言っても、高い信頼性で打ち上げるときには、よく考えなければいけない話だと思っています。

フリーランス大塚・資料6Pのグラフで、縦軸が振動周波数となっていて点線が3つありCGが描かれているが、具体的に何を示すのか。
岡田・水平の点線は振動の固有値があるところです。(CGは)正確な表現ではなくイメージです。(CGの)翼はお辞儀するような固有の振動モードと、ねじれのようなモード、こういったものがそこには必ず翼には存在していて、運転をしていくと回転数が上がっていきまして、回転数の整数倍、例えば1万回転のときに翼の枚数が50枚あると50×10000で回転数の50倍の周波数にあたってくる。それが固有モードと交差したところに翼が反応する部分があるという図です。斜めに上がっていくというイメージです。斜めの線はいっぱいあって、回転数の整数倍というのが例えば翼の枚数であったり、翼の枚数の差であったり、いろいろなことで傾きが決まっていて、それが回転数を上げていくと同時に放射状に上がっていって、それが点線と交差するところで固有の応答が出るということです。

フリーランス大塚・点線と交差しているところで共振が起きていて、それとフラッタは別か。
岡田・そうです。横線になっています。

東京新聞・(配付資料に)6月に事象が見つかったと書かれていて、6月30日にLE−9の燃焼試験第1回をされていると思うが、種子島で10回くらい行う認定試験の1回目で見つかったということか。
岡田・そうです。見つかったといいますか、データとしてはその辺りから兆候があります。認定試験の前半数回は翼振動試験を兼ねた試験をしようとしていまして、それが6月から7月にかけての試験となります。この辺りでフラッタがデータ的に観察されています。

東京新聞・予定では9回だったがやったのか。
岡田・していないです。9回というのは前半に翼振動の試験をした後に、設計が確認できればそのまま本格的な認定試験に入っていく手前でフラッタが起きて、本格的な認定試験に入る前で一旦ここで見合わせています。

東京新聞・9回の予定が実際には4回か5回くらいしかできていないということか。
岡田・まだ3回です。6月7月の3回で認定のエンジンを使って、認定試験の手前の所で翼振動のデータをとったという所で立ち止まっています。

東京新聞・それはターボポンプの水素と酸素の両方か。
岡田・そうです。時期的には酸素はエンジンの試験ではなく、角田宇宙センターでターボポンプだけで同じような翼振動試験をしていた。新設計による改善効果を確認すると共に、酸素については手前の3月に出て来た振動応答について、引き続き6〜7月は取り組んでいたという状況です。

東京新聞・試験でそういうことが判ってきて分析していたということか。
岡田・6〜7月に起きた後に設計修正と追加工・組立とありますが、ここで次のチャンスを狙ったということです。そして10月にそれにトライしたということです。

東京新聞・トライしてもう一回試験したということか。
岡田・そうです。10月に同時にデータを取りました。それぞれについてデータを取った中で、水素に関しては一部改善効果が見えてきたというものです。

東京新聞・水素の方は一部改善効果が見られ、フラッタというのが構造物とそのまわりを流れる流体とが連成して生じる自励振動で、これが運転していると共振に繋がるということで、その事象がどういうものなのかを簡単に言ってもらいたい。また共振が起きると何が問題なのか。
岡田・フラッタと共振は事が違います。共振というのは構造が固有に持っている振動数に反応するもので音叉みたいなもの。構造がこういう周波数に反応するというものに対して、その周波数を与えると大きく応答するのが共振です。フラッタというのはそれとは全く別で、振動はするが、まわりの流れと構造が連成して、言ってみれば鯉のぼりのように揺れる現象です。たなびくようなイメージです。いずれにしても事は振動という形で出て来ます。

東京新聞・これが起こると駄目なのか。ロケットがうまく飛ばないということか。
岡田・多少の振動というのはいろいろあるが、これが金属で出来ているものですから、それが保たなくなるくらい振れてしまうと、やはり打ち上げてはならない状況になります。ひびが入ったりします。構造というのは、ある限度の中で揺れる分にはバネと一緒で変形したら戻る特性があります。そこが酷くならなければいい。ある一定のところを越えると金属そのものがもたなくなるような振れ方になる。そこが気をつけないといけない。

東京新聞・前回は羽根2枚にひびと具体的に書いていたが、今回はどうなのか。
岡田・羽根にはひびは入っていません。羽根の付け根、土台のところに5箇所ひびが入っていました。

東京新聞・今の意気込みはどうか。
岡田・私だけではないですが、このエンジンの関係者、それからロケットの関係者、もうひと頑張りして打ち上げ成功になんとか早く繋げたい思いでいます。個人の気持ちとしては今の状態は残念といいますか悔しいです。悔しいですが乗り越えて打ち上げ成功に繋げていきたいという思いです。相手が技術なので物理現象と戦うしかないかなと思っています。

東京新聞・10月のチャレンジでうまくいけば3月までに打ち上げが間に合ったのか。
岡田・はい。もちろんそのつもりでやっていました。ギリギリまで粘っていました。

フリーランス秋山・スケジュールについて、ALOS−3のプロジェクトの方々と調整されているとの話だったが、調整というのは既に話し合いや譲れない点など洗い出しなどをしている段階なのか。
岡田・まだ我々としてはきちんと説明を終えている状況ではないと思っています。まだ開発が続きますので、開発をしながら状況については丁寧にご説明して対応していきたいと思っています。

フリーランス秋山・同様のことが工程表で予定されている衛星が出て来ていて、どの衛星もクリティカルな要求を抱えていると思うが、中でもMMXですと火星のウインドウを待つと2年後になってしまうとか、技術試験衛星9号機ですとその後の衛星ビジネスに響いてくる。他の衛星についての調整というのは始められているのか、それともロケット側からの全体説明みたいなものを準備されているのか。
岡田・まず直近の試験機1号機を取り扱っておりまして、まずその打ち上げをどうするか、今後我々がエンジン開発をどういう風に進めるかをセットで見極めていきたいと思っています。それと並行してその他のミッションの皆さんとは会話を始めたいと思っています。そこも丁寧にやっていきたいと思っています。

フリーランス秋山・翼振動試験を丁寧に出来るようになって様々な事象が洗い出されてきて、2021年度には酸素でも問題の芽が洗い出されてきた。計測がきちんとできるようになったからこそ、新たな問題の芽がまた見つかってしまうような、きりがなくなってしまう可能性はあるか。
岡田・きりがなくなることは無いような気がします。振動問題については、どう振動しているかの結果をダイレクトに得られる方法を手に入れた。そこで結果をおさえていけば、かなり信頼性の高い状態でエンジンができる。つまりエンジンの中で何が起きているか判った上での開発完了ができるという意味では、自信を持って仕上げられるようになってきたかなと思っています。今取り扱っている課題というのがその中の1つずつですので、それについて対応した上で、最後は翼振動試験で確認をして、自信を持って認定試験に入っていきたいと思います。

フリーランス秋山・振動の問題は、ある程度の確率の中に押さえ込める見通しを持っているのか。そのための具体的手段をあたっているのか。
岡田・確率ではないですかね。そういう振動が運転範囲に起き得ない状態に持ち込む。そういう設計をバランス良くするということだと思います。そのバランスというのは資料にあります対応策にありますような、「加振源を調整する、固有値を調整する、減衰力の強化をする」の後ろ2つがタービン自体に加えられるものと考えている。ここをバランス良くやっていく必用があるので、どういうバランスでどういう設計になるのかというのを、今いろいろと洗い出して選ぼうとしているところです。具体化しようとしているところです。

日刊工業新聞・使い捨てのロケットはそんなに長時間運転するものではないと思うが、その数分間でも信頼性が担保できないようなものだということか。
岡田・考え方としては、例えばこのエンジンが300秒燃焼するとして、そこに十分な安全率を乗じまして、それに対してそういう振動がその間に起きたらどうなるかという判断をすることになります。

日刊工業新聞・時間を乗り切れる自信が無いからもう少しということか。
岡田・そうです、設計の評価はそういう風にしていきます。

日刊工業新聞・目標の数値クリアするということなのか、それともこのくらいならなんとか1号機は上がるだろうという数値を見極めることなのか。その基準は多少変わるのか。厳しくしているが、多少甘くしても1号機は上がる数値を見極める作業は入るか。
岡田・信頼性を落として甘くすることは出来ないと思います。ですから突き詰めて考えると、ここは見直しが可能であろうという部分があれば、そこは見直す可能性もあります。そういう風に飛ばせる可能性を突き詰めるのは大事だと思います。それとは別に今までの設計のクライテリア(基準)に倣ってきちんと仕上げることの両面をやるべきだと思います。

日刊工業新聞・設計と製造に時間がかかるのは判るが、もっと沢山予算をとって2系列の試験ができればもっと早く仕上げられるという考え方はありえるか。
岡田・無いとは言えないが、ターボポンプは作るのが本当に難しい。タービンの加工も、やっていただける加工会社が限られている。凄く難しい製造技術がどこかにあるので、例えばそれ自体を増やしていくならそういうことになるが、ある種の制約がある中で取り組みますので、予算を沢山いただいたからその分を加速できるというものでも無いような気がします。ボトルネックがあると思います。

日刊工業新聞・最先端の物性とか物理的なハードルをクリアするのは難しいと思う。LE−7からLE−9に進んでいくと壁にぶつかるのはある種仕方ないと思う。しかし世界的には高いハードルにチャレンジするよりも少し手前のところで、こなれた技術で複数のエンジンをクラスタ化して出力をとった方がゴールが近いという選択をとっている事例があると思うが、この先も非常にハードルの高い物にチャレンジしていくことが本当にベストなのか。
岡田・ハードルの高さというのは、今私が直面している現象に対しては確かに越えないといけないハードルですが、このLE−9エンジンは全体のシステムが物凄くハードルの高い物では必ずしもないと思います。ですからもうひと頑張りすることによって、推力は違うが上段のエンジン(LE−5)が出来ているように日本のお家芸として、世界に冠たる低コストエンジンという風に仕上げられると思っています。次のロケットのときにとういった選択をするかはシステム全体からのバランスで決まってくるので何とも言えないが、H3ロケットとしてLE−9というのは、いろいろ推力も含めて検討した中で選択した物でありまして、H3ロケットのミッションを果たすためには、やはりこのエンジンというのは必用ですし、仕上がった暁に振り返ればハードルが無くなっていたという状態にしていたいと思います。
 エンジンの選び方は、システムからの要求でいろいろな選択があるというのは、おっしゃる通りだと思います。

宇宙作家クラブ渡部・資料の中で共振とフラッタについての対応策が挙げられているが、どちらにも共通するのか。
岡田・どちらも同じでは無い。フラッタに対しては、加振源の調整というよりは、どちらかというと固有値を調整(頑丈に)する、起きそうになったら減衰させるなどが軸になる。共振の場合は加振源の調整ということで、例えば前にある翼の枚数を変えるなどが手っ取り早い策になると思います。ただし翼の枚数を減らすのは大事になる。

宇宙作家クラブ渡部・フラッタも歪センサなどによって特定したのか。
岡田・フラッタ現象そのものを特定したのはセンサではないが、現象は明確に捉えられています。これがフラッタか、というようなデータが出て来ています。

宇宙作家クラブ渡部・どのように捉えたのか。
岡田・(資料のグラフで)水平の横軸上に反応してくるイメージ。共振は斜めに立ち上がってくるが、フラッタは真横に来る。ある固有モードで反応してきますので、そういう意味では顔つきが違います。

日刊工業新聞・再設計するのはターボポンプのみか、それとも周辺も変えようとしているのか。
岡田・基本はターボポンプだけです。ただし調整のため少し周りも変更するかもしれないが、積極的というよりどちらかというと、それを受けてということになります。殆ど無いと思っています。

日刊工業新聞・ターボポンプの再設計をするにあたって、どういった手法なのか。スパコンでシミュレーションし直すとか、どういった作業が必要になるか。
岡田・エンジニアの技術力のところで、こういう方向で変えれば効くはずだと、経験上いろいろな設計の手法が得られているので、たとえばここを変えると固有値が変わるというのはある。いくつかのケースを具体化しながら、それを細かな設計に入るときにコンピュータシミュレーションをする。コンピュータシミュレーションをする時には、たとえば現象として出ているフラッタだと、流れ場と構造の連成ですので、こういうモードでフラッタが振れるであろうと、そしたらそれに対して流れ場がどうなるか、ここは100万分の1秒くらいのオーダーで流体解析をするとか、そういったことに結構時間がかかります。それでこれならいけるとなると、製造図面を起こして、それに基づいて物を作る。物を作って組み上げて試験をして、という流れです。

日刊工業新聞・今回の設計変更は材料など変えるというよりも、細かいところを改良しているイメージか。
岡田・一点張りでは済まないと思っておりますので、いくつかをよく考えないといけない。いろいろなチームでいろいろな設計案を考えて、それを並べて評価・具体化しているところです。その中に材料の話が具体的にあるかというとそれは無いと思います。形を変えるとか減衰を強化できないかとか、そういったところが中心になるのではないかと思います。まだ検討が続いているところです。

日刊工業新聞・今、案はどれくらい出ているのか。
岡田・案だけで言うとかなりの数。いろいろなアイディアレベルのものも含めまして大至急いろいろなチームでいろいろなことを検討しているところです。今後それを絞っていって、例えば私がよく言うように、一の矢、二の矢、三の矢を仕立てて、まず一の矢から射っていく。ただしそれで想定外のことが起きた時のために二の矢を備えておく。そんなことが出来るといいなと思っているところです。

南日本新聞・インマルサット社の商業衛星はH3ロケットで打ち上げることで調整されているのか。
岡田・それは三菱重工さんが今頑張っていらっしゃるところですので、正確なところは三菱重工さんにお尋ねいただくのが良いかと思います。報道にそういった情報が出ているのは私も承知しているので、その程度しかお話ができません。

南日本新聞・H3で打ち上げ予定だった衛星をH2Aで打ち上げる可能性はあるか。
岡田・H2Aは三菱重工さんが打上輸送サービスに使われているシステムです。ですからそういう計画性があるか無いかはわかりませんが、一般的な話として、ロケットというのはある計画性をもって作っていかないといけないものですので、例えばH3で打ち上げるミッションをH2Aでといった時には、そのぶん機数が足りなくなる。あてにしていた人工衛星用のH2Aが無くなって作らないといけないとか、部品があるのだろうかとか、いろいろなコストとか、そういったこともありますのでそう簡単な話ではないと思っています。あとH2AとH3は衛星だけ変えればいいという訳ではなくて、繋ぎ目のところとか環境の話とか、飛ばし方とか、いろんなことが違う。一般的な話になるが、H3に乗っていただく予定の人工衛星をそのままH2Aに乗せるということはそう簡単ではないと思います。いろんな検討の上だと思います。

南日本新聞・各国は再使用ロケットなどで新しい技術で開発されていて、衛星打ち上げ市場は競争が激しくなっていると思うが、その中でH3の勝算はどういうところにあるか。
岡田・米国のロケットなどは非常に先進的な技術を使って打ち上げが進んでいて、一エンジニアとして素晴らしいし、見習いたいと思う面もあります。ただH3という意味で言うと、H3ロケットは当初からどういう風に国際市場に打って出るかを分析しながら進めていて、それに基づいて開発を進めていますので、世の中がそういう風に変わりつつあるということで、H3ロケットを完成させながらそこに柔軟に対応できるように、これからも考えていかなければならないと思う。こういった事に関してはJAXAと三菱重工さんとタッグを組んで、どういう風に国際市場に打って出るか考えていくべきだろうなと思っています。日本のロケットには本当に良いところがいくつもありますので、そこを売りにしながら、まずはH3ロケットをちゃんと仕上げてからそこに行くのだろうと思っています。

南日本新聞・日本のロケットの強みは信頼性にあると思うか。
岡田・はい、そこはそうだと思います。

時事通信・設計変更で、あちらを立てればこちらが立たずみたいな矛盾は生じないか。
岡田・それはあり得ると思います。共振とかフラッタといった高速回転体の天敵のようなものに対して、どうバランスする答えを作っていくかというところで、対応策の中の選び方、その組合せ次第というところだと思います。そこは今回、翼振動試験という強力な設計ツールが出来ましたので、何を選ぶとどう効くのかが大分判ってきましたので、そういった経験に基づいて何とか一発で仕留めたいなと思っています。

時事通信・逆に選択肢が多いことで悩まれているのか。
岡田・選択肢は多い方がいいと思います。あとはそれを仕上げるためにどれだけの時間がいるかの見極め、その自信の程はどれくらいかということを全部並べて、どれを選んでいくか。それを具体的にするかということを考えています。その意味ではかなりのバリエーションがあります。

東京新聞・水素のターボポンプはフラッタが出て、酸素の方は振動応答と言われていたが、ここの説明をお願いしたい。
岡田・これは恐らくはタービン入口の流れのムラに応答した共振だと思います。

東京新聞・これは共振な訳ですね。
岡田・同じ共振でも2020年5月に出た前の翼の枚数に起因するものではない。加振源が違うということです。

東京新聞・遅くてもいつ頃までには認定試験を始めるという目処や希望はあるか。
岡田・できるだけ早くとしか今は申し上げられない。早く皆さんにお知らせしたいと思っています。もうちょっと時間をいただきたいと思います。

JSTサイエンスポータル・志というかお気持ちをお願いしたい。一昨年の延期発表で心に残っているのは、ロケットというのは一点の曇りも無く打ち上げるんだとおっしゃっていたが、この気持ちは変わらないのか。
岡田・2回の延期という表現がいいのか、時間が少しかかっていると言った方がいいのかわかりませんけども、寝ても覚めてもH3という状態になっています。その中で志は変わらずに、一点の曇りも無く打ち上げの日を迎えたいと思います。

東京とびもの学会・今回はLE−9の開発状況についてだったが、H3でLE−9エンジン以外で大幅な改修を要する要素は出ているか。
岡田・いえ、打ち上げスケジュールに影響を及ぼすような改修はないです。むしろここから先はエンジン以外は待機状態にありますので、磨きをかけていくかということが大事だと思っていますので。各系の電気とか構造とか、そういう待機状態に入りつつあるところに関しては、ぜひこの機会に良いロケットにするような活動をしてほしいという風に伝えています。

東京とびもの学会・以前、エンジン開発には魔物が棲んでいるとおっしゃっていたが、現在の状況を鑑みまして魔物はまだ牙を剥いているのか、それとも少しほほえんでくれてきているのか。
岡田・魔物というのは悪いイメージで伝えてしまったかもしれないが、私は技術の神様だと思っています。ですからその神様に、お前達しっかりやれと言われていると思っています。技術で向き合って認めてもらえるまで頑張るしかないと思っています。

以上です。

No.2436 :打ち上げ時の軌跡 ●添付画像ファイル
投稿日 2021年12月29日(水)18時48分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット45号機の軌跡。
竹崎展望台より撮影。右上の白いものは月です。


No.2435 :H-IIAロケット45号機打ち上げ経過記者会見
投稿日 2021年12月29日(水)18時46分 投稿者 柴田孔明

 H−IIAロケット45号機は2021年12月23日午前0時32分00秒に種子島宇宙センターから打ち上げられ、搭載した通信衛星Inmarsat-6 F1を正常に分離しました。同日2時30分より、打ち上げ経過記者会見がリモートで開催されています。
(※一部敬称を省略させていただきます。また通信状態等により聞き取れなかった部分は省略しています)

・記者会見第1部 登壇者
Inmarsat Global Limited 副最高技術責任者 マーク ローランド ディッキンソン
三菱重工業株式会社 常務執行役員 防衛・宇宙セグメント長 阿部 直彦

・登壇者挨拶(マーク ローランド ディッキンソン)
 インマルサットを代表いたしまして三菱重工の皆様に感謝を申し上げます。成功裏に打ち上げができたことをとても嬉しく思います。インマルサットの移動体通信というのは当社にとって大変重要なものであります。打ち上げパートナーを探しているときに、6F1はどこが信頼できる形で打ち上げ輸送サービスを提供してくれることができるのか、パフォーマンスが素晴らしく、そして打ち上げたいときに打ち上げてくれるのか、こういった事を考えました。その時に全ての条件に合ったのが三菱重工業様でありました。そしてこの打ち上げは本当に素晴らしいものでありました。また、いかに精度良く打ち上げられたかということが伝えられると思います。オペレーションチームから聞いている話では、私達が計画していた軌道にしっかりと乗ったということです。ですから尽力いただいた全ての皆様、この4年間契約を署名した以降に取り組んでくださった全ての皆様に感謝したいと思います。打ち上げを見て本当に感銘しました。インマルサットの社員も皆様に対して誇りを持ち、そしてとても嬉しく喜びを感じております。非常に高いプロフェッショナリズムに感謝をいたします。そしてその専門性、技術的能力の高さ、本当に優れた秀でたものであると言えると思います。心から感謝いたします。それからJAXAの皆様にも感謝いたします。そして種子島の住民の皆様にも感謝したいと思います。大変友好的で、インマルサット社から、そしてエアバス社からの人達を心から歓迎してくださいました。ありがとうございました。
 この打ち上げはなかなか大変なものがありました。コロナの制約があったからです。いろいろ配慮しなければならない点もありました。そういう中で三菱重工の皆様は条件を満たすように尽力くださいました。だからこそ今日打ち上げることができたのです。これはMHIの皆様が何年にも渡っての取り組み、とりわけ整備作業の中において本当に素晴らしい仕事をしてくださったとに心から感謝したいと思います。ありがとうございます。

・H−IIAロケット45号機 による通信衛星Inmarsat-6 F1の打ち上げ結果について(阿部)
 三菱重工業株式会社及び宇宙航空研究開発機構は、種子島宇宙センターから令和3年12月23日0時32分00秒に、英国インマルサット社の通信衛星Inmarsat-6 F1を搭載したH−IIAロケット45号機を打ち上げました。ロケットは計画どおり飛行し、打ち上げ後約26分18秒で通信衛星Inmarsat-6 F1を正常に分離、所定の軌道に投入した事を確認しました。ロケット打ち上げ時の天候は晴れ、北西の風4.4m/s、気温13.2度Cでした。Inmarsat-6 F1が軌道上での初期機能確認を無事終了し所期の目的を成功裏に完遂されることを心より願っております。
 本日の打ち上げ成功でH−IIAは通算45機中44機の成功、成功率は97.77%になりました。H−IIBをあわせると通算54機中53機の成功、成功率98.15%です。またH−IIA/H−IIBで48機連続の打ち上げ成功です。今回は5機目の海外顧客衛星で、商業衛星としては2015年に打ち上げたTelesat社Telstar 12 VANTAGE以来2機目の打ち上げとなりました。無事打ち上げる事が出来、大変安堵しています。また世界有数の衛星オペレータであるインマルサット社ら打ち上げサービスを提供できたことを大変光栄に感じております。新型コロナウイルス感染拡大に対する不安がつきまとう中、地元の方々をはじめ関係された皆様方には、多大なるご理解ご支援ならびにご協力を賜りました。あらためて皆様にここでお礼を申し上げます。今後とも皆様方に安定した打ち上げを提供できるよう、今一度心を引き締め、細心の注意と最大限の努力を傾注してまいりますので、引き続きご支援を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。
 (※以下、英語での挨拶)
 Inmarsat、Airbus Defence and Spaceの皆様には感謝を申し上げます。契約締結後4年をかけてこの道のりを一緒に歩んでまいりました。これまでのご協力に感謝いたします。

・質疑応答
MBC・今回世界的なインマルサット社から受注し、そして成功させることができたことが、今後の宇宙ビジネスにとってどういった意義があると考えるか。
阿部・先ほどありましたように私共を選んでいただけたのは、私共の信頼性、それからオンタイムの打ち上げということでございました。その期待に応えて今回打ち上げる事が出来たということは、これからこの業界の中での我々のレピュテーション(評判)を一層上げてくれるものではないかと思っています。H−IIAとしては最後の商業衛星打ち上げになりますが、H3に向けてこの実績を引き継いでいきたいと思っております。

NHK・打ち上げが予定より1時間遅れたことと、打ち上げ後に射点で何かが燃えていたが、その概要と打ち上げ事業者としてどう受け止めているか。
阿部・1時間の遅れについては、打ち上げに万全を期すためにデータを確認していました。それに手間取ったために予定より1時間ずらさせていただきました。なによりも打ち上げを成功させることが我々のファーストプライオリティだと考えています。打ち上げた後に若干火災があったが、過去にも何回かあった事象です。詳細な原因についてはまだ把握しておりません。

東京とびもの学会・インマルサット社としては初めての三菱重工との共同事業だったが、インマルサット側から見て対応はどうだったか。また今後三菱重工との関係をどのように構築していこうと考えているか。
マーク ローランド ディッキンソン・MHIとの関係に関しては、インマルサット6の打ち上げに関して早い段階から議論をさせていただいたが、打ち上げ輸送サービスとしてどのようなことが出来るのか詳細にわたって話をしてくださいました。エアバスとともに衛星をH−IIAに結合することができると話をさせていただくことが出来ました。そして打ち上げまで非常に高いレベルでの安心感、そして(不明)を提供してくださいました。今日に至るまでこれは成功すると心から確信をもっていました。そして成功すると確信をもつことができるような道のりでした。それを冒頭の挨拶でも申し上げましたが、これは三菱重工様の社員の皆様、そして技術的能力の高さに由来するものだと思います。今後ということになりますと、H3で商業衛星を打ち上げるということです。そして新しいケイパビリティを身につけることによって商業市場のニーズに応えることができると思います。宇宙というのは技術的に急速に変わってきている世界です。MHIは正にこういった次世代型の打ち上げ輸送を視野に入れていると感じています。既に様々な議論をさせていただいていますし、また契約の合意にも達しています。1年半前のことですがH3を使っての輸送サービスもお願いしています。ここに至るまで非常に長い道のりでした。けれどもこの関係というのはとても大切なものだと私達は考えています。この私達のMHIへの信頼、これは我々の期待に応えてくださったということもありますし、願わくばこれから長い道のりの関係の始まりであると考えます。MHIがこれからどのようなサービスを商業市場に提供していただけるのか注目していきたいと思っています。

・記者会見第2部 登壇者
Inmarsat Global Limited 副最高技術責任者 マーク ローランド ディッキンソン
三菱重工業株式会社 H−IIA打上執行責任者 徳永 建

・質疑応答
MBC・打ち上げ時刻が1時間遅れたのは、具体的にどんな事象だったのか。
徳永・機体の準備を進めて推進薬を搭載した以降において、1段機体のデータのところに少し変動がある様子が見られましたので、そのデータの確認と、他の所に異常がないか確認したために1時間の時間をいただいて打ち上げ時刻を遅れさせていただいた。

MBC・変動がみられたタイミングはアナウンスのあった午後10時半くらいか。
徳永・アナウンスがあった時刻は承知しておりませんでしたが、夕方の17時くらいだったと記憶しています。

NHK・1段の機体のデータに変動があるというのは、具体的にどういったものか。
徳永・1段の推進薬を入れた状態に伴って発生するデータの、こちらの変動というかゆらぎが見られたので確認をしたということです。

NHK・それは圧力か。
徳永・温度データに異常があり確認をしました。

NHK・高いとか低いとか、どういった形だったのか。
徳永・温度の状態は変わらなかったが、そこにノイズのような形が見られたので確認をしました。

NHK・数字が違ったということか。
徳永・そうではございません。変動成分があるように見えるデータがあったということです。

NHK・モニターに表示されるものか。
徳永・そうです。

NHK・17時頃にそれが検知されてからどう判断されどうリカバリをしたのか、時系列で教えて下さい。
徳永・起きたあと、どういった時点でどういった作業が行われていたのか、どういった確認や試験をやっていたのかといったイベント確認をしました。それから他のデータ全てにそういった変動が無かったかの確認、それから変動があったところを起点として問題となるようなことが他に発生しうることがないかといったことを確認して、打ち上げに対して問題無いと判断したことに時間を要したということです。

NHK・最終的には温度データが正常になったということか。
徳永・温度データは正常で、一時だけおかしいデータが見られたということです。

NHK・その原因は調査中ということか。
徳永・そうです。その時点で判る範囲を調べて、現状では機体を調べることができませんので、その時点で想定されるものを考えて、他のところに要因が広がらないかということを確認しています。

NHK・どうして異常が出たのかと考えれば良いか。
徳永・現時点ではわかりません。

NHK・発射台がいつもより燃えているように見えたが、何が燃えたのか、原因は何か。
JAXA砂坂・射点の周辺に草木がありまして、そういったものに一部火炎が見られた。夜間ですので少し大きめに見えたと思いますが、消火設備を用意しておりますので適正に安全化処理を終了しております。

NHK・鎮火しているということか。
JAXA砂坂・現場に行って最終的に詳細に確認しますが、見る限りではほぼ鎮火しております。

NHK・原因はSRB−Aが多いとか、どういったことが考えられるか。
JAXA砂坂・そういった点も考えられるかもしれないが、これについては現場に行って、最終的に今後の改善事項があれば確認したいと思います。

鹿児島テレビ・(射点の火災は)普段の打ち上げと同じものに近いのか、それとも今回はいつもと違って火災と呼ぶものなのか。
JAXA砂坂・射点周辺で火炎が出ることは過去の打ち上げでも何度かあります。その程度の差についてはこれから調査します。

東京とびもの学会・射点への移動に使ったドーリーについて、前回44号機の際に今後は積極的に新型を使ってテストをしていくとのことだったが、今回は従来のドーリーを使って機体移動を行っていた。これは新型ドーリーに問題や確認すべき事象が生じているのか。
徳永・ドーリーについて前回はH3用を使わせてもらいましたが、徐々に変更していく段階にあると前回説明させていただきました。今回の45号機の打ち上げにおいては、もとより従来のドーリーを使う計画をしておりましたので、今回は従来のものを使ったということになっています。

東京とびもの学会・前回44号機の機体移動で新型ドーリーに不安のある挙動が見られたように感じたが、その辺りはどうか。
徳永・私はそのような挙動は承知しておりません。

以上です。

(※訂正:打ち上げ前プレスブリーフィングでInmarsatInmarsatとなっていた部分はInmarsatでした)

No.2434 :打ち上げ ●添付画像ファイル
投稿日 2021年12月24日(金)01時19分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット45号機は2021年12月23日0時32分00秒(JST)に打ち上げられました。


No.2433 :問題無し
投稿日 2021年12月22日(水)22時38分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット45号機の確認事項は問題が無いことが確認され2021年12月23日 00時32分00秒(JST)に打ち上げ予定となりました。

(※上記の投稿時間はサーバー内時間のため、実際の投稿時間と異なります。現状では+1時間すると実際の投稿時間になります)

No.2432 :ホールド中
投稿日 2021年12月22日(水)22時16分 投稿者 柴田孔明

2021年12月22日22時30分頃、H-IIAロケット45号機に確認事項が発生し、カウントがホールドされたと発表されています。打ち上げ時刻は現在のところ未定です。

(※上記の投稿時間はサーバー内時間のため、実際の投稿時間と異なります。現状では+1時間すると実際の投稿時間になります)

No.2431 :第2回判断はGo
投稿日 2021年12月22日(水)12時55分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット45号機の第2回Go/NoGo判断会議の結果はGo。ターミナルカウントダウン作業開始可と判断されました。


(※上記の投稿時間はサーバー内時間のため、実際の投稿時間と異なります。現状では+1時間すると実際の投稿時間になります)

No.2430 :機体移動 ●添付画像ファイル
投稿日 2021年12月22日(水)06時34分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット45号機は2021年12月22日05時00分(JST)から機体移動を開始し、同日05時24分(JST)に完了しています。


No.2429 :H-IIAロケット45号機の打ち上げ時間
投稿日 2021年12月20日(月)14時49分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット45号機打ち上げ日時は2021年12月22日23時33分52秒(JST)となりました。

(※上記の投稿時間はサーバー内時間のため、実際の投稿時間と異なります。現状では+1時間すると実際の投稿時間になります)

No.2428 :打ち上げ前プレスブリーフィング
投稿日 2021年12月20日(月)01時10分 投稿者 柴田孔明

 2021年12月19日午後より、H−IIAロケット45号機の打ち上げ前プレスブリーフィングがリモートで開催されました。
 (※一部敬称を省略させていただきます)

・登壇者
 Inmarsat Global Limited Inmarsat-6 プログラムマネージャー エドウィナ ペイズリー
 Airbus Defence and Space Inmarsat-6 プログラムマネージャー エリック ルシュー
 三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 MILSET長 鈴木 啓司

・打ち上げ延期について(配付資料より)
 三菱重工業株式会社は、種子島宇宙センターから英国インマルサット社の通信衛星InmarsatInmarsat-6 F1を搭載したH-IIAロケット45号機の打上げを2021年12月21日に予定しておりましたが、天候の悪化が予想されることから 、下記のとおり変更いたします。

 打上げ日 : 2021年12月22日(水)
 打上げ時間帯 : 23時33分52秒〜翌日1時33分26秒(日本標準時)
 打上げ予備期間 : 2021年12月23日(木)〜2022年1月31日(月)

 なお、12月22日の打上げの可否については、明日以降の天候状況を踏まえ、再度判断してまいります。

・気象情報について
 種子島では冬型の気圧配置が続いており、本日は寒気の流れ込みにより雲が広がっておりまして、にわか雨が降る天気になっています。明日以降の天気に関しましては、冬型の気圧配置はこのあと緩んでくる見通しでございまして、天気は次第に回復傾向です。当初打ち上げを予定しておりました12月21日の深夜から22日の未明にかけてにつきましては、高気圧の後面となり雲が多くなる天気と予想されています。詳細に確認したところ上層の雲が厚くなる見通しでございまして、打ち上げ時の気象に係る制約条件を満足できない可能性が高いと伺っております。具体的には氷結層を含む雲の厚さが規定値を超える可能性が高いと判断しております。1日後の12月22日の深夜から12月23日の未明にかけましては、高気圧に覆われる見通しでございまして、晴れ間が広がってくると予想されており、現在のところ打ち上げの制約条件を満足できる見通しと考えております。従いまして打ち上げ日といたしましては、21日から1日延期し22日を選択したということでございます。

・準備状況について
 ・H-IIAロケット45号機は飛島工場を11月12日に出荷いたしまして、その後種子島での作業を実施しています。
 ・以下の射場整備作業を良好に実施。
  ・カウントダウン・リハーサル(12月9日)
  →関係要員に対し打ち上げ当日の対応手順を周知徹底するために、打ち上げ時の作業を模擬。
 ・通信衛星「InmarsatInmarsat-6 F1」とロケット機体の結合作業(〜12月12日)
 ・機能点検を良好に完了(〜12月16日)
 →機体の各機器が正常に作動することを確認。
 ・発射整備作業を実施中(12月17日〜)
 ・12月19日 天候悪化の予想により打ち上げを延期。

 ・射点は第1射点を使用。
 ・ロケットはH-IIA 204型 4Sフェアリング
 ・機体移動は12月22日午前5時頃を予定。
 ・第2段エンジンは2回の燃焼を行う。
 ・InmarsatInmarsat-6 F1の分離は打ち上げ後26分19秒頃。

・InmarsatInmarsat-6 F1について(※同時通訳音声より抜粋)
 ・Airbus Defence and SpaceのE3000のプラットフォームを活用。
 ・KaバンドとLバンドの2種類の機器を搭載。
 ・打ち上げ時の質量は5470kg、ドライでは4259kg。
 ・第4世代衛星の1.5倍の(通信)容量を持つ。
 ・電気推進システムを搭載。

・質疑応答(※通信状況等により聞き取れない部分は省略しています)
MBC・今回、第6世代の初号機打ち上げという重要な機会に日本の三菱重工を選んだ理由は何か。
エドウィナ ペイズリー・打ち上げ輸送サービスの選定ですが、三菱様には揺るぎの無い実績があり、今回の衛星(I6)では信頼性の高いサービスプロバイダを選定することが極めて重要でありました。スピード感をもってサービスを提供してもらうことを考えた時、三菱重工様が間違いなく信頼性、そして効率という意味でもトップクラスとなります。

MBC・打ち上げ準備で感じられたことは何か。
同・この整備期間は3企業の間で長い間コーディネーションをしながら進めてまいりました。とてもよくまとめられていたと思います。MILSET様と関連する企業の皆さんは、これまで見たことが無いくらいうまく調和されておりました。衛星のアダプタ、そしてシステムをサポートするもの、そして結合作業なども素晴らしいものでありました。そしてグループ間のコミュニケーションも本当に素晴らしかったと思います。その中に入ることができて私達もありがたく、そして光栄に思います。

NHK・衛星の構造について、円形のものがLバンドの反射板か。Kaバンドがビームを出すアンテナか。
エドウィナ ペイズリー・おっしゃる通りLバンドではこれがリフレクタとなっています。傘のような形状のものが9メートルの展開するリフレクタです。その上にLバンドの送信部があり、そこからシグナルを送り出します。Kaバンドは小規模なリフレクタとなります。
エリック ルシュー・今回のミッションに特化したスペックとなっております。

NHK・他の世代の衛星も含めていくつ軌道上にあるか。またそれを組合せて使うのか。この第6世代が打ち上がることでどんな将来性があるか。
エドウィナ ペイズリー・InmarsatInmarsat-6シリーズが打ち上がることにより、容量の追加が可能になります。既に軌道にあるものに加えてKaバンドとLバンドで容量が拡大します。衛星を追加することによりサービスを継続的に提供することを可能にします。将来には追加のサービスも可能になります。いかに衛星を活用するかについて、2040年までどう移り変わっていくのかということも考えなければなりません。通信の提供者だけでなく、次世代のテクノロジーに投資して、必用なサービスを提供していきたいと思っています。衛星は13あります。

日経BP・H-IIAとしては初めてスーパーシンクロナス軌道に打ち上げるが、オペレーション面で変わったところはあるか。
鈴木・オペレーションとしては特に変わったところはありません。近地点で必用な速度に達したところで分離を行うということですし、そこに至る飛行経路も通常のGTOに比べると若干その速度を増やす過程で2段の燃焼時間を長めに設定するという変更はございますけども、シーケンスそのものも、機体の仕様も、今回のために新しく変更したところはございません。

NVS・打ち上げ日が変更された場合、打ち上げ時刻の変更はどれくらいになるか。
鈴木・今回はインマルサット様から、打ち上げ日にかかわらず同じ打ち上げ許容時間帯といただいておりますので、変更はございません。

NVS・衛星の電気推進の種類と推力などの仕様と、化学推進系の種類と推力を教えてください。
エドウィナ ペイズリー・これは効率的に燃料を活用することができます。燃料の量が少なくて済み、効率的に静止軌道に入ることができます。
エリック ルシュー・スラスタはSPT140Dです。衛星の両側にふたつあります。それぞれ5キロワットです。

以上です。

No.2427 :H-IIAロケット45号機打ち上げ予定日の変更
投稿日 2021年12月19日(日)15時41分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット45号機ですが、当初の予定日(2021/12/21)は天候悪化が予想されるため、2021/12/22 23時33分52秒〜翌日1時33分26秒(JST)に変更となりました。