宇宙作家クラブ
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No.2277 :田代試験場の燃焼試験スタンド ●添付画像ファイル
投稿日 2019年6月15日(土)22時18分 投稿者 柴田孔明

LE−9は真ん中の白いカバーの中に設置されています。


No.2276 :H3ロケット用第1段厚肉タンクステージ燃焼試験 ●添付画像ファイル
投稿日 2019年6月15日(土)22時16分 投稿者 柴田孔明

 2019年4月11日と翌12日に、秋田県の田代試験場にてH3ロケット用第1段圧肉タンクステージ燃焼試験プレス公開と概要説明が行われました。
 (※敬称を省略させていただきます。また一部内容も省略させていただきます)
 (※諸事情で掲載が遅れました)

・登壇者
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙輸送技術部門 H3ロケットプロジェクトチーム/プロジェクトマネージャ 岡田 匡史
三菱重工業株式会社(MHI)宇宙事業部 プロジェクトマネージャ 奈良 登喜雄

・H3ロケットの開発状況について(岡田)
 田代試験場は開発のメッカということで、三菱重工さんが地元との関係も育まれながら大事に保有されている試験場です。JAXAも時々試験をさせていただき、私も時々お邪魔しておりますけども、麓からここまで来るときに大体車酔いをします。

 H3ロケットは大きく3種類の形態に分かれていまして、代表的なものでH3−30Sで、1段エンジンが3基で固体ロケットブースターが無い形態です。H3−22Lは固体ブースターが2基に、1段エンジンが2基、H3−24Lが固体ブースターが4基で1段エンジンが2基です。かなりモジュール化されたロケットでして、極端に言いますと種子島で固体ブースターを2本にするか4本にするか選べるくらいのモジュール設計がされています。特徴的なのは非常に大きなペイロードを搭載できるフェアリングを持っている、そして1段エンジンが新型で、今日詳しく説明する時間が無いのですが、例えば電動バルブを使ってオール電化で制御をするとか、そういった能力を持っていて、今のH2Aロケットの第1段エンジンLE−7Aエンジンの1.4倍の推力が出るエンジンを開発中です。これらを搭載して、H3−30S、いちばんシンプルな機体で、車での車両本体価格にあたるものでH2Aロケットの半額の50億円程度を目指すということで、コストも設計から絡めて開発を続けている。固体ロケットブースターに関しては今のH2Aロケットと見た目は変わらないが、全く新しく設計しておりまして、その表れとして固体ロケットブースターからコア機体に力を伝達する装置、そこは分離するのですけど、H2AやH2Bでは非常に複雑な装置をつけている。それがH3ロケットではどこでくっついているか見えないくらいの接続の仕方で、非常にシンプルな結合と分離機構に持っていくことができました。
 開発計画は2019年の当初ということで、開発に着手した2014年からかなりの時間が経っています。山登りならば七合目を過ぎて、山の頂が見え始めている頃です。ロケットの開発というのは、全体の総合システム、ロケット本体そして発射台の設備ですとかロケットを追尾する装備、それら全体を開発しています。ロケットの中にはロケットエンジンや構造系や電気系、そして固体ブースターがあります。各系がそれぞれ設計をして、それを試作して、試験をして、大体七合目といいますと、それぞれの設計を大体終わりまして、設計の検証も進んできていて、いよいよシステムとしてまとめ上げていく段階に入っています。そのひとつの表れが今日皆さんにご覧いただくBFT(厚肉タンクステージ燃焼試験)です。BFTというのはロケットエンジンだけではなくて、例えばロケットエンジンに燃料を供給する配管であるとか、飛んでいくときロケットの向きを変えるためにエンジンに首振り機構(ジンバル)がついているのですが、そういったものも装備して燃焼中に作動させる。そういった個々に開発してきたものをまとめ上げる段階に来ています。そうなってくると試験規模もどんどん大きくなり、当然難易度も上がってくる。今日、現場をご覧いただくと判るのですが、かなり大がかりな試験設備で、ロケット開発の仕上げに向けて1つずつ進めているところです。

・H3ロケット厚肉タンクステージ燃焼試験概要(奈良)
 試験目的はH3ロケットの実機を模擬した厚肉タンクと1段のLE−9エンジンを組み合わせて、燃焼試験を行うことにより、推進系の機能・性能データを取得する、そのデータに基づいて設計に資する、ということを行うための試験ということです。期間としては今年の1月下旬から燃焼試験を始めまして、全体の計画としては8月下旬まで予定しています。場所はここ田代試験場です。試験回数は全体で8回を予定していますが、前半シリーズと後半シリーズに分けて、前半4回、後半4回の予定です。データの取得状況や今後の詳細な計画に合わせて回数の見直しをこれから考えていくことになります。
 今回の試験はエンジンを支える構造とエンジンは実機相当のものを用意しますが、タンクは厚肉タンクという実機ではない治具としてのタンクを使って確認します。エンジンや配管などは実機を模擬する形で用意していますけども、タンク自体は実機とは違うもので燃焼試験をします。推進系のシステム、配管等・バルブ等の推進系システムとエンジンを組み合わせて性能確認をするという試験でございます。
 明日の試験は前半の4回目で、約40秒の燃焼時間を予定しており、100%のフルスロットルから、推力を2/3くらいまで下げて燃焼し、そのあと停止します。

・質疑応答
読売新聞・スケジュールで、来年度の打ち上げ試験は第3Qの最後になっているが、そうすると12月くらいなのか。
岡田・恐らくこのチャート(配付資料)を見てそういった質問を頂くと思っていましたが、まだ決まっていない。試験の様子を見ながら、関係者の皆様と調整しながら決めることで、12月とは決めていません。ただ2020年度の3月31日に設定する訳にもいかないので、そこはお約束を守れる範囲内で設定したいと思います。

読売新聞・それは第3Qになるのか。
岡田・それも決まっていない。(2020年度の)後半にはなる。オリンピックよりは後。

読売新聞・H3−30Sで約50億円を目指すとあるが、H3−22Lや同24Lはどれくらいを目指すのか。
岡田・ミッション要求で定義はしているが国際競争力との関係でお話しづらいところです。国際競争力の面で見て対応できる価格設定になると思っております。

読売新聞・価格はファルコン9を意識したものか。
岡田・ファルコン9もそうですし、2020年というのは世界中のロケットの新型バージョンが台頭してきますし、競争というとギスギスするのですが、うまく協調しながら対応できるようなものにしていかなければならない。例えばアリアン6、ファルコン9、ヴァルカン、ニューグレン、そういったサイズは違うがいろいろなロケットが出て来ますので、それらを見ながら三菱さんが価格設定をされていくと思っています。

読売新聞・資料にH3−30Sは太陽同期軌道とあるが、静止トランスファ軌道に打ち上げるレベルではないということか。
岡田・打ち上げは出来るが最適化では太陽同期軌道。軌道によってロケットに得意不得意がある。太陽同期軌道には3トン、静止トランスファ軌道には2トンくらい。

読売新聞・H3は最初からMHIさんが入っている。最初から民間に入ってもらうのはどういう理由か。今回のH3のビジネスモデルで、こういった点でコストを下げたというところ。
岡田・例えば今運用中のH2Aは、JAXAが開発したものを三菱さんに技術移転して輸送サービスに使っていただいている。JAXAだけでは作れないので三菱さんも一緒にやっているということです。H3の場合は初めからこのロケットをどう使うかを政府に議論していただいて、政府の重要なミッションにも応えて、それを支える形で競争力のあるロケットということをセットで考えて、初めからこういうロケットにする、しかもそれを20年運用する、最初にそのコンセプトを作った訳です。そうすると運用しやすいロケットにする必要がある。運用しやすいロケットは運用する人が開発するのがいちばん。従って、開発して運用するところを1つにして、そこを最初から選ばせていただいた。ですから三菱さんには使いやすいロケットを作ってくださいという、こういう話です。
奈良・コストを下げていかないと競争に勝てない。開発の当初からコストを下げるようなことをしております。どういったところかというと、構成をシンプルにしていくことと、高価な材料をなるべく安い材料に変えるということを行っています。具体的に葉、例えば電子部品で、今まで宇宙専用で耐放射線の高い部品を開発していたが、民生で使われているものを適用して、その中でも耐性の強いものを選んで部品のコストを下げています。また大物のアルミの鍛造材は素材そのものが高価になりますので、安い板材を溶接で繋ぎあわせて適用したりとか、そういった工夫している。それから組み立て作業でも、構造としてはリベット打ちというかファスナーで止める構造を多くとっているところもあるが、そういった所を自動で穴開けできる機械を導入して、人手から自動で作業できるような設備を使ってコストを下げるということをしております。それから機能試験や点検だとか、これからやっていくのですが自動化を進めて、なるべく人手を下げてコストを下げていくということを今取り組んでいるところです。

読売新聞・LE−9も副燃焼器をもたないのでコストが下がっているが。
奈良・燃焼システムにシンプルなものを選んで安くすることも狙っていますし、信頼性も上げることを狙って開発しています。
岡田・3Dプリンタを使ったようなチャレンジ的なところもあるが、良いデータがとれている。

共同通信・今回の試験と、これまでの種子島の試験との違い。LE−9を2基組み合わせるところか、タンクと組み合わせるところか、どこが新しいのか。
奈良・種子島ではエンジンだけの燃焼試験で性能を確認している。今回は1段の機体は実機ではないが、そこに適用する配管、液体酸素と液体水素をエンジンに送る配管とバルブ類は機体につくものを使っている。エンジンに推進薬を供給する部分は種子島では確認できていない。ここで初めて確認できる。

共同通信・スペースXの繰り返し使えるロケットで低価格化というのが印象に残っているが、(H3は)どのあたりで受注を伸ばし、どこを売りにしていくのか。
奈良・市場価格というのはスペースXなりで下げるものが出て来て、なるべくその価格帯に見合うような形でサービスを提供できるようにシステムを作らなくてはいけなくて、いま努力をしているところ。価格だけの勝負よりは、やはり信頼性。今、衛星のオペレータの方達にも信頼していただけるのも、H2A/Bの打ち上げの実績がございまして、しかもオンタイムで打ち上げるという所で、日本の基幹ロケットとしての価値を見出していただいているので、H3も価格だけではなく他の価値についても期待していただければ、ある程度の競争もできるのではないかと考えています。

松浦・BFTでは、タンクの高さは合わせるのか。
奈良・高さというよりラインの長さを合わせる。

松浦・種子島で行われるCFT(実機型タンクステージ燃焼試験)の規模はどれくらいか。秒時はどれくらいか。
岡田・秒時はまだ決めていない。CFTは何を確認するかによるので、長ければいい訳ではない。射点で長い時間燃やすのは、ロケットの打ち上げとは全く違う話で、それなりにリスクがある。折り合いがつく秒時で確認ができるかを考えないといけない。

松浦・順番としてはCFTをやってからGTV(地上総合試験)か。
岡田・そこもまだ。

松浦・アビオニクスに冗長系を入れると聞いたが、どういう考え方のものか。
岡田・冗長系は結構トレードオフした。自動車の部品を使ってコストを下げているが全体としての信頼性はH2Aと同等かそれ以上という中で、どういう風に折り合いをつけるか、いろんなパターンの冗長系を考えた結果です。

松浦・有人ならツーフェイルオペラティブだが、そのレベルか。
岡田・ワンフェイルオペラティブです。

松浦・当初H2Aではロケットの速度にCPUの計算が追いつかないと聞いていた。
岡田・そうなんですか?。スピードよりやはり信頼性だと思います。H3では少なくとも全体をおさえて、どういう信頼性が必用かというところから冗長系のコンセプトを決めました。

東京とびもの学会・後半の3基目エンジンは、今回のものに追加するのか。
奈良・今回の供試体にエンジンを追加する。配置が違うのでエンジンを取り付け直すことが必要になるが、今回の供試体にエンジン3基をつけて燃焼試験を行う。

大塚・4回目ということで前半最後だが、過去3回の結果について。予測通りで問題が無かったのか、いろいろあったのか。
奈良・1回目はいろんなことが初めてなので苦労したが、これはまだ着火させるだけの試験で、なんとかうまくいった。そのあと40秒くらいの試験を2回目と3回目で行い、予定した確認事項は確認できたという評価をしている。2回目ではスロットルというエンジンの推力を2/3くらいに下げる燃焼状態の確認をしておりますし、3回目では推力方向制御作動というエンジンをジンバリングという、アクチュエーターで少し角度をつけて向きを変える動作の確認もとれた。大体予定していた確認項目の確認が、必用なデータがとれたとう評価をしております。

大塚・2回目でスロットル、3回目でジンバリングを行っているが今回は何を増やすのか
奈良・スロットルをするときにタンク圧もフライトを模擬する。2回目ではそこまでやっていなかった。

大塚・後半のスケジュールも同じような感じか。
奈良・これから詳細に検討します。

大塚・この前のBFTはH2Bだと思うが、そこから推力が3基だと2倍くらいになるが改修はどんなことをやったか。
岡田・推力2倍ということは設備に対する負荷も増える。主に噴煙の処理系。水の噴射をしてエンジンの噴煙を吸収したりする、そのあたりを全面的に改修しました。水の量を増やして、そこに耐えられる設計をしました。

大塚・スタンド側はやったのか。
岡田・大きくは手を入れていない。またこのエンジンはオール電化エンジンで、かなり高電圧の電源を供給して制御するので、その電源系や計測系を改修しました。

秋田魁新報・H3ロケットは、どんなものに使われることを想定しているか。
岡田・国のミッションやJAXAのミッションに第一に対応していく。それは地球観測であったり災害監視であったり、そして宇宙科学であったり、探査、そういったものですね。加えて商業ミッションということで言いますと、通信であるとか放送、それから宇宙ステーションへの物資輸送にも使う予定です。今のロケットと使い道が変わる訳ではない。

秋田魁新報・H3の「3」は「III」ではないのか。
岡田・そうです。縦三本「III」ではない。

秋田魁新報・H2Aの約半額との話だが、タンクとエンジンではどんなコスト減がされているのか。
岡田・そこだけ切り出しては難しい。押し並べて半額くらいのイメージで狙っている。

秋田魁新報・実機とタンクが違うというのは。
奈良・実機では5.2メートルのタンクだが、今回は実際のものとは違うタンクを用意して試験をする。実物よりも小さく、容量もずっと少ない

秋田魁新報・タンクがつくところが、これまでのエンジンだけとは違うところか。
奈良・タンクは実物ではないが、配管やエンジンを支える構造物、バルブは実機を模擬している。そういうものを組み合わせた試験は、エンジン単体の試験ではまだ出来ていなくて、ここで初めて確認できる。

秋田魁新報・酸素の重さは何トンくらいか。
岡田・酸素は水の1.14倍の重さなので、30トンの1.14倍くらい。あとでちゃんとお答えします。

秋田魁新報・着火という話だが、どこに着火するのか。
岡田・エンジンに着火します。

秋田魁新報・このエンジンがH3では2機と3基で切り替える型があるということか。
岡田・そうです。

NVS・LE−7AとLE−9を比べたとき、クラスタ化のしやすさはどうか。
岡田・H2Bの経験があるので2基形態はある程度想像がつきます。ただ新しいエンジンですし、エンジンが繋がるエンジン部の構造が違う。また電動で動かすジンバル部も新しい。そういう意味では2基形態である程度想像できるが、取り組みとしてはかなり緊張感がある。

NVS・推力の合わせこみといったところはどうか。
岡田・そこはあまり、想像の範囲。推力1.4倍なので想定外のことが起きないとも限らない。結果的にはだいたい良いデータがとれている。

NHK・今までの燃焼試験との違いで、今までもエンジンは垂直方向に設置していたのか。
岡田・そうですね。種子島での燃焼試験は、3階建ての建物の2階にエンジンを据え付けています。

NHK・CFTではさらに本番に近い状態になるのか。
岡田・CFTはロケットの発射台にロケットを立てて、そこで燃焼試験をさせて、飛んで行かないように縛り付けておく。実際には固体ロケットブースターがダミーのおもりになっているので、飛んではいかない。固体ブースターが無い(LE−9が)3基形態でやる場合には、下手すると飛んで行ってしまうので、そこは飛ばないようにしなければならない。

NHK・BFTはこれまでと違い本番に近い試験ということか。
岡田・エンジン単体、今回のBFT、来年度の種子島のCFTの3段階で本番に近づく。

※この説明会のあと試験設備とエンジン部が報道陣に公開され、翌日14時に燃焼試験が行われました。

・燃焼試験後の説明会(2019年4月12日)

岡田・無事試験が終わりまして、終わった瞬間の印象としてはデータがうまくとれたかなということで、私から申し上げたいことは今日の夜中の1時くらいから作業が始まっていて、私の出勤は4時だったのですが、三菱重工さんのエンジニアの方とかオペレーションされる方がずっとかかりきりで準備をして下さって本当に大変だったと思います。まだ試験は中で続いていまして、予備的なデータ取りの試験ですが、全ての試験のデータをこれからまとめていただいて、その結果を評価して、このシリーズが無事終えられたかを判断したいと思っております。

奈良・今日の試験の結果を簡単に説明致します。今日、燃焼試験を成功裏にすることが出来て、燃焼秒時としては約44秒とほぼ計画通りでした。試験内容は昨日説明した通りですが、停止の仕方としては液体酸素が無くなったことを検知して停止ということです。100%の推力からスロットルダウンさせた状態も予定通りすることができまして、あとは推力方向制御作動(ジンバル)も予定通り出来た。計画した試験項目は全て計画通り行われたことを確認しております。詳細なデータにつきましてはこれから確認して評価することになっております。内容としては成功したのではないかと認識しております。
 準備段階の状況を申し上げると、かなり順調に作業が進んでいて、ちょっと早めに始められるのではないかということで、今日みなさんに早く来ていただいたりしたのですが、途中ちょっと確認するがあったので、当初の計画通り14時の燃焼開始となりました。時間通り出来たということで、そこも評価できるのではないかと考えております。

以上です。


No.2275 :小惑星探査機「はやぶさ2」記者説明会(5月第1回) ●添付画像ファイル
投稿日 2019年5月17日(金)22時19分 投稿者 渡部韻

2019年5月9日、小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会が行われました。写真のS01エリアのマウスポインタのある辺りがPPTD-TM1の降下目標。(※一部敬称を省略させていただきます。また一部内容を省略しています)

◆登壇者

JAXA宇宙科学研究所
研究総主幹 久保田 孝

JAXA宇宙科学研究所「はやぶさ2」プロジェクトチーム
プロジェクトマネージャ 津田 雄一
ミッションマネージャ 吉川 真
プロジェクトサイエンティスト 渡邊 誠一郎


◆クレーター探索運用(事後)の結果について

4/23-25にかけてクレーター探索運用・事後(CRA2)を行い衝突装置により生成されたクレーターを確認した。その結果を受けて今後の運用方針を検討しており、また5/14-16にかけてターゲットマーカーの分離を行う降下運用を行う。

4/23-25にかけて行われたCRA2では最低高度1.7kmからONC-Tで小惑星表面を詳しく観測しクレーターの撮影に成功、クレーターの位置から衝突装置はほぼ狙った位置(S01から2〜30mほど)に衝突したと見られる。(吉川)

◆SCI衝突実験の科学

非常に慎重な解析と分析が必要なので、まだまだサイエンス成果として論文になるまでには途上の段階なので(現時点で)わかっていることであり、幾つかの点については更に調査の結果修正があると思う。

SCI分離後の探査機が小惑星の裏側へ退避中に分離したDCAM3のカメラが当初の想定通り見事に小惑星を撮影することに成功した。小惑星がフレームの色々な場所に写っているのはDCAM3の回転軸が偏心している為。また様々な可能性をカバーする為に1回1回の露光条件を変えている為、暗いもの、明るいものがある。最終的なサイエンスの解析時には露光条件を合わせたりするが、現時点では速報としてそのまま見せている。

SCI作動約14秒前には何もなかった場所にSCI作動約3秒後には表面から何か飛び出しているように見える。よく見ると左右に飛び出しているが右側の方が顕著に写っている。これは物が物体に衝突した際に表面から飛び出す衝突放出物。破壊されたり表面にあった砂のようなものが飛び出したものだが、こういったものは障害物が無ければ円錐状に広がる、この円錐の側面の部分が見えていると考えている。この結果からインパクタが衝突したことが確認され、その衝突位置もおおよそ見積もれる。

<※SCI作動3秒後の画像ではイジェクタは片側に偏って噴出しているように見えるが、これはファーストインパクトはボルダーの影響を受けやすい為で、その後他の方向にも噴出していることが確認されているそうです>

その後、探査機がホームポジションへ戻り、更にそこから地形の変化を確認する為に低い高度まで降りた。こういった運用をSCI衝突運用前にも行っており、これら前後を比較することにより比較的小さなクレーターでも発見する予定だったが、結果としてはホームポジションにいる時からクレーターらしきものが見えるくらい、比較的大きなものが出来ていたので、この運用ではそれを確認し、更に詳細なところを見るとことで色んな情報が出た。

SCI衝突前(CRA1)と衝突御(CRA2)の写真を見比べてみると、いくつかの対応するボルダーの位置が変わったり、配置がずれたり、真ん中のあたりに何か掘れたような部分が見えるのがわかるが、これがクレーター状の地形だと我々は考え、この部分に衝突し表面が掘削され、物が周囲にまき散らされた結果として穴が開き、この結果いくつかの岩が動いていることがこの図からわかると考えている。

(比較画像のブリンク画像を見ながら)中央のやや右とやや左にくっついていた岩があるが、左側が大きく左に、右側は僅かに右に動いていることから、この二つの境目の少し上側に衝突し、この結果地面が掘り返されて岩が大きく移動し向きも変わったと考える。またこの二つの岩は事前の観測ではかなり砂に埋もれて見えない状態だったが、掘り返されてはっきりと岩が目立つ状況になり影も深く落ちていることがわかる。

更に画像を見るといくつかの岩が当初の場所から消えていて、無かった場所に岩がある。これは岩が飛んでいることを表していて、このことからも衝突が起きていくつかのものが放出されていることが確認出来る。こういったことから確実にSCIが作ったクレーターであると我々は結論付けた。

面白いことなのだが、我々がSCIで作ったクレーターは1つではなかった。(資料P.14の画像を見ながら)上の赤い丸の部分には何か掘れたような、小さなクレーターが出来る。中心に出来た大きなクレーターに比べるとぐっとサイズが小さくなるので見にくいかと思うが、我々はクレーターが出来ていると考える。また左下の赤丸にあるボルダーの位置がずれて、いくつかボルダーが加わっているように見える。これも何か物がぶつかった結果として地面のボルダーの配置が変わっている。こういった変化が他にも多数みつかり、それらを結ぶと円弧状になることが確認出来、かつその中心にSCIの衝突点、クレーターがある、という配置になる。これをリュウグウの形状モデルに投影すると、ちょうどSCIが作動したと思われる位置から描いた円錐と表面の交わる線に沿って、これらの小さなクレーターが並んでいることがわかった。これはSCI作動時に飛び出した物がぶつかって出来た副(サブ)クレーターであり、これもSCIがクレーターを作った確実な証拠となる。

では一体何がこれを作っているのか。実は我々は当初からこういうものが出来る可能性は想定していて、「はやぶさ2」打上げのずっと前に衝突装置を開発する段階で企業と一緒に色々実験した時の映像になるが、2009年の実験では直径5センチの小型モデルを作り、実際と同じ程度の速度(2.1km/s)でぶつけた。下は砂地になっていて上から光を当てている。(動画を見ながら)上から何か飛んできて……衝突しました。その直後、バババババっと周囲に円上に沢山の破片が当たっていることがわかる。SCI、衝突装置は銅のライナーと呼ばれるものが爆薬によって変形して半球状になって小惑星の表面にぶつかるように設計されている。その際ライナーは固定している部分から千切れて飛んでいくので、後方にいっぱい銅の破片が生成され、これが周囲に円形状に散らばって衝突する。

2011年の実験では紙とベニヤ板の標的に衝突させて(破片の)分布を調べたが、更に外側にもう一つの円が見えた。銅のライナーから千切れた破片がぶつかったのが内側の円、それを固定していた(SCIの外周の)ステンレスとのつなぎ目部分から飛んできたことが成分等から確認された。これと同じことが本番でもおこり、こういったクレーターを作ったのであろう。先ほどは示さなかったが(先ほどの円弧状の副クレータの)外側にも地形変化が見られているので、地上実験と同様のことが小惑星の上でも起こり、その結果としてクレーターが出来たのだと考えている。(渡邊)

◆SCI衝突実験の科学:まとめ

・比較的フラットで我々がタッチダウン可能ではないかと考えているS01領域の近くにSCI衝突が成功した。

・数百秒にわたって衝突放出物(イジェクタ)が見られたことがDCAM3からわかった。これは非常に長時間だが、地上重力の1万分の1以下、10万分の1程度の重力しかない低重力下では300倍ぐらい継続時間が延びることで説明出来る。S01領域へもイジェクタが堆積
しているだろうと思われるので現在検証作業を進めている。

・直径10mを超えるかなり大きめのクレーターが出来た。深さ2〜3mの掘削が行われ、側面はかなり滑らかに見える。岩が掘り起こされて地形変化も見られ、表面の反射率の変化も見えている。この辺りは地形の変化との切り分け等も必要だが、粒子サイズの変化や物質の違いを示す可能性もある。この事はリュウグウ表面の強度や表面年代を推定することが可能になるので、衝突実験において、我々が知っている質量のものが知っている速度で衝突した時どれくらいの大きさのクレーターが出来るかはリュウグウという天体の色々な性質を知る上で非常に重要な情報となる。

・副クレーターが楕円周状に沿って生成されているが、前方に飛散した破片によるもので地上での実験の通りだった。(渡邊)


◆SCI衝突実験の科学:表層の強度

同じ質量、同じ速度のものを衝突させても、標的側が砂のように表層の強度のないものか、それとも少し強度を持ったものかで出来るクレーターのサイズが異なる。強度は単位面積あたりの力、すなわち圧力で測ることが出来るが、ここで挙げる2気圧とは手で引っ張ると簡単に壊れるが、引っ張らないと壊れない程度の強度。これを敷き詰めてクレーターを作ると地上では殆ど変わらず、砂の場合と同じくらいのサイズのクレーターが出来る。
ところが不思議なことに重力の弱い天体ではクレーターの大きさに大きな違いが出る。これは地上では強い重力のために砂でも下へ押しつけられているのでそう簡単に移動できないが、小惑星のように重力が非常に弱くなると強度を持っていないと非常に飛びやすくなる。このちょっとでも強度があるかどうかがクレーターのサイズを決める上で非常に重要。

このクレーターのサイズはリュウグウの年齢を知る上で非常に重要。(P.18のグラフを見ながら)横軸にクレーターの直径を、縦軸にそのサイズよりも大きなクレーターが表面に何個あるかを共に対数目盛でとった図を作ることにより、クレーター年代学という手法で表面年代を推定出来る。宇宙空間には一定量飛んでいるものが(天体)表面に作るクレーターが何年間でどの程度増えるか、時間が経てば経つほどクレーターがたくさん出来ていく。大きな物体は少ししか飛んでいないので大きなクレーターの数は少ない。小さい物体はたくさん飛んでいるので数が多い。そういったことからどれくらい時間が経ったか出せるが、これは表面の強度に大きく依存する。表面の強度がなければリュウグウは900万年前に生まれたと考えられるが、もし2気圧程度の弱い強度でもあったとすると、たちまち年齢は1.6億年と一桁以上変化してしまう。

この量を決めることは非常に重要で、これが無い探査であれば我々はこれらの不定性をもってこの範囲としか推定出来ないが、今回このクレーター実験の結果がきちんと出るとリュウグウの年齢を正確に決めることにつながる。

・表層の強度がわかるとリュウグウの形状形成過程・期限に制約を与え、小惑星帯から地球への物質輸送過程がわかる

・クレーターの科学により、地上実験と天体衝突をつなぐ上でこの宇宙実験が大きな役割を果たす

・もし地下サンプルを取得出来れば、小惑星表層にどのような混合過程が進むのか、そもそもC型小惑星はどのように宇宙線によって変化していくのか(宇宙風化過程)わかる

(渡邊)

◆今後の運用方針

クレーターを作る運用は成功しており、CRA2で地点も確認出来た。これを受けて5〜7月の運用計画が大筋定まった。基本的に5〜7月に目指すのは第2回の着陸。これを実際に行うかも含めてこの間に評価してプロジェクトチームとして結論を出し、この結果を受けて、現在着陸するしない両方の選択肢が残っているが、それを判断し、可能であれば第2回の着陸を目指したい。

実施しないとなればやることは簡単、何もしなければ良いが、プロジェクトチームとしてはやるという前提で作業を進め、材料が全て揃った段階で実際にタッチダウンする、しないの判断を行う。なぜ5〜7月か。リュウグウは太陽の周りを楕円軌道で飛んでいて、現在リュウグウは太陽に近付きつつある状態。今年9月の近日点まではどんどん近付いていき、それに伴い小惑星の表面温度も高くなり「はやぶさ2」が表面にいられる時間に制限が生じる。この関係で我々としては7月の始めまででないと着陸は出来ないと考えている。実際には6月末から7月始めのどこかで着陸を目指すと想定するので、探査機の状態、またクレーター周辺の詳細な地形を6月初旬までに精査した上で材料を揃えて判断することになる。

タッチダウンを実施する場合の目標地点は人工クレーターからのイジェクタがあると強く推定される地域から選ぶことになると思う。実施する場合の計画は現在立てつつあるところで、運用名は既に決まっていてPPTD(ピンポイントタッチダウン)になる。結果として第一回もピンポイントタッチダウンだったのでこの名前が相応しいかどうか、というのはあるが、これは打上げ前から決まっていた運用名で、その計画に合わせて技術的な経緯からこの名前をつけた。

判断材料を増やす為に低高度への降下運用を5月から6月の間に最大3回行う。これらは去年10〜11月に実施したTD1-R1-AやR3と呼んでいた、10m程度の低高度への降下により地形の情報を得るタイプの運用。これを行う目的は低高度からの地形観測に加え、状況に応じて着陸への布石としてターゲットマーカーを投下する。「はやぶさ2」はターゲットマーカー5個のうち1個を使った状態で残り4個ある状態。これを有効に利用して着陸への布石を打っていく。第一回だけはスケジュールが確定していて、5/14-16に行うPPTD-TM1。第2回、第3回を実施するとすればそれぞれ5月末、6月前半。

CRA2運用の結果として、今のところ抽出されているタッチダウン候補が11地点ある(資料P.21)。それぞれエリア名で呼んでいてL14エリア、C01エリア、S01エリア。C01はクレーターが作られた点を含むエリアで候補地点が3カ所。

またクレーター生成前の今年3月にDO-S01運用で降下したバックアップ候補エリア・S01は自然に出来た大きなクレーターで、ここ周辺は地形がなだらか。この地形の周りに候補地点が5カ所。もう一つは北西側L14エリア。S01に比べるとSCI衝突地点から少し遠いが、やはりなだらかな候補地点が3カ所ある。

候補地点全11カ所全てなだらかな場所で、直径としては約6〜12m。タッチダウン第一回目は直径6mのエリアに降りたので、それと同等あるいはそれ以上に広い場所を探した結果として抽出された。「ただし、ここまでの経緯をご存じの方であれば、この後、解像度を上げた観測をやっていくと……まあ、なんていうか、期待を裏切られることはままありまして、これはあくまで高度1.6kmから撮影した情報に基づいて、今抽出しているというエリア。」

この後10mまで降りて低高度観測を行い、本当にこれがタッチダウンの適地かどうか判断していくことになる。PPTD-TM1運用についてはS01領域を目指すと共に、ターゲットマーカーの投下を行う。この結果に基づいて第2回、第3回目をどう降下運用を行っていくか決めていく。

タッチダウン2回目を実施するにあたって我々はどういったことを判断しようとしているか。第1回目とは違う条件が色々含まれている。一つはタッチダウン1回目で採取したサンプルが既に「はやぶさ2」の体内にあるという状態で2回目をやることになるので、科学的にも、プロジェクト的にも慎重な判断が必要。主に3つのポイントがあり

1)第2回タッチダウン実施に科学的、工学的価値が高いかどうかという観点。タッチダウン運用のリスクが十分小さく、科学・工学的価値が高く、人工クレーターのイジェクタを採取出来る確度が高い?

2)タッチダウン運用そのものの成立性。非常に細かい運用設計をしていく上で、それぞれの地形にあわせた着陸の為の手順(シーケンス)がきちんと成立するということが必要。第1回タッチダウンで「はやぶさ2」の状況が少し変わっていることに加えて、ターゲットマーカーの落ちた地点によって着陸出来るかどうか難しさも変わってくる側面もある。

3)第1回タッチダウンの際、プロジェクタイル発射の結果として色々なものが舞い上がったことによりレンズ系が曇っている。この状態での「はやぶさ2」の性能を見極める為には実際に低高度に降りてみる必要がある。これがPPTD-TM1であり、今後行う低高度運用の中で技術的な評価を行っていくことになる。

これらが全て成立した時に第2回タッチダウンを実施することになる。

PPTD-TM1運用は前回ターゲットマーカーを投下したTD1-R3運用とほぼ同一。最低高度に到達するのが日本時間5/16 11:30頃。TD1-R3を実施した10月頃の運用時にはこのシーケンスを編み出すのに非常に苦労し「やりきった結果」と発表したが、今回大きく違う点が2点あり、1つはLIDAR/LRFの使い方。高度計測で自立的に降りていく際、以前はLRFに切り替えていたが、光学系の曇り(に起因する問題)を解決する為に、今回は低高度でしか使えないセンサー類を計測には用いるものの制御には入れない状態で運用する必要がある。LRFで計測はするが制御としてはLIDARのまま10mまで降りる。

また、地形の三次元的な凸凹を計測する為、画像からステレオ視を用いて三次元的な地形を再現するが、この為には色んな角度から同じ地点を見る必要があるので、探査機をあえて左右にジグザグに飛行させながら上昇する。(津田)

◆サイエンスの話題

1)サイエンス誌投稿文が冊子(2019年4月19日号)に掲載され、表紙にもリュウグウの画像が使われた

2)The Astrophysical Journal LettersにAuburn University 平林正稔氏の論文が掲載された。コマ型のリュウグウは経度によって(赤道と両極が作る)角度が違う。他に比べて西バルジ(西経90度付近)の角度が少し小さいが、これは過去にリュウグウが高速回転していた時代に構造変化によって出来たと見られることを述べた論文。

◆リュウグウ形状模型の公開

模型のデータそのものは研究向けなので、一般の方にも使いやすいように日本プラネタリウム協議会(JPA)の協力で、特にプラネタリウムで上映できるようなフォーマットに変更して5/9から公開を始めた。(吉川)

はやぶさ2プロジェクトによるリュウグウ3Dデータの公開について
→https://planetarium.jp/ryugu/

◆質疑応答

時事通信:タッチダウン候補地点は6-70cmの岩が周囲に無い、といった理由で足切りしているのか

今のところの解像度では無い可能性が高い、近付いたらわからないが今のところは無さそうだと判断している。(津田)

時事通信:S01を最初にやるのは着陸候補地点が(各候補地点同士の重なりも含めて)広く取れそうだから、ということが大きな理由になっているのか

1つは着陸の可能性において期待が高い。また5月から7月と短時間のうちに立て続けに運用・解析していかなくてはならないので、S01はSCI運用前から抽出していて、我々の中でも比較的検討が進んでいた領域なのでこれを最初に実施する。(津田)

時事通信:S01やL014のように衝突点から離れている領域に関してイジェクタの堆積をどの程度期待出来るのか

距離に応じて、遠いところほど少なくなるが、今回非常にラッキーだったのは(SCI衝突点が)S01から25-30mという距離であり、一方クレーターの直径は10mなので、その幾何学的な関係から、また掘削された堆積から標準的なモデルに従って計算するとS01でのイジェクタの存在は大いに期待出来る。ただ問題はそれが岩等の影響を受けずに均質に出ているのかどうか。この辺りは現在チームが詳細に解析しているが、十分期待出来るのではないかという気がしている。

時事通信:SCIの前方破片円錐は前に傾いた形になっているが、この結果イジェクタがよく出ている方向などの見込みはあるのか

探査機は地球と小惑星を結んだ軸に沿って降下し、そこから分離したSCIは重力により落ちていったので(円錐は)真っ直ぐ。ただリュウグウはコマ型をしていて、その斜面に当たった結果として(小惑星表面に投影した円錐は)傾いて見える。またS01は(副クレータの円弧よりも)内側なので、そういった意味でも差はほとんどないと思われる。(渡邊)

NHK:噴出物は衝突点から直径30メートルくらいまでは積もっている、という言い方は出来るか

距離に応じて段々少なくなるのでかなり遠くまで積もるが、その厚さは外に行くほど薄くなる。30mという距離は十分均質な砂地に衝突した場合ものが飛んでいくひとつの目安になる数字かなと思うが、リュウグウは単純な砂地ではないので、その場合どうなるかは精査が必要であり、場合によっては方向により飛ぶ量が変わったりする。今回はイジェクタが飛び出す段階でもいくつかDCAMで画像を得られているので、そういったもので現在詳細に解析している。(渡邊)

NHK:三回の降下運用では凸凹を見るのが一番だと思うが、噴出物が積もっているかも確認出来るのか

リュウグウ表面は10cmサイズのものがゴロゴロしている。例えばきれいなテーブルがあるとして、そこに砂を撒いてもよくわかるが、10cmの石がゴロゴロしているところにミリメートルの砂をばらまいても非常に見にくい。これをリモートセンシングで上から見ている。リュウグウは破片がたくさん飛んでいたとしても見つけにくい状態。衝突点に近い場所では今の画像からでも(堆積物の存在が)うかがえるので、本当に直近のところに降りることが出来れば数センチの石を隠すぐらいのものが確実にあるが、それより遠いところでも画像から確認出来ないから無いとはならない。この辺りが色々な意味で解析が必要だと考えている。(渡邊)

NHK:S01エリアであればある程度は積もっているであろう、ということなのか

もし均質なら十分期待出来る距離なので、むしろ現実的にリュウグウ上で実際どうなのか検討する必要がある。それにより最終的な判断が出来ると考えている。(渡邊)

NHK:S01にターゲットマーカーを落としたものの凹凸が多くてタッチダウンは無理となった時、C01やL14へのピンポイントタッチダウンは可能なのか。TMが2〜3個あるとタッチダウンが難しくなるという話だったが。

1回目はS01だが次回以降がC01、L14を狙う可能性は十分ある。その場合、我々としては出来る限り布石を打ちたいのでターゲットマーカーを落としたいと思っているが、一方であまり近い位置にターゲットマーカーが複数あると探査機を混乱させてしまうことになるので、それも含めてS01に落ちた結果により、次にターゲットマーカーをどこに落とすか、または落とさないか考えていこうとしている。

C01とS01が近すぎたというか、近い位置にクレーターを作れてしまったので当初想定していなかった悩みだが、少なくとも一点はターゲットマーカーにより着陸出来る領域を残す為に、2回目以降ターゲットマーカーを落とすかどうかを判断することになる。(津田)

NHK:ターゲットマーカー同士は何メートル以上離れていればいいのか

シーケンス設計如何であり、「はやぶさ2」は3個までターゲットマーカーが視野に入っても着陸可能なように設計されている一方、第1回目のタッチダウンが非常にうまくいったので我々は出来るだけそれを踏襲したいと考えていて、その意味で新たな技術チャレンジになるよりも1個のターゲットマーカーでやりきりたい、ターゲットマーカーを1個しか視野に入れないようにしようと試みている。

今のシーケンスでやろうとするとターゲットマーカー同士は30m以上離れていて欲しいと考えているが、これもどの高度でターゲットマーカーを見るかとの兼ね合いになるので、絶対的な数字ではなく大体の目安として30mと考えて欲しい。(津田)

ライター荒船:次の運用でターゲットマーカーを落とすのはS01のどの辺りを狙っているのか

三途ボルダーのちょっと北側、そのほんのちょっと東側あたり。S01の中心よりもやや北側かつ東側を狙う。北側の意図はクレーターに出来るだけ近くする。イジェクタはクレーターから近いほど濃いと思われているので極力近くする。東側の意図は西側の大きな岩から探査機を遠ざける為。(津田)

荒船:2回目、3回目をやるやらない、どのようにやるかはターゲットマーカーの落ちた位置によって変わってくるのか

たとえば、すごい北側に落ちてしまうと着陸は出来ると思うがC01領域と近くなる。C01領域に次降りたいと思った場合にはターゲットマーカーをどうするか、そういった関係があるので次のターゲットマーカーを落とした結果によって考えていきたい。

荒船:LRFは計測するが制御には用いない理由を詳しく

低高度でしか使わない機能で光学系が曇ったかもしれないのはLRFとカメラ。LRFは高度計測に使うがカメラはターゲットマーカーの追尾に使う。両方とも着陸にとっては非常に重要、これがあるからピンポイントタッチダウンが出来るが、今回それらがどの高度でどういう性能で使えるか確信が持てていない状態なので、まず試験的に火を入れてみて実際に低高度で計測することでどのくらいの性能が出るか計測しようと考えている。もしかしたらノイズが大きい、または感度が低い状態で制御に入れてしまうと誤った情報に基づいて探査機がふらふらしてしまう可能性があるので今回は制御に使わず計測に使う。(津田)

荒船:前回の話ではカメラのレンズが曇っているイメージだったがLRFも影響を受けていたのか

確証が得られていず、光学系で同じように底面についているものということで、あえて疑いをかけている状態。(津田)

NHK:S01着陸を念頭に1回目の降下運用を狙うのか

ここから先、半分は時間との勝負、半分は情報の精度との勝負になるが、時間との勝負という観点では毎回ここにタッチダウンするんだというつもりで情報を取りに行くので、今回PPTD-TM1は仮にタッチダウンするとしたら必要になる情報を全て集めるつもりで実行する。(津田)

NHK:S01がタッチダウンに一番適しているという判断に基づくのか

そこはフラットで、もしかしたらC01かもしれないしL14かもしれないが、準備が一番出来ている事、準備が出来ている範囲内では期待値はそれなりに高いという判断。(津田)

NHK:LIDARを使って10mまで降りるとあるが、本来30mまで使うものでは

当初の計画はそうだが、タッチダウン1回目の時にもリュウグウ表面の反射率が低いということで当初より低い高度まで使っている。今回はそれよりも少し低い10mレベルまで行くので、従来ならLRFに引き継いでいた、使っていない領域になる。ただしLIDARに関しては高高度でも使っているので性能の素性がわかっていること、曇っているという状況では無さそうだとわかっていて、低高度での挙動も情報は十分あるので、このシーケンスが成立すると今は考えている。(津田)

NHK:副クレーターひとつひとつのサイズと個数

クレーターに限らずボルダーが動くなど地形の変化が確認出来た場所は(資料P.15に描かれた)赤い点で示された箇所(15個)だが、これは網羅しているわけではなく、詳細に見たところ更に見つかっている状況。クレーターの場合は一声1m程度なので、メインの10mを超える地形変化に比べると1/10程度。(渡邊)

共同通信:イジェクタが積もっている所として、クレーターのすり鉢の中には着陸せず、クレーター周辺に着陸することを目指すのか

出来ることならクレーターの中へ行きたい。クレーターの中にはクレーターのものがあるに決まっているので出来れば目指したいが、一方探査機の性能限界やタッチダウンの現実的な成立性を考えて冷静に判断していかなければいけない所だと考えている。

C01の領域には3つ(着陸候補地点の)円があるが、そのうち右下二つはクレーターの中。これが選ばれた場合はクレーターの中のものを取ることになるが、これは実際に低高度で見てみて本当に出来るか評価することになる。(津田)

<※後ほど渡邊先生に伺ったところ、宇宙線の影響を調べればサンプルが表層1cmまでにあったのか、それとも10cm以上深いところにあったか判別可能なので、クレーター中心部ではなくあえて周縁部からサンプルを採取すれば、表層にあったものと衝突実験で掘り返されたものまでうまく混ざり合ったサンプルを採取出来るのでは、という考え方もあるそうです。更にS01の場合は天然のクレーターなので、表層のサンプル自体も1回目のタッチダウンの時のものとは条件が異なります>

共同通信:副クレーターを作ったのはSCIの破片であり、リュウグウの破片が副クレーターを作ったわけではないのか

そこは非常に重要で、我々は二次クレーターという言い方をするが、月などでも一つ目のクレーターから飛んだ物が外れたところに二次のクレーターを作ることがある。もしかしたら二次クレーターではないかと思われるものも幾つか見つかっていて、例えばS01にももしかしたら二次クレーターではないかと思われるものもあるが精査中。ただこれらは衝突点から比較的近いところだけで、こんな遠いところまで飛んできてクレーターを作った可能性は非常に低い、かつ円状に広がっているということで、これは確実にSCIの破片が衝突して出来たものだろうと我々は考えている。

副クレーターという言葉はそういう意味で制限して使っていて、質問にあるようなものは二次クレーターと呼び、より近いところではその可能性のあるものが幾つかあるが更に検証が必要。(渡邊)

共同通信:副クレーターの作る円はSCI衝突点からどのくらい離れた位置に出来たのか

今すぐに正確な数字は出ないが、100m程度。(渡邊)


No.2274 :小惑星探査機「はやぶさ2」記者説明会(4月第2回)
投稿日 2019年5月17日(金)22時15分 投稿者 渡部韻

2019年4月11日、衝突装置運用を無事終えた小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会が行われました。なお4/5の衝突装置運用の模様は改めて後日掲載いたします。(※一部敬称を省略させていただきます。また一部内容を省略しています)

◆登壇者

JAXA宇宙科学研究所
研究総主幹 久保田 孝

JAXA宇宙科学研究所「はやぶさ2」プロジェクトチーム
ミッションマネージャ 吉川 真
プロジェクトエンジニア 佐伯 孝尚
中間赤外カメラ(TIR)担当 岡田 達明
分離カメラ担当 澤田 弘崇
分離カメラ・サイエンス担当 小川 和律

◆プロジェクトの現状について

衝突装置の運用は4/5に無事成功した。「はやぶさ2」は(4/11)現在、リュウグウから80kmほどの距離をホームポジションに向けて航行中。(吉川)

4/3から開始して機上時刻4/5 10:56にSCIを分離、40分後に予定通り作動。SCIの衝突も当日分離カメラの画像により確認されていることから、「はやぶさ2」の工学目標の一つである「衝突体をリュウグウに衝突させる」という目標は達成された。今後は形成されたと思われるクレーターの探索を行う。(佐伯)

SCI分離は地上時間11:13頃、DCAM分離が11:32頃、SCI作動を地上で確認出来たのが11:53。3分間ほど探査機の安全を注意深く確認し、管制室で拍手が起こったのは11:56。現在はホームポジションに向かって帰っている途中になる。(佐伯)

リュウグウ上空およそ500mで衝突装置は切り離されるが、その高度に達したのが日本時間10:44頃。その後分離して作動に至っている。その後「はやぶさ2」は初めて小惑星の向こう側へ最大20kmもぐり、予定通り4/6頃地球方向へ戻す起動操作を行った。4/8にはリュウグウの真横に来て探査機側面のONC-W2でリュウグウを捉え、自分の位置を確認出来たので4/9にはホームポジションへ戻る1回目のΔVを実施した。本日はリュウグウから横方向におよそ80kmほど離れたところを「ゆっくりゆっくり、本当は早く帰りたいのですが、焦らずゆっくりゆっくり戻っている。」(佐伯)

◆SCI分離について

SCI分離の際、探査機には極めて高い制御精度が要求されたが「蓋を開けてみると本当によく出来ていて」分離時の探査機位置の制御は誤差10m以下、ほぼ完璧に分離出来ている。更に分離後のONCの画像を解析すると、SCIが探査機から分離する速度もほぼ予定通り20cm/secで分離出来ている。横方向に速度が出るのではと心配していたが、その速度も非常に小さかった。詳細については解析中だが、かなり大きな誤差を考えていたSCIの作動高度はほぼ中央値あたり、300mあたりで作動したのではないかと推定している。SCI作動前に探査機が退避する際のΔVも極めて精確に行われたことがわかっていて、我々が推定するに確実に安全領域に退避出来たと確信している。現在探査機は異常もなく、正常に動作している。(佐伯)

◆分離中のSCIの画像を紹介

中間赤外カメラ(TIR)で2秒間隔で合計30枚撮影した、SCI自身が放つ熱放射を捉えた写真。可視カメラでの撮影ではフラッシュを使い露光時間を短くしているので地面が写らないが、熱赤外カメラの場合露光時間を十分に取ることが可能な為、SCIと地面の両方をきちんと捉えられる。SCIは真ん中へ向かい動いているので理想的な角度で分離されたことを示している。SCI分離から作動までの40分間に小惑星は自転するので目標地点から経度にして30度ほど東側の地点で分離するが、TIRで撮影した地形は正しい位置で分離されたことを示している。(岡田)

現在DCAM等の画像をクイックに見ているだけなので正確なことは言えないが、北緯6度・303度の目標点に対して数10メートル以内に衝突したのではないかと考えている。もともと最悪100メートル以上を考えていたので、極めて正確に作動して衝突出来たと思っている。(佐伯)

4/8にリュウグウを再捕捉しておよその「はやぶさ2」の位置を把握、4/9 12:42(機上時間)には100kmほど離れたところからスタートラッカでリュウグウを撮像している。(佐伯)

◆分離カメラの撮像結果について

データは沢山取れているので週末から少しずつ降ろしている。4/5の記者会見でSCI作動2秒後のアナログ系の画像を公開したが、今回公開するその20秒後の画像を見ると、20秒間でイジェクタの形が変わっていることが見える。打上げ前に想定していたアナログ系の画質では、ここまでわかるとは思っていなかった。(澤田)


運用当日の記者説明会の場ではアナログ系に関する報告にとどめ、デジタル系の情報あるいは画像は地上に降りてきてない状態だったが、改めて本日、デジタル系についても画像が降りてきて成功していたことを報告したい。デジタル系は撮像ごとにゲインと露光時間が自動的に変わるようになっているが、高ゲイン・長時間露光モードで撮像したSCI作動185秒前の画像を見るとリュウグウ上空にSCI本体が浮かんでいることを確認出来た。SCIは側面に白い、よく光を反射するベータクロスが巻かれているので、遠く離れたDCAMからもそれを確認することが出来た。(小川)

デジタル系は1枚1枚の画像がアナログ系に比べ非常に大きいので、地上に降ろすのに非常に時間がかかるが、ここでは現時点で降りてきている数少ない中から、小惑星本体を撮影する為の高ゲイン・短時間露光モードによるSCI作動14秒前と、高ゲイン・長時間露光モードによるSCI作動約3秒後の2枚の写真を紹介する。小惑星の位置が変わっているのはDCAM本体が回転している為。後者の写真の一部を拡大してみたところ、アナログ系と同様の位置により鮮明なイジェクタを確認することが出来た。(小川)

◆分離カメラ自身の運用について

分離カメラの運用は複雑なつくりをしている。「はやぶさ2」、SCI、DCAM3、更にDCAM3のデータを受ける探査機側のCAM-C(カメラコントローラ)、それぞれが内部に独立して動く時計を持っているのでタイミングを合わせるのが非常に重要、かつDCAM3は打上げ後は電気的につながっているので全ての設定を打上げ前に行う必要があった。まず探査機がSCIのタイマーをスタート、SCI分離後しばらくしたら今度はCAM-C側でDCAM3の無線データを受けるという観測シーケンスをスタート、その20秒後にDCAM3を分離し、ここでDCAM3のタイマーがスタートする。DCAM3のアナログ系はSCI作動5分前から、デジタル系は3分20秒前から画像を無線で飛ばす。DCAM3はバッテリの容量が限られているので、SCI作動15分後にアナログ系を切ることで可能な限りデジタル系に電池を使ってもらう設計をとった。(澤田)

◆DCAM3のサブシステムについて

CAM-HもCAM-Cにつながっている。DCAM3はかなり複雑な作りで、アナログ系とデジタル系二つのカメラを積んでいるのと同時に画像の送信機も独立して二つ持っている。探査機側も二つの別の周波数を受けなくてはならないので、デジタル系、アナログ系それぞれの受信アンテナを+Z面に搭載している。アナログ系アンテナの下部にはデジタル系・アナログ系それぞれの受信機が収められていて、デジタル系は受けた電波をそのままアナログ系に送り、そこで処理した結果をCAM-Cに送る。CAM-Cの中でもアナログ系とデジタル系の処理系は独立しているので、アナログ系・デジタル系それぞれが独立してそれぞれがやりたい観測を行うことが出来る。(澤田)

DCAM3の前面にはレンズが二つ付いていて、小さい方がアナログ系、大きい方がデジタル系、小さい方がアナログ系。真ん中の一番良いところをデジタル系に譲った。前面にはアナログ系のアンテナが付いているが、斜めに付いているのはデジタル系の視野を邪魔しない為。各レンズの裏にはアナログ系・デジタル系のイメージャがそれぞれ付いている。胴体部には側面にリチウム一次電池が6本、3直2並列で積まれていて、これを共通電源基板を通してアナログ系・デジタル系それぞれに電力を供給する。おしり側にはまずアナログ系送信機が、金属の壁を挟んでデジタル系のデータ処理基板と送信機が、そしてデジタル系のアンテナが付いている。イラストには描かれていないが各基板をつなぐケーブルがぎっしり詰まっている。(澤田)

DCAM3は電源が入ってもすぐに観測せず、18分後から電波を飛ばし始める。4/5の記者説明会では観測を始めて4時間経っても動いていると報告したが、5時間後も一応動いていて電波を出していることを確認している。DCAM3は機上時間で11:14(日本時間)から動作を始め、11:31にアナログ系、11:32にデジタル系の観測を開始している。この数分後にSCIが作動しているが、我々は片道伝搬遅延のあとでこの情報を見るので、実際にデジタル系が観測を開始して探査機で電波を受信したとわかったのは機上時間11:53頃。ここで初めて電波を出していることが地上でわかったので、二人で並んで見ていたが「これが来るまでは本当に『どうしよう、どうしよう』という感じで、来た瞬間に『お!来た!』と声を上げてしまうくらい、ここが本当に嬉しかったタイミング。」(澤田)

アナログ系は20分間観測したことがステータス上確認され、500枚近い画像も撮れているが、これは本体(探査機)側で500枚の静止画を作っているだけなので全てにリュウグウが写っているわけではない。デジタル系は先に画像の付帯情報を全て取得し、画像になっているかどうかといった情報を先に降ろしている。機上時間16:39にデジタル系の観測が停止したことを地上で確認し、その後デジタル系の画像情報を降ろせという指令を降ろし、その情報を見ながら現在順番に画像を降ろしている。その情報を見る限り、DCAM3自身は5時間動いていたが、ちゃんと観測して画像を撮れたのは3時間程度と推定している。全て計画通り実施することが出来た。(澤田)

◆今後の計画

ホームポジションに戻るのは4/18。衝突御のクレーター探索運用(CRA2)は4/23に準備開始。観測領域はCRA1と同じ領域で、機上時刻4/24 15:42に高度20kmから降下を開始し高度5kmで減速、最低高度1.7kmに到達するのが4/25 11:16。画像取得後12:53に上昇してホームポジションへ戻る。(久保田)

先日のSCI運用では、なるべく多くの方にミッションを楽しんでもらえるよう中継を行ったが、画面下側に要約筆記を入れることで聴覚に障害のある方にも情報として伝える試みを行った。ご協力いただいた皆さんには感謝したい。サイエンスもどんどん成果を発表していて、今週開かれたEGU(European Geoscience Union)でも「はやぶさ2」とOSIRIS-ReXのセッションがあり活発な議論が行われた。(吉川)

(EGUから今朝帰国して)えらい人しか質問しないようなオーラルではなく、主にポスター展示だったので学生も含めて若い人から沢山の質問が来て活発な議論が出来た。(小川)

◆質疑応答

読売新聞:図を見ると1.7kmより更に下がっているように見えるが、CRA2の最低高度は1.7kmになるのか。また撮像自体は1時間半ぐらいかかるのか。また範囲はSCI運用で狙った半径約200mになるのか。

日にち時刻は異なるがCRA1と全く同じシーケンスで行われ、40cm/sで降下後5km付近で10cm/sに減速、1.7km付近への到達とホバリング開始が4/25 11;16、11:38ぐらいに最低高度に達した後(高度維持ΔVを行いながら)12:53まで高度1.7kmでクレータ領域の観測を開始する。(久保田)

探査機自体の移動と(小惑星の)自転を使いながら位置を決めて撮像する為に時間がかかっている。また今回(衝突したのは)真ん中とは思っているが、前回撮ったものと今回撮ったものを見比べるのが重要なことなので、同じシーケンス・同じ要領で周辺も観測する。クレーターが出来ていたかどうかわかるのはホームポジションに復帰してから、正式な発表はGWが開けてから。(久保田)

読売新聞:アナログは500枚程度撮れたとのことだが、デジタルはそういう表現を出来るのか。アナログとデジタルの差はどの程度なのか。それぞれの公開予定は?

デジタルも解析中で同等のものが撮れていると思われる。アナログ系の640×480に対してデジタル系は2000×2000で撮影しているので解像度が全く違う。(澤田)

デジタル系の画像はダウンリンクに非常に時間がかかること、また解析作業を行うので近日中の公開予定はない。(小川)

共同通信:イジェクタの形が(20秒間で)変わっていることから性質や衝突の様子等推測出来ることはあるのか

そういったサイエンスの解析を含めて小川さんを始め荒川さんのチームで進めてもらっている。(澤田)

この画像からイジェクタの成長がわかるが、それ以上のことは今頑張って解析している。(小川)

共同通信:2秒後の画像では数十メートルまで吹き上がっているということだったが、25秒後ではもうちょっと高さが変わっているのか

見た目で長くなっていることから、最初に軽いものが(飛ばされているのが)見えているのではないかと考えられる。詳しい数値は解析前なのでこの場では言えない。(澤田)

共同通信:衝突装置が爆発する瞬間は捉えられていないのか

今見えているデータでは見えていない。1msもない時間で作動するので、1秒に1枚のタイミングで撮影して写っていたらそれは本当に、ラッキー(笑)。(会場からも笑い)今後降ろしてくる画像で、本当に運が良ければ写っているかもしれないが、現状そういった画像は見えていない。(澤田)

テレビ朝日:TIRによるSCI分離観測からSCI作動3秒後の画像まで何秒ぐらいあるのか。(DCAM3で)これ以上高解像の画像はあるのか。

SCIのタイマーが2400秒に設定されているので、分離直後からDCAM3の画像まで概ね2400秒。(澤田)

DCAM3ではこれ以上の解像度はない。(小川)

喜多:TIRによるSCI分離観測だが、SCIの回転方向はどちらなのか

探査機から見て時計回り。スピンレートがかなり早くて計画では75deg/s(1秒間に75度)なので(TIRの撮像間隔)2秒間隔だと逆に見えてしまうかもしれないが、逆に回っていたら私が驚いてしまう。ちゃんと正しく回っていると思われる。(澤田)

喜多:この動画から回転軸の安定や面の傾きも読み取れるのか

正確にはやっていないが、およそ出来ると思う。側面もチラッと見えるが、ニューテーション(軸ブレ)はあまり見受けられない。(澤田)

秋山:小惑星の自転によりDCAM3がイジェクタに向かっていく画像があるかも、という話が先日あったと思うが、実際これから降りてくる画像にそのような画像がありそうか。イジェクタが上から見えるような画像はあるのか。

幾何学的に自転が手前にくる方向に逃げているので、必ずそういう画像が見えてくる。(澤田)

秋山:それが見えてくると、なぜイジェクタの広がり方が非対称なのかといったことも画像が降りてくるとわかるのか

その通り。(澤田)

秋山:クレーター探索運用の際、これがクレーターだと判別する為にどんな観測機器の結果を積み上げて判別に至るのか

目で見えれば「百聞は一見にしかず」だが、衝突前の写真と今回CRA2で撮る写真を人間の目で見比べるのと、画像処理で比較するのが1つ。現在は真ん中に近いところを集中的に見ようと思っている。またクレーターの定義はなかなか難しいので、今度はそこに近付いていって地図を撮るようなことをするとどういう形なのかもわかる。ただそれは先になる。DCAM3の画像を見ると何か出ているので、何らかのものが残っていると思うが、大きさはわからないので、まずそれを今回の1.7km高度へ見に行く。その後何枚かの写真とサイエンティストの知見、更に地図を作るような運用で総合的にわかってくると思う。(久保田)

更にNIRS3でスペクトルを撮ったり、他の機器でも観測するので、クレーターだけでなくイジェクタの分布などもあわせて調べていく。(吉川)

秋山:地球の地面を掘り返すと湿ってより黒く見えたりするが、(リュウグウのクレーターの見え方でも)そういうことはあるのか

クレーターだとすると隕石がぶつかった時のようにお椀型になるので太陽の光の当たり方で影領域が出来る。なので我々が探そうとすると今まで黒くなかったものが黒くなるものが出てくると、これは可能性があると考えられる。ただ日にちが変わると太陽の当たり方もかわっているので慎重に見極めたい。(久保田)

秋山:ライブ中継時の要約筆記では相模原市の筆記通訳サービスが入っていたとのことだが、こういった試みをするに至った経緯と、今後「はやぶさ2」も含めてサイエンスの発表の中でこういった試みが続くのか

要約筆記は今回が初めてでは無く、はやぶさ2トークライブ(講演会)のネット中継でも既にやっていて、今回もそれを引き継いでいる。なるべく多くの方に情報を伝える試みは今後もやっていきたい。(吉川)

NHK:高度を下げて地図を作る運用の詳細を

まだ計画段階だが、タッチダウンでターゲットマーカーを落とす前にタッチダウン候補地の地図を作ったのと同じ事を考えている。まずは高度1.7km付近でクレーターの痕跡を探すが、その後近くに行ってみることが必要なのではないか。まだ決定では無いがチーム内で議論している。(久保田)

NHK:その際どの程度の高度まで降ろすのか

まだ議論中だが今までのリハーサルやタッチダウンの経験を生かして同じようなシーケンスで行うのが多分確実。高度1kmよりも下に降りて、出来ればもっと低いところまで行きたい。ターゲットマーカーを下ろせるところまで行くのか、それとももう少し高いところに留まるかは、どんな状態か見てから決める。(久保田)

NHK:今後2回目のタッチダウンを行うかどうか、現状では

まずはホームポジションへ戻りCRA2の結果を見てから作戦をたてたいと思っているので、これについては次回の記者説明会である程度の方針を話せればいいと思っている。皆さん意欲はあるが、衝突装置が衝突してどんな風になっているのか見よう、というのが先。(久保田)

NHK:もしやるとしたらいつ頃になるのか

熱の関係もあるので、やるとしたら7月までにやる。(久保田)

毎日:アナログ系の画像はいつ頃までに全て降りるのか

アナログ系は画質が悪い分サイズが小さいので大分降りてきているが、今まさにホームポジション復帰の運用をしているので、いつまでとは言えないがデジタル系より早く降りてくるのは確実。(澤田)

毎日:それを合わせることによりCAM-Hの時のような動画を作る考えはあるか

(壇上から「ふふふ…難しいよ」)データを見てみないとわからないが、きれいに撮れていればそういったものを考えている。(澤田)

毎日:デジタル系の画像を見て、専門家から見た印象は

あくまでここに掲載している写真だけから見ると、デジタル系の方がイジェクタの構造(サイズ、厚さ)を正確に取り出すことが出来ると思う。今この画像から言えるのはそれだけだが、この先どうなっていくかは非常に楽しみ。(小川)

ニッポン放送:アナログ系とデジタル系の解像度の差は単純に両者の画素数で割れば良いのか

アナログ系はテレビのアナログ信号と同じ方式で送っているので、単純比較ではアナログはもう少し画質が悪くなる。(澤田)

ニッポン放送:運用中に「はやぶさ2」は最大100km離れた、という表現で良いのか

奥行き方向は20kmだが横方向に100km離れている。(澤田)

ニッポン放送:以前「目をつぶって流鏑馬を射るようなものだ」という例えをされたが今回の運用では「矢はほぼど真ん中に当たった」という表現をしてもよいか

CRA2でどこに当たったか見ることになるが、今までの状況を見るとほぼ命中したと思っている。(久保田)

喜多:昨日の大きなニュース(ブラックホールの撮影)に絡めて何か

ブラックホールとリュウグウは全然違うので絡むことではないが、初めてブラックホールそのものが見えたのはすごいこと。これと同様にリュウグウも行ってみて初めてわかった。距離が全然違う、ブラックホールははるか彼方でリュウグウは近くだが、天文の世界はダイナミックレンジが広くて近いところから遠いところまで謎だらけ。これをどんどん解明できる時代に生きていてよかったと思う。(吉川)

??:5時間生きたDCAM3が観測出来たのは3時間とのことだが、残りの2時間はリュウグウを撮影出来ずに電源系だけ生きていた、カメラが死んでいたということか

もともと熱解析上どんどん温度が上がり続けてしまうので、どこかで熱でおかしくなると考えていた。先に降ろしたデジタル系の画像情報から内部温度もわかっていて、デジタル系のイメージャは80〜90度まで上がっている。機器自身は頑張って写真を撮って電波で出しているつもりでも、ちゃんと動作していなかった、画像になっていなかったのではと考えている。(澤田)

No.2273 :小惑星探査機「はやぶさ2」記者説明会(3月第1回) ●添付画像ファイル
投稿日 2019年4月5日(金)08時32分 投稿者 渡部韻

2019年3月5日、小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会が行われました。
写真は地上でのプロジェクタイル発射実験時に用いられた模擬リュウグウ砂礫標的と発射されたプロジェクタイルです。

(※一部敬称を省略させていただきます。また一部内容を省略しています)

登壇者
はやぶさ2プロジェクトチーム
ミッションマネージャー
吉川真

プロジェクトサイエンティスト
名古屋大学大学院環境学研究科教授
渡邊誠一郎

プロジェクトマネージャー
津田雄一

サンプル採取装置担当
澤田弘崇

◆今後の運用方針

【吉川】
現状、2月20日から22日のタッチダウン運用は無事成功した。
28日の週は探査機の高度を5kmまで下げてBOX-C運用を行っている。
更に今週はS-01という場所に接近して観測する降下運用を行う。

【津田】
おかげさまでタッチダウン1回目は無事成功させることが出来た。たくさんの方に注目していただき応援も沢山いただいた。その報告は第二部でじっくりすることにして、私の方からは、プロジェクトとしてはオンゴーイングであり、タッチダウンという一つの重要なマイルストーンが終わった段階で、この次がまだまだある。その運用方針を固めたので先に報告したい。

まず我々プロジェクトの状況認識としてタッチダウン1回目は成功している。これを前提にこれから先のシナリオを考えていくということになる。その方針は

1)衝突装置(SCI)による人工クレーター形成実験を先に目指す。これは何を意味するか。はやぶさ2では最大3回タッチダウン出来る。当初の計画ではタッチダウン1回目、2回目を実行後SCI運用を行う予定だったが、方針を変えてSCI運用を先に目指す。

2)2回目のタッチダウンはSCIにより形成された人工クレーターの内側または周辺、もしくは全く別の場所に対して行う。いずれにしてもSCI運用の結果に基づいて判断する。実際に2回目を行うかどうかも含めて人工クレーターの出来具合、あるいは別の候補地点の着陸可能性の度合いによって判断する。

その結果として3回目のタッチダウンは行わない可能性が高い。2回目までやった時点でリュウグウは軌道の関係で太陽に近付いていくので(リュウグウ表面に)熱くて近寄れない状況になる。その前に十分やりきれる範囲は2回目までだろうと判断した。

1回目のタッチダウンの評価として、サンプルはこれ以上無い形で十分採取に至ったと考えている。これ以上、この着陸地点について追加で何かする必要はないだろうと判断。

1回目のタッチダウンでプロジェクタイルを発射したことと高度0メートルで上昇の噴射シーケンスが走ったが、それによってかなり沢山のものが撒き散っている。その影響だと考えているが「はやぶさ2」底面にあるカメラや光学系の受光量が低下し、性能が変わっている。通常の運用には問題無いが、非常に高度な自律運用を必要とする着陸運用については性能をよく見極めた上で実施する必要がある。この点も含めて時間を要すると判断した。これは地面に触らない限り関係ないのでSCI運用やその他の低高度降下運用は予定通り行う。これらの理由から先にやれるSCI運用を行うことにした。

◆DO-S01運用

今週6日から8日にかけてDO-S01という降下運用を行う。これはタッチダウンの第2候補地点を初めて調査しにいく。ご存じの通り着陸点を選ぶ際にはタッチダウン1回目でも非常に難航し、色々探した結果ここだと決めた経緯がある。その意味でS-01領域はまだここにタッチダウン出来ると断定できたわけではないが、次にタッチダウンするとしたら、今わかっている情報から選ぶとS-01領域になる。まずここに低高度まで降りて調べてみよう、というのが今週のDO-S01運用になる。

◆CRA1運用

3月20日の週にはSCIによりクレーターを作る目標地点周辺を事前に撮影するCRA-1運用を行う。これはSCIでクレーターを作る前後で地形がどう変わったか評価する為の事前調査。

◆SCI運用

4月1日の週に衝突装置で人工クレーターを作る運用を行う予定。

◆CRA2運用

人工クレーターを作った三週間後、4月22日の週にCRA1と同じ場所を同じように調査して地形がどのように変わったかを調べる。

CRA1、SCI、CRA2、この3つがクレーター形成関連の運用だが、CRA2が終わった段階で人工クレーターの出来具合から5月以降の具体的な活動計画を決めていくが、見込みとしては5月以降出来る限り早い内に2回目のタッチダウンを行いたいと思っている。

7月以降は温度の関係で着陸が困難になるのでそれ以外の観測運用を続けるが、MINERVA-II2の分離運用もここでやりたいと考えている。これ以降は(当初の計画と)変わらず11月から12月に出発して2020年末に地球帰還の予定。

今週調査運用を行うタッチダウン候補地点・S-01は(1回目のタッチダウンの)右側の赤道付近で、MASCOTが着陸した「アリスの不思議な国」の近く。クレーターを作る予定地域もここにしているので、CRA1、SCI、CRA2各運用もここを狙う計画で進めようとしている。

◆質疑応答

【日刊工業新聞】3回目のタッチダウンは2回目のタッチダウン成功の可否にかかわらず行わない可能性が高いのか

今のところそう考えている。「行わない可能性が高い」と少し含みを残しているが、基本的には大きな、意外な状況が起きない限りは2回以内のタッチダウンで十分とプロジェクトとしては考えている。(津田)

【NHK】SCIを打ち込むS-01を決めた理由と、前回の着陸でたくさんの破片が舞い上がっているが、そこにSCIを打ち込む影響はどうか

S-01を選んだ詳しい理由は次の記者説明会までに準備するが、簡単に言えばクレーター形成地点の選定には二つのことを考えている。一つ目はクレーターが出来やすい場所。せっかく作ろうとしても小さなクレーターしか出来ない、良いクレーターが出来ないという状況だとよくないが、リュウグウには地域性がないのでどこも合格、というのが今の状況。
もう一つの理由は、S-01という第2着陸点を選んでいることと関係するが、状況が許せば人工クレーターに着陸したい、という含みを残している。つまり着陸出来る可能性が高い場所を選ぶ必要がある。

SCIにより舞い上がったものの影響は、わからない。タッチダウン1回目でも相当ものが巻き上がったという状況が見えているので、これ自身、我々がよく理解しなくてはならない状況。クレーターを作った時にどのような地形が出来て、どのようなものが出てくるのはやってみなくてはわからないというのが実際のところで、クレーターを作った後にタッチダウン出来るかどうかの可否をきちんと評価しようとしているのも、現状ではわかることが少ないから。(津田)

【ライター荒船】1回目のタッチダウンの時に光学系の性能が変わったのは、光学系のセンサーに埃等がついたということか

基本的にはそう考えている。舞ってきたものの中には色々な大きさの粒子があり、その中のいくつかが付いて、レンズにゴミが見えているわけではないが、結果として光量が減っているということは満遍なく何かが付いているかレンズを遮るものがあると考えている。(津田)

【ライター荒船】人工クレーター作ってから2回目のタッチダウンまで1か月ほど開いている理由は

クレーターを作った後舞い上がるものがあると予想しているが、それが小惑星の周りを取り巻いている間は探査機は小惑星に近付けない。これが晴れるのに2週間と見積もっていて、晴れたあとクレーターを観察して着陸に適していると判断するのに1週間を費やす(CRA2)。この後タッチダウン出来ると判断するのに1週間ぐらいかかる予定で、更にその先はいきなりタッチダウンするのではなく、まず事前に調査して、ターゲットマーカーを落として落下地点を評価、それに相対的に良い場所へ降りる…というピンポイントタッチダウンの手順を踏むので、どうしても一ヶ月以上はかかると考えている。(津田)

【ライター荒船】人工クレーターの中または外にタッチダウンする判断のポイントは

基本的に安全性。タッチダウン1回目と同様、地形の凹凸を評価して、探査機が十分安全にタッチダウン出来ることを判断してから実行に移す。判断の結果NGであれば実行に移さない。(津田)

質問の通りクレーターが十分出来て、そこが平らであればそこに降りるという可能性も出てくる。それ以外の場所はボルダーが非常に沢山あるので、その上にイジェクターが乗っかったとしても、そう簡単に降りられる候補になる可能性は低い。うまい場所が見つかれば良いが、S-01という比較的平らな場所のそばにSCIを狙って、もしSCIのクレーターに降りられない場合は(その近くの)元々平らな場所に降りればSCIが放出したものも採取できるのではないかという判断がある。(渡邊)

【東京とびもの学会】タッチダウン1回目で小石などが舞い上がっている写真が撮影出来たが、これはSCI運用でどんなものが巻き上がるのか参考になるのか

色々なスケールで、どのようにクレーターが出来るのか……サンプル採取の際の小さなものからSCIでやろうとしているもの、更に天然のクレーターでは100mを超える物もある。それらを色々比較することによってリュウグウがどういう性質を持っていて、その結果どうやってクレーターが出来るかわかってくる。つまり我々は先験的にSCIでどのようなクレーターが出来るかわかっていないので、まさにそういう情報を積み重ねていく、その点で1回目のタッチダウンは非常に重要だとサイエンティストは考えている。(渡邊)

【毎日新聞】3回目のタッチダウンを今のところしないという決断について、3回違うところに降りるというのは、工学的な一つのチャレンジとして「はやぶさ2」の工学的な成果として挙がっていたと思うが、それが出来ないということは工学的な観点から見て「勇気ある撤退」というイメージとして捉えているのか、どういうイメージなのか

「勇気ある撤退」と言っていただけると大変有り難いが、プロジェクトチーム全体で話し合いロジカルに判断した結果だと考えている。3回から2回以下に減ったというのは、3回タッチダウン出来ると技術的にも大きな成果だと思うが、大きな成果を狙うのか、それとも地球帰還までを予定通りこなすのかという選択を迫られ、3回目についてはリュウグウに居なくてはならない期間も含めて2回が限度であろうと、技術的にも制約があるとわかっていたので諦めざるをえなかった。

ただ2回目についてやる可能性がある、やります、という方向で進めている状態なので、これで技術者的にモチベーションが下がっているという訳ではなく、意義として、「はやぶさ2」の技術としては十分今示している範囲でも成果になっていると思う。もちろん技術者としては出来るだけやれることはやりたかったという気持ちも少しは残っている。(津田)

【NHK】人工クレーターを作ってタッチダウンを行うという初めての試みは大変難しいと感じるが、前回のタッチダウンで甲子園球場に例えてその難しさを表現したが、今回は例えるならどのような難しさか

「(しまった……しまった……想定外だ……)大変申し訳ありませんでした。ぬかりました。用意しておくべきでした。はい。ちょっと……次回SCI詳しく説明する予定ですので、そこまでの宿題にさせてください。」(津田)

【ライター喜多】CAM-Hを津田さんが観た際の印象

今回、寄付金で実現出来たCAM-Hの画像を公開するが本当に素晴らしい映像が撮れている。「御覚悟ください。本当に素晴らしいです。私が見た時も本当に…なんていうかゾクゾクしました。と共に意外な挙動というか、タッチダウンというのはもっと静かに下がって上がるのかなと思ったんですが、そうではない映像になっています。そういう意味で私はゾクゾクしましたし、感動しましたし、おお…って感じです」(津田)

【ライター喜多】皆とどんな話をされたのか

色んな話をしている。後で渡邊、澤田の方から解説があると思うが、見ただけで色々な疑問がおこる。それを一つ一つ、どんな話をしたかを喋ってしまうと、どんな映像かが想像出来てしまうが、多分皆さんが感じるのと同じことを我々は最初に議論した。1個1個の動きが面白いので是非見て欲しい。

「それからこの場で、ついでになって申し訳ないのですが、お見せする前に言っても何なのですが、こういう素晴らしい画像を撮るに至ったこのCAM-H実現に、皆様の寄付金でこういうことが出来ると示せたのは本当に有り難いと思っていますので、この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。」(津田)

◆タッチダウン運用の結果

(CAM-Hの連続画像を再生)

撮像スタートはターゲットマーカーを画面左端に捉えつつ、ホバリングで姿勢安定を待っている。降下し始める約1分前から連続撮像を開始している。撮像頻度はタイミングで変えていて、最初は1秒に1枚撮っているものを5倍速で見せている。(澤田)

(記者の歓声)

1秒に1枚だったのでサンプラーホーンが地面に接していると見える画像は1枚だけだが、その瞬間ホーンは少し変形して動いているのが見える。その後すぐに弾丸を撃ったことが原因と思われる粒子が飛び出る。また上昇する為に吹いたスラスターで吹き飛ばしたと思われる粒子が入り乱れて上がってきているのが見える。最終的に5分40秒程度、120mぐらい降下するところを撮像している。(澤田)

タッチダウン運用でもう一つ非常に誇れる成果として、日本時間22日07時29分10秒にサンプラーホーンが触れた場所が、予定の場所から1mのズレ、つまり誤差1mで探査機の制御が出来た。直径6mのタッチダウン予定地点の中心から探査機の中心から1mズレたところに接地した。(吉川)

タッチダウン前後の画像を比較すると、タッチダウン後は明らかにタッチダウン予定地点周辺の色が変わっている。この原因はたくさんの塵や岩石が舞い上がったことによる。またタッチダウン時の探査機の中心から、サンプラーホーン先端のダストガード(半径20cm)の位置も特定出来た。

(タッチダウン運用時の軌道)最初は20kmの距離にいて、本来なら21日08時13分から降下開始予定だったが、問題が生じたため降下を5時間遅らせて13時13分から降下開始した。当初は40cm/sでの降下予定だったが、これを90cm/sに早めて21日17時33分に当初予定の軌道に追いついたところで当初予定の軌道で降下し、途中から10cm/sに減速して更に降下、タッチダウンを迎えた。(吉川)

ターゲットマーカーが真下に来る時刻は正確に計算出来るので、その3分ぐらい前に高度45mのところに到達するように軌道を計算、計画を立てている。45mに到達したのが07時07分、そこからリュウグウの自転によりターゲットマーカーが真下に来るのをホバリングしながら待ち、ターゲットマーカーがカメラの下に入ってきちんと位置が計測出来るようになったところで下向きに少し加速して約25m付近を目指して降りる。その間07時10分から19分かけて高度が低くなったところ(およそ28m付近)で距離を測定するセンサーをLIDARからLRFに切り替わる。(澤田)

最終的にターゲットマーカー直上8.5mに来たところで小惑星に正対するように姿勢を変える。姿勢安定後はターゲットマーカーを下に見ながら数メートル程度移動するオフセット移動を行い、姿勢安定を行ったところで07時27分、下向きに7cm/s加速して自由落下、タッチダウン。タッチダウンを検知するとおよそ60cm/sで上昇する…という計画だったが、実際の運用もこのようになっている。(澤田)

高度の低いところではアンテナをゲインの小さいLGAに切り替えているのでテレメと呼ばれる探査機の情報は見えなくなる。この間は周波数の変化から速度を計算するドップラーを見ている。これを見ると07時07分から45mをホバリングしているので速度ゼロ。07時10分ターゲットマーカーを捕捉したので少し加速して降りている。急に速度が変わっているところ、ここはLRFに引き継がれたところ。LRFに引き継がれたところで25mを目指していくので一旦加速。そこを通過して最終的に07時19分44秒、8.5mの位置に到達する。ここからホバリングしつつ水平移動してヒップアップ等の姿勢変更、最終的に07時27分29秒に降下している。タッチダウンを検知して上昇したのが07時29分10秒、その後無事にホームポジションへ帰ってきた。(澤田)

タッチダウン後、まずアンテナをLGAからHGAに切り替えた。これは元々仕込んでおいた時刻で切り替わっている。その後10時40分に減速ΔVを行っているが、これはサンプラーホーンの先端につけた折り返しに引っかかった粒子を上方に浮遊させる為。その後粒子がキャッチャーに到達するまで40分待って11時20分、キャッチャーA室の入口を閉めて入口をB室に切り替えた。その後13時にホームポジションへのΔVをやりやすいように太陽指向へ姿勢を変更した。13時30分にHP復帰ΔVを実施後13時40分に再び姿勢を地球指向へ戻し、最終的に2月23日12時にホームポジションへ復帰した。(澤田)

◆サンプル採取に関して

上昇後テレメトリが見えたところでプロジェクターの温度センサーを確認した。プロジェクターが発火して火薬が燃えると熱くなるので温度センサーが反応するが、上昇を行った07時29分に(温度も上昇しているので)火薬が正常に発火して弾丸が撃たれたと確認出来た。その後粒子を浮遊させる為にマイナス1cm/sの減速ΔVを行った。その40分後キャッチャーの機構を駆動してA室の蓋を閉めている。キャッチャーには機械的なスイッチがあり正常に動作したことをテレメで確認している("SMP_REV_SW1 DONE")のでサンプルは期待通り取れてきちんと蓋が閉まっている状況。(澤田)

◆降下開始時刻が遅れた理由

本来07時過ぎから行う予定だった降下が結果的に5時間遅れたが、これは探査機の認識している位置情報がなぜか違っていた為。探査機のプログラムが認識しているデータがタイミングによって違っていたのが理由だが、これまでに無かった稀な事象であり、原因もわかり探査機の状況も問題無かったので5時間遅れで運用した。5時間遅れについては事前の訓練でやってきたことであり特に危険性も無い。(吉川)

◆タッチダウン地点のニックネーム

タッチダウンの場所に名付けようと先週急遽プロジェクトチーム内で名前を募集した。結果「たまてばこ」という、ちょっと無難ではあるが良い名前になった。これは正式名称では無く、あくまでニックネーム(愛称)。名前の理由は募集した中で一番多かったこと、また「浦島太郎」の物語で玉手箱は重要であり、タッチダウンの動画で分かるとおり沢山のイジェクターが出てきた点が玉手箱の煙のような雰囲気もあった。「お宝」をとった場所という意味もある。(吉川)

◆CAM-H

CAM-Hは皆さんの寄付金により製作させていただいたカメラ。サンプル採取装置と共にCAM-Hのカメラヘッドも開発担当だった私にとっては大分プレッシャーのかかる運用だった。
ターゲットマーカーの真上に来た探査機はカメラの視野に捉えたあと、真ん中に来るように制御する。そのままターゲットマーカーを真ん中に捉えながらリュウグウ表面に正対するように姿勢を変え、最終降下位置へ移動。ヒップアップの姿勢変更後、落ち着いたら7cm/sで降下する。CAM-Hはこの7cm/sで降下する59秒前から5分40秒間程度撮像する。降りながら最初は5秒に1枚、次に1秒に1枚、続いて1秒に2枚、また1秒に1枚、最後5秒に1枚…とタイミングによって切替ながら撮像する。本当は1秒に2枚のところで沢山の瞬間を撮れればよかったが、色々不確定性要素があり今回は1秒に1枚のタイミングで撮像された。(澤田)

ターゲットマーカーを右端に捉えながらタッチダウンする。この際に高さ方向だけでなく横方向(X方向)にも速度をもたせている。(降下中の連続写真の説明)最初は高度8.5mでホバリング中、ターゲットマーカーを左下に捉えている。ホーンの先で明るく光っている部分はタッチダウン検知用に距離を測るセンサー(LRF-S2)の光が見えている。ここから7cm/sで降下、タッチダウンの瞬間(07:29)、ホーンの長さは1mなので探査機の高度は1m。コマ送りするとホーンの先端が(リュウグウ表面に)接して2cmほど横にズレていることが確認出来る。直後、中からモヤッとした細かな粒子が飛んでくのが見えているので、弾丸が撃たれたことが画像からも確認出来る。その数秒後2.9m付近では大量の砂礫が溢れ出てくるのが見えている。8m付近まで戻ったところでは弾丸で浮遊させた粒子以外にもスラスタにより舞い上がったであろう粒子も混ざっているのが確認出来る。100m付近まで上昇してもまだ粒子がついてくるように見えるので、弾丸とスラスタによって大量の粒子を飛ばすことが見えていて、当初の想定通りサンプルが取れたことが期待出来る。(澤田)

タッチダウンに先立ち昨年末(地上でも)リュウグウを模擬したターゲットに弾丸を撃ち込む実験を行い、弾丸で砕かれて飛び散ったものが更に隣の岩も砕く現象が見られたことから我々サンプラーチームとしては十分なサンプルが採れると自信を持つことが出来たが、本番の運用でも想定通りの現象が起きたことが今回の画像からも確認出来た。(澤田)
◆サイエンスについて

リュウグウに到着し観察したところ、非常に重要な発見として、リュウグウの質量を測定して体積で割ると密度が出るが、これが水よりちょっと重い程度の1.2グラム立方センチメートルと非常に軽く、岩石で出来ているのに軽いということは空隙の多いことが予想された。また(リュウグウの形が)コマを2つ重ねたような形で表面に非常に大きなボルダーが沢山存在していて、これが満遍なく存在していることがタッチダウンにとっての強敵となった。特に背の高いボルダーがあるとタッチダウン時探査機本体に損傷を与えてしまう心配があったので傾斜などをきちんと確認しないと安全なタッチダウンが実行出来ないということで、サイエンスチームとしては、形状モデルや局所的な地形モデルの作成、ボルダーの分布や各ボルダーの高さの影などからの解析を行い、着陸点の選定、着陸領域の中での安全な着陸点、アプローチ等の計画立案に貢献した。(渡邊)

タッチダウンの画像に対する科学的な解析はまさに進行中なので内容をここで伝えることは出来ないが、私の目から見たいくつかの特徴的なことを紹介したい。1つ重要なのは、これまで「はやぶさ2」は上空から観測しているだけだったが、今回はじめて「手を出して」反応を見ることが出来たのが科学的にものすごく重要なこと。物理的な特性、強度、空隙などを応答特性として見ることが出来る。タッチダウンというのはサンプルを取るというのが大目的ではあるが、その際に得られた色々な情報はリュウグウという天体を知る上で非常に貴重なデータとなり、現在サイエンスチームは鋭意解析している。(渡邊)

◆ONC-W1の画像

タッチダウン後の連続写真を比較すると(リュウグウ表面についているように見える)黒い模様が動いている。つまり表面に出来た擦痕(さっこん)だけではなく、その上空に舞い上がった砂や岩も一緒になって見えている。タッチダウン1分後に1m近い岩が上空をぐるぐる回っている様子も見える。非常に低重力の天体なので、地球の常識からするとそんなことは…と思うかも知れないが、スラスタを吹いた勢い等で飛び上がっていると考えられる。また幾つかの筋状のものは中心から測ると10m近く伸びていて、これは恐らくプロジェクタイルを発射した時に飛び出したそくど速度の速い粒子が作ったと思われる。それ以外の丸く広がっている部分は、スラスタに吹かれて巻き上げられたものが乱流のように作っている砂埃と推定される。(渡邊)

高さ25mからの写真に見える黒いものは表面ではなく上空に飛び上がった破片。中にはカメラから10〜20cmのピントの合わない距離にあるであろうものも見える。そういったものが勢い良く飛び出している。これもスラスタおよびプロジェクタイルの影響により高空まで飛び上がっている様子がきれいに見えていると思われる。なぜ黒いのかは色んな可能性があるので解明中。スラスタを吹くと発生する水蒸気により色が変わる可能性も捨てきれない。表面から大きな岩が剥がれて下地が見えている可能性もある。反射率の低い細かな粒子が上空を覆うと黒いスモッグのような状態になって下が見えにくくなっている等いくつかの可能性があるので現在調べている。(渡邊)

この結果、ONC-W1の感度が半分程度に低下した。これは恐らく飛び上がった粒子がレンズにつき、これによりレンズに入ってくる光の強度がタッチダウンを試みる前に比べて弱くなっている状況だと考えている。これは今後の運用には一つの懸念材料になるが、サイエンス的には非常に重要であり、どの程度のサイズの粒子があって、どういうことがあると感度が低下するか…といったことが調べられるので、粒子の付着率といった我々が喉から手が出るほど欲しい情報が間接的にわかると期待出来る。(渡邊)

(飛び散った砂礫が舞う動画を見ながら)成功を祝う紙吹雪のように舞っているが、これは半分冗談で、紙吹雪のように一つ一つがペラペラの形をしているのがすごく特徴的で、物を壊すと普通はもっと丸い形になるが、ペラペラな形をしているということは表面に層構造をもったものがあると予想される。もちろん他の可能性もあるので今後調べなくてはならないが、まさにこういったことからも、我々が単にパッシブに、ただ眺めているだけではわからない表面特性の色んな情報が見える。非常に大きな重要な情報だと思う。(渡邊)

8.5mの高さから7〜8cm/sで自由落下している間はスラスタを吹かない。タッチダウンの信号が検知されると初めてスラスタを4秒間吹く。60cm/s、つまり行きに比べると7〜8倍の速度で上昇する。高さの目安は(探査機の)影の大きさを見るとわかる。影は下に行くほど大きくなる。動画の最初の見え始めの影の大きさと(高度が)上がる際に影のサイズが同じになる瞬間を比較すると後者は一瞬で通り過ぎ、更に高空まで上昇するが、その段階になってもまだ粒子が飛び出していることが見える。(渡邊)

(タッチダウン動画を見ながら、冒頭は)非常に鮮明な影が見える。上がってくる時には影がかなり崩れているが微粒子の影響。ターゲットマーカーがい左下に見えたところでしばらくホバリングをしてから自由落下を行う。降下時に見える岩をサイエンスチームは一生懸命見て高さを測ったりしている。この後「三途の石」と佐伯さんが呼ぶ石があり、これをギリギリかすめてタッチダウンに成功している。ここでぶつかっていないということは高さのestimateが非常によかった。この三途岩はタッチダウン候補の3m円の中心にある一番大きな岩だったので、その高さは非常に重要なポイントになった。解析のプロである名古屋大学の諸田先生が色々解析して55cm未満であると保証してくれたので、ここにタッチダウンしたエピソードがある。スラスタ等がぶつかっていないので予想は正しかったことが証明された。というわけでサイエンス的にも貴重な情報がいっぱいあり、これらを元にして次の論文を作成しようとチームで一生懸命トライしている。(渡邊)

今後SCIの運用でどういう破片が出てくるか情報が得られたので、それによりSCIでどれくらいのクレーターが出来そうか、分離カメラDCAMでどう撮像したらいいか、といったことを今後調べていきたい。また光量低下の問題は今後のタッチダウンに影響する可能性があるので、サイエンスチームとしてもデータを積み重ねて、露出の調整等の検討を重ねていきたい。(渡邊)

◆今後の予定

・3/6〜8はDO-S01の観測
・3/20〜22はクレーターを作る領域の詳しい観測(CRA1)
・4/1の週は衝突装置(SCI)運用

・3/18〜22、LPSC(The 50th Lunar and Planetary Science Conference)で発表

◆質疑応答

【読売新聞】「当初想定された十分な量」とは0.1gを指すのか、0.03g程度を指すのか

0.1gを指している。(澤田)

【読売新聞】ということは一回目のタッチダウンで、プロジェクト全体で目指していた量の試料を採取出来た見込みが高いということか

断言は難しいが状況証拠だけで行くとその期待は高いと考えている。(澤田)

【読売新聞】3回目をやらない可能性が高いという判断の一番の要因とは

元々1回目のタッチダウン予定は去年の10月だったが小惑星表面の複雑な地形に対応するため2月まで遅れた。今後衝突装置を使って出来たクレーターに着陸するにしてもかなり事前に時間がかかる。探査機がタッチダウン出来る温度的な限度が7月だが、それまでにもう一度、3回目をやるのは時間的に難しい。これが一番の理由。(吉川)

【読売新聞】つまり1回目で(十分)取れた、カメラが汚染されているかもしれない…といった理由ではなく(熱等の理由で)スケジュールに余裕がない中で優先するならSCI運用とクレーターへのタッチダウンだからなのか

その通り。(吉川)

【読売新聞】現時点で降り立とうとしているのは人工クレーターに限らず、その付近も対象なのか

地下の物質を採りたい、というサイエンスの目的があり、クレーター内部が一番良いかもしれないが、クレーターから出てきた物質がある領域にタッチダウンしたい、これが最優先。ただしタッチダウン出来ない地形になってしまった場合は無理してクレーターが出来た付近に着陸するのではなく、別の場所も有り得る。仮にクレーターが出来た際に噴出物がばらまかれた領域が凸凹すぎて着陸出来ない場合は無理してリスクを冒さず、噴出物内が無い場所に着陸する可能性もあり得る。(吉川)

【時事通信】これまでリュウグウの表面にはMINERVA等の写真を見ても砂みたいなものは無いのではないかと思われてきたが今回あれだけばらまかれた。これは元々あったものがスラスタ等で巻き上げられたのか、それともプロジェクタイルで粉砕されたものなのか。
画像等を見ると大きな岩や石が目立つので皆さんの印象では砂が無いと思われたかもしれないが、実際には高解像度の画像を見るとかなり小さいものまで存在するので元々砂は存在していて、それがスラスタで巻き上げられた。それに加え、スラスタによって岩や石に見えたものが壊れ、そこから破片が飛び出しているところも見えている。舞い上がっている砂の中には元々あったものに加えて、より大きなものが壊れたものも加わっていると私たちは考えている。(渡邊)

【時事通信】その脆さはどのようなものに例えられるか

火山などの軽い石、気泡の抜けたガサガサのもの、ちょっと手で叩くと壊れてしまうもののような印象が強い。スラスタの威力で壊れてしまう強度なのでかなり脆い。その強度がどの程度だったか評価するのもサイエンスの重要なポイント。(渡邊)

【時事通信】SCI運用の予定地点は比較的平地が多いとのことだが、他の選定理由は

SCIの為の事前観測領域は非常に大きな円で描かれているが、これは形成されるであろうクレーターの大きさではなく命中精度に由来する。ダーツのように真ん中のブルを狙えるものではない。この円ぐらいの広がりをもってしまう。狙った所に撃てるのであれば平坦な場所を狙うのだが、残念ながらこの円の大きさほどの平坦な場所はリュウグウ上に存在しないので運の問題になってしまう。これを回避する一つの作戦として、次の降下運用(DO-S01)のターゲット地点は上空からの画像解析でかなり平らな部分がある。つまり今回タッチダウンに成功した場所よりもより広い面積が平らでボルダーの少ない状況にあると我々は考えている。これが確認出来れば2回目のタッチダウンの有力な候補地点になる。そこ(S01)をSCIで狙い、仮に命中またはその近くに落ちなくても、ある程度の場所であれば、そこから飛び出したイジェクター(破片)がこの上に降り積もり、そこへタッチダウンすれば、比較的安全な平らな部分でクレーターから飛び出したものもゲット出来る場所を作れる、という戦略の元に考えている。(渡邊)

【時事通信】1回目のタッチダウンの場所のもやもやが落ち着いた後の状況を、最近のBOX-C運用等近くから確認しているのか

今後そういった画像も撮れるので解析していきたいが、現時点では話せるものは得られていない。(渡邊)

【ライター秋山】紙吹雪のように岩が剥がれるとのことだが、層状にぼろぼろと剥がれる岩はリュウグウの母天体の火山的活動を反映したものと思われるのか、水があったことを反映しているのか、それとも小惑星が宇宙にある間に風化してボロボロになっていくのか、その辺りの感想は

リュウグウは直径1km程度しかない天体で、元々そういったものが太陽系初期に出来た訳では無く、直径100km以上の母天体が壊れてその破片が集まって出来た、破片の集合体天体と思われている。非常に密度が軽くて空隙が多いのもその証拠の一つ。ボルダーが表面を覆っているのもその証拠だと我々は考えている。そういったリュウグウの成り立ちを考えると現時点ではどれも考えられる。地球の常識でいうと層を作るには水が関与する堆積岩、火山が吹いても層は出来るが、ダイレクトにこの天体で火山が起こるような高温になった可能性はかなり低い、母天体が氷微惑星であった可能性もある。(渡邊)

一方で地球とは大きく環境の違う低重力下の天体なので、真空下で表面が色々な宇宙線を受ける中で、我々がまだ十分理解していないような層構造を作る可能性もある。いずれにしてもそういったものが飛び出すとああいう破片が出来るというのも私の想像であり、実際これから更に解析することにより、元々あった層構造が紙吹雪のような破片を作っているのかどうかも検証していかなくてはならない。なので我々は非常にわくわくしながら解析していくことになるので、もう少し時間をいただいたらもう少し正確に答えられると思う。(渡邊)

【ライター秋山】SCI運用の中でこういったことが見えるとその手がかりが得られる、といった期待していることは何かあるのか

先ほどタッチダウンした場所を見たかという質問もあったが、まさにそこが重要で、SCIもクレーターを作った数週間後に戻ってきて観測することで表面の状態が色々見えてくる。これが直近で一番重要な情報。最終的に持ち帰られたサンプル等も総合するとかなり確実にリュウグウ形成の答えを絞っていけると思っている。(渡邊)

【ニッポン放送】衝突装置運用のバックアップ期間は

仮に何らかの理由で出来ない場合は2〜3週後に回す。(吉川)

【ニッポン放送】先ほど軽石という表現もあったが、硬さもそのような感じと考えられるのか。はやぶさ2が受けた衝撃もどの程度のものか

まさにサイエンスのチームあるいはエンジニアのチームが調べている。サンプラーホーンが表面に触れた瞬間ちょっとだけ変形するが、ぎゅーっと縮むことなく上昇してしまったので、表面が柔らかく潜るようなことはなかった。これから詳しく調べてからでないとわからないと思うが、我々が想定していた炭素質コンドライトという隕石とそれほどかけ離れていないのではないか、という第一印象。(吉川)

【共同通信】底面のカメラに微粒子が付いてしまったかもしれないというのは、予想以上に舞い上がる量が多かったのか、予想していないほど微粒子の密着度・粘着度が大きかった等、なにか予想していない事象があったのか

事前検討の中でもタッチダウン時のリスクの一つとして光学系が汚染されていることも考えていたので、それ自体は想定外ではないが、リュウグウに到着してみると表面を岩塊が覆っているのでプロジェクタイルを当てても出てくる物は少ない可能性も高いのではないか、その結果サンプル量が少なかったりSCIでクレーターを作れないというネガティブな側面もあるので少し心配していたが、実際には予想通りの量のイジェクターが飛び出して来る表面だった。岩も見かけ倒しで簡単に壊れてくれるハリボテのような岩だったという印象を持っている。(渡邊)

【共同通信】S01は1回目のタッチダウンの場所よりも平らな部分は小さいのか

これから精密観測する。S01を選んだ時には探査機に危険なサイズのボルダーが見えていず、それより大きなボルダーの数から小さなボルダーの数を予想してタッチダウン地点として有力だと議論してきたが、この予想の部分を今回低高度で撮影することによって確認し、予想が裏付けられればタッチダウン可能な領域になるのでタッチダウン候補点となる。だがSCI運用でクレーター周辺に降りられる場所が出来たら、地下の物質を取れる可能性がより高いので、そちらを優先する。そこが上手くいかない、もしくはそこから飛び出したものがS01にも落ちている状況があり、それを勘案した時に有利であるという議論も出てくればS01もタッチダウンの候補になる。(渡邊)

我々は事前にボルダーの数や凹凸具合、斜面の傾きなどを評価した上で一番タッチしやすい場所がL08だと評価した。S01はL08と比べて大きな岩や凸凹があるのは事実。その中で現在残っている中で一番良い候補地がS01。(澤田)

最初の100m四方の大きさで評価した際にL08は最も良い場所であり、S01は大きなボルダーがあったり危険な場所になってしまう。しかし1回目のタッチダウンを経て我々はもっと狭い領域に降りることが出来るとわかったので、より狭い領域で評価をし直したところ、他にもより良い場所が色々見えて来て、その中でも評価の高かったのがS01。(渡邊)

【産経新聞】SCIの命中精度はどの程度の大きさなのか

正確な数字はわからないが、オーダーとしては半径100m。誤差を全て悪目に積むと半径200m、一部だけ積むと百数十メートル。(澤田)

【産経新聞】S01をめがけて落としてズレたとして、そこがタッチダウンに安全であればそこを目がけて降りる可能性もあるということか

必ずしもSCIをS01へ当てたいわけではない。その付近。(吉川)

【産経新聞】タッチダウン2回目は基本的にはやる方向で進めていて、やるかやらないかを含めてクレーター生成運用の後で考えるとのことだが、タッチダウン2回目をやらないという場合、どのような判断に基づくことになるのか

可能性としては、人工クレーター周辺が凸凹すぎて降りるのが危険だと判断が為され、別の場所を探しても適当な場所が無かった、あったとしてもピンポイントタッチダウンに向けてのスケジュールが間に合わない、などが有り得る(吉川)

【産経新聞】MINERVA-II2の分離運用は7月以降だが、リュウグウ表面の温度はMINERVA-II2にとってもリスクと思えるが

MINERVA-II2は期間的な余裕があるので7月以降としているが、具体的にはそこまで決めるに至っていないので、SCI運用や2回目タッチダウンを見てからスケジュールを決めていく。(吉川)

【産経新聞】MINERVA-II2は「はやぶさ2」よりも温度に耐える設計なのか

必ずしも高温に耐性があるわけではないが、例えばタッチダウンは赤道近辺に固定されてしまうが、温度の低い半球に降ろすといった工夫は出来るはず。またMINERVA-II2は既知の問題点があるので最良の運用の仕方を今後検討していくことになる。(吉川)

【産経新聞】2回目のタッチダウンは5月から7月に行うという理解でよいか

熱的条件からそのようになる。(吉川)


No.2271 :会見後の集合写真 ●添付画像ファイル
投稿日 2019年4月3日(水)12時58分 投稿者 柴田孔明

会見後に撮影


No.2270 :弾丸発射による温度変化 ●添付画像ファイル
投稿日 2019年4月3日(水)12時56分 投稿者 柴田孔明

プロジェクタイル発射による温度変化のグラフを手にする津田プロジェクトマネージャ。


No.2269 :タッチダウン後の記者会見 ●添付画像ファイル
投稿日 2019年4月3日(水)12時53分 投稿者 柴田孔明

 2019年2月22日、小惑星探査機「はやぶさ2」の第1回タッチダウン運用が行われ、相模原キャンパスで記者会見が行われました。こちらは11時からの記者会見分です。
(※一部敬称を省略させていただきます。また一部内容を省略しています)

・11時からの小惑星探査機「はやぶさ2」のタッチダウン実施に関する記者会見。
・登壇者
JAXA 宇宙科学研究所
 研究総主幹 久保田 孝(宇宙科学研究所宇宙機応用工学研究系 准教授)
JAXA 宇宙科学研究所 「はやぶさ2」プロジェクトチーム
 プロジェクトマネージャ 津田 雄一 (宇宙科学研究所宇宙飛翔工学研究系 准教授)
 ミッションマネージャ 吉川 真 (宇宙科学研究所宇宙機応用工学研究系 准教授)
 プロジェクトエンジニア 佐伯 孝尚 (宇宙科学研究所宇宙飛翔工学研究系 助教)
 航法誘導制御担当 照井 冬人 (「はやぶさ2」プロジェクトチーム 主幹研究開発員)

・津田
 本日、人類の手が新しい小さな星に届きました。JAXAは小惑星探査機「はやぶさ2」を小惑星リュウグウへタッチダウンさせ、リュウグウの試料を採取する運用を実施しました。「はやぶさ2」から送られてきたデータを確認した結果、サンプル採取のためのプロジェクタイル、弾丸ですね、の発射を含む、「はやぶさ2」のタッチダウンのためのシーケンスが予定通り実施されたことが確認できました。「はやぶさ2」の状態は正常であり、今般リュウグウへのタッチダウンを成功させることができました。
 元々10月に着地を計画しておりましたが、そこから延期して、皆様にも心配をおかけしたと思いますが、この4か月間、計画を万全にして、昨日今日と着陸に臨みました。結果として想定の中ではベストの状態で思い通りの着陸ができたという風に考えております。ここまでご支援いただいた皆様、それから非常に多くの方から応援声援をいただきました。この場をお借りして感謝を申し上げたいと思います。それからこの運用はJAXAだけではなく、国内外のサイエンスメンバー、それから宇宙機関ですね、NASAそれからDLR、ドイツ、フランスの宇宙機関も含む各国のメンバーから協力をいただいています。それからこのプロジェクトの遂行に日本政府からもご支援をいただいて、ここまでこぎ着けることができました。ここまで実現できたこと、こういう場を実現できたこと、非常に感謝しております。どうもありがとうございます。

・佐伯
 プロジェクトエンジニアとは何をやっているかというと、探査機のシステム全体の取りまとめをやらせていただいております。今日のタッチダウンの際には、フライトディレクタという立場で探査機の運用を統括させていただきました。感想を一言言わせていただくと、非常に疲れましたというところです。それとともに本当にほっとしていると言わせていただきたいなと思います。
 これが今回の運用が成功したというのは、「はやぶさ2」チーム全体の、ある意味しつこさとかが実ったのかなと思っています。まず到着前には仮想リュウグウを用いて訓練をしつこいくらいやって、到着したらしたでリュウグウの全体を観測した上でこのL08という地点に目をつけて、そこを非常にしつこいくらいまた観測して、岩の数まで、岩の高さまで調べて、ここに降りれるということをしつこいくらい議論して、もともと10月に降りる予定でしたけども、それを延期したあと4か月間非常にしつこいくらいの準備をして、今回のタッチダウンほど直前までみんながいろんな確認をしていた運用はなかった。そういったしつこさが今回の成功に結びついたかなという風に思っております。今日で終わりでは無いので、このあとまだまだ続くのですが、同じように今までやってきたようにしつこくリュウグウをなんとか攻略していきたいと思います。本日はこういった場に立たせていただいて非常に感謝しております。「はやふさ2」という野心的なチームの一員でこのような成功を体験できたことを本当に誇らしく思います。どうもありがとうございます。

・照井
 特に今回のタッチダウンの場合は、非常にあらゆる場面で高い精度が要求されました。まず高度20キロメートルからターゲットマーカーまで然るべき時刻に、つまりターゲットマーカーが地球の方を向いている時刻に目がけて、然るべき高度まで、然るべき精度で持っていかなければならない。それは今までに無く高い精度要求がありました。まずそれを実現すること、さらに今度はタッチダウンをする場所がご存じの通り大変狭い場所です。ですからピンポイントでそこに着陸しなければいけない。それは前回落としたターゲットマーカーを頼りにして、それで着陸地点の近くまで近寄っていって、そこでじっと速度を殺して、位置がずれないような状態で降下するといった、全てのシーケンスにおいて非常に高い精度が要求されました。我々はそれを昨年のリハーサル3のあとに、あらゆる所を見直して、パラメータであるとか、設計の数値を一つ一つ洗っていきます。結果として先ほど話がありましたように、非常に高い精度でタッチダウンさせることができました。これには関連したメーカーの技術者の方々、それから当然JAXAの航法誘導制御チームの協力と努力と意欲が無ければ出来得なかったことです。私はこのチームを非常に誇りに思っています。それによってこういう結果を得られたことを素直に喜びたい。ありがとうございます。

・タッチダウンの概要について(津田)
 まず事実関係からご説明させていただきます。昨日の朝、降下を開始しました。当初の予定から5時間遅れで開始しました。これは最初の降下の前の設定で、ここに少し見直さなければいけない部分が出たので、ここをきちんと見てGOできるかどうかを判断しようという、ちょっと慎重な決断をしたからです。この5時間遅らせること自身も、そこから先の作業が今までやっていなかった作業ですので、こりリカバリはこのチームメンバーに寝ずに頑張ってやっていただきました。その結果として5時間遅れで降下を開始して、だけど着陸地点は決まっていますので、降下速度は通常の2倍の速度で実施しました。通常は秒速40センチくらいで降りるのですが、およそ秒速90センチで降下しました。実はこれは2年前からやってきたシミュレーターの訓練ではやっておりまして、そのためにこういう決断が速やかに出来たという風に考えています。高度5キロメートルに至ると探査機は降下速度は自律、探査機の自動に任せます。ここでは探査機は完全に元の計画の状態に戻すことができました。高度5キロメートルから先は当初の予定に沿って降下をしております。高度1キロ弱ですね、500メートルから1キロの間、正確な数字は後ほど確認してから申し上げますが、最終GO/NOGO判断を行っています。ここで探査機の状態は正常でしたので、探査機に対して後は完全自律で降りなさいというコマンドを送りました。そこから先は中継もされていたので画面を見ていただいた方も多かったと思いますが、基本的に我々はモニターになります。送られてくる電波から探査機の動きを推定することしかできない。これは探査機が着陸に特化した、着陸に必用な姿勢に変更するために、必ずしも探査機のアンテナが地球にどんぴしゃで向かない姿勢になるからという事になります。ですがここで電波の周波数がどういう風に変動するかを事前に予測していて、ただしこれはプラスマイナス30分というかなり幅のある中で、その中のどこかでタッチダウンに至るということを想定しておりましたが、結果として起きていることは予定の中のかなり最速のパターンで着陸に至っています。
 電波の状況を高度に直すことができていますので、ちょっとお見せするとこんな感じで(高度をグラフにして印刷したもの)、高度20キロメートルからスタートして、途中の高度5キロメートルで秒速10センチメートルに減速して降下を続けます。最後、タッチダウンに至っているところ、高度がゼロになっているところまで見ていただけると思います。高度ゼロに達したところで、探査機としては自動ですが、タッチダウンを検知してプロジェクタイル(弾丸)を発射します。プロジェクタイルは3発ありますが、今回その中の1番プロジェクタを発射しています。探査機の接地の確認は、いくつかの条件のうちどれかひとつが満たされればタッチダウンということを探査機が検知してプロジェクタイルを発射しますが、今回は姿勢の変動を検知して、それによってプロジェクタイルの発射と上昇をしております。そのあと現在探査機は、高度20キロメートルのホームポジションに戻っている途中でして、順調に規定の速度で戻っているところになります。復帰は今のところ明日、24時間後にホームポジションに戻る予定です。
 もうひとつグラフを紹介させていただきます。プロジェクタイルは、探査機のテレメトリが戻ってきて、そのあと初めて確認するのは、テレメトリの無い区間、電波強度と周波数だけの区間で信号の挙動が正しかったかということと、テレメトリがかえってきた時にシーケンスが正しく実行されたということの後追い確認しかできない状態で、そこで正しく探査機のシーケンスが動作したことをもって、我々はその場の判断として予定通り行ったと話していましたが、そのあと探査機からはタッチダウン前後の情報が降りはじめています。ここにお見せするグラフは、プロジェクタイルの1番が発射した瞬間を含む温度です。火工品の温度ですね。火薬を発火させて弾丸を発射しますが、温度が着地の瞬間、22時29分(UTC)くらいから10度Cくらい上昇しています。これは火がついたと、火工品が発火したということを意味していて、弾丸が発射されたという風に考えています。発射されていますので、我々はこのあとコンテナの1番ですね、サンプルが入ったはずであるコンテナを閉めるという作業を、今日の昼くらいまでに実施する予定でおります。概要としては以上になります。

・補足(久保田)
 今プロマネからありました22時29分というのはUTCの時刻でございまして、(探査機上の)日本時間に直しますと7時29分、タッチダウンした時刻で、その前後で温度が変わっていますので、弾丸を発射したということを確認しておりますので、間違いなくコマンドが出て、かつ弾丸も出たということを確認した次第です。


・質疑応答
日経新聞・今回小惑星に再び着陸したということで、小惑星探査の日本の強みだと思うが、なぜこれだけ世界をリードしていけるのか。
津田・日本にとって小天体探査というのは「はやぶさ2」から始まった訳ではございませんで、「はやぶさ2」の前はもちろん「はやぶさ」がありました。その前は小天体という意味では「さきがけ」「すいせい」というハレー彗星探査機がありました。昔から宇宙科学研究所を中心に小天体についてのミッション・科学というものにずっと興味を持ち続けてきたという長い歴史がございます。その中で「はやぶさ」は我々の探査機設計あるいはミッションの考え方という意味でも非常に大きく影響を受けていて、うまくいったところも、うまくいかなかったところも含めて非常に多くを吸収しています。特に小天体というのは基本的には、よく素性がわからない所に、いきなり探査機を送り込まない限り探査できないというタイプの探査になります。これが大きな惑星とは異なるところだと考えています。そういう非常に不確定性が高いところに対して、二の手三の手を考えた設計をして、ここはエンジニアリングと、それからサイエンスの綿密な協調があって、はじめてどこで妥協できるか、どこが守らないといけないか、という深い議論というか設計の絞り込みができる、そういう土壌が日本にはあるのだと思います。探査機はたった600キログラムと非常に小さな探査機ですが、ここに非常に沢山の機能を詰め込んでいますが、これ自身も非常に厳選した、必要なものを絞り込んで、なんとか搭載して、それにサイエンスメンバーもエンジニアメンバーも満足した状態で、これでやりきるんだ、というチームワークが出来て、このミッションが成立しているんだと思います。こういうサイエンス、大きな意味での科学ですね、非常に最先端の科学をきちんと現実の制約条件も把握した上でやりきる、こういう力が十分我々を含め日本の科学ミッションにはあるなというのを実感しております。

日経新聞・別の話題で、津田さんは学生時代に超小型衛星の打ち上げプロジェクトも立ち上げられたが、その学生のときの経験というのが今回の「はやぶさ2」のプロジェクトにどのように活かされているのか。
津田・これは個人的な話ですが滅茶苦茶活きてまして、学生の時に私はキューブサットという10センチ立方のサイコロ型の人工衛星を作るという事をやっていました。これは企画から設計開発検証それから打ち上げ・運用まで全て学生のうちに経験できた。これは私にとっては非常に大きいことで、キューブサットそのものではないですが、ここにいる佐伯とか照井とかも学生の時からいろんな衛星ミッションの研究を通じて一緒にやってきたメンバーです。いい仲間が出来たというのがひとつです。それから開発から運用・打ち上げまで一貫して若いときに経験できているのは、私にとって非常に大きな資産になっていまして、「はやぶさ2」の開発においても、基本的には同じ流れを、規模は全く違いますけども、何を今心配しなければどこで失敗するかというのは、私なりに非常にクリアに考えられてきたという風に思っています。

日本テレビ・弾丸の発射をコマンドだけでなく実際に確認されたという事で良いか。
久保田・その通りで、先ほどの説明ではコマンドが出たのを確認したと言いましたけども、その後テレメトリデータを確認して、津田プロマネからあったグラフ(温度)で、ハードウェア的に弾丸を撃ったときの周辺の温度がタッチダウン時刻付近で上がっていることを確認しましたので、これは間違いなく実際に弾丸を撃ったという証拠のひとつだと思っていますので、我々はこれは弾丸を確実に撃ったと思っていますので、タッチダウンも大成功と思っています。

日本テレビ・津田プロマネは以前の会見で、頭をクールに心は熱くとおっしゃっていたが、今回はずっとクールに保てたか。
津田・クールにできたと思っています。タッチダウンの確認のところまでは非常に冷静に、チーム全体が冷静に1個1個の判断をして、私も含めてクールに出来たと思っています。でもタッチダウンを確認できた後はやっぱりクールでなくなったところもありますけども、探査機の安全は十分守れて、それ以上のお釣りがかえってきた成果に満足しています。

日本テレビ・今日この日を迎えるまでずっとクールで、ゆっくり眠れていたか。
津田・そんなことはありません。当日はクールでしたけども、それまでは非常に心配もしていましたし、クールではいられない、冷静ではいられないような問題点が沢山みつかって、その度に潰してきた。ずっとクールだった訳ではありません。

日本テレビ・昨日はよく眠れて今日を迎えたのか。
津田・昨日は降下を開始してから私は一回一眠りして、その後早朝にまたシフトに入ったという事なので、昨日と今日の間はまだ運用中で、しかも5時間遅れという問題があったので、あまり寝られませんでした。

毎日新聞・この「はやぶさ2」というのは、2という数字がついているが、全く新しい発想の探査機として運用していきたいとおっしゃっていたが、実際に着陸に成功してその辺りの位置づけをどう感じているか。
津田・「はやぶさ」から受け継ぐ部分を大切にして「はやぶさ2」という名前をつけさせていただきましたが、我々としては「はやぶさ2」を全く新しい探査機として成功させてやろうと、「はやぶさ」を全く超える成果を出してやろうというつもりで計画にあたってきたつもりです。今日成功させたましたピンポイントタッチダウンという方式は、まさに「はやぶさ」を超える、もちろん「はやぶさ」が出来なかったことをやり遂げなきゃいけないという思いもあったのですが、それだけではなくて「はやぶさ」を超える技術というのは何だろう、この「はやぶさ2」の次に残していくべき技術は何だろうということを真剣に議論して、これを採用しようということで取り入れたひとつがピンポイントタッチダウンです。最初から使うとは思っていませんでしたが、きちんとチャレンジに対しても真摯に設計して、ここにいる照井とか佐伯とずっとピンポイントタッチダウンの実現法を打ち上げ後も議論して解析して実現したものです。なのでそういう意味では新しいミッションということが言えるかと思いますし、次に繋げる沢山の新しい成果とか資産を残せるものだという風に思っています。今日ひとつの大きな成果が出せたという風に思っています。

毎日新聞・つまり「はやぶさ」を完全に超えられたのか。
津田・成功を確認したときに初代プロマネの川口先生とお話して握手も交わしたのですが、そのときひとつ会話させていただいたのは、初号機の借りはかえしましたよ、とお伝えして、その時は笑ってくれていました。

毎日新聞・今回非常に厳しい運用を乗り越えたが、次に待っているのがSCIになります。SCIへの自信のほどはこれによって高まったか。
佐伯・SCIはタッチダウンに並ぶくらい、いわゆる「はやぶさ2」のハイライトで、非常にリスクの高い運用でもあるということで、正直本当にSCIに携わってはいるが、このタッチダウンに皆がまず頭を使ってきたところがありますので、今日は忘れて成功を喜んで、明日からまた万全の準備を進めていきたいと思います。タッチダウンの準備をする中でSCI運用にもいろいろ反映すべきところもいろいろ見えてきた部分もありますので、そういった部分も着実に反映して実際の運用に臨みたいと考えています。
(※SCI:衝突装置 [Small Carry-on Impactor] インパクタ)

毎日新聞・この成功は、SCIの自信に繋がりますか。
佐伯・はい、これは非常に勢いがついたと思っています。ただ、慎重に行きたいと考えています。

福島民友新聞社・今回の着陸場所の選定やミッションの全般で精度の高いデータが求められたと思うが、福島の会津大の貢献で、技術力の高さなどの評価はどうか。
津田・会津大は、主にリュウグウの形状モデルを作るというところで、非常に力を出していただいている方々がいらっしゃって、リュウグウのモデルは最初に小惑星に到着した我々がまず必用としたデータでした。そこが大きな仕事の区切りだったはずなんですが、実際には着陸点が非常に狭いということで、全体の地形だけではなくて、このL08−E1という着陸点の細かい地形をもっと精度良く作って下さいというのをお願いしまして、着陸地点の三次元地形を作っていただいています。これが無ければL08−E1への着陸はできなかったという意味では、非常に肝となる貢献をしていただいているものです。これに限らずですけども、今回はプロジェクトメンバーに非常に沢山の分野の方々が関わってますが、総動員してこの着陸を実現できたと思っています。ですので会津大も含めてですけども、非常にいいチームワークができたということがISAS(?)にとって、あるいは将来の探査にとっても、科学ミッションにとっても、いいことだったなと思っています。

福島民友新聞社・これも福島のことになるが、県内企業がインパクタの開発製造に関わっているということで、被災後始まった「はやぶさ2」のミッションということで、県内企業で被災した企業もあると思うが、今回のタッチダウン成功が関わっている各企業の方々にとっても喜びになったと思うが、この成功が関わっている福島の企業・福島県にどういったものを伝えられたか。
津田・福島県の企業で申し上げると、いちばん大きいのはSCI、インパクタの技術は福島県内の企業が非常に大きな貢献をしていただいています。そういう意味でこの最先端の科学を我々日本のメンバーが企画実行して、そこで成功してひとつのマイルストーンを今日超えました。これから先まだまだチャレンジが続きます。そこに非常に真摯に、それぞれの専門性を活かして関わっていただいている、その中のひとつが、もちろん福島県の方々、それ以外にも全国の沢山の方々が関わっています。この成功が何かの形で我々人間の可能性をもっと強く感じる、もっと我々はやれるんじゃないかという希望に繋がれば、我々はとしてもとても幸せです。SCIについては、今フライトディレクタをやっている佐伯は、開発時はずっとSCIの開発の主担当の技術者としてやってきましたので、ちょっとコメントをお願いします。
佐伯・インパクタの運用はまだ終わっていないが、開発時に福島の会社の方に非常にお世話になりました。個人的な感想では福島の方は非常に粘り強いなという風に思いました。震災の後、道路が崩れているようなところに私が会社に訪ねて行って、傾きそうな会議室で会議をやったのも思い出ですが、こちらが無茶なことを言っても音を上げずに粘り強く対応していただいて開発ができた。その結果として打ち上げも出来て現在まで繋がっているというところで、まだイベントが待っていますけども、共に喜びたいと思っています。

テレビ朝日・今のインパクタの質問に関して、福島の企業に対しての無茶なこととは具体的に何か。
佐伯・まず開発期間が短いのは、そもそも無茶だったというのはあった。そういう短い開発期間の中で問題は必ず見つかるものですが、スケジュールに間に合わせるためにいろんな試行錯誤が入った部分もありました。そういった所でどうしても本来かかってしまう部分を、ある意味この日までになんとか見通しを立ててくださいということに対して、それはできませんという事ではなくて、じゃあやってみますということでご対応いただけたということです。

テレビ朝日・インパクタはこれまでに無かった初めての試みだが、一番期待していることはどんなことか。
佐伯・インパクタのああいう運用は世界で初めてです。個人的にはインパクトの瞬間にDCAMというカメラを分離して撮像を試みます。そこにクレーターが出来てイジェクターという土砂が巻き上げられている絵をちょっと想像しながらいるのですが、そういったものが本当に見れたら、これは最高に面白いと思っています。

共同通信・以前、いきなり難しい着陸に挑むということで、いきなり応用問題に挑んだようなものだという話もあったが、実際応用問題に挑んだ気持ちとか手応え。
津田・今回は無茶苦茶応用問題でした。ピンポイントタッチダウンというのは、元々はクレーターを作ったあとやりましょうという、工学的には挑戦と位置づけて装備していた機能です。ですがリュウグウというのは予想以上に厳しいという事がわかったので、それに対して持てる技術は全て投入しましょうということでやったという意味で、いきなり応用問題になってしまったと申し上げました。技術者としてはやっぱり簡単な問題から順番に解いて積み上げていきながら、最後に応用問題を解けるという状態に持っていきたかったが、今回は仕方が無いので、地上でたくさん練習問題を解いて、応用問題にぶっつけ本番で臨んだということですが、この練習問題を解くというところでは自己満足に陥らないようにするのが非常に重要で、特にこの辺は照井ですね、照井と言ってますが私にとって上司というか先輩なんですけども、このシーケンスでやろうと言ってもそれじゃ出来ないとか、これじゃ精度が足りないとか、ここはこの数値はもっと下げてくれとか、いや緩めてくれとか、こういう議論を何度も何度もして、練習問題を提出する度にバッテンがついて返ってくる。それでこれでいいだろうと照井の方から来ると、私が佐伯と一緒にバッテンをつけるようなことを繰り返して洗練していったという所があります。技術力というところはもちろん強調したいですが、この「はやぶさ2」のチーム力を特に私は強調したいと思っていて、チーム力というのは決して仲良しではなく、磨き合って、お互いに叩き合って成長していくという形で、実現できたと思っています。応用問題の解き方はこうやるんだなと今日実感できています。

共同通信・今後のインパクタ運用などの見通し。最低どれくらいの期間を空けなければならないとか、3月4月中には挑みたいなどのスケジュール感など。
津田・まず今日の結果を整理して、データを降ろしきってから最終的にスケジュールを確定しようと思いますが、期間は限られています。リュウグウと太陽との距離ですね、これがこれから先どんどん近づいていきます。近日点側に行きますので、6月末くらいまでには全部やりきりたいと、7月にちょっとかかるかもしれないですが、やりきりたいと思っています。そうするとここから先、だいたい2週間から3週間おきに降下運用を繰り返さないといけないと考えています。クレーター運用というのはいきなりやるものではなくて、事前の観測のために低高度に降りるとか、事後に出来たクレーターを探しに行くとか、いくつかのシーケンスが、いくつかの降下運用をセットで考えなければいけません。タッチダウンの回数もあと2回分をどうするかという話も決めていかないといけないので、この辺は週明け以降日を改めて皆様にご報告できればと思っています。いずれにしても前詰めで6月中に全部やりきるというつもりでクリティカル運用をやっていきます。

共同通信・早ければ3月中に2回目か。
津田・ちょっと今は予定が立ちませんけども、1ヶ月まるまる何もしないという計画ではなくて、探査機の状態も今のところ健全そのものなので、2〜3週間おきにクリティカルな運用を入れていきたいと考えています。

・タッチダウン直後のONC-W1による画像(静止画)の公開
津田・タッチダウンして、その後上昇中に撮像した画像になります。まず探査機の影が見えます。ターゲットマーカーが…(登壇者全員で探す)…恐らくこれだと思います。探査機が接地した場所はここからはちょっと読み取れません。ですが最低高度で地表についた後に上昇のための噴射をします。黒く見えているのが、着陸前には無かった色ですので、ここは着陸した後の噴射の痕跡という風に考えられます。それから探査機が上昇中に砂を沢山巻き上げています。黒いものがありますが、探査機が噴射した時に巻き上げたものか、サンプラーホーンの縁で引っかけて巻き上げたものが上昇中に探査機と一緒に粒子がついてきているという状態です。砂が沢山舞い上がっている状態が写っています。これだけ舞い上がっているので、これは弾丸のせいではなくて、接地のせいか、あるいはスラスタを噴射したせいになりますが、ごつごつして岩だらけといっても、これぐらいの粒子が舞い上がりがあったということが言えるかと思います。噴射のいちばん濃いのは、ターゲットマーカーの位置から探査機をオフセットさせて、そこで姿勢を安定化させる、ずっと滞在している場所になります。そのため黒く見えているのはそのためかなと推定していますが、まだ断定はできません。探査機が着陸したのはこの痕跡の中心だと思うのですが、L08−E1という6メートルの領域は、探査機が6メートルなのでこういう円(黒い領域)になります。ここから推定するに探査機は予定通りの地点に着陸できたのではないかと言えるかと思います。これはまだ「強い推定」という段階です。

照井・「はやぶさ」の初号機はもともと非常に広いところにタッチダウンする設計になっていました。ご存じのとおり「はやぶさ2」の場合には、本当に限られたこのエリアにピンポイントにタッチダウンしなければいけないという要求がありました。我々としてはターゲットマーカーを見ながらナビゲーション(航法)するということは、それなりに高い航法精度は達成できるのですけども、自分の位置が判っても今度はきちんとスラスタを使って位置を制御することに関しては初号機のままでは精度が出ませんでした。大体1メートルぐらいの横方向の位置精度しか無かったので、その状態でタッチダウンしてしまうと、下手すると危険なエリアにタッチダウンしてしまう、岩にぶつかってしまうという可能性がありました。そこで制御系の中の数値をある意味設計をし直して、精度としては少なくとも25センチ程度まで追い込むことが出来ました。ふらついてもいけませんので、速度の制御精度も大体秒速8ミリ程度まで抑えるような設計にしました。それによって着陸側から要求があったように、このエリアに100パーセント確実に降りてくれ、降りられるという確信をもって我々はタッチダウンに向かいました。結果としては、想定に近いかなり完璧な精度でタッチダウンできたと思います。

・質疑応答
読売新聞・弾丸を発射したということで試料を採取したことへの期待は。
津田・弾丸が発射された、それから舞い上がっているものがあることから、これは弾丸のせいではないですけども、ああいう舞い上がるものがリュウグウに実際に存在する、これは小惑星の表面に実際に触れてみないとわからない。こういったことから強く示唆されるのは、弾丸を正常に発射すれば、それなりの量のサンプルがサンプル機構の中に入っているだろうということです。我々としてはこれ以上ない期待の情報を得られていますので、コンテナもすぐ閉じるという決断をしています。

読売新聞・初代「はやぶさ」のときも参加されていたが、プロジェクトマネージャの立場になってどんな経験が生きましたか。
津田・「はやぶさ」のときは私は管制室で運用のその場を担当するスーパーバイザーという役をずっとやってきましたが、そこで見た風景とか体験とかが、宇宙ミッションをするのは初めてでありましたので、非常に生きています。私はあのときはどちらかというと、こういう風に探査ミッションというものはやるんだと、感心して吸収する側だったので、勉強できたという気しかなかった。「はやぶさ2」をやり始めたとき、あのときを振り返ると、とにかく非常に忙しかったし、どんどんどんどん決断しなければならないけども、やっぱりしっかり腰を落ち着けてやる時間が無かった。その中で、一つ一つきちんと決断できていたというのが私の印象です。これに十分なチーム体制と十分な時間、それからいい探査機があれば「はやぶさ2」は成功するという道筋が計画のときに得られていたことです。この三つはなかなか難しいことなんですけども、それを得られるように10年間準備した成果が実れたのかなと思っています。

読売新聞・確認ですが制御を自律に切り替えた高度は。
照井・GCP-NAVといって高度20キロから降りてくるときの高度制御は5キロ以下で自律に切り替えます。逆に20キロから5キロの間は地上からの指令で高度の制御。降下速度を一定に保つ制御をします。さきほどのタッチダウンに関して言えば、GO/NOGO判断をした地上で言うと300メートルくらいまでの情報をもとに、地上からGO/NOGO判断を送ったあとは、全て探査機の中のプログラムに従って自動的にシーケンスが進みます。

NVS・理学的な話として、リュウグウは当初の記者会見で均質な岩質をもっていると言われていたが、そうするとどこを採っても材質として似ているというサイエンス側の判断があると、タッチダウンの回数を減らしたりとか、次はインパクタに移行するというのは選択肢として考えられると思うが、その辺りのサイエンス側の要望はどうなっているか。
津田・まずおっしゃるとおり、ばらけ具合が均質であるというのが正しい表現でしょうかね。均質というのは全部同じ色という意味ではなくて、いろんなバラエティに富んだ色が見えるんですが、それはどこを採っても同じようにバラエティに富んでいるという風にサイエンスの評価があります。そのような状態でサイエンス側からは複数地点を見る価値があることには変わりは無いと評価されていると認識しています。ですが探査機のミッションとしては限られた時間の中で優先順位をつけて、やるべきものをこなしていくと思っていますので、今日の時点ではその順番とか回数とかこうやりますという事は申し上げられませんが、最高の状態で今日の結果を踏まえられますので、来週以降の計画を考えていこうと思います。じきにご報告できると思います。

テレビ東京・今日という日を迎えるにあたって、かけあった言葉、そしてミッションが成功して、それぞれどのようなねぎらいの言葉をかけたのか。印象に残っている言葉はあるか。
津田・リュウグウに着いてからはずっと毎日、顔を合わせない日は無かったメンバーなので、毎日喋っているので、好きか嫌いかに関わらずコミュニケーションはよくとれています。昨日はシフトが終わったあと、ちょっと5時間遅れで降下開始しましたので、少しトラブルな状態でしたけども、その状態を脱してシフトが終わったときに、ちょっと何か足りないのではないかということで、とんかつ(佐伯)と僕はチキンカツを食べに行きました。そういうオンとオフというか、オフのときも含めてチームワークというか、コミュニケーションをよくやってくれたことが成功の要因の一つになっているのかなという風に思っています。
照井・仲がいい悪いにかかわらず、いや悪い訳ではないですけど、物理的に狭いのですね。「はやぶさ2」の部屋は狭いものですから、本当に1メートルくらいのところに横顔を見るような、そんな距離にいます。三人はだいたい三角形の位置に居るので、何かあったときの決断が早かったです。まず三人で話し合って、それで駄目なら他のメンバーも呼んで話し合う。そういう情報の流れとか、コミュニケーションは非常に密でした。それがある意味、決断の早さとか正確さとか情報の流れの潤滑さに繋がったことはあると思います。
久保田・私はスポークスパーソンという立場なので、ちょっと一歩距離を置いてみんなを見ていたのですけども、割と判りやすいのですね。やはり5時間遅れとかいろいろ出たときには難しい顔もしていたけども、慌てずに時間は十分あるからということと、最後に言ったのは、ミッションを楽しもうということで、割とリラックスしつつ細心の注意でやってくれたのかなと、非常にエンジョイしつつ、しっかりとやってくれたかなと思っています。
佐伯・よく津田プロマネが運用前に一言いい言葉を選んで言われるですが、今日はいろんなことがありすぎて覚えていない。津田プロマネからもありましたけども、寝食を共にするじゃないですけども、そういった近い中でコミュニケーションをとりあってきて、いつも意見が対立しても、今回のように落ち着いていく訳ですけども、ある意味みんなが、そうだそうだイエスイエスと言っている訳ではなくて、自分なりの意見を述べてコミュニケーションをとりやすいという環境が非常に良かったのかなという風に思っています。
吉川・私の方はとりわけひとつの言葉が印象に残っている訳ではなくて、今出ちゃったのですが、「はやぶさ2」のコアメンバーは同じ部屋に居て、しょっちゅういろんな議論をして、議論も難しい議論もしてますしくだらない話もしている感じで、非常に雰囲気がいい感じでできている。これが「はやぶさ2」プロジェクトチームのいいところではないかと思います。

テレビ東京・ベストの状態でタッチダウンに成功したが、予定よりも時間が早まったのは、スムーズに行き過ぎたということか、それとも想定外だったのか。
津田・まず想定外でした。想定外の意味は、我々技術者的には、最良のパターンと最悪のパターン、つまり一番速いパターンと一番長いパターンがあると、通常うまくいけば真ん中ぐらいになりますという設計の仕方をします。実際にいろんなシミュレーションをやったり検討している中では最良のパターンというのも出て来ます。だけどそればっかり信じてやると、これはうまくいかないパターンが沢山出て来てしまうので、皆様に予定を申し上げるときも、だいたい真ん中のパターンから、あとは幅を持って申し上げることが多いのですが、今回はその中でも全てのいろんな事象がうまい側に倒れてくれた。倒れるのはたまたまではなくて、これは真ん中は真ん中であるのですが、倒れるべく設計したことが全部うまく倒れてくれたという事で、意図通りに働いてくれたと思っています。

テレビ東京・リュウグウであれだけ塵が舞っている画像があったが、岩石の硬さはどれくらいと推測できるか。
津田・ここは本当に面白いところで、まずは今日の時点では答えがわかりません。ですが探査機の挙動を詳しく調べることによって、バウンドしているので、そのバウンドの仕方から固さというものがわかるかもしれません。我々は探査機以外にもミネルバというローバーがあったり、MASCOTといういくつかのローバーを、いくつかの地点にそういうものを実際に接触させているのですね。こういう情報を集めることは、そういう固さというのはサイエンスにとって非常に重要な情報のひとつなんですが、こういうものが得られることも期待されます。

ニッポン放送・5時間遅れの話があったが、この5時間の作業というのは、佐伯さんが突貫作業とおっしゃっていたと思うが、想定内だったのか。この5時間の作業が今回の成功にどういう意味があったのか。
津田・今回起きた事象というのは、探査機を降下させる前に探査機に対して、降下した後のシーケンスはこうやるんだよと教え込む作業があります。これは丸1日くらいかかるのですけども、その作業をだいたいやり終えたくらいの時に、その設定の一部が意図通りになっていないという事が判ったという事です。これは教え込む探査機の指令はだいたい3000項目くらいあります。これを今まで我々は地上で訓練したり、検証という作業をやったり、あるいはもう実機で何回も降下していますので、その中で試してきたものをやったのですが、今回見つかったのは、3000項目の中のごく一部、かなりレアなケースのときに齟齬を起こすという事が判りました。判ったのは、問題が起きてからすぐにその状態を把握して原因を言い当てたチームメンバーが、よく探査機を熟知している賜物だと思いますけども、そこから先やり始めた事というのは、今回が初めてのことになります。5時間遅れで本当にキャッチアップできるかというのは、今回起きた事象に対しては初めてです。ただそこで1個1個切り出してみると、5時間遅れでもう一回初期設定をやり直して、その出来た5時間という猶予の中で、初期設定をし直せるかという事については、実は訓練の中でやったことがありました。あのときのやり方だよね、というのがプロジェクトのチームメンバーですぐ共有できたという面もあります。それから5時間遅れで降下開始するけども、元の軌道な追いつけるか。これについてはスピードアップしなければいけない、降下速度を速めなければいけないので、秒速90センチで降りなければいけなかったのですが、これも全く別の目的で訓練の中で2年前に秒速1メートルで降下させて着陸できるかという訓練はやっていた。なので、いろんなケーススタディをやったり、実際に訓練をやったり、こういうものがあったおかげで、チームのメンバー、これはJAXAだけでなくメーカーも含めて、すぐにあの時のやり方だと最適なものを選んで組み直して実行できたというところが成功の要因だと思っています。

ニッポン放送・非科学的だが、自律モードに入るときに、念を入れたとか、おまじないをされた方がいれば。
照井・おまじないは入れていないです。ただ、自律のプログラムを作ってただそれで終わるのではなくて、探査機に上げる前に必ずソフトウェアでシミュレーションを繰り返します。当然新しい自律シーケンスだと、やはり間違えたりするし、思った通りの動作をしないケースがあります。何回も繰り返して、最終的にうまくいくということをコンピュータ上のシミュレーションで確かめて、さらに最終的には実際の「はやぶさ2」と同じハードウェアが試験室にあって、そこで動作させて、それで問題無いことを確認して初めて探査機にのせることはします。何重にも検証しているものにはなります。それをおまじないと言うかはわかりませんけども、検証は何度もやっています。

ライター秋山・海外の反応、特にOSIRIS RExのチームから今日何かコメントがあったか。今日に限らず、「はやぶさ2」の運用の中で先輩としての知見が聞けないかといった場面があったか。
津田・兄弟ミッションのようなOSIRIS RExですけども、普段からよくやりとりはするのですけども、このタッチダウンをした後は、まだやりとりはしていませんが、タッチダウンする前はOSIRIS RExトップのPI(Principal Investigator)のダンテさんから成功をお祈りますということと、向こうにとってもタッチダウンしたときにどれくらい砂(レゴリス)があるかというのは、非常に重要な興味でして、それから狭いところのどうやって着陸点を選ぶか、彼等は全然やり方が違いますけども、それでもやっぱり狭そうだということが判っていて、狭い場所をどうやって探していくのかということは、後から知見を教えて欲しいと相談を受けていました。そういう意味で、これから先いろいろ議論がなされるのだと思います。今回の運用自身はNASAのディープスペースネットワークの局を非常にたくさん使わせていただいてまして、リアルタイムの運用が重要なことから、技術者も2名立ち会って、さらにNASAの科学関係の方々も立ち会っていただいて、何かあったときすぐNASAから対応していただけるようにという態勢で臨んでいました。成功したときには、握手もしましたし、おめでとうという声もかけていただいて、一緒のチームとして喜び合ったということになっています。
吉川・ひとつ付け加えますと、これはタッチダウンの前ですけども、昨日、NASAの科学部門トップのロリ・グレイズさんから、ミッションの成功を期待しているというメッセージは津田と私の方に届いています。

ライター秋山・弾丸を撃ったときのリュウグウの反応と言っていいか判らないが、昨年模擬リュウグウを作って弾丸を撃ち込む試験をされていたが、地上の模擬リュウグウと比べて、実際にリュウグウに弾丸を撃ったときにどんなことが起きるのかの違いで想定されるもの、考えられるものがあれば。
津田・模擬リュウグウと実リュウグウだと、模擬というのは基本的には上空にいる間、探査機がまだ接地する直前のところまでを一生懸命訓練していたということで、接地したあとは何が起きるかわからないという前提で、何が起きても対処できるようにという訓練をしていました。ですから、実際にリュウグウに接地した瞬間に起こることは想像の範囲外というか、何が起きてもいいように…ぐらいの幅広いボードラインしか引いていなかった状態です。実際に砂が舞い上がった画像が見えたというのも、我々にとっては新鮮な驚きですし、今回タッチダウンを検知したのが、サンプラーホーンが曲がったことではなくて、姿勢が傾いたことで接地を確認して弾丸を発射した。これは2番目に起こりうる、1番起こりうるのがサンプラーホーンが曲がること、2番目に起こるのが姿勢が傾くことだったのですが、2番目が起きたということは、これはまた何か意味するところがある。先ほど質問があった固さのことかもしれないし、実際の表面がこういうものだったという情報もあり得ます。そういう情報がわかったということは、我々にとっては得るものがあったと思っています。
久保田・昨年の12月に模擬地形を作って弾丸を撃つ試験を行ったが、これは地上で空気があるところで行いましたので、真空の違い、重力の違いがある。使ったのは実はミネルバ2を分離して表面に落としたときに、場所は違うのですが、そこで詳細な画像を見て、だいたい粒の大きさがこれくらいかなというのを見ながら作ったものなんですけども、もちろん材質は炭素系ではあるけども全く同じでは無いという違いはあった訳です。実際に弾丸を発射して、地上でやってみると結構穴も空いて広がるということも判っていて、今回の画像はこれからもっと解析しなくてはいけないですけども、真空でかつ重力が小さいところだと、たぶんああいう風に舞い上がるのだなというのは、ある程度は想像できるかなと思っているので、地上の実験もかなりいい線をいっていたかなと今は思うのですけども、もっと詳細に解析したいなと思っています。

信濃毎日新聞・今回の探査にミネルバが関わっているが、ミネルバが撮影した映像が、その後のタッチダウンの準備・リハーサルや本番にどのように貢献し、どのようにデータが反映されたのか。
久保田・ミネルバ2ですが、今は太陽との距離が遠いので2台ともお休み中なんですが、9月10月で撮った画像が最終的には2台合計で600枚近く撮られていまして、そのデータは場所は違うのですが「はやぶさ2」チームに情報提供させていただいて、昨年12月に行った弾丸発射の地上実験には、それをもとにそういう地形をいくつか作って実験をしたということがあります。固さについては今まだ検討中なんですけども、ジャンプをして移動ということをしていますので、場所は違うのですがそういう情報も提供させていただいたところで、役に立ったのではないかと思っているところです。ミネルバ2の方もいろんな解析をサイエンスチームと一緒にやっておりまして、また何か新しい知見が得られましたらお話させていただきたいと思っています。

信濃毎日新聞・これも長野県に関する質問ですが、臼田宇宙空間観測所が「はやぶさ2」との交信に関わっていると思うが、今回のタッチダウンでは何時頃から交信を始め、自律のときはどのような状況だったのか。
佐伯・UTで21時45分からこの臼田のアンテナを使用しました。朝の6時頃になります。現在も臼田のアンテナを使って探査機と交信をとり続けている状況です。今回の運用は臼田だけではなくて海外のアンテナを繋いでバトンを渡してきて、最後に臼田のアンテナでタッチダウンというものを確認することができたというような状況です。

信濃毎日新聞・繋いだアンテナは、どういった順番でどういったアンテナだったか。
佐伯・今回のタッチダウンに関しては、運用前の1日かけで準備をするところを臼田でやって、次の日も臼田で降下を開始して、更に次の日にタッチダウンを行ったということになります。最後に臼田で着陸したということは、事前にいろいろ検討して、バトンタッチをするタイミングがクリティカルなイベントに重ならないようにとかいろいろ考慮した結果、今回このようなタイミングになっています。

・ピンポイントタッチダウンは甲子園球場のマウンドに降り立つような難易度とあったが、あらためて昨日今日でその難易度をどのように感じられたか。
津田・非常に難しい、精度が厳格に要求される中での厳しい運用だという感想は今も変わりません。20キロの上空から甲子園くらいの広さの所を狙っているつもりだったのですが、ピンポイントタッチダウンではマウンドくらいを目指さなくてはいけなくなった。チャレンジではあるが無理をしたというつもりはございません。技術的なことをひとつひとつ詰めていった結果、そこにたどり着けるという道筋を得たから実施したものです。それがその通り行った、甲子園のマウンドに到達できたというのは、とても嬉しく思っています。これから解析して、マウンドのどこに到達したかは調べていきたいと思っています。

・その技術はなぜ実現できたのか。
津田・一つ挙げよと言われれば、ターゲットマーカーの存在、ターゲットマーカーという技術、これだと思っています。ターゲットマーカーを事前に去年の10月に地表に落としました。落とすとともにそのターゲットマーカー上空できちんとホバリングできるという技術までを去年中に確認できた。ひとたび人工物を何も判らない小惑星の上に置くことができれば、そこから先は我々のフィールドに持ち込める。このターゲットマーカーを起点に物事を考えることができる。その意味でプロジェクトにとってはターゲットマーカーをきちんと落とせた、それを追尾できたというのが、ターニングポイントだったと考えています。このターゲットマーカーを使う着陸方式というのは、「はやぶさ1号機」が生み出した技術で、その時考えている以上に、今ターゲットマーカーという存在があったからピンポイントタッチダウンが実現できた、この凄さというか発想の凄さを実感しているところです。これは世界に無い我々の発想から生まれた、我々の技術、日本の技術ですという風に言えると思います。

ライター林・2月6日の記者説明会で、心配されるポイントはどこかとお聞きしたときに、4つのチェックポイントそれぞれに、ちゃんと仕込んではいるけども、それを確実に通過できるか、探査機を信頼する気持ちと、技術者として本当に出来るか疑う気持ちの両方があって、当日はドキドキしながら管制室で見守っていると思うとおっしゃいました。今日、実際に管制室で探査機からのドップラデータを見守っている時、どんな心境でそのデータを見ていたか。
津田・技術者としては自分達が設計したもの、自分達が仕込んだものに対しての自信はあるのですが、一方で技術者の性と言いますか、自分がやったことに疑いも持ち続けるという意味で、その信号を見ながら、この瞬間にはこういう事が起きるはずだけど、こういう事は大丈夫だっけという心配がずっと頭の中を巡っていました。リアルタイムで信号がどんどん進行して、次の状態に移っていくと、また心配事がころっと変わるもので、その度に最後の最後まで自分の頭の中で心配が尽きないというか、ぐるぐる疑問とか自分達がやったことに対して疑いがあれば今できることは何だろうということをずっと考え続けてました。結果として何も無くいったことは本当に良かったと思います。不安は最後の最後まで尽きませんでした。

ライター林・想定より早く進んだが、それを見たときはどうか。
津田・4つのハードルを申し上げたが、その4つはかなり早い時間、想定の中でいちばん早くクリアできた。これは本当にありがたいことで、我々の中でも信号の進行具合を最速パターンといちばん遅いパターンを目の前で持ちながら比較してやっていたが、本当に最速パターンに綺麗に従って進行していきました。これは探査機の実力としては、十分これをやりきる能力があったのだなと、これ以上に精度を上げられるかは判りませんが、少なくとも狙った位置、直径6メートルの場所に着陸する能力が十分あったために順調にいった、そういう設計ができたんだという風に自信が持てました。

ライター林・今回の半径3mに着陸できた意義。人類の惑星探査、小天体探査に対する意味。
津田・よく判ったところにピンポイントタッチダウンするというミッションはいろんな国が計画しつつあり、特に月とか火星もそうかもしれませんが、小惑星という未知の天体に対して初めて出かけていって、そこに数メートルという精度で着陸できるというのは、探査の手段という意味では非常に大きなステップアップ、その可能性を広げられるものだと思っています。特に小惑星・小天体という意味では、単に科学的興味から、資源とか、地球に隕石として落ちてくる、危害をもたらすという意味で注目されている天体で、こういう所に行って詳しく調べる、小惑星のことがだんだんよく判ってきていますので、そうするともっと詳細なこと、ここの場所のこういうものが調べたいのだという状況が、これからもっと増えていくと思います。そこに我々は、既にそういう技術がありますと言える状況が作れたと思っています。将来の宇宙探査の可能性を広げていくという意味で大きな一歩、これを世界に出していける技術だと思っています。

ライター林・初代「はやぶさ」から関わってこられて、探査の醍醐味を難しさも含めて。
津田・本当に面白い。誰も行ったことのない所に行きます。行ってそこに手を伸ばして、そこの物質を手にとって、ここから先は地球に持ち帰るという所まで含めて、自分の目であり手を持った、非常に長い手、非常に遠い目を持ったのと同じ事なんだと思います。それで誰も行ったこと無いところで初めてのことをやる。それによって我々の知見が増えていく、知識が増えていく、英知が増えていく、こういう事に自分自身も楽しいと思いますし、それが皆さんに興味をもっていただけて、すぐ近い将来ではないですけども、きっと遠い将来に何らかの形で人類に貢献しているんだという風に思えるという、そういうアクティビティだと思います。こういう事に携われていることで本当に幸せですし、この魅力をどんどん伝えていきたいと思いますし、自分自身は楽しくてしょうがないです。

以上です。


No.2268 :小惑星探査機「はやぶさ2」の第1回タッチダウン運用 ●添付画像ファイル
投稿日 2019年4月3日(水)12時52分 投稿者 柴田孔明

 2019年2月22日、小惑星探査機「はやぶさ2」の第1回タッチダウン運用が行われ、相模原キャンパスで記者説明と記者会見が行われました。こちらは前半のブリーフィングと速報会見です。
(※一部敬称を省略させていただきます。また一部内容を省略しています)

・午前6時からの、小惑星探査機「はやぶさ2」スポークスパーソンによるブリーフィング。

・登壇者
JAXA 宇宙科学研究所
 研究総主幹 久保田 孝 (宇宙科学研究所宇宙機応用工学研究系 教授)
JAXA 宇宙科学研究所 「はやぶさ2」プロジェクトチーム
 ミッションマネージャ 吉川 真 (宇宙科学研究所宇宙機応用工学研究系 准教授)

・探査機の状況と予定について(久保田)
 昨日Gate1チェックを2月21日12時36分にGoの判断を行いました。既にお知らせしていますが、当初よりも約5時間遅れました。これの理由としまして、Gate1のチェックの中で、降下準備プログラムというものがありまして、それを探査機上で走らせたところ、位置の情報が想定していたものと違っていたということで、直ちに状況確認を行いました。はやぶさ2探査機自体は特に問題無く正常であることを確認して、なぜ位置情報が違っていたという事を調べたところ、動作プログラムのタイミングの影響で位置情報が違っていたということで、その後タイミングの調整を行いました。地上訓練ではGate1チェックで何かあった時には軌道の再設定とかいろいろなチェックをするのに約5時間ほどかかるということで、5時間遅らせることに決めまして、その間に再チェック、他に問題が無いかも含めて5時間かかったという次第であります。タッチダウンの時刻は、これは変更できませんので、秒速40センチで降りるところを秒速90センチで降下を開始して、予定の軌道に追いつこうということを行いました。これも地上の訓練で秒速1m/sでも降りる訓練もしていましたので、そこは問題無いと思って進めた次第です。途中で予定通り追いつきまして、今は予定の軌道で予定の時刻にタッチダウンするように進めております。
 Web等でもお知らせしましたが、降下開始時間は日本時間で機上の2月21日の13時13分です。地上で確認したのは19分後の13時32分になります。この噴射は時間がかかりますので、秒速センチに達したのが13時15分になりますので、Web上で15分と言ったのは噴射が終わった時刻です。開始したのが13時13分でございます。それから高度10kmを通過したのが地上の日本時間で昨日の16時37分になる次第です。それとGate2のチェック、これが減速をしまして秒速10センチにする所が高度約5キロメートル、これは計画通りでございまして、昨日の日本時間19時10分となっております。
 それから今朝早朝ですけども、高度約1.5キロメートルに下がったところが今朝3時30分。このうち一部は速報値でして、正式な時刻は11時の記者会見で発表します。その後、もう始まっていますけどもGate3のチェックを今しているところで、Go/Nogo判断を今開始したところで、吉川ミッションマネージャが管制室で確認しておりますので、確認が終わり次第こちらに来て報告する予定でございます。それ以降は一昨日記者説明会でご案内した通り、時刻の変更は今のところございませんので、7時27分頃にアンテナ切り替え、タッチダウンの予定時刻は地上の日本時間で午前8時25分、機上で8時6分というのも変わりはございません。それ以降、上昇確認、アンテナ切り替え、探査機の確認という所は今までと変わりなく行きますが、この辺の時刻はずれることもありますので、あらかじめご了承していただければと。
 それから今朝5時ですけども、はやぶさ2チームはブリーフィングを行いまして、各担当の点呼のあとに各機器の状態を確認しました。全て正常に動作していることを確認した次第です。それからプロジェクトマネージャからひと言ございまして、Gate3というのが非常に重要な確認になりますので、入念にチェックしてくださいと、各機器担当にアナウンスしています。それ以降は自律モードに入りますので、探査機自身で全て行いますので、探査機にお任せすると、プロマネからコメントがありました。最後にプロマネから、十分準備してきたので、平常心でいつも通りやりましょうという声を皆さんにかけて、いまGate3のチェックを進めている、そういう次第であります。
(※タッチダウンの手順を動画で説明)
 高度45mから8.5mに降りてきて、緑がLIDAR、赤がLRFのデータでございます。光っているのがフラッシュで、これでターゲットマーカーをトラッキングしながら降りていって、相対的に速度をキャンセルする。ターゲットマーカーを画像の真ん中に捉え、小惑星上空8.5mをホバリングします。
 その後、探査機を地形に合わせて姿勢を変えます。これがだいたい10度から15度くらい傾ける予定です。目標となる着陸地点に向けて横に移動して、10度くらいヒップアップして降下を開始します。
 (サンプラーホーンに向かう)赤い線はレーザーレンジファインダー(LRF)のS2で、常にサンプラーホーンのある特定の位置を狙っています。この距離が変わるか、あるいは、これはターゲットがついておりまして、明るさが変わるか、このどちらかで弾丸を撃って、プロジェクタイルを発射して直ちに浮上する、そういうシーケンスで進む予定です。このレーザーレンジファインダー以外にも、姿勢の変動ですとか加速度もトリガにするということですけども、それは安全を見てということで、LRFのS2が最初にタッチダウンを検出すると、実験等ではそういう結果が得られている。最大でも0.5秒か0.6秒で反応しますので、滞在時間は数秒くらいかなと思っていますけども、その間にサンプルを回収する予定でございます。

・質疑応答
時事通信・GO/NOGO判断をしてからコマンドを打つまでの時間は短いのか。
久保田・実際のやり方としては、地上からコマンドを打つと19分後に届きますので、あらかじめタイムラインを仕込んでおいて、13時13分に機上で吹くコマンドにしています。判断があったときに、もしNOGOになったときはタイムラインに仕込んでいるものをキャンセルできるように、20分前くらいには用意ができるようにしている。12時36分にGO判断をした後に、降下開始が13時32分と間が開いているのはそういう意味です。NOGOになった時は直ちに13時13分のジェットを吹くコマンドをキャンセルする、そういうやり方をしています。
 タイムラグがありますのでタイムラインで動くようになっています。Gate3でNOGOの判断があった時には、シーケンスを止めるコマンドを打って、高度500mで判断していますから、140mぐらいにNOGOコマンドが届いて直ちにやめて戻ってくる、そういうやり方になっています。

日刊工業新聞・昨日の開始遅れで、到着時刻が変わらないのは何故か。40 cm/sから90 cm/sに簡単に変えられるようだが、最初に40 cm/sにしていた理由は何か。
久保田・タッチダウン時刻が変えられない理由は、タッチダウンする場所が決まっていて、太陽を背にして近づきますので、その時刻をずらすと、着陸予定地が裏側にいってしまう。惑星探査の着陸の宿命だが、タッチダウン時刻は変えられない。5時間遅く始めましたので、その時刻にタッチダウンするために速度を上げた。そのくらいの速度に上げても出来ると、事前にいろいろな検討の中でやってきていて問題無い。なせ40 cm/sにしていたかは、速度を大きくすると若干燃料を使うので、時間をかけていこうという作戦をとっていた。倍や3倍でも、燃料は使うが大きな問題ではない。今後のミッションに影響が無いのと、そういった訓練と準備もしてきたので比較的スムーズにできた。

・Gate1の判断が遅れた理由に、データにずれがあったとのことだが、具体的にどういったものか。
久保田・降下準備プログラムはいろんなものを動作させるものがありまして、タッチダウンにあわせて調整をしていた。その調整の関係で位置情報を出すところが若干ずれたりしていて、想定していた値と違っていましたので、確認したところタイミングが良くなかったので、そのタイミングを調整した。プログラムの中に実行するものがあって、コマンド列みたいなものですけども、それの間隔が少し大きすぎたり小さすぎたりということがあったので、その影響で位置情報が違っていたとわかりましたので、そこを直したという事です。

・実際にはずれていなかったのか。
久保田・探査機自体の情報はLIDARなどのナビゲーションで判っていたデータと、実際に降下開始するときのスタート位置情報を読み込むところの値が少しずれていた。それはいろいろ実行する中でずれたと見ていますので、タイミングの問題だと思っています。

・同様の事象はこれまでの降下運用では無かったのか。
久保田・はい。リハーサルでは無かった。タイミングを少し変えたところもあるので、その影響かなと思っています。

・確認に5時間かけたのは、どういった事を検証していたのか。
久保田・訓練でも行っていたが、Gateチェックで何かあったときに、その原因にもよるが、いちばん大きいのは降下のスタート時刻が変わると、速度を速めるということで、距離と通過時刻が変わってきますので、降下軌道を変更しなければならない。軌道を変更することによって、いろんなイベントが仕込まれていたので、それを作ることと、作ったものを確認すること、確認したものを探査機に片道20分かけて送って、間違いなく届いたことを確認するのにさらに40分いる。5時間が長いと思われるかもしれないが、何が起こったかの確認後に、新しい軌道を作って、その軌道が正しいかを確認するのと、撮像などいろいろなタイミングを変えなければいけないので、それらを作り終えた後に、そのプログラムを送りなおして、さらにそれが軌道上にちゃんと届いたことを確認を行うと、もちろんマージンはあるが、地上訓練で5時間くらいかかったことがありましたので、5時間をみた。もちろん十分マージンはもっている。訓練してきたので、スムーズに5時間でできたと考えています。

東京とびもの学会・太陽を背にして着陸するのは、ソーラーパネルに日をあてるということか。
久保田・ひとつはその通り。太陽を背にするのは、はやぶさ2の電力の確保。もうひとつは軌道の関係で、太陽の方向の方に地球を持っていっておりまして、地球との通信リンクも確保する。電力と通信を確保する意味で、太陽を背にして近づくというやり方をしています。

東京とびもの学会・プログラムにバグがあったのか。
久保田・プログラム自体はリハーサル時と変えていないが、実行するコマンド列があって、その間隔を変えたところ、いろいろな条件が重なると位置情報がずれるようになった。バグというよりもタイミングの作り方だった。


・「はやぶさ2」の現状についての報告(吉川) 6時20分頃
 ついさきほど、日本時間で6時2分からGate3の確認が始まりました。これは予定通りです。Gate3というのはタッチダウンを行うか行わないかの最終判断を行うところでして、確認に12分くらいかかって、6時14分に結果が出まして、判断はGOということになりました。この確認といいますのは、探査機の各システムの状況、及び地上系(アンテナの状況等)を全て確認して、特に問題無しということです。今回いちばん気になるところは姿勢系ですが、LIDARとLRFともに問題無しという報告が出て、全て気になる点は無いということで、Go判断を最終的には津田プロジェクトマネージャが下したことになります。津田の方からは、ここからは探査機に任せるしかないということで、タッチダウンをして上昇して、ふたたび電波が戻って来るまでは探査機任せということになります。
(※Q:コマンドは送ったのか)
 最終的なコマンドはまだ送っていなくて、6時32分ぐらいになる予定です。このコマンドを送りますと本当にあとは探査機任せという事になります。現状は以上です。

・質疑応答
フリー大塚・位置情報のずれは、具体的にはどれくらいか。
久保田・ひと桁違っていました。

フリー大塚・1m/sというのは地上訓練でやったことがあると聞いているが、実際に90 cm/sで降下するのは今回が初めてか。
久保田・実際にその速度でやった訳ではなく、コマンドを作ってシミュレータ上で確認するという、運用者の訓練をした。シミュレーターを使って訓練をして、探査機がそれくらいの速度で動いても、ちゃんとタッチダウンに間に合うという訓練をしてきたものです。

フリー大塚・今までいちばん速い速度はどれくらいか。やはり40 cm/sか。
久保田・今数値は無いが、それに近いことは吹いたりはありましたので、特にエンジンで問題という事はありませんし、地上でも十分試験をしてきたものです。

日本テレビ・GO/NOGO判断で気になるところは姿勢系とおっしゃったのは、何か懸念材料があったのか。
吉川・気になるの意味は、いちばん重要な装置だという意味で、特に問題がある訳ではありません。
久保田・姿勢制御系が要なので、特に注意したということで、特に気になるという訳ではないです。リハーサルのときLIDARの引き継ぎでちょっとあったので、それが問題無いことを十分確認したということを話した次第です。

日本テレビ・このタイミングでのお気持ち。
吉川・遂にここまできたかということで、「はやぶさ」の同様の時は予定通りできなかったという事もありますから、今度こそはこちらで計画した通りに探査機がぜひ動いて欲しいと思っています。
久保田・いよいよ来たかな。我々3人は「はやぶさ」初号機のときも関わったメンバーで、今は若い世代を中心にやっていただいてますが、本日の顔色を見ても自信満々に、いろんな経験を積んできたなと、これから何が起こるか判りませんけども、みんな力を合わせてしっかりやってくれているかな。津田プロマネの指揮のもとに粛々と皆やっていますので、我々は安心してタッチダウンを迎えられるのではないかと思っております。やれることはやりましたので、あとは元気よく戻って来るのを待っているという、そういう心境になります。

NHK・今の管制室の様子はどうなっているか。
吉川・今日はいちばん重要な運用ですので、管制室は非常に人数が多くて40〜50人が部屋に入っています。管制室だけではなくて運用室も別にあって、そこにも沢山つめて探査機を監視している状況です。いちばん緊張する運用ではあるのですが、これまでの度重なる降下運用ですとか、それ以前の訓練もありますので、殆ど訓練通り淡々と作業が進んでいるという状況です。

NHK・40〜50人というのは、いちばん多いのか。
吉川・はい、今朝の運用がいちばん多い。

NHK・事務的な質問だが、うまくいった場合、どういったツイートあるいはリリースがされるか。
久保田・高度45mを切っていきますとアンテナが地球を向きませんので、ドップラーモニタで速度を見ています。近づいていって、予定している時刻から速度が変わって浮上するところをまずモニターするしかないのですけども、その辺で上昇しましたと言えれば第一報かなと。そのあとアンテナが切り替わってハイゲインアンテナになるとデータが出ますので、そこで切り替わりましたと言えればと思います。その次にデータが出始めて、これにはちょっと時間がかかりますけども、まず探査機が正常であるかどうか。はやぶさの時はセーフホールドモードで入ってきたこともありますので、そうするとデータが来るのがさらに先になってしまう。探査機の状態を確認して、どうなっているかをお話できれば。これは予定時刻より時間がかかるかもしれない。そのあとにシーケンスがちゃんと予定通り進んだかどうかを確認することが出てきます。シーケンスが全て行きますと、基本的には小惑星の表面にタッチして戻ってきたということで、小惑星へのタッチダウンができたという風に思っています。一番気になるのは弾丸を撃ったかどうかというところも、コマンドが出ただけではなくて、そのコマンドがプログラムの中でちゃんと最後まで通ったというアンサーが返ったということは、できるだけ早く確認したいと思っています。もう一つはカメラで接近のときの画像がとれるが、それはたぶん時間がかかって今日中に降ろせるかわかりませんが、それはもう一つの状況証拠になるかなと。あと火工品近くの温度の変化があるかも見たいとは思っています。まず今日判るのは探査機が正常かどうか、シーケンスが全て行ったかどうか、それから弾丸を撃ったコマンドが全て最後の所まで通ってアンサーが返ってきたかどうかまで言えたら、ある意味タッチダウンとしてはうまくいったかなと思って、そこまでを11時までにお話できればと思っています。あとは探査機の状態次第ですので、いつごろ話せるかも含めて随時お話していきたいと思います。

NHK・全てのシーケンスが通った話と、弾丸発射のところに時間差はあるか。
久保田・若干あるかもしれませんし、一緒かもしれません。

NVS・今回の着陸に関するプログラムをはやぶさ2に送った時間はいつか。
久保田・最終的な全体のプログラムを一昨日の2月20日に臼田で運用している時に設定プログラムを送っています。送ったプログラムで昨日準備プログラムを動かしたところ、位置情報が違っていたので、その部分だけですけどももう一度送って直したのが昨日の朝です。

NVS・プログラムはMASCOTの分離や、リハーサルで数メートルまで降下したときと、どれくらいの量が違うのか。
久保田・定量的には言えませんけども、MASCOTのときは50mくらい、ターゲットマーカーを落としたときは12mくらい。ターゲットマーカーを落としたときとタッチダウンでは殆ど変わらない。データ量はそんなに変わらない。最後のS2で検出するところは使わないようにしていますけども、基本的にプログラムのデータ量自体は、ターゲットマーカーを落としたときと大きく変わらない。

朝日新聞・Gate前チェックで遅れた時に、プロマネからメンバーにどんな声がかけられたのか。
久保田・まずいちばん心配なのが探査機自体の状況ですので、各機器担当に異常が無いかどうかチェックしてくださいというのがまず1つです。位置情報に関するところなので、姿勢軌道制御のグループになぜそうなっているのかの確認を指示して、いろんな検討が始まったということです。各機器から状況を聞いて探査機に問題無いという情報を集めたのと、プログラムのタイミングではないかということで、その辺を詳細にするということで。その間、遅らせるのか、あるいは日にちをあらためるのかの議論はプロマネ以下でしていて、状況がわかったところで、これは間に合いそうだという事で、訓練でやった5時間後にやりましょう、そのための軌道を作り直してくださいという指示が出て、…という一連の流れを的確にてきぱきと指示をしておりました。

朝日新聞・その他にモチベーションを上げるために声をかけたりしたか。
久保田・位置情報が違ったのでどきどきした方もいらっしゃいますけども、冷静にということで。プロマネがいちばん冷静でした。冷静に時間は十分あるからということで。焦って二次災害が起こるのがいちばん良くないので冷静にということで。本人はどきどきしていたかもしれませんが、見た感じは冷静でした。

共同通信・Gate4の8時25分頃から探査機が上昇確認開始で、これまでの説明でだいたい30分かけてという話があったが、どこまで確認できるのか。
久保田・各担当者が確認を始めて正常かどうかということで、皆さんいろんな目で見ますのでそこで時間がかかる。シーケンスを担当している方がシーケンスが通ったかを並行してやるが、30分くらいで出てくればということで、それ以上は状況によります。

共同通信・スムーズにいった場合、上に昇っているとか、アンテナが切り替わるとか、シーケンスが通っているかというところまでが30分プラスアルファで確認できそうということか。
久保田・アンテナ切り替えが8時44分だが、すぐデータが来る訳ではなく、まず捕捉してデータが来始めるのに時間がかかる。データが来てから各機器のいろんな項目のチェックを始めますのでまた時間がかかって、だいたい30分なのかなと思っています。機器によってはもっと慎重に見ることもあるかもしれません。弾丸を撃ったかどうかというところは、なかなか難しいかもしれないが、できるだけアンサーは早く見るという事は行います。データはある間隔で来るが、ひとつのデータではなくて、いくつかを見てからとなりますので、少し時間がかかるかと思います。

共同通信・5時間遅れだったが、最大のバッファはどれくらいあったのか。
久保田・6時間だったらどうかというご質問かと思いますけども、訓練でやってきたのはだいたい5時間で、原因と対処法も含めてです。それ以上の場合は安全を見て延ばした可能性があります。5時間以内なら十分できると訓練でやってきたので、その範囲でできることであればやった。もしもっと時間がかかったら少し微妙で、8時間だとたぶん延ばしたと思います。

(※ここで会見場の音響システムに異常が発生し聞き取りにくくなっています。そのため内容が異なっている可能性があります。また最後はタッチダウンのライブ放送の割り込みがあり、質疑応答が途中で終了しています)

東京新聞・位置情報が違っていたのは、「はやぶさ2」のプログラムにバグなどの異常かあったためか。
久保田・探査機のコンピュータは正常です。プログラムも今まで使っていたものと同じ。バグがあった訳ではないが、その中で実行するコマンド列の間隔をずらしたことが影響したと思っている。プログラムは問題無いが、入れ込む時間のタイミングでそういう事が起こったと理解できた。はやぶさ2に搭載したコンピュータは正しく動いている。プログラムもバグではないが、作るときの組み込みのタイミングがよろしくないところがあって、そういった値が出て来たと解釈した。そのタイミングを調整して正しい値が出るようにした。動作タイミングが影響して想定外の値が出たので、動作タイミングのところを修正した。不具合ではなく、実行す時刻のタイミングがずれたのが影響した。

東京新聞・タッチダウンに影響するか。
久保田・スタート地から近づいていくと、画像やいろんなセンサで修正をかけていくので特に影響はないです。ただスタート地点より少し下がった位置で始まるとタイミングがずれていくので、もういちど設定し直した。スタート地点の位置情報が違っていたので、航法誤差には影響は無いです。(※放送によりここで中断)

・タッチダウン放送にて(はやぶさ2プロジェクトチーム 前プロジェクトマネージャ 國中 均)
 『はやぶさ2の前プロジェクトマネージャの國中です。現在のはやぶさ2の状況を皆様にお知らせします。Gate3チェックオールグリーン、RCS充填120%(※)、AOCUパラメータ登録完了、LIDAR、LRF、ONCカメラパワーオン、プロジェクタイルセーフティ解除、自動着陸シーケンスは既に開始されました。高度300メーターに到達、総員耐ショック(※)、耐閃光防御(※)をとれ。これよりはやぶさ2は着陸を開始します。以上です』
 (※注意:数値や指示は冗談を含むようです・笑)


・9時15分からの「はやぶさ2」タッチダウン速報会見
・登壇者
JAXA 宇宙科学研究所
 研究総主幹 久保田 孝 (宇宙科学研究所宇宙機応用工学研究系 教授)
JAXA 宇宙科学研究所 「はやぶさ2」プロジェクトチーム
 ミッションマネージャ 吉川 真 (宇宙科学研究所宇宙機応用工学研究系 准教授)


・状況について(久保田)
 日本時間の8時42分に「はやぶさ2」探査機が正常であること、もうひとつ、タッチダウンのシーケンスが全て正常に動作したことを確認しました。これをもって「はやぶさ2」は小惑星リュウグウへのタッチダウンに成功したと発表させていただきました。弾丸につきましては発射コマンドが出ていることも確認済みでございます。実際に発射したかどうかは今確認中でございますので、わかり次第ご報告させていただきます。

・シーケンスの詳細について(吉川)
 私の方からタッチダウン前後の情報をお話し致します。これはあくまで速報値となります。まず探査機の方は順調に秒速10センチで降下していました。その降下が終わってホバリングに移行したのが日本時間の7時26分になります。恐らくこの時点で高度45mに達してホバリングが始まった。時刻はあくまで我々の確認した地上の時間ですので、小惑星では19分前になります。高度45mでまずはターゲットマーカーを捕捉して追尾し、そういった動作を順調にやっておりまして、45mから8.5mに降下し、しばらくホバリングをして、タッチダウンのため最終降下を開始した時間が7時46分、タッチダウンの時刻が7時48分という事になります。さきほどの45mから8.5mに降りる時間は、複雑な操作があり正確な時刻は調査中となります。タッチダウン後すぐに上昇した。上昇のスピードは、斜めの方向に行っている可能性もあって調査しているが、秒速55センチということになります。そのあとテレメトリが確認できた、つまりハイゲインアンテナに切り替わった時刻が速報値では8時9分になります。8時9分から探査機の状況を確認しまして、さきほど久保田が言いましたように8時42分に最終的に確認ができた、そういうシーケンスになります。

・質疑応答
時事通信・歴史的な時間だが、機上時間は単純に19分前の7時29分という理解で良いか。
吉川・その通りです。伝搬時間が19分ですので、日本時間から19分を引くと機上時間になります。

時事通信・着地した場所は当初の6mの範囲内に降りたと考えられるのか。
久保田・これについては今後画像を降ろしたり、詳細を詰めたりすることになりますけども、最終降下フェーズのときに、レーザーレンジファインダーのデータで仮想的な地形をみて照合をかけていますので、ほぼその中に入ったと考えています。詳細は他のデータもあわせて、どの辺にタッチダウンしたか解析したいと思います。

時事通信・目標地点に降りたとみられる、ということか。
久保田・それでよろしいと思います。

日本テレビ・今の感想をお願いします。
吉川・まずは本当にほっとしました。タッチダウンの瞬間まで非常に長かった。ドップラーレーダーをずっと眺めていたが、時間的にはせいぜい30分弱だと思うのですが、そのタッチダウンが終わって上昇する瞬間まで非常に長かった。今回非常に順調で、予定より早くシーケンスが進んで、トラブルも無く最終的に確認できた。本当に良かったと思います。
久保田・スタートが5時間遅れましたが、なんとかリカバリーできて、高度500mから自律で進んでいって、その先高度45m以下は地球とのリンクを外してドップラーモニターというもので速度しか見れない。その速度をはやぶさ2チームはずっと見ていて、予定通りの行動をしているのを確認していました。幸いにも、たぶんターゲットマーカー上空に到達がうまくいったのと、姿勢制御も予定より早く収束したことで、ノミナルで考えた時間よりかなり早くなったということが、計画通り全て順調にいったことを示していると思います。ひと言で言うと、完璧なミッションができた、完璧な運用ができたということで、私もはやぶさ2チームも見事にやったと思っています。思い起こせばはやぶさのときにはいろいろトラブルもあったのですけども、今回は第1回のタッチダウンにして全て完璧にこなしたと思っています。見事なのでこれ以上何も言うことはできないと思います。

日本テレビ・最初の子はトラブルがあって心配だったが、次の子はトラブルが無くてむしろ心配もあったと思うが、今回の子にどんな言葉をかけてあげたいか。
吉川・我々のメンバーは親しみをこめて「はや2くん」と呼んでいてマスコットキャラクターみたいなものも作っていますけども、本当に「はや2くん」よくやってくれたと。遥か3.4億キロの彼方でひとりぼっちなんですけども、きちんと複雑な、それも正確なミッションを完璧にこなしてくれてありがとうと言いたいです。

日本テレビ・テレメトリがかえってきた瞬間は成功とは言えないのか。
久保田・8時9分からハイゲインアンテナからデータが来たところの事ですが、まず我々がやることは探査機が正常であるかということで、画面を見て各機器が正常であることをまず確認しましたので、正常に戻った事をまず確認したということです。その次に行ったのが、タッチダウンシーケンスが全て順調にいったのかを確認して、それで順調にいった確認をしたのですが、その前のドップラモニタで予定通りの行動を完璧にしたので、もうそこで拍手が出ちゃったところです。戻ってきて電波が来ているということは、探査機は正常に動いていると、ただし何か他に不具合がないかをいろいろ見るために8時9分以降のデータで再度確認したことと、実際にタッチダウンして動いたかはテレメトリを見ないとわからないので再確認したということで、動き自体はドップラモニタで拍手が出た瞬間。拍手が2回出たと思いますけども、2回目はプロマネが全部の情報を見て再浮上したと宣言したのでもういちど拍手が出た。皆さんほっとしたのは浮上したこと、8時10分には探査機の正常を確認して、かつシーケンスが全部いったので、タッチダウンがうまくいったのだろうということで、それの全部のチェックを終えて8時42分に宣言をしたという、そういう流れになります。

日本テレビ・8時9分は探査機の無事を確認したということか。
久保田・そうです。無事を確認して、かつシーケンスが全て通った、計画通りに進んだというのを確認したのが8時10分以降に行ったことです。

共同通信・タッチダウンの予定時刻が40分ほど早かった。これはひとつひとつの項目にかなりバッファを設けていたが、それが全て素早くクリア出来たので、トータルで早くなったという理解で良いか。
久保田・実際これは時刻指定で動くものではなくて、探査機自身が自律モードで地形を見ながら、あるいはターゲットマーカーを見ながら動きますので、時間はなかなか読めないのです。当初、予定時刻と言っていたのは、ノミナルということでマージンも含めて真ん中の値を見ていました。ですから30分前後するというのはそういう意味でしたので、最速ですともっと早くとは我々も思っていたのですが、全てが本当に早く早く予定の通り動いていたので、ドップラモニタを見ているだけで探査機の動きが頭に浮かんで、シーケンスがどんどん行くというのも頭に描きながらやっていましたので、本当に完璧に動いたと思います。そういう面では当初の最速の時間でミッションが達成できた、これは凄いなと思いました。

共同通信・プロジェクタイルの発射確認は後日だと思うが、今回は完璧なシーケンスということで試料がとれていることはかなり期待して良いか。
久保田・試料がとれたかどうかは玉手箱なので、地球に持って帰ってくるまではわからないですけども、これからいろんなデータなりを見てどうなのかを解析したいと思うが、コマンドが出たということと、表面にタッチしたのは事実ですので、何らかのものがとれているのではないかと思います。

読売新聞・念のため確認したいが、7時46分はあくまで確認であって、現実にタッチダウンしたのは7時29〜30分頃でいいのか。
吉川・地上で見ていてドップラーの速度データが、降下方向から上昇方向に変わった時刻が日本時間で7時48分ということになるので、小惑星の時刻で言うと19分前の7時29分にタッチしたということでいいと思います。

読売新聞・48分は降下から上昇に切り替わったことが地上で判った時間で、実際にはやぶさ2が降りている時間は7時29分か。
吉川・その通りです。

NHK・はやぶさ2はまだミッションが残っているが、どんな点を活かしていきたいか、岩石採取が期待できるとの話だったが、それはサイエンスにとってどんな意義があるのか。
久保田・今回最初のタッチダウンということで慎重慎重にやりましたけども、今までの訓練・リハーサルのおかげで完璧にシーケンスをこなしたと思います。まだ確定ではないけども、6mという非常に狭い領域にピンポイントで着陸できたのは世界で初めてのことではないかと思っています。今後インパクタを表面に降ろして人工クレーターを作ることと、そこにサンプルを採りに行くということで、これも狙ったところはピンポイントになりますけども、この経験が非常に活かされると思っています。ただしインパクタで作るクレーターがどういう状況なのか、降りられる場所なのかわかりませんので、今後慎重にしなければいけませんけども、今回のピンポイント着陸というのは、我々にとって大きな自信になります。天体は違いますけども、月着陸もピンポイント着陸を考えていまして、重力が違うので必ずしも全く同じやり方ではできないと思いますけども、この経験が月着陸実験ミッション(SLIM)にも活かされると思いますし、その先にMMXという火星衛星フォボスの探査が計画されていまして、これもサンプルリターンをする予定で、もちろん重力が少し違う訳ですけども活かせるということで、天体への着陸サンプリング、それから狙ったところでのサンプル採取という技術の幕開けといいますか、それが実証できたというのは、我々にとって大きな自信ですし、次にぜひ活かしたいと思っています。
吉川・サイエンスの側面ですが、実際には地球にカプセルが戻ってきて、中を開けてサンプルがあるということを確認しないと何とも言えないのですが、とりあえず今回のミッションでタッチダウンに成功していますので、今回は弾丸も出ただろう、これは正式な確認をこれからやりますけども、弾丸が出たとすれば、はやぶさの時よりもはるかに多い量のサンプルがとれたはずです。はやぶさの時には全部合わせても確か1ミリグラムもいかない量のサンプルしかとれなかった訳ですけども、今回はそれをはるかに上回るサンプルがとれるはずで、そうしますと惑星科学における物質分析ではかなり飛躍的な発展、新しいことが判ってくるのではないかと期待しています。事実、今日はタッチダウンなので本当はサンプルの分析の人は関係無いですけども、サンプルを分析する人が立ち会っているのですね。それも日本人だけでなくてアメリカから来ているくらい、非常に注目されています。今回本当に予定通りサンプリング出来たことは、今後の惑星科学にとって新しいスタート地点になったと考えています。

NVS・カプセルの中の採取室は3つにわかれているが、これの蓋を閉じる状況にするのはいつぐらいになるか。確実に撃ったことが判ってからになるのか。
吉川・蓋を閉めるのはまだ時刻を決めておりませんけども、今回上昇してホームポジションに戻る、そういった時点で蓋閉めを行うはずです。弾丸を撃ったと思うのですけども、撃った撃たないにかかわらず、いったん着陸して上昇したのは事実ですので、カプセルの1つの部屋を閉めて次の部屋に移る操作は行う予定です。

NVS・今の話は、たとえ弾丸を撃っていなくてもサンプラーホーンで地表を引っかけている可能性が高いので、何かしら入っていることが確率的に高いから閉めるということか。
吉川・それもありますし、はやぶさの時には弾丸を撃っていなくて2回タッチダウンしていますけども、2回とも極微量のサンプルは採れている。今回は表面まで降りて上昇したことは事実ですから、仮に今回新たにつけた爪が働かなかったとしてもサンプルが入っている可能性は高いと思います。今回、サンプラーホーンの先に爪をつけて、そこに微粒子が乗っていれば、上昇している途中で減速しますので、減速したときに微粒子が上昇してケースに入る可能性もありますので、より多くのサンプルが採れるのではないかと期待してます。

ライター・林・100m四方を最初想定されるところを、半径3mに精度高く、しかも完璧な成功を収めた要因は何であったかと考えられるか。
久保田・最初は100mということで、これは少しマージンを含めてということだったが、もともとインパクタで狙ったところにピンポイントタッチダウンをしようと考えていたので、高精度な着陸もしようと考えていた。今回小惑星リュウグウに行って、安全な平らなところがあまり無いと判って、そこから挑戦が始まって、そういう6mという狭いところに降りることができるようになったのは、ひとつはリハーサルを繰り返して運用者が熟練したことと、もうひとつはその間にいろんな写真を撮ってタッチダウン付近の詳細な地形をとることができたこと、もうひとつは練習の中ではやぶさ2探査機の挙動を十分に把握できたことだと思います。小惑星リュウグウという相手をよく知って、探査機自身の能力・精度を十分よくわかるということは己を知って、それで作戦を立てて、自らも運用者も熟練したことが全て揃って6mに出来たのだと思います。技術的にはターゲットマーカーのトラッキングですとかいろんな事とかあると思いますけども、小惑星表面がよく判って、狭いけれども安全な所を見つけられたことと、それから自分自身をよくわかったと。運用者自身もそれで訓練できて能力が高まったということが三つ重なって、今回のように完璧な運用が出来たと思って、それが成功の秘訣かなと思っています。

ライター林・次の考え方ですが、今回は非常に厳しく何かあったらアボートしなさいと教え込んでいたとプロマネもおっしゃっていたが、完璧な成功を収めたことで次のタッチダウンに対してアボートへの考え方がどうなるか、また次の着陸地に対して、今回半径3mで成功したことでもっと厳しい領域を狙っていくのか。
久保田・相手を知るということで、違う場所に行ったら相手を知らなければいけないし、条件も変わってくると思います。探査機の状態も今確認中ですけども、燃料を少し使いましたので状況も少し変わる。そういうことも考えて、何がいちばん確実安全でサンプリングできるかという事を考えて、もう一度挑戦すると思います。今回6mの中に入れたからといって、次はそう簡単では無いと皆思っていますので、できるだけ広い範囲を探して次に挑戦したいが、もしまた狭いところだったら知恵を絞って挑戦していく、そういうやり方ですから、そんなに楽観視はしていなくて、やはり慎重に、でもしっかりとやりたいというのは変わらないですね。ですが今回これがきちんと出来たということは凄い自信に繋がります。ですからそれを元に次のチャレンジをしていきたいと思っています。

ライター林・着陸地ということで、リュウグウ全体ではそれほど変わりは無いということですが、別の所の方がいいのか。
吉川・リモセン観測でサイエンスのデータを調べてみますと、リュウグウの場所によってそんなに大きな違いは無いと判っています。恐らく他の場所にタッチダウンしたとしても似たようなサンプルになる可能性はある。そうは言ってもサイエンスをやっている人にとっては、違う場所から採って比較するということは、見た目が同じでも分析したら中の成分が違う可能性もある訳ですから、科学者にとっては、ぜひ多数の箇所からサンプルが欲しいという事はあります。これは今後スケジュール的に、あるいは探査機の能力的に、本当に小さい所なら無理かもしれないという事もありますので、そういったことを総合的に考えて、今回のタッチダウンの状況を把握した上で、今後の運用を検討していきたいと思います。

ニッポン放送・当初の予定より早くタッチダウンができたが、これは平行移動が短くて済んだとか、思ったよりも目標の地点から近かったとか、そういった物理的な要因は考えられるのか。
久保田・詳細な分析は、これからいろんなデータを地上に降ろしてからになります。ドップラモニタで探査機の速度しか見れないですけども、ターゲットマーカーの上空に行くのが割と正面真下に行くことができましたので、ターゲットマーカーのトラッキングが早く済んで、高度を下げていったときもしっかりと捉えていて、姿勢変更もそんなに時間がかからず、全てが最低これぐらいかかるという時間でほぼ行けたので、かなり短縮できたと思っています。詳細はこれから解析したいと思いますけども、マージンを見ることなく、もうどんぴしゃりで、それぞれのシーケンスがいちばん短い時間でいったのではないかと思っています。

ニッポン放送・ターゲットマーカーが理想的な視野にあったという解釈で良いか。
久保田・そうですね。最初、高度を下げていってターゲットマーカーを見たときに、位置もそうだが相対速度が比較的大きいとそれを合わせるのに時間がかかるが、比較的相対速度も小さく上空に行けたのではないかなと推測しています。そういう意味では、ピンポイントタッチダウンのピンポイント制御がかなりうまくいったのではないか。それが短縮に繋がったと考えています。詳細はこれから解析したいと思います。

NHK・明明後日くらいまで、直近の作業を具体的に教えて下さい。また、写真などのリリースや会見などを直近で考えているか。
吉川・今後の運用ですが、今現在はタッチダウン直後のデータをどんどん集めて解析している。次にやることはホームポジションに戻ることなので、探査機の位置を把握して、どのようにエンジンを吹かせばホームポジションに戻るかという事をやります。それをやりなら、やはり今回も写真撮影もサイエンスのデータもとっているはずなので、そのデータをデータレコーダーから再生して地上にどんどん伝送することはやっていくはずです。いちばん注目されるのは画像がいつ来るかですが、これはまだわかりません。なるべく早く画像データを降ろしたいと思っています。今回、現時点でかなり早めにミッションが順調に出来たので、割と早い段階で画像もダウンリンクできるのではないかと思うのですが、今この時点でいつと言うことはできないという状況です。

NHK・半年取材してきたが、慎重に慎重にという言葉を皆さん使っていらっしゃった。今日実際に山場を迎えて5時間遅れで、しかもプログラムを書き換えて実施して、終わりよければすべてよしなんですが、これまでの皆さんの慎重との言葉と、今日のミッションのトライにギャップを感じた。今日のものは皆さんの慎重という定義の範囲に入ったのか、それとも若干ジャンプしたのか、その辺りはどういった感覚だったのか。
久保田・私は割と楽観主義者なので、以前お話したときには大胆かつ細心にと、難しいことはわかっていましたので、ただしそこでひるまずに、やはり積極的に果敢に挑戦するという意味で大胆に、だけど相手が非常に難しい天体なので、そこは細心の注意を払って。最初のタッチダウンまで時間がありますので、まず1回目は様子見でもいいし、とにかくトライしようと。そのかわり、何かあったときには戻って来るような、アボートと言ってましたけども、細心の注意を払って慎重に、相手をもっと良く知らなければいけないかもしれないので慎重にやった。とにかく探査機に何か大きな事故があってはいけないので慎重にやってきたが、慎重になるほど探査機とつきあってきましたので、そういう意味では信頼していて、はやぶさ2探査機よくやったなという感じでいます。何かちょっと起こってきたのは今までの経験ですので、みんな慎重に自分の持ち場をしっかり担当してやっているという意味では慎重なんですけども、あるときには大胆にチャレンジする。慎重すぎるとやはりなかなか出来ないものですが、そこはしっかりチャレンジしようと、その相反することが両方あった。ミッションマネージャは割と慎重慎重と言っていたが、私はやはり挑戦しましょうと、ただし挑戦するにあたっては、何かあったときには戻るという事も入れた慎重さを入れましょうという意味で使わせていただいた。今回、慎重ないろんなロジックを組んでいたが、そこが見事いったというのは、これはすごいの一言だと思います。
吉川・私は割と慎重と言っていたが、慎重ということと臆病は違うので、何が起こるかわからないのは事実ですから、今回タッチダウンをやるときに、いろんな想定を考えた上で、何か起こっても一応考えられる限りは、いろんなことをあらかじめリハーサルで経験しておく。これが今回非常にうまくいったのではないかと思っています。

NHK・3月4日に延ばすという議論はあったか。
久保田・最初の準備プログラムのところで、なんでそうなったか判らなくて時間がかかるとすると、修正に5時間くらいかかるので、タイムリミットはあったと思います。そういう面では3月4日はちらちらとは出ていたが、実際にやっている人達は今日やるんだということで一生懸命やっていましたから、一応バックアップの日はとっていましたけども、最後の最後でもし間に合わなければ次の週といこともあったと思います。惑星探査はみんなそうですが、いかに事前に準備・用意をしておくかということで、用意周到に準備をしておけばうまくいくんだというひとつの例ができたと思っています。

NHK・今日のイレギュラーな出来事も、これまでの準備、用意周到の範疇に入っていたということか。
久保田・はい。そういう事は起きてほしくないが、地上訓練でいろんな事を考えてきた中には入っていたということです。

産経新聞・着地点が実際どうだったのか。弾丸発射のコマンドは出たとのことだが、実際に発射したのか。実際入っているかは玉手箱だとおっしゃったが、どうやら入っていそうか。今現在の認識としては、それぞれどれくらいでわかるか。
久保田・まず弾丸を撃ったかどうかにつきましては、今調査しているところです。なるべく早く、今日中にわかればと思っています。時間も早く進みましたので。コマンドが出たのは、シーケンスが出ていますので確認しています。ですから発射コマンドが出たのは確実なんですね。あとは実際にハードウェア的に出たかどうかということで、今調べているのは、これは火工品で発射しますので、その周辺の温度が少し上がるのではないかということで、今テレメトリを下ろしながら調べているところなので、それが早ければ今日中に、少なくとも明日ですけども、いま皆さん一番の関心事だと思いますし、我々も関心事ですし、サイエンスはもっと関心事で採る量に関係してきますので、最優先で調べているところです。タッチダウン地点については残念ながら今は情報は持っていないのですが、シーケンスが思ったより早く予定より進んだということ、それからレーザーレンジファインダーはモニターでしか使っていなかったが、そこでもし違うところに行っているとすると、そこでアボートするはずだった。アボートせずに行ったということは、6mのどこに入ったかはわからないですけども、その中に入っているのはかなり高い確率ではないか。どこで採ったかというのは知りたいところなので、画像を下ろしてそれが判ればと思っています。採っているかどうかということの確認は、そういうセンサは実は持っていなくて、状況証拠なんですけども、吉川からありましたように、はやぶさの経験のように、小惑星の表面にタッチしていた訳ですから、何も採れないことは無いかなと、あとはどれぐらい採れたかなということかなと思っていますので、ゼロとは思っていませんが、やはり開けてみないとわからない。細工をして引っかけて採るというのもやっていますので、今までの画像からそんなに非常に硬い岩石ではないんじゃないかなと思っていますので、何か引っかけて採れた可能性は高くて、大きい欠片が採れたらいいかなと思っていますが、それは開けてみないとわからないので、そういう事を思っています。画像が下りてくるともうちょっとはっきりした事が言えると思いますので、その辺も判り次第情報を発していきたいと思います。

産経新聞・シーケンスが早く進んだということは、あらかじめ持っていた地形データと実際のデータが整合したので進んだということか。
久保田。そうだと思います。想定したものがどんどん予定通りに行って、実際にはもっと時間がかかるのではないかと思ってマージンをもってノミナルの時間を決めていたのですけども、マージンを殆ど使わずに思った通りに動いてくれたと考えています。

産経新聞・地形データと実際のデータが迷う余地がなく良く重なれば、凄く早く進むという感じか。
久保田・ドップラモニタを見ている感じではそういう動きをしていたと見ていますが、詳細はまだわかりません。思った通りのところに行けたのでスムーズに行ったとは考えています。

産経新聞・8時9分や8時10分というのはシーケンスが通ったというデータ、すなわち資料の探査機状況確認開始というところに当たるのか。そこで拍手が起きたのは、ぱっと出たデータで一通りシーケンスが通ったことが判ったためか。
久保田・ドップラモニタで見ているのは、予定時刻に浮上してきたということは、シーケンスもたぶん行っているのではと思っていましたし、上昇してドップラモニタで見られるということは電波が来ている。そういう意味では探査機がちゃんと発電して動いていると確認できていた。実際に探査機が全て正常かということは、テレメトリデータを見ないと判らないので、8時9分以降データが出始めたところで各担当者は自分の担当が正常かどうか一斉に探すわけですね。そこで割と早く判ったので、正常にいったと。もう一つはシーケンスを見ていた人が、シーケンスも最後まで行ったと確認したところで拍手が出ましたので、そこから本当に大丈夫なのかというのを詳細に見るのに少し時間をいただいて、8時42分に全ての情報が揃ったところでプロマネが成功宣言をしたということです。

月刊星ナビ・今回、探査機が表面にタッチしたという判断に至った根拠は何か。テレメトリを確認してLRFの高度の値が0mを示して、ちゃんとサンプラーホーンが接触して縮んだというのを見たということか。
久保田・そこまでのデータは今見ているところです。判断した根拠は、小惑星に向かって降下を開始して、浮上する方法がふたつあって、ひとつは表面にタッチしてシーケンスが動くと直ちに浮上する速度がだいたい秒速60センチだった。ところがアボートするときにはもっと速い速度でアボートするということで、その速度差から、予定の時刻に浮上したときに60 cm/s、さきほど55 cm/sと言いましたがこれは視点方向ですので、実際には60cm/sで吹いたと思いますが、視点方向で55 cm/sということは、これはアボートではなくて、表面にタッチしてシーケンスが動いて浮上したことであるというのがひとつ。もうひとつは、8時9分以降にシーケンスが動いたというところを全部チェックして、シーケンスが動く中には表面にタッチしてサンプラーホーンが変形しないと浮上しない。そういう意味では表面にタッチして変形したからシーケンスが動いた。そのふたつの状況から、これは間違いなく小惑星表面にタッチしたと確証を持っています。詳細データで、高度はどのくらいだったとか、どの辺に行ったというのは画像なり各データ、これはレーザーレンジファインダーなどいろんなデータがあります。残念ながらLIDARは本当に直近の高度は測れないので、LIDARの高度はできませんけども、それから探査機自身が持っているデータから高度がどれくらいかある程度は推定できますので、いろんな情報からもう一度精査はしますけども、ドップラと8時10分以降のテレメトリデータから、これは間違いなくタッチダウンしたと確証を持っています。

赤旗新聞・管制室が沸いた7時48分から8時42分の間に、管制室にどれくらいの人数のメンバーがいたのか。
久保田・聞かれると思ってざっと数えたのですが、スタートしたときはだいたい40人から50人くらい。メインイベントであったので、60人以上集まっていました。70人近くの方が見守っていた。ドップラモニタはひとつのスクリーンに出してましたので、みんなそれを見ていたのを、たぶん(放送に)映ったと思います。それから管制室の外にも見ている方がたくさんいまして、もちろんはやぶさ2の関係者ですけども、いらしたので、もう70〜80人になっていたかなと思います。

赤旗新聞・スタートとはどういう意味か。
久保田・今日の朝5時にブリーフィングをしたときには、各機器担当の方がチェックをするということで、それが40人くらい管制室の中に居ました。

赤旗新聞・次の課題で人工クレーターを作るが、リュウグウ表面の状況がわかってきた中で、どれくらいの直径のクレーターができると見積もっているか。
吉川・これは正確な見積もりは難しい。サイエンスのチームの人がいろいろ検討していますが、やはり当初から直径2〜3mではないかという見積もりがあって、それと大きく違うことは無いだろうという感じです。

赤旗新聞・当初はレゴリスと予想されていたと思うが、それが今度は岩石がいっぱいだが、それでもあまり変わらないのか。
吉川・岩石というか割とちいさい小石みたいなものが沢山あった。そういった意味で言うと大きな岩ではないので、砂じゃなくて岩石ではあるが、そんなにクレーターのサイズ的には変わらないだろうということです。

赤旗新聞・ターゲットマーカーの割と直上に来ることができたという話だが、ターゲットマーカーがまだ無いときの投下精度が良くなっているのではないか。今回の投下が約15メートルほど目標から外れていたと思うが、次はどれくらいまで縮められそうだという手応えがあるか。
吉川・まだそこの解析はこれからになると思います。実際に運用していた人の話ですと、今回の降下がいちばん精度良く出来たのではないかという感触で、そのため目標地点の直上に割とすんなり到達できたという事だと思うのですが、これは今後の降下運用に非常に重要なことですので、詳細に調べて、今回の降下精度がどれくらいだったのかを確認したいと思っています。

読売新聞・お二人は初代「はやぶさ」のプロジェクトに加わっていたが、今回初代「はやぶさ」の経験が生きたところがあったと思うが、どういった所が生きたか。
吉川・これは非常にたくさんあって、まず私の専門の方からいきますと、私自身は軌道が専門なのですが、軌道というのは探査機を打ち上げた後、「はやぶさ」や「はやぶさ2」がどこを飛行して、目的地のイトカワやリュウグウに行くかという軌道を正確に把握する意味で、非常に大きな進展があって、「はやぶさ」のときには殆ど使っていなかった新たな手法のDDORで非常に正確に、「はやぶさ」のときの軌道決定精度の二桁くらい良いくらいの精度で軌道を決めることができた。非常に地味なんですが、かなり進展しました。もちろん「はやぶさ」で起こったいろいろなトラブル、リアクションホイールが壊れたり、タッチダウンのあと燃料が漏れたり、通信が途絶えたり、あるいはイオンエンジンが壊れたりと、そういった技術的なトラブルがたくさんあった訳ですけども、それらのそれぞれのチームが非常に良く検討して改良したものを搭載してますので、今まで大きなトラブルは殆ど無かったのもそこから来ているのではないかと思っています。さらにサイエンスの方は、「はやぶさ」は4つの機器を積んでいたが、「はやぶさ」で初めて大きさが1キロもないような500メートル程度の天体のサイエンスをやった経験がありますので、その「はやぶさ」でやったサイエンスの経験を活かして、今回より多くの、そしてサイエンスのデータとしてより優れたデータをとるということも今回出来ていますので、そこら辺も「はやぶさ」の経験があってこそということになっています。
久保田・ご存じの通り「はやぶさ」でやった方式を継承しながら、できなかったところ、うまくいかなかったところをきちんと把握して改良していったというところが一番大きくて、これは技術の継承、経験の継承ができたのかなと。川口元プロマネも来て後輩にいろいろアドバイスしていましたし、実際に運用している人達、特に津田プロマネは「はやぶさ」の時にも運用に関わってきた。そういう実践での経験、それから技術の継承、なかなか今そういう継承が難しいですけども、惑星探査においてうまくできたかなと。だから時期というのも凄く大事かなと思っています。見たり聞いたりやってきたことがうまく繋がって、だけどそれだけでなく、うまくいかなかったところをみんなで知恵を絞って、工学も科学も一緒になって、JAXAも大学も企業の方も一緒になって、やはり難しいことをやるには一緒に知恵を絞らなくてはいけないので、そういう意味ではチームワークもうまくできて、「はやぶさ」のいいところが継承できて、新しいことも追加して、インパクタというまた新たな挑戦もする訳ですけども、そういうことが出来たのだなと、やはり技術の継承と経験の継承が大きかったかなと思います。
(※DDOR:Delta Differential One-way Range JAXAホームページより)

読売新聞・4ヶ月の検討がやはり大きく影響したと思うが、初代は3ヶ月の間に2回降りた、今回は1年半の探査期間があって、この余裕があったというのはどう思うか。
久保田・まさしくその通りで、「はやぶさ」の時には9月に到着して12月に出なくてはいけないと、3ヶ月くらいであらゆる事をやらなくてはいけなくて時間が短かったということがあります。そのためそれは非常に反省事項になっていて、今回のリュウグウへのミッションはできるだけ探査期間、到着してからの時間を持とうという事も考えた。それも過去の教訓が活かされたひとつだと思います。この4ヶ月というのは非常に、皆さんからいつやるんだという問い合わせもあり、やきもきしたと思いますが、4ヶ月というのは非常に貴重で、相手を知って自分を知る時間を十分とれたと思っています。

・続きます。


No.2267 :飛行中のイプシロンロケット4号機 ●添付画像ファイル
投稿日 2019年2月6日(水)03時17分 投稿者 柴田孔明

飛行中のイプシロンロケット4号機。
宮原の報道席より撮影。


No.2266 :打ち上げの様子 ●添付画像ファイル
投稿日 2019年2月6日(水)03時15分 投稿者 柴田孔明

イプシロンロケット4号機の打ち上げ。
リモートカメラによる撮影。


No.2265 :会見2部登壇者 ●添付画像ファイル
投稿日 2019年2月6日(水)03時11分 投稿者 柴田孔明

打ち上げ後経過記者会見2部登壇者


No.2264 :イプシロンロケット4号機打ち上げ後経過記者会見 ●添付画像ファイル
投稿日 2019年2月6日(水)03時10分 投稿者 柴田孔明

 革新的衛星技術実証1号機を搭載したイプシロンロケット4号機は、2019年1月18日9時50分20秒に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられ、7機の衛星分離に成功しました。
 同日午後、打ち上げ後経過記者会見が記者会見室で行われています。
(※一部敬称を省略させていただきます)

・登壇者
文部科学省 研究開発局長 佐伯 浩治
宇宙航空研究開発機構 理事長 山川 宏

・脇席
文部科学省 研究開発局 宇宙開発利用課 企画官 有林 浩二

・打ち上げ結果報告(山川)
 本日9時50分20秒に、革新的衛星技術実証1号機を搭載いたしましたイプシロンロケット4号機を打ち上げました。
 今回は革新的衛星技術実証の第1号機として200kg級小型実証衛星RAPIS−1、そして慶應義塾大学、東北大学、株式会社ALEによって開発されました60kg級超小型衛星、および東京工業大学、九州工業大学、日本大学によって開発されましたキューブサットを各3機ずつ、10機関の13実証テーマを実装した合計7機の衛星を打ち上げ、全て正常に分離いたしました。
 革新的衛星技術実証プログラムは宇宙基本計画に基づき、イプシロンロケットに搭載する超小型の人工衛星を活用して、基幹的部品や新規要素技術の軌道上実証を適時かつ安価に実施できる機会を広く提供するものでございます。
 今回の打ち上げでは、イプシロンロケットとしては初めての複数衛星を同時に打ち上げできる機能を付加したことにより、多くの打ち上げ機会の提供ができるようになりました。今後様々な実験が行われていきますけども、革新的な成果が得られ、衛星産業の国際競争力の強化、宇宙利用の拡大、そして新しい宇宙ビジネスが創出されることを期待しております。
 なお先月、革新的衛星技術実証2号機に搭載する15テーマが選定されておりまして、打上に向けた必用な取り決めの締結、技術調整、安全審査等の準備を既に進めているところでございます。
 今後も確実に打ち上げ経験と実績を蓄積し、宇宙環境における衛星技術の実証ニーズに柔軟に対応しつつ、新たなイノベーション創出に挑戦してまいります。
 最後に皆様の大変あたたかいご支援をいただき、本日の打ち上げを無事終えることができました。肝付町の皆様をはじめとして、関係機関の皆様のご支援ご協力にあらためて感謝申し上げます。ありがとうございました。

・登壇者挨拶(佐伯)
 イプシロンロケット4号機の打ち上げが成功いたしまして、私どもとしても大変喜ばしく思っております。打ち上げに際し、ご尽力ご支援をいただいた関係者の方々に対して厚く御礼申し上げます。今回の打ち上げ成功によりまして、基幹ロケットH-IIA/B、イプシロンロケットとしては45機連続の成功となり、我が国が有するロケット技術の着実な発展と信頼性の向上を示すことができたと考えております。また平井大臣の談話にも紹介されていますが、今回の打ち上げは宇宙活動法の下での最初の打ち上げとなります。その意味で新しい日本の宇宙開発の下で行われた打ち上げであり、新たな地平を切り開いてゆく側面を持っていると考えています。今回打ち上げられた革新的衛星技術実証1号機、さきほど山川理事長からご紹介がありました通り、民間企業や大学など数多くの機関の提案により、宇宙技術の開拓や宇宙産業の発展に貢献する革新的な技術やアイディアがつまった最初の実証機であります。特に今回はJAXAが実証機自体の開発を初めて新興のベンチャー企業に委託しておりまして、その点からも大変意欲的な取り組みだと考えております。今後この宇宙実証を継続してまいりますので、我が国の宇宙産業の発展やイノベーションの創出に繋がることを期待しております。我々文部科学省といたしましても、引き続き我が国の基幹ロケットのさらなる信頼性の向上や高度化に取り組みまして、宇宙輸送の自立性や信頼性を高め、国民生活の向上や国際貢献、新たな産業の振興、人類の夢の実現などに資する取り組みを推進してまいりたいと思っております。

・参考・内閣府特命担当大臣(宇宙政策)談話
 イプシロンロケット4号機による革新的衛星技術実証1号機の打上げについて

 本日、イプシロンロケット4号機により、革新的衛星技術実証1号機の打上げが成功したとの連絡を受けました。
 今回の打上げは、宇宙基本計画に基づく革新的衛星技術実証プログラムの一環として行われるものであり、今回の打上げ成功により、我が国の衛星産業の国際競争力の獲得・強化や宇宙利用拡大が促進されることを期待しています。
 また、イプシロンロケットとして初めて複数衛星の同時打上げに成功したものでもあり、我が国の基幹ロケットとして着実にその技術力が向上していることは大変重要なことだと考えています。
 さらに今回の打上げは、平成30年11月15日に全面施行となった人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(宇宙活動法)下における初の打上げであり、その意味からも我が国の宇宙開発利用は新たな一歩を踏み出したことを喜ばしく思います。
 内閣府特命担当大臣(宇宙政策)として、今後も引き続き宇宙基本計画を着実に推進してまいります。
 平成31年1月18日 内閣府特命担当大臣(宇宙政策) 平井卓也

・参考・文部科学大臣談話
 イプシロンロケット4号機による革新的衛星技術実証1号機の打上げについて

 本日、イプシロンロケット4号機の打上げに成功し、革新的技術衛星実証1号機に搭載された全ての衛星が、所定の軌道に投入されたことを確認いたしました。
 今回の打上げ成功により、イプシロンロケットは平成25年9月の初号機打上げから4機連続、我が国の基幹ロケットとしては45機連続の打上げ成功となり、信頼性の確立に向けて着実に実績を積み重ねていることを大変喜ばしく思っております。
 今回打ち上げられた「革新的衛星技術実証1号機」は、宇宙技術の開拓や宇宙産業の発展に貢献する革新的な技術やアイディアの詰まった最初の実証機であり、この宇宙実証を通じて、我が国の宇宙産業の発展やイノベーションの創出に繋がることを期待いたします。
 文部科学省としては、引き続き、我が国の基幹ロケットの更なる信頼性の向上や高度化に取り組み、宇宙輸送の自律性や信頼性を高め、国民生活の向上や国際貢献、人類の夢の実現等に資する取組を推進してまいります。
 平成31年1月18日 文部科学大臣 柴山 昌彦


・質疑応答
読売新聞・7機の衛星を全て正常に分離したが、率直な受け止めと、この成功の意義について。あと確認だが、正常に分離されたが所定の軌道に投入されたという事で良いか。
山川・まず後半の質問について、7つの衛星を正常に分離したことを確認しておりまして、また最初に分離しましたRAPIS−1の軌道について、非常に精度良く軌道投入されていることを確認しています。残りの6機については、その近傍の軌道に入っていると推察されておりますが、正式にはそれぞれの運用者から報告がなされるものと考えております。
 それからイプシロンロケット、今回4号機ということで、国の基幹ロケットとして確実に成功させることが非常に重要だった訳ですけども、まず打ち上げ、そして衛星分離全て成功ということで大変ほっとしているところでございます。今回基幹ロケットの成功という意味では大きな成果ですし、衛星の方に関しては最初の申し上げました通り、宇宙実証の経験あるいは機会を持つということが、宇宙用の部品ですとか機器ですとかシステムにとって極めて重要でありまして、そういった場を提供することができたという所で、非常に大きな成果でなかったかと思います。ただしこれからそれぞれの宇宙実証がされたそれぞれの機器や部品あるいはシステム等が、今後安定した部品供給をはじめとして、日本の宇宙産業の基盤を維持していく、そして宇宙の応用が広がっていく、そしてイノベーションに繋がっていくことができればという風に考えています。

読売新聞・今回初めて複数の衛星を搭載し、さらに複数のベンチャー企業の方々が参加されていて、それが全て成功したが、これについてどういう意義があるのか、JAXAとしてそれらベンチャー企業にどういったサポートをされていく計画があるのか。
山川・政策的というか、1回の打ち上げで多数の衛星を軌道投入できることは、非常に効率的なことだと考えておりまして、それを実現するための多くの衛星を放出する機構を開発して、それが正常に作動したという点で、技術的な意味でも成果があったと考えています。そして今回、ベンチャー企業、そしてベンチャーでない企業も含め、あるいは大学等の研究者も含め、様々な非常に先進的な技術、ただしなかなか宇宙実証をする機会が無いという方々に対して、そういった実証の機会を提供できたことが、いちばん大きな成果だという風に考えております。

産経新聞・革新的衛星技術実証ということで13のテーマが今後注目されるが、それぞれがどういう結果であったか、どのような形で公表されるのか。JAXAに報告され、それが公表されていくのか。
山川・それぞれの機器・部品あるいは衛星がどのような成果を出したかというのは、基本的にはそれぞれの機関から発表がなされるものと考えております。JAXAにも情報が入ってくるが、まずは担当されているそれぞれの機関から報告されるものと考えております。

産経新聞・基幹ロケットでは平成最後だが、平成の固体3機種の歩みから、どのような所感を持たれているか。
山川・我が国は宇宙開発の黎明期において糸川教授に始まる固体ロケットの歴史があって、並行して液体燃料ロケットの開発が始まり、今、両方とも極めて重要な技術でありシステムであると思っていまして、それが日本政府の宇宙へのアクセス維持するための重要な基幹ロケットとして、今もイプシロンと種子島のH-IIA/Bを含めて維持され、利用されてきていると思います。この平成30年間というのは、必ずしも正確では無いかもしれませんけども、さまざまな失敗の事例を乗り越えて、極めて高い成功率を固体と液体燃料ロケットの両方で達成し、あるいは達成しつつあると考えています。いわゆる黎明期の開発に特化したフェーズから、本当の利用の段階に輸送システムとしては来ているのではないかと考えています。イプシロンロケットについて言うと、2013年、2016年、2018年、そして2019年の今回ということで、4号機となりまして全て成功し、極めて成熟してきていると、私として考えております。

産経新聞・次の元号での、我が国のテーマや課題について。
山川・難しい質問ですけども、政府の宇宙へのアクセスを維持することが、基幹システムとして極めて重要ですので、信頼性の高い、そして成功率の高い両ロケットを維持していくことが、次の元号に入っても変わらないと思う。その一方で、国の宇宙開発の自立性やアクセスだけでなく、国際競争力を持つことも極めて重要ですので、その意味で現在H3ロケットを開発しているところですので、次の元号の最初の段階ではまず注力していきたいと考えています。

日本経済新聞・イプシロンロケットは、小型衛星打ち上げのための安定した小型基幹ロケットとしての役割を期待されている。一方、コストと打ち上げ頻度の少なさが衛星事業者等から指摘されている。積年の課題だが、こうした課題に対して今後どのような解決策を見出していくのか。
山川・イプシロンロケットは国の基幹ロケットとして小型衛星をタイムリーに打ち上げることがひとつの大きな目標あります。確かにこれまでコスト的な競争力という意味では、まだまだ努力する余地があると思いますけども、一方でたとえば人工衛星を搭載する環境、打ち上げ時の音響ですとかそういった環境においては世界トップレベルを既に達成しております。また、衛星から見た環境だけでなく、ロケットとしてたとえば、打ち上げ直前のさまざまな点検を自動化する、そして打ち上げ前のオペレーションを極力省力化していく、短期間化していく、そういった事がまずは達成されているという事でございます。次にコストも含めて、今後価格を下げていくことによって国際競争力を持つ必用があると思っていますが、それに関しましては、引き続き各イプシロンロケットで努力はしていくが、大きなステップとしてはH3ロケットの開発と同時並行してイプシロンロケットの将来的な姿に向けての開発をしていまして、いわゆるシナジー効果という言葉で表現しているところであります。もう少し具体的に言いますと、H3ロケットのブースターとイプシロンロケットの将来形態を共通化していく、あるいはそれぞれのアビオニクス、電子機器や地上系などを極力共通化していく、あるいは機体を構成する部品を減らしていく、そういったさまざまな、総合的な取り組みによって、価格的な意味での競争力も確保していくことを現在進めているところでございます。

日本経済新聞・昨年11月に本格施行となった宇宙活動法の第1段の適用事例となったが、手続きを総括した上で、認可のプロセス上の手続きで、課題や改善が必要な部分はあるか。
山川・日本として初めての宇宙活動法下での打ち上げとなった訳でございます。JAXAとしては昨年以来ずっと宇宙活動法施行に向けて準備しておりました。ただし、基本的には公共の安全が宇宙活動法では極めて重要ですが、そういったところに関してこれまでと同様の内容の取り組みをしておりまして、それを宇宙活動法で規定されているさまざさな書類の形態に沿った形で提出させていただいた。当然ですが不慣れな部分もありまして、担当はかなり苦労した部分もありましたけれども、内閣府殿からの様々なご指導もありまして、最終的には全て満たす事ができたのではないかと考えております。

フリー秋山・今回の革新的衛星技術実証プログラムは国内での募集だが、将来的に世界に有償などの形で展開する可能性はあるか。
山川・現時点では基本的に国内ユーザーを考えている。と申しますのも、既に2号機に向けて選定も終わっていて、極めて多くの申請があって、その中から厳選して、2号機ですと15点を選んでいる状況です。従いましてJAXA致しましてはまずは、我が国の産業振興といった面に注力していきたいと思います。将来的に国際的にオープンしていくかは今後の課題と考えております。

時事通信・宇宙ベンチャーの育成に向けて、今回の取り組みの持つ意義と、今後の取り組みについて。
山川・宇宙基本計画に宇宙実証機会の提供ということが謳われておりますし、JAXAの中長期計画におきましても産業振興そして宇宙利用の拡大が大きな目標になっております。それを先取りする形で今回の革新的衛星技術実証プログラムの初号機を打ち上げることができました。今回は直接的に宇宙実証の機会を提供する機会だったが、たとえばそれ以外にJ-SPARCといいまして、イノベーションプログラムを提供していて、民間のさまざまな事業を一緒に作り上げていく取り組みもしている。ですから今回の革新衛星というのは大きな産業振興あるいは利用拡大の中のひとつという位置づけというように考えているところであります。今回、ベンチャーだけでなく、大学あるいはベンチャーでない既存の大手企業さんも含めて、全体の産業規模の拡大を目指している。特にベンチャー企業におかれましては、素晴らしいアイディアを持っておられるけども、なかなか宇宙実証の機会が無いといったベンチャーが多いと理解しておりまして、特にそういった観点で機会を提供することができたのが大きな成果ではないかと考えております。従いまして2号機以降も、そういった観点から様々なベンチャーだけでなく大学も含めて、宇宙実証の機会を渇望されている方々に、そういった機会を提供していくという方針に変わりは無いと考えております。

南日本新聞・イプシロンの将来像について、民間移管が現実味を帯びてきていると理解しているが、H-IIA/Bの終了ということもある中で、新イプシロンの開発に時間的制約があると認識している。民間移管と新イプシロン開発にあたって、どういった新イプシロンを作り上げていきたいか。
山川・まさにシナジーイプシロンの開発というところが、これから進んでいくところ。今回打ち上がった4号機も含めて、これまでのイプシロンの技術的競争力、衛星にとっていい環境で打ち上げられるとか、あるいはロケットサイドから見ても出来るだけ効率的に作業ができるとかに加えて、イプシロンのシナジー開発によって価格面でも下げていくという大きな目標がある訳です。H3の開発、H-IIA/Bの終了というスケジュールにマッチした形で、イプシロンのシナジー開発を進めていくつもりです。今日の打ち上げの経験も蓄積も踏まえ反映した上で、今行っているH3とイプシロンのシナジー開発にも反映させて、効率的に開発を進めていきたい。再三申し上げているが国際競争力を持つということが極めて重要なところだと考えております。JAXAは研究開発機関ですので、研究開発したシステムというものが供せられると判断した時に、どんどん民間に移転していくということで、信頼性とか産業基盤とか国際競争力というものを上げていくことが、国立研究開発法人としても重要だと考えておりますので、そういった意味で民間移転というものは積極的に進めたいという意味で、既にRFPは発出させていただいている所であります。一方で国際競争力というのは判断するのが難しい状況で、ある程度国際競争力を持って民間移転して大丈夫だと判断するのは検討中でありまして、いつになるかはまだ決まっていない状況にあります。

フリー・革新的衛星技術実証1号機プロセスによって民間宇宙産業のモチベーションが上がったと捉えているか。
山川・民間事業者に関わらず大学の方も含めて、実際に宇宙に物を運ぶハードルを下げるのが大きな目標であり、それを実際に達成出来たと考えております。今後もさまざまな大学なり企業なりが参入していく大きな一歩だったのではないかと考えております。それによって部品供給とか売れる機器や売れるシステムという意味でも重要だが、もうひとつ大きな意味ではマンパワーですね、人材育成という意味でも、すぐにという訳にはいきませんけども、参入の壁を下げることによって、どんどん新しい人が増える、それによってどんどん宇宙人材が増えていくのではないかと期待しているところでございます。

フリー・革新的衛星技術実証の4号機以降のこういった実証機会は考えているか。
山川・それ以降はまだ基本計画上に明記されていないが、イプシロンを使った実証や他の機会も利用して、こういった取り組みはどんどん進めていきたい事に変わりはありません。


・打ち上げ後経過記者会見第2部

・登壇者
宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門 イプシロンロケットプロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 井元 骰s
宇宙航空研究開発機構 研究開発部門 革新的衛星技術実証グループ長 香河 英史

・脇席
株式会社 アクセルスペース 取締役CTO 宮下 直己

・質疑応答
NVS・プレスリリースに正常に分離されたことが確認されたとあるが、衛星のテレメトリやダウンリンクされたものはあるか。
香河・アマチュア無線衛星の方は世界的には何個かとられているという話を聞いているが、こちらで押さえている訳ではないので、詳細は各機関の方からあると思います。

NVS・RAPIS−1についてもダウンリンクされているものはないのか。
香河・地上局の問題で、RAPIS−1は東京近辺にしか地上局がございません。今夜8時と10時くらいが初パスというものになります。そちらの方で初めてビーコンのキャッチから始めて行くことになります。

鹿児島テレビ・予想通り晴れたが、打ち上げの感想をお聞きしたい。
井元・非常に良い天気に恵まれまして、素晴らしい、美しい打ち上げだったと思います。関係者一同が心をひとつにして、この打ち上げ成功に向けて頑張ってきた成果が出たと思います。さらに応援していただいた方々、支援していただいた方々、そういった方々が我々の背中を押していただいて、この成功に繋がったと考えています。

鹿児島テレビ・7つの衛星が打ち上がり、民間実証のこれから。2号機の打ち上げも決まって、広がりをどのように考えているか。
香河・私の方はまだ結果が出ておりませんけども、7機のいろんな思いをもった方々の思いを一緒に持っていけた。他でも言わせていただいたが、いわゆる宇宙ツアーのツアコンみたいな気分でございまして、いろんな思いをもった方を宇宙にお連れして、そこまでとりあえず無事にお届けできた。あとはみなさんがどうやって楽しんでいただけるかということで、関心を持って見守っています。2号機に関しても非常に面白いミッション、革新的なアイディアを持った皆様がいろいろ集まっていただけているので、ぜひ皆さんもそういったものを使って、日本の宇宙産業の育成に協力していただきたいと考えています。

NHK・複数衛星搭載という初めての取り組みがあったが、それを踏まえて、この成功にどのような意義があり、今後どう繋がっていくのか。
井元・ひとつの衛星ではなく、たくさんの衛星を打てる。いろんな広がりが出るのではないかと思います。さきほどありました通り、ベンチャーやスタートアップ企業の方々ですとか大学の方々、これまでの衛星専門メーカーの方々、そういった方々にたくさん使っていただけるロケットになったと思っております。この機能を使って今後も発展させていきたいと思っています。

NHK・今後発展させるのは、打ち上げ機会の拡大やH3シナジーも睨んでいるのか。
井元・まず当面は革新2号機ですね。こちらは衛星の数も多少増えると思いますので、そこにきちっと対応するのが1点と、複数衛星の分離機能の技術を獲得しましたので、それをさらにシナジーの方に繋げていければいいかなと思います。

NHK・全ての衛星の分離を確認されたと思うが、いつどのように確認されたのか。またRAPIS−1の分離高度は予定通りか。
井元・RAPIS−1はサンチャゴ上空でリアルタイムに、51分55秒くらいに分離を確認しまして、そこで得られたデータをもとに軌道を計算しました。これはロケットで取得したデータで客観性では多少あれだが、ロケットで取得したデータをもとに計算した結果、所定の軌道にどんぴしゃり入っていることを確認しました。その他の6つの衛星に関しましては、日本上空の種子島ですとか内之浦に戻ってきたときにテレメータデータを確認しまして、分離していることを確認致しました。

南日本新聞・分離を確認したというのは、PBSの燃焼を7回確認したということか。
井元・いえ、衛星を分離したという信号を確認した。

南日本新聞・PBSは7回燃焼したと見られるのか。
井元・そうです。

南日本新聞・複数衛星を打ち上げる実績が積み重なったが、それにあわせてPBSできめ細かく分離していく技術も加わった。今後イプシロンが世界デビューするにあたって、複数衛星を打ち上げる将来像があるとして、今後イプシロンの強みになると考えているか。
井元・かなり強みになると思っています。PBSという機能が非常に使いやすい。何回でも作動できるというものでありまして、きめ細かに軌道を変えられる性質を持っているので、非常に大きな強みになるのではと思います。

南日本放送・平成最後の打ち上げを成功で飾ることができたことの意義について。
井元・平成最後の締めくくりとして、これまでH-IIA/Bイプシロンと連続成功しておりますので、それをきちんと締めくくれたのは非常に大きな意義があると思います。また新たな年号に向かって、大きな一歩がひらけたのではと思います。

南日本放送・打ち上げの影響で、センター内の山林火災があったと伺っているが、どのような影響で起きたのか。またどんな被害があったか。
井元・規模は非常に小さいと聞いており、既に消火されていると聞いている。私はデータを見ていてわからないところがある。
長田・打ち上げ後に、約2キロの警戒区域を解除するために射点の安全確認というものをやります。射点が安全であると確認できないと解除できないのですけども、その確認の中で射点の海側、我々はダウンレンジ側と呼んでおりますが、海側の山林の木立から煙がくすぶるような状態で立ち上がりました。そういう状況だったので、放水銃と地元の消防団で散水を行っております。念のため消防署にも通報して、結果的に煙がくすぶる程度で問題はございませんでした。
(※鹿児島宇宙センター射場技術開発ユニット長 長田弘幸)

日本経済新聞・連続成功の45機の内訳を教えていただきたい。
井元・ちょっと頭の中に入っていないが、イプシロンは4回連続成功とわかっています(笑)
広報・それについては広報部から後ほどお伝えします。

朝日新聞・これからチャレンジする側は、今どういう状況なのか。2号機は15のテーマだが、沢山の中からの15か、そこそこの中からの15か。
香河・第1回の公募のときは全体で30テーマくらい集まっています。第2回も33テーマくらいだと思いますけどもそれくらい集まっております。数としては非常に多いという状況でございます。いろんな話をお伺いするが、初号機については割と大学とベンチャーが多かった。こういった枠組みを初年度だったので、あまり告知時間が十分でなかったこともあると思っている。2号機のときには割と企業の方から応募していただいて、大きな三菱重工さんとかそういった方からもテーマを応募していただいております。そういった大きな会社であっても実証の機会、自分のものを確かめてから使いたいというニーズは非常に多くお伺いしておりまして、こういった枠組みは非常に重要で、皆さんから聞いていくともっと機会が欲しい、2年に1回では少ないというような要望を非常に多くいただいている状況でございます。もしもっと回数が多ければ、もっといろんな応募があるでしょうし、いろんな使い方もあるのではないかと考えております。

フリー秋山・新規開発の衛星分離機構について、まだ解析前だと思うが、超小型の方は海外製の、キューブサットはJ-SSODのモディファイと伺っているが、その動作についての感想をお聞きしたい。
井元・今回は衛星を分離していることを確認したという状況でして、RAPIS−1の分離まではきちっと保持していて、そのあと見えない状態で分離していることを確認しました。いずれにしてもきちんと作動したと考えている。地上で非常に安定した分離作動を確認しておりますので、信頼性が高いものであると考えています。

日刊工業新聞・RAPIS−1の軌道投入が成功したことで、今後中の機器や部品の実証スケジュールが決まっていれば教えて下さい。
香河・概略ですけども、今日の夜くらいにクリティカルフェーズをなんとか切り抜けようという事でアクセルスペースさんにお願いしているところです。うまくいきましたら、初期の機能点検フェーズに入っていき、それが1ヶ月程度を予定しておりまして、1ヶ月後くらいから徐々に運用していくことで、アクセルさんがお持ちの自動運用の実験システムを用いまして、月に1回くらいずつユーザー様の要望を聞いて、あとは自動で運用する状況に入っていくと考えています。

日刊工業新聞・1ヶ月初期運用をするということは、2月中旬くらいから実証が始まるのか。
香河・スケジュールの都合があって、準備ができていることをJAXA内で点検してから運用に入りたいと思っていますので、そこの準備が整うまで時間がかかるかもしれない。

ライター林・今回初めてアクセルスペースさんにRAPIS−1の開発と運用を発注したが、これまでの衛星と違って、新たな発見や、運用はまだだが課題など、これまでの中で何かあれば。
香河・アクセルさんはJAXAというか日本のロケットで打ち上げるのは初めてでございました。海外の経験はいっぱいお持ちだが、基本的な日本語のところから意味が違うことがありまして、正確に話をするところに、用語の定義が何という所からまずお話をした。お互い何の話をしているのかというところを苦労した。JAXAの方がまず着実確実にということで文書が非常に多いということで、そういったところの手続きが非常に煩雑ということは我々も認識しているが、そういったところをアクセルさんにおわかりいただくかということが苦労した点かと思います。
宮下・まさに今おっしゃっていただいた通りで、我々もアクセルスペース流の独自の衛星開発を今まで進めてきました。これが公的に認められたやり方ではなく、我々独自のものでしたので、JAXAの今までの経験やいろいろな考え方等を両者ですりあわさせていただいて、我々はこういう風に考えるというものを歩み寄っていただいたことも多くて、我々も2年と少しの開発にこぎ着けたんだと思っております。そういう意味では我々としては非常に勉強になったことが多くて、この知見を次に繋げていきたいと思っております。我々のようなスタートアップ企業に、衛星の開発と運用を思い切って委託いただいたことを、非常に嬉しく思っておりまして、衛星はこれからが勝負ですが、まず打ち上げのタイミングにこぎ着けたことを非常に感動している状況であります。

林・宇宙ツアーのツアコンというのが非常に判りやすかったが、ツアーのお客さんでも、荷物の大きさが異なる、しかも目的も異なる多数のお客さんを無事に宇宙に連れて行って目的を達成させるのは非常に難しいことではないかと思うが、ツアーコンダクタとしての難しさやご苦労された点などがあれば教えて下さい。
香河・仰るとおりでして、ある方はこんなデータが欲しい、ある方はこのぐらいのデータが欲しいなど、いろいろな運用が違うような点がございました。小さな衛星については、スキー場まで連れて行くなど、その場所に連れて行った後はご自分で楽しんでいただけるが、行くところがある程度決まっているお客様がいらっしゃいまして、今回イプシロンロケットはたまたま全部が革新プログラムで使えたので、H-IIAなど大きなロケットではいちばん大きな衛星が行き先を決めているケースが多い状況です。今回の場合はRAPIS−1にのっている機器の方は、どこでも良い、だいたい宇宙に行けば良いという状況でございましたので、行き先自体を小型衛星のマイクロドラゴンが海洋観測という事でありましたので、太陽同期軌道の600kmくらいのところを飛びたいという状況でございましたので、じゃあそちらの方に連れて行ってさしあげましょう、というような小型衛星の言うことを聞くことで行き先を決めるようなこともやっています。

林・確認だがツアー料金は無償か。
香河・はい今回のツアー料金は無償です。ただし旅行に行く準備、衛星を作るとか、持っていく自分の物については、全て皆様が開発して乗せられる状態にするところまでは完全にお願いした。またJAXAはデータは取りますが、解析や評価は皆様の実証テーマの方でやっていただく契約になっています。

林・乗せられる状況にするということは、各種のテストは衛星を作る側でやった上で納品した形か。
香河・そうなります。アクセルスペースさんにも入っていただいて、衛星の中でどんな環境、どんな振動とか、どんな電波が出るとか、そういった状況を出していただいて、その状況をユーザーさんに示して、それに合ったものを作っていただくようなことをしています。

ニッポン放送・7機の衛星分離が成功したいちばんの要因。これまでの3号機までと違う要素があるのか。また70分の中で矢継ぎ早に分離していく上で、オペレーション上の緊張度合いはこれまでと違ったものがあるか。
井元・分離機構は超小型衛星のライトバンドと、キューブサットのE−SSODで違うということで新たに開発しました。まずそこが軌道上でうまく作動するか当然心配だったが、地上で何度も作動させているので特に心配はありませんでした。一方でミッション秒時が長くなるということで、ロケットのシステム上、長く作動するという事は当然問題も発生しやすくなる。さらに加えてRAPIS−1を分離した以降は見えない状態で飛んで行くことが今回の大きな特徴でしたので、そこの段階でいま分離したんだろうなという時間のところで思いながら、日本の上空に帰ってきて分離していることを確認したときは非常に嬉しかった。多少は不安はありますので、分離したことを確認した時点で非常に安心しました。

ニッポン放送・手探りの時間があったということか。
井元・はい、そうです。

読売新聞・RAPIS−1以外の6機は予定された軌道の近傍に投入されたことを確認したとのことだが、これは予定軌道への投入に成功したという表現で良いか。
井元・もともとPBSでの分離に対するデルタVというか増速量ですとか、シーケンス上のトータルインパルスといいますか、今回に限っては多少高度を下げる観点で、数キロもしくは数十キロのオーダーですので、その近辺に分離されたという風に考えております。

読売新聞・つまり予定通りで、これから成功を確認するという事ではなく、もう成功したと言って良いか。
井元・我々は成功したと考えています。あとは超小型衛星とキューブサットの方々の軌道上実証が可能になったという観点で打ち上げ成功と考えています。

読売新聞・山林火災の関連で、ロケット打ち上げとの関係は判っているのか。
長田・具体的には難しい点があると思うが、ロケットの噴流というか火炎が、周辺の山の草木に着火した可能性はあると考えています。具体的な原因の特定は難しいと思います。

共同通信・燃えた範囲はどれくらいか。こういった事はよくあるのか。
長田・正確にはわからないが数メータの範囲。これまでの3号機まではありませんでした。イプシロンでは4号機で初めての事象でございます。どうして起きるかについては、当日の気象状況で、例えば風向きだとか、風速ですとか、それから周囲の環境ですとか、こういった事によって影響を受ける範囲も変わってきます。ちなみに種子島宇宙センターではH-IIAロケットを40機打っているが、毎回起きる訳ではなくて、やっぱり当日の条件によって多少同様の事象が起きています。ある意味想定の範囲内と我々は考えています。

(※イプシロンロケット4号機の打ち上げ後、山林火災の消火活動のため、規制解除がいつもより遅れ、宮原から内之浦宇宙空間観測所方面に向かう国道上で30〜40分程度待機することになった。また種子島宇宙センターでの過去の打ち上げでは、警戒区域外に消火バケットをぶら下げたヘリコプターが待機し、今回同様の火災に対する消火活動が行われていて、打ち上げ時の恒例行事のようなものだった。その後、消火用ヘリはいなくなり、地上の消火設備のみとなっている。また種子島宇宙センターの場合、報道関係者のいる竹崎展望台は規制の範囲外にあるため、規制解除が遅れても殆ど影響が無く、あまり話題にならなかった。しかし射点近傍にリモートカメラを設置している報道関係者は、その待機時間が影響することがあり、カメラを回収したあとに慌てて記者会見場に向かうこともある)


以上です。


No.2263 :イプシロンロケット4号機打ち上げ ●添付画像ファイル
投稿日 2019年1月19日(土)12時04分 投稿者 柴田孔明

2019年1月18日9時50分20秒(JST)、イプシロンロケット4号機が打ち上げられました。


No.2262 :イプシロンロケット4号機打ち上げ前ブリーフィング 訂正あり版 ●添付画像ファイル
投稿日 2019年1月17日(木)14時52分 投稿者 柴田孔明

 2019年1月15日、内之浦宇宙空間観測所にてイプシロンロケット4号機/革新的衛星技術実証1号機の打ち上げ前プレスブリーフィングが行われました。
(※一部敬称を省略させていただきます)
(※数値の誤りを訂正しました。他は同じです)

・登壇者
宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門 イプシロンロケットプロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 井元 骰s
宇宙航空研究開発機構 研究開発部門 革新的衛星技術実証グループ長 香河 英史

・打ち上げ延期について(井元)
 結論から言いますと、1月17日に予定していました打ち上げを1月18日に延期させていただきます。当日の天候悪化が予想されるとありますけども氷結層ですね。雲の関係で氷結層が非常に厚い予報が出ていまして、これが数日前から注視していたが、特に予報が変わること無く推移していること、それと18日の天候が非常に安定していまして、打ち上げ日和である。打ち上げに万全を期すという観点で、打ち上げ日を変更しています。打ち上げ時間帯については特に変更はございません。

・(参考)打ち上げ延期についての記者発表資料より。
 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、内之浦宇宙空間観測所から革新的衛星技術実証1号機を搭載したイプシロンロケット4号機の打上げを平成31年1月17日に予定しておりましたが、当日の天候悪化が予想されるため、下記のとおり変更いたします。

  打ち上げ日:2019年1月18日(金)
  打ち上げ時間帯:9時50分20秒〜9時59分37秒(日本標準時)
  打ち上げ予備期間:2019年1月19日(土)〜2019年2月28日(木)
 (※2019年1月16日に打ち上げ時刻が9時50分20秒と発表されています)


・イプシロンロケット4号機について(※リハーサル時と同じ部分など、一部省略しています)
 ・3号機と同じ太陽同期軌道に投入する。
 ・飛行計画から抜粋(※時間については打ち上げ後の経過時間です)
  1.リフトオフ:0秒
  2.第1段燃焼終了:108秒
  3.衛星フェアリング分離:151秒
  4.1段分離:161秒
  5.2段分離:390秒
  6.3段分離:594秒
  7.小型実証衛星1号機分離:3115秒(51分55秒):高度514km
  8.RISESAT分離:3800秒(1時間3分20秒):高度510km
  9.MicroDragon分離:3900秒(1時間5分00秒):高度511km
 10.Origamisat−1分離:4000秒(1時間6分40秒):高度512km
 11.NEXUS及びAoba VELOX−IV分離:4100秒(1時間8分20秒):高度514km
 12.ALE−1分離:4200秒(1時間10分00秒):高度516km
 (※高度について:リハーサル時の質疑応答で、地球表面からの高度が場所によって違うために、数値では上がっているように見えるが、軌道としては降下している、とのこと)
 (※各衛星分離の間ではPBS(Post Boost Stage)が燃焼を行い、姿勢や高度の調整を行っている。ALE-1分離まで7回の予定)

 ・打ち上げの制約条件(※主要な制約条件の概要からさらに抜粋)
  ・ランチャ旋回時は瞬間最大風速が25.0m/s以下であること。
  ・屋外高所作業時は瞬間最大風速が15.0m/s以下であること。
  ・発射時においては、瞬間最大風速が20.0m/s以下であること。
  ・最終GO/NOGO判断以降打ち上げまで瞬間最大風速が30.0m/s以下であること。
  (※ミンゲニュー局は25m/s以下、サンチャゴ局は27.7m/s以下)
  ・発射時の降雨は8mm/hr以下、ランチャ旋回開始後は50mm/hr以下、屋外高所作業時は15mm/hr以下であること。
  ・ランチャ旋回開始後は降氷がないこと。
  ・発射前及び飛行中において機体が空中放電(雷)を受けないこと。
  ・飛行経路が雷雲や積乱雲等(下記)の近辺を通過する場合には発射を行わないこと。
   ・氷結層を含み、鉛直の厚さが1.8km以上の雲を含む。(※17日がこれに該当)
  ・陸上:総員退避区域の無人化確認が図れること。警戒区域内の安全が確保されていること。
  ・海上:設定区域の海上警戒、監視が可能なこと。警戒区域内の安全が確保されていること。
  ※他にも制限があります。

・革新的衛星技術実証1号機について(※衛星公開時と同じ部分などを、一部省略しています)
 ・「革新的衛星技術実証1号機」は「革新的衛星技術実証プログラム」の1号機。
 ・7機の衛星(13の実証テーマ)を高度500kmの太陽同期軌道に投入する。
 (※2年に1回、計4回の打ち上げ実証を計画している)
 ・RAPIS−1について、推進剤としてGPRCS(グリーンプロペラント推進系)を使用。充填時の作業服が大幅に簡易になり、作業手順も簡略化された。
 (Green Propellant Reaction Control System。従来のヒドラジン系と比較して安全性が高く、扱いが比較的容易であり、性能も高くなる。※JAXAのHPより参照)

 ・衛星はロケットから分離された後、地上局との通信と発生電力を確認することでクリティカルフェーズを終了。
 ・その後、約一か月間、初期運用フェーズとして衛星搭載機器のチェックアウトを実施予定。

・質疑応答
・衛星のグリーンプロペラントについては今回が実証段階だが、小型衛星は今まで通りヒドラジンなのか。またRAPIS−1は従来のものも併用するのか。
香河・200kg級衛星でヒドラジンを使っている例は海外ではあるが、国内ではあまり例が無いと考えています。アクセルスペースさんでは過酸化水素を使った物があるとうかがっている。今回は(RAPIS−1に)他の推進系は無い。スラスタは1基しかなく、どのような動作とか、どのような性能が出るのかというのを計測しようという実験になっています。
 それ以外は磁気で方向を変えるもの、もう少し精緻なものでホイールを利用したものが載っています。

・運用の責任分担はどうなっているか。JAXAとして打ち上げ成功はどの時点で言うのか。
井元・ロケットについては分離まで、それ以降は衛星となります。
香河・衛星はそれぞれの実証機関とテーマの方でサクセスクライテリアというもので、これくらいまで実験できたらとりあえず成功、もうちょっとチャレンジなところに行くということでエクストラサクセスを定義しておりまして、そういうところでどこまで実験できたので成功と評価するようにしている。

・JAXAでは衛星の成否は定めていないのか。
香河・1年間の運用経費は見込んでいて、それについてはアクセルスペースさんと既に契約している。他の6機の衛星はそれぞれの実証機関で準備していただいている。

産経新聞・新しい燃料のグリーンプロペラントで、アクセルスペースさんは既に過酸化水素も使っているとのことだが、この過酸化水素では駄目なのか。
香河・今回の採用はヒドラジンよりも高性能が狙えるところ。過酸化水素水もあるが、高圧ガスを使った従来の推進系と同じような性能になる。より高性能を狙いたい。

産経新聞・イプシロンロケットは試験機のときに直前に延期になり、その反省から当時は特別点検チームを作られて、チーム以外の方が独立に検証する立場で確実性を担保したことがあって、2号機3号機でも同じような独立した審査をしたと伺っている。今回もそれをやられているとのことだが、そういったミッションの確実性の確保の独立した取り組みの回が重なってきているが、そのあたりの熟練度の認識はどうか。
井元・結論から言うと、熟練度は当然かなり上がっている。特別点検チームは試験のとき射場で延期しましたので、これは本当に特別に点検チームを組織した臨時組織という形でやりました。それ以外にも定常的な独立評価チームというものがありまして、それは試験機のときからあります。それは2号機3号機でもありますし、4号機でもありますので、そういった定常的な我々の開発、もしくは製造の段階での評価というものは、第三者的な立場で評価をするチームが定常的にありますので、そういった定常的な組織のチームにお願いしています。そういったところを2号機3号機と重ねまして、4号機でも同じような事をやっていただいて評価していただいている。当然熟練度は上がっている。

NHK・延期の受け止めをお聞きしたい。
井元・確実な打ち上げというか、無理をしない。18日が非常に天気が良い。そちらに向けて、我々としては淡々とやるだけです。
香河・衛星の方も決定を聞いてときにも、17日は怪しい感じがしていた。そこの機会を狙って逃すよりも、18日を確実に取りにいくという、なかなか痺れる決定だった。

NHK・延期はいつの段階で判断したのか。また(氷結層は)基準を完全に逸脱しているのか。
井元・ついさきほど、ここに来る直前に決めました。氷結層は今の予報では完全に逸脱しています。

NHK・17日と18日の違いは何か。
井元・氷結層だけです。雷も17日は予想されていませんが、氷結層が予想されていて、18日はそれが消える。

宇宙作家クラブ・衛星がロケットから分離されたあと地上局との通信があるが、これは各衛星の機関がそれぞれ対応するのか。
香河・その通りです。各衛星が自分の地上局を持っていて、自分のところで追いかける。

宇宙作家クラブ・4号機が3号機から変更された点は。
井元・大きいところでは複数衛星搭載です。3号機では1つの衛星しか載せていませんが、4号機では複数衛星を打ち上げる。

朝日新聞・氷結層にはどういうリスクが考えられるのか。
井元・雷と同じような効果ですが、氷結層の中を突っ切ると雷を受けたような状態になる。電子機器が誤作動する恐れがある。

朝日新聞・打ち上げ成功の定義で、7機の衛星を分離したことをもって成功か、予定軌道にのって成功なのか。
井元・今回の打ち上げの特徴はRAPIS−1についてはリアルタイムで衛星分離を確認します。その他の6つの衛星につきましては、リアルタイムの受信ではなくて、日本上空に戻ってきたときにデータを取得します。その関係で、RAPIS−1については分離したこと、所定の軌道に投入したことを確認します。その他の衛星につきましては分離を確認して、RAPIS−1を分離した後の軌道変更は微小なものですので、RAPIS−1が所定の軌道に入っていれば他の物も適切な軌道に入っていると判断して、分離を確認することになります。RAPIS−1はリアルタイムで分離と軌道が判りますので、15分以内に計算して確認します。

朝日新聞・その他の6つの衛星は、大学など各機関が確認するのか。
井元・まず我々は分離したことを確認します。他のところはそちらに聞かないとわからない。

朝日新聞・JAXAとして分離は確認できるが、どの軌道に投入されたかは判らないのか。
井元・打ち上げ当日か、もしくは翌日、そのぐらいのレベルです。まずちゃんと評価しないといけない。多少時間がかかる。もうひとつは、RAPIS−1を分離し、全部の衛星を分離した後にデブリ対策で、機体の姿勢を制御するPBSの推進薬を排出します。その関係で機体の姿勢が多少不定になる。日本上空に戻ったときに機体の姿勢が不定な状態で分離を確認しますので、運が良ければ当日に分離が確認できますし、もしかしたら翌日になるかもしれません。

朝日新聞・打ち上げの成功は、全部の衛星が分離して軌道に乗っていることをもって成功と受け止めるのか。
井元・本質的にはそうです。

NVS・1日延期でも時間帯は同じだが、何日延期されてもそうなのか。
井元・その通りです。

NVS・イプシロンはモバイル管制を目指していたが、4号機の管制の規模はどれくらいか、それは目標を達成しているのか。
井元・発射管制のオペレータは6人。これは3号機の実績で、4号機もオペレータとしては同じです。ただ、もともと我々が目指したものでは、以前に3人くらいのアニメーションを見せていた。明確な目標ではないが、それくらいのオペレータを目指していた。当初の本当の目的には、もうひとつ頑張らないといけないと思っています。

南日本新聞・延期の制約条件では雲の厚さが1.8kmだが、今回は何キロくらいか。
井元・正確では無いが3キロから4キロくらい。

南日本新聞・明日は2日前のブリーフィングは無いのか。
広報・明日はブリーフィングはありません。

南日本新聞・ラピス1分離が確認できた段階で一報を出せないか。
井元・今のところ考えていない。打ち上げ中継のJAXA放送で分離を確認できる可能性がある。

山陰中央テレビ・雲の厚さで延期だが、これまでのイプシロン打ち上げで同様の事はあったか。
井元・3号機の時は雷と氷結層が同時にあり、それは氷結層より雷だった。その時は1月17日に予定していて18日に延期して打ち上げが成功した。全く同じ日になります。

山陰中央テレビ・験を担いだことはあるか。
井元・それは無いです。

山陰中央テレビ・ALE−1の人工流れ星の取り組みはJAXAはどのようにとらえているか。
井元・ロケット系と衛星系でとらえ方が違うかもしれないが、ロケット系は非常に面白い、エンターテインメントといいますか、そういう所を狙っているので、私としては非常に興味があるので、ぜひ成功していただきたい。

山陰中央テレビ・どのあたりに興味があるか。
井元・どういうものが見えるのか、そういったところです。
香河・このプログラムが立ち上がったのが平成27年で、この募集の内容を決めるときからALEさんの活動を知っていて、どういったものだとスタートアップ企業のお手伝いができるのか、そこから話をさせていただいた。大きさを決めるときも、アクセルスペースさんや他のスタートアップの衛星の大きさも決めていきました。いろんな宇宙の使い方はJAXAもいろいろ考えているが、エンターテインメントにはJAXAとしてなかなか入り込めないし、そういうところは市場が広いのかなと思っているし、もしそういう所で宇宙の使い方が広くなると、宇宙がもっとブレークして、もっといろんな使い方が広くなることを期待している。

山陰中央テレビ・JAXAとしても宇宙のとらえ方が変わっていくきっかけになるか。
香河・いろんな使い方があるということ。今のJAXAは実用や科学といったところに特化したミッションしかできないが、そういったものに囚われない非常に広い考え方、考え方を持っている方が参加してくることで日本の宇宙産業が大きく広がることを期待している。

NHK・3号機に続いての延期で、イプシロン特有の打ち上げ条件でのハードルの高さがあるのか。
井元・H-IIA/Bと同じ条件です。

NHK・打ち上げ費用がおよそ55億円だが、この中に衛星の運用費は含まれているか。
井元・これはロケットの製造と打ち上げ、安全管理です。衛星のものは含まれていません。

読売新聞・氷結層の理由をもういちど。
井元・氷結層の中をロケットが通過すると、直撃雷を受けたと同じ状態になる可能性がある。雷がロケットを通ると電子機器に異常が発生する可能性がある。

読売新聞・どうして氷結層の中を通ると雷と同じ効果になるのか。
井元・一般的に言われているので、ネットなどで調べていただければ。

読売新聞・イプシロンで複数衛星を上げる事や、JAXAとして衛星の製造をベンチャー企業に依頼する他に初めてのことの他に何かあるか。
井元・宇宙活動法ですね。宇宙活動法対応でイプシロンが初めての打ち上げとなります。

共同通信・打ち上げ2時間後の会見で、RAPIS−1以外の衛星についてどの程度情報が出せるのか。
井元・日本の上空、それからオーストラリアの上空で周回後のデータ取得を試みます。機体の状態が若干不定の状態での確認になりますので、電波リンクが確立した状態ではない可能性があり、データが取得できない可能性があります。もうひとつ、衛星が分離したかについては、日本上空でデータがとれた時点で判ります。一方で軌道のデータは、機体の姿勢を検知しているセンサの分離した時のデータをもとに解析が必用です。RAPIS−1を分離した後に徐々に高度を変えていきますので、それぞれの分離した時の軌道というのはその時点しかわからない。その時点でのデータをためて、それを日本上空もしくはオーストラリア上空ではき出します。まずデータがちゃんと取得できていることと、取得したデータが正しいかどうかを確認しないといけませんので、そういったものを確認した後にデータを解析していく作業がありますので、それについては時間がかかることになります。

共同通信・2時間の間に日本やオーストラリア上空を衛星が通過するタイミングがあるのか。
井元・1時間半過ぎに日本上空、オーストラリア上空が2時間弱くらいに一周して戻ってきます。

共同通信・会見で確実に言えることは何か。
井元・RAPIS−1が分離したこと、RAPIS−1が所定の軌道に投入されたこと、この2つは2時間後にわかります。もうひとつ我々が取得を試みますのは、残りの衛星6機が分離したかについて2時間後に確認する。
広報・2時間というのはデータを取得できる時刻で、打ち上げ経過記者会見は、9時50分打ち上げの場合は3時間10分後の13時を予定しています。

読売新聞・宇宙活動法施行後の初の打ち上げだが、日本の宇宙開発事業での意義づけはどう表現できるか。民間企業が本格的に宇宙活動にスタートすることがあれば。
井元・今おっしゃった通りでして、JAXA以外の民間のロケット、人工衛星や探査機を軌道に投入できるロケット、これを打ち上げできるものに関して評価・審査していただく法律ですので、JAXA以外のところが参入できるということで、非常に大きな一歩ではないかと思います。

南日本放送・イプシロンロケット4号機が日本の基幹ロケットとしては平成最後の打ち上げになるかと思うが、これに関するご所見と、新しい元号のもとではH3が打ち上げられる計画だが、この4号機が新しい時代に向けてどういう意義をもつのか。
井元・なかなか難しい。まず平成最後の打ち上げということで、これまでH-IIA/Bとイプシロンが連続成功してきています。その連続成功のたすきをイプシロンが受け取るが、平成としてアンカーの役割を果たすということで、きちんと成功させるということで、平成を締めくくりたいと思っています。もうひとつ、新たな元号で新たな世界が広がっていくことになると思うが、イプシロンも今までひとつの衛星しか打ち上げられなかったが、多数の衛星を打ち上げられることになる、次元がひとつ上がる、違う次元にイプシロンは入っていくことで、いろんな衛星が打てることになることが非常に大きな一歩になると思います。さらにH3も打ち上がるが、それとH3シナジーという新たな機体も考えているところで、そういったものがデビューするのが新元号になると思いますので、さらに先に向けて我々としてもしっかりしていきたいと思います。

南日本放送・打ち上げ経過3時間後の会見で、これまでのような何機連続成功といった表現が出てくるのか。
井元・衛星分離がきちんと確認できれば成功と出てくると思います。ただ、まだデータ取得にトライするところでありますので、もしかしたらその時点でわからないかもしれません。我々としてはなんとか打ち上げ成功という朗報を伝えたいと思っています。

南日本放送・会見の中では、ひとまず分離したけども、成功か否かは後日あるいは時間をあらためてということもあり得るか。
井元・分離したら基本的に成功と捉える。分離したけどまだわからないといった、そういう状態にはならないようにしたいと思います。

共同通信・氷結層を通過すると雷が直撃するのと同じになるとあったが、雷を発生させるという理解で良いか。
井元・雷も結局は電気。雷にも大小があるが、それが機体を通る可能性がある。

共同通信・電気が発生して機体を通過するということか。
井元・イメージ的にはそうです。

共同通信・氷結層があるということは雲が厚いということか。
井元・ある温度の雲が厚いということ。雲であっても温度が高い雲があったり、極端に温度が低い雲があったりする。氷結層は、ある温度の雲になります。
 (※マイナス20度C〜0度Cまで)

・その他
 リハーサル前日(2019/01/08夜 内之浦宇宙空間観測所で震度3)と同様な地震が起こった場合、同規模の加速度で同様に前日の発生であれば、点検はあるが問題無いとのことです。

以上です。